魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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断章.ノエルと姉さんとシロップと……

 ちょうどいい時間だし、ここでひとつアタシが昔話をしてやろう。

 この話はアタシが小さい頃の話なんだが、別にアタシの人生が大きく変わったような話じゃない。

 さらに言うと、これはアタシの話じゃなくてだな……

 

 

***

 

 

「やったー! 今回も私の勝ち〜!」

 

「くっそー、やっぱり姉さんには敵わないな……」

 

 

 家の庭で2人の少女が魔法勝負をしていた。

 1人は12歳の頃のノエル。

 もう1人はソワレといって、ノエルの5つ上の姉だ。

 

 

「ノエルはもうちょっと魔力の調節ができるようにならないとね。目の前で爆発しただけで、私に当たってなかったわよ?」

 

「いやいや! 姉さんの障壁の光魔法が硬すぎるだけだから! おかげでアタシの魔法がかすりもしない!」

 

 

 そこにクロネが窓から2人を呼ぶ。

 

 

「おーい、ノエル、ソワレ。今日の訓練はここまでにしておくから、手を洗ってくるんじゃ。昼食にするぞ〜」

 

「「はーーい!!」」

 

 

***

 

 

 食事の席にて。

 

 

「今日で私は1247連勝かしら?」

 

「いや、アタシの1246連敗目だから1勝分多いぞ!」

 

「あはは、流石にワシは覚えきれなくなってきたからのう。そういうのはお前たちで勝手にやっとれ」

 

 

 クロネは食事を食べ進める。

 ソワレは周りを見回し、クロネに尋ねる。

 

 

「そういえば今日、ルフールさんは?」

 

「あぁ、何やら仕事とかで少し出かけるそうじゃ。じゃからルフールの訓練はまた明日じゃな」

 

「あの変態、他に弟子とか取ってたのか?」

 

「いいや、普通に魔女としての仕事の依頼が来たそうじゃ。って、仮にも師匠なんじゃから、その呼び方はやめてあげるんじゃぞ?」

 

 

 するとソワレは木皿を机に置き、手を合わせる。

 

 

「ご馳走さまでした! ノエル、先に準備しておくわね!」

 

「あっ、ちゃんと待っといてくれよ!?」

 

「分かってる分かってる! ちゃんと玄関前で待っておくわよ!」

 

 

 この日は2人で街へ買い物に出かける予定を立てていた。

 ここヴァスカルは、魔法の国と呼ばれるほどの魔導士大国であるため、魔具や魔導書などがたくさん売っているのであった。

 

 

「今日は何を買おうかな〜」

 

「姉さん、あまりはしゃぎすぎるとこの前みたいに金欠になるぞ?」

 

「大丈夫大丈夫〜。そんなに高い物は買わないわよ〜」

 

「はぁ……そう言ってこの前も高い魔具を買って、1日で飽きてただろ……」

 

 

 ノエルは溜息をつきながらウキウキなソワレの後をついていく。

 

 ノエルとソワレ。

 この2人の姉妹ははっきり言って全く似ていない。

 

 まず見た目。

 もちろん年の差があるため背格好については触れないが、特筆すべきは髪の色である。

 ノエルはクロネの髪の色である、黒い短髪だ。

 対してソワレは、死んだ父親の血が強かったのか黄金色の長髪だ。

 それも、誰もが見惚れてしまうほどに美しい金髪であった。

 

 その次に魔法の系統。

 ノエルは闇魔法が最も得意で、次いで火魔法が得意である。

 対してソワレは光魔法が最も得意で、次いで水魔法が得意である。

 

 本当に似ていない、というよりむしろお互いが対極的な存在なのであった。

 

 

「おい、姉さん。言ったそばから高級魔具店に入ろうとしてんじゃないよ!」

 

「あっ! ゴメンゴメン! 良さげなものを見つけちゃったからつい……」

 

「ついて来て本当に良かった……。全くこれだから姉さんは……」

 

「ゴメンってば〜」

 

 

 そんなことを話していると、小さな店が見えてきた。

 辺りには特に店もなく、その店は町外れにポツンと佇んでいた。

 遠くからは看板の文字が読めない。

 

 

「何の店かしら……。ねえ、ノエル。入ってみましょうか!」

 

「待てってば〜! 変な店だったらどうする……って、もう! 1人で先に行くんじゃない!」

 

 

 ソワレは振り返り、ニヤリと笑う。

 

 

「あら、もしかして怖いのかしら?」

 

「そ、そんなわけあるか! アタシにはこ、ここ、怖いものなんてない!」

 

「ふーん? ならいいんだけど?」

 

 

 店の前に来てみると、看板の文字がようやく読めるようになった。

 

 

『魔具店 シロップ』

 

 

 どうやら魔具を売っている店のようだった。

 

 

「店の大きさとこの看板のボロさを見る限り……商品は安物かしら」

 

「多分な。それにしても可愛い名前だな。店の見た目に全くそぐわないというか……」

 

 

 すると店のドアが開き、中から巨体の大男が出てきた。

 それを見たノエルとソワレは仰天し、その場で固まってしまった。

 

 

「(な、なんて図体だ!? この人、店の関係者なのか!?)」

 

「(知らないわよ! ど、どうする!? 逃げる!?)」

 

「(に、逃げようにも体が動かない……!)」

 

「(えっ! あ、私もだ!?)」

 

 

 その大男がだんだんと近づいてくる。

 そしてノエルたちの前に来た瞬間、男は腰を下げた。

 

 

「「ヒィィィィイイ!!」」

 

「も、もしかして、ウチの店に興味あるのかい?」

 

「「へっ……??」」

 

 

 その男は見た目にそぐわぬオドオドとした表情をしていた。

 とはいえ声はとても低く、ノエルたちは目の前の光景との差に驚いていた。

 

 

***

 

 

 その後、店の中に入ったノエルとソワレは、大男が用意した椅子に座り、話を聞くことにした。

 

 

「えーと、自己紹介でもするか。俺はシロップ。魔具職人でこの店の店長だ」

 

「ノ、ノエル。魔女。10歳」

 

「ソワレです。ノエルの姉で、同じく魔女です。15歳です」

 

「ノエルちゃんにソワレちゃんね。覚えたよ。なんせこの店に来た1ヶ月ぶりのお客さんだからね!」

 

「「ええ!? そんなに!?」」

 

 

 2人は「この人どうやって生活しているんだろう」などと考えつつも、話を聞いてみることにした。

 

 

「この店、俺が作った魔具を売ってるんだけどさ。壊れやすいだの弱いだの言われて、評判が下がる一方なんだよ……」

 

「見た目は綺麗ですけどねえ?」

 

「俺は魔導士じゃないから、魔具の性能よりも見た目に力を入れてるのさ。とはいえ、魔石とかは使ってるからしっかり魔具としては働いてくれるはずだよ」

 

 

 ソワレは店に並んでいる中から、一本の長い杖を手に取る。

 

 

「ちょっとこの杖、試しに使ってみていいですか?」

 

「あぁ、良いよ。使い方は、その杖に魔力を込めて『リリース』って言うだけだ。別にここで使っても問題はないものだよ」

 

「えっと……こうして……『リリース』!」

 

 

 すると杖の先の白い珠が光り始めた。

 その光を見て、ソワレは呟いた。

 

 

「あぁ……なるほど……」

 

「……姉さん?」

 

 

 ソワレは光を消して杖を下ろした。

 そしてシロップに言った。

 

 

「これ、買うわ!」

 

「えええええ!?」

 

「ちょっと、姉さん!?」

 

 

 ノエルとシロップは目を点にして驚く。

 

 

「何でそんな光るだけの杖なんて買うんだよ! お金がもったいないだろう!?」

 

「そ、そうだよ!? その杖は本当に光るだけのおもちゃみたいなものだし、本当に買うのかい!?」

 

「ええ、誰が何と言おうと買うわ。いくらかしら?」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ……。えーと、500G(ゴールド)だ」

 

 

 ソワレは財布から迷いなく500G(ゴールド)払い、シロップに渡した。

 

 

「まい……ど……あり」

 

「姉さん! 何でそんなおもちゃなんて買ったんだよ! 何の役にも立たないじゃないか!」

 

「あら、有意義な買い物だったわよ? これ、さっきと違って()()()()使えば便利そうだもの」

 

「え、さっき教えた使い方以外は無いはずだけど……?」

 

 

 ソワレはシロップを指差す。

 

 

「シロップさん、この店の人気が出ない理由、分かってるかしら?」

 

「俺が普通の人間で、強力な魔具を作れないから……じゃないのか?」

 

「ええ、その通り。でも、それなりに強い魔具ならあなたにも作れますよ」

 

「ど、どういうことだ……?」

 

「シロップさんは魔法が使えないから魔力を注ぐという試運転が自分ではできない。だから市販の魔力装填器を使っているんでしょう?」

 

 

 それを聞いたノエルはピンときた顔をし、再び黙り込む。

 

 

「あ、あぁ、そうだ。魔石をはめ込んでボタンを押すと魔力が流れる小型のを使っている」

 

「それ、()()()()()()()ですか?」

 

 

 シロップはそれを聞いて驚く。

 

 

「え……魔石に属性なんてあったのか!? 詠唱で属性が変わるものだとばかり……」

 

「やはり、魔導士にしか分からない常識を知らなかったんですね。道理で光魔法を使うはずのこの杖に、火の魔力が残っていたわけです」

 

「ということは……?」

 

「ちゃんとその魔具に合った魔石をはめ込めば、ここの商品はどこの店よりも彫刻が丁寧で、性能もそれなりの魔具店になります!」

 

 

 ソワレは魔法の勉強が誰よりも得意であった。

 その中でも特に彼女が好き好んで研究していたのは「魔導士と普通の人間との違い」についてであった。

 それゆえに、魔導士たちの誰よりも一般人たちのことを理解していたのである。

 

 

「その各属性の魔石があるという説明を受けたことは一度もなかったんだが……」

 

「それはあなたが普通の人間だからですよ。恐らくあなたに魔具製造の知識と技術を教えた人は、きっと理解できないと思って細かいことまで教えなかったんでしょう」

 

「まさか師匠に認められていなかったなんて……。やっぱり俺は魔具職人には向いていなかったってことか……」

 

 

 ノエルは頭の後ろで手を組み、退屈そうにしながらシロップに言った。

 

 

「なあシロップさん。グダグダ言ってる暇があれば早く全部の魔具の魔石、交換したほうがいいんじゃないか? 余計に客が来なくなるぞ?」

 

「ちょっ、ノエル……!?」

 

 

 あまりにストレートな指摘に、ソワレは珍しくノエルを注意した。

 しかし、ノエルの言葉はシロップの心を動かしたのであった。

 

 

「分かった。ありがとな、ノエルちゃんにソワレちゃん。君たちには感謝してもしきれないよ!」

 

 

 そう言ってシロップは店の奥から魔石が入った箱を持ってきて、ソワレに判別方法を尋ねるのであった。

 

 

「それじゃあ魔石の属性を触って判別……は魔導士しかできないから、シロップさんは色で判断するのが一番ですね。えーと、赤いのが火属性で……」

 

 

 その様子をノエルはただ黙って座り込んでじっと眺めていた。

 それだけでその頃は幸せだった。

 ノエルはソワレのたまに見せる真剣な表情にとても憧れていたのだった。

 師匠の2人は、片や引きこもり気味、片や変態という、憧れに値する程の存在ではなかった。

 そんな中、自分の姉が魔女としての、女としての彼女の目標だったのである。

 

 その後、シロップの店はソワレの思惑通り繁盛し、各地に支店が出来るほどの大きな魔具店になるのであった。

 

 

***

 

 

「というのがアタシの姉、ソワレの若い頃の物語だ」

 

「はい!」

 

 

 マリンが手を挙げる。

 

 

「はいどうぞ、マリン」

 

「誰がわたくしに向かってシスコンと言いまして? あなたの方がよっぽどのシスコンじゃないですの!」

 

「なっ、アタシはただ姉さんに憧れているだけだろう!? それのどこがシスコンだ!」

 

「あなた、無自覚ですの!? ソワレさんの話をしている時の顔が、明らかにただの家族について語る顔じゃなかったですわよ!」

 

「えっ、嘘……。そんなに変な顔だったか……?」

 

「ししょーの顔、ずっととろけたみたいに素敵な笑顔でした!」

 

「あぁぁぁ! サフィーにみっともない顔見せちゃったぁぁ……!」

 

 

 マリンは「やれやれ……」と言いながら自分のことを棚に上げるのであった。

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