魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜 作:もーる
ノエルたち3人が泉にやってくる2時間ほど前。
クロネたち6人の大魔女は拠点に集まり、とある話をしていた。
ただ、それは悪魔の討伐に関する話ではなかった。
「さて、ついにこの時がやってきた。今日こそがノエルの運命を変えられる、最後の機会だ」
「ルフールが先にアチキたちを集めたのは、それを話し合う時間が欲しいって理由もあったんスね」
「悪魔が討伐される前に、どうにかして大厄災の呪いの力でノエルの運命を変える。あなたはそのための作戦を色々と立てていたわよね。あれから何かいい作戦は思いついたのかしら?」
ソワレはルフールに尋ねる。
「もちろん、いくつか用意してあるさ。ただ、どれもこれもあの悪魔の正体が『ファーリの産んだ魔物』であること、そしてあの悪魔と戦うという作戦通りになること、これら2つの前提あってのものだ」
「まあ、とりあえず話して欲しいっス。あぁ、そうだったっス。一応言っておくっスけど、残念ながらノエルの運命はまだ変わってないっス……」
「そうなんですね……。じゃあ作戦を聞く前に、今一度その運命について共有してもらえませんか? その方が話が分かりやすくなると思いますし」
「ルカの意見に私も賛成。前に聞いたの5年前くらいだし、思い出したいわ」
「分かったっス。じゃあ、久々に話すっスか」
エストは3分ほどで自分が見たノエルの運命を話したのだった。
***
「最後にざっとまとめると、ノエルは蘇生魔法のために自害するっス。蘇生魔法がどんな魔法なのかまでは分からないっスけど、恐らくは彼女の魂が蘇生魔法の最後の鍵になるっス」
「その自害というのが、魂を肉体から剥がすための最後の儀式なのかもしれんの。それで、その死に方が自分の闇魔法での
「ノエルの運命について、しっかり思い出せたわ。それで、どんな方法でその運命を変えるつもりなの?」
「じゃあ、作戦を提示していくとしようか。1つ目は、
その瞬間、他の5人がルフールの方へ振り返る。
「もちろん、これは悪魔を倒すという目的と相反する。それに、連中と同じ力を使うのはワタシ自身も嫌だし、呪いの力で運命変えると言っても、未知の力を研究してる間にノエルはきっと蘇生魔法を完成させてしまう。ゆえに、あくまで1つの案でしかないから安心してくれ」
「びっくりしましたよ……。1つ目に持ってくるにしては心臓に悪すぎます!」
「それはすまなかった。じゃあ2つ目。2つ目は、
「ただ、それは魔女として、人間として、してはいけないことじゃ。ノエルを裏切ることと同じことじゃからな。これまでの十数年を無駄にしてしまう権利は、ワシらにはない」
「当然、これも案の1つでしかないさ。そもそも、そんなことで運命を変えられるなら苦労していない」
「何よ。今のところ全部ダメってことじゃない」
すると、ルフールは3本の指を立てながら言った。
「慌てるんじゃない。次が最後の3つ目だ。運命魔法で視た運命は、運命魔法の使い手にしか変えられない。これに賭けた案だよ」
「それって……。まさか、アチキが……?」
「そうとも。悪魔を倒したあと、運命魔法で運命をねじ曲げる。これが3つ目の、そして現時点で一番現実的な作戦案だ」
エストは俯いている。
そして、やがて絞り出したような声でルフールに言った。
「でも、運命を変えるとその代償がアチキに……」
「それも分かっている。それで運命が変わってエストが死んだとしても、ノエルはそれを望まないだろう。だから、ワタシはこの案も
「……えっ? つまりそれって……。まさか、ノエルの運命を変える作戦そのものをやめるってことっスか!?」
「そのまさかだよ。わざわざ集まってもらったのは、その意志を伝えるためだったんだ。理由の説明に時間がかかってしまってすまないな」
「それが……あなたがこの数年間で出した答えなのね?」
ソワレは真剣な面持ちでルフールに尋ねる。
「……あぁ。みんなには悪いと思ってるよ。ただ、何度考えてもどうしようもないって結論しか出なかったんだ……」
「そう……。それがルフールの決断だっていうなら、私は気にしないわ。そもそも、あなたの話に乗った理由もあなたの意志に任せたかったからだもの」
「ワシも同じじゃ。誰でもない、あのルフールがどうしようもないと言っておる。既に幾度となく知恵は貸しておるし、それでも無理なら無理ということじゃろう」
「えっ、えっ、ノエルさんが死ぬ運命を受け入れろって言うんですか!?」
「そ、そうよ! それじゃ、私たちはノエルが死ぬ未来に向かって、悪魔を倒すって言ってるようなものじゃない……!」
「ロヴィア! それ以上はもういいっス……!!」
エストの叫びに驚き、ロヴィアは押し黙る。
「もう……いいんスよ……。アチキの占いは、運命魔法は、変えられない運命を示したものっス。この世にこの魔法がある限り、未来は確定してるんスから。最初にノエルが死ぬ未来を見た時点でアチキの覚悟は決まってたっス」
「エスト……ゴメン……。私、あなたの気持ちも考えずに……」
「気にしないでいいっス。それがノエルを想っての言葉だってことは、ここの誰もが分かってるっスから」
「ノエルの運命をワシらのために、そして何よりノエルのために変えてくれようとしてくれたこと、本当に感謝しているよ。エスト、ルフール。とにかく今は悪魔退治に集中するんじゃ」
「あぁ、そうだな。そろそろノエルたちも来るだろうし、落ち込んでる余裕はない!」
「その通りっス! さあ、準備を進めるっスよ!」
こうして、無理に気持ちを切り替えながらも、6人の大魔女たちは悪魔を倒すべく、作戦の準備に取り掛かるのだった。
***
そして、今に戻る。
悪魔を無力化し、ファーリの心臓の真の正体に気づいたノエルたちは、拠点に集まっていた。
ノエルは悪魔と心臓が入った結界の玉を手に、話し始めた。
「……さて、全員いるな。今からアタシたちが話すべきこと。それは『ファーリの心臓の処遇をどうするか』だ」
「それはそうでしょうけど、もはや話し合わなくとも一択ではありません?」
「そうですよ、ノエル様。精霊との契約が破棄されちゃったら、蘇生魔法が作れなくなっちゃうんですよ?」
「そうだな。それに今、魔法を使って経済や生活を行なっている地域……特に挙げるとすれば央の国・ノーリスは大混乱に陥るだろう。魔法の制御ができなくなるということは、既にかかっている魔法の力が予測不能なほどに暴走する恐れがあるということだからだ」
「まさかとは思っていたけど、私のゴーレムたちも止まってしまうところだったのね……。それに、水魔法の影響で水の都になったっていう西の国・セプタだって水没してしまう可能性があったわけだし、ヴァスカルも……」
「考えたくもないのう。ワシら魔導士だけでなく、この世の全ての人間に、そして世界に関わるものだったとは……。まさに、その心臓の価値は神器以上のものだった、ということじゃな」
9人とヴァスカル王はノエルの手に浮かぶ結界の玉をじっと見つめる。
「うん? でも、それならなおさらボクらが話し合う理由なんてありませんよね? その心臓を徹底的に厳重に保管するってことが決まったわけですし」
「なぜ話し合わなければならないのか。その理由は、ただ1つに決まっているだろう? なあ、
「……っ!」
ルフールは焦った表情でノエルの手の上に浮いた心臓と悪魔を睨む。
「ノエル……お前はその悪魔が憎いんじゃなかったのか! お前の息子を殺した元凶はそいつなんだぞ!」
「憎いさ。できることなら、今すぐにでもこの手でぶち殺したい。だが、あんたがさせたいのはそういうことじゃない、だろ?」
「どういうことっスか?」
「いいか。この心臓がこの世から消えれば、魔法の制御装置であるファーリと精霊たちとの契約が切れてしまう。それは魔法という概念がアタシたちにとっても不明瞭で、崩壊したものになってしまうことを意味する。そしてそれは、
「……!!」
「……流石は、ノエルだ」
そう言って、ルフールは魔導書に手を掛ける。
その瞬間、他の大魔女たちはルフールから距離を取り、魔導書を手にした。
「ルフール、お前はやはり諦めておらんかったんじゃな……」
「そりゃそうだろう……。諦めてなるものか! ノエルの死なんて、誰も望んじゃいない! そうだろう!」
「でも、その話は終わったんじゃなかったんですか……!?」
「あの時は確かに終わったさ。ただ、今そこに第4の選択肢があるとなると話は別だ! 魔法の概念が崩れれば、運命魔法で予測された未来だってきっと変わる! それに賭けない道理は、今のワタシにはない!」
そう言って、ルフールは心臓に向けて手を伸ばし、魔法を使おうとする。
しかし──。
「……っ、何のつもりだ。エスト!」
エストがその手の前に魔法の進路を遮ろうと立ちはだかり、ルフールの手を掴む。
「焦りってのは、人を盲目にさせるっス。あの心臓を壊してノエルの死の運命が変わったとしても、それはただの先延ばしに過ぎないっスよ。それに、何度も言ってるじゃないっスか。運命魔法の未来は
「その絶対を変えるためだろう! 手を離せ!」
「残念だが、エストの言う通り、今のお前はどうにも盲目らしい」
ノエルは急にそう言って、席を立つ。
そして、自席に心臓を置いてルフールの前に立った。
「いいか、あの心臓を壊してもお前の願いは叶わない。エストの言う通り、アタシの未来は変わらないんだ」
「そんなこと、やってみないと……」
「いいや、変わらないのさ。あんたは大事なことを忘れちゃいないか?」
「大事なこと、だって?」
「ファーリは確かに100年以上前に精霊と契約し、魔法の力を抑制した。ただ、それはあくまで
「つまり……それは……」
ルフールは手の力を抜いて、魔導書からゆっくりと手を離す。
「そう。時魔法・空間魔法・運命魔法の3つの特殊魔法はファーリの知らない魔法だった。だから、精霊との契約には含まれちゃいないのさ。そして、それはお前がこの心臓を壊す意味が消えることを意味する」
「そんな……そんな……」
そう言って、ルフールはそのまま膝から崩れ落ちる。
他の大魔女たちはいたたまれない表情でそれを見つめていた。
すると、エストがルフールに手を伸ばす。
「アチキがノエルの未来を占ったばっかりに、悩みを打ち明けたばっかりに、あんたを苦しませてしまったっス……。ルフール、すまなかったっス……」
「……いや、これはワタシの勘違いによる暴走だ。むしろ、お前の気持ちを蔑ろにしてしまって、申し訳ない……」
「あ、そうそう。あと1つ、お前たちに言っておきたいことがあったからここに集めたんだった」
2人の空気感を壊すかのように、ノエルはおどけた口調でこう言った。
「アタシ、死ぬ運命を受け入れたつもりはないから!」
「「……は?」」
「当たり前だろう。前々から言ってるが、息子に会う前に死んでたまるか」
「いやいや、これまでの話の流れ完全にぶち切ってまで言うことじゃないっスよ!? それに、もう変えられない運命ってさっき自分で言ってたじゃないっスか!」
「変えられない運命だと知っていても、受け入れられるわけないだろう! それと、アタシが言いたいのはここからだ!」
ノエルは床に座り込んだルフールを立ち上がらせ、言った。
「アタシは自分の死の運命を受け入れられない。自分が死ぬことに意味があるとも思えない。だからこそ、アタシは蘇生魔法を完成させたいんだ」
「だからこそ、って……。どういう意味っス?」
「アタシが集めた、自慢の大魔女たち。お前たちには、アタシが死ぬ意味を見つけるのを手伝って欲しい。アタシの死が絶対なら、アタシが受け入れられるような華々しい死を、アタシはお前たちと一緒に創りたい!」
蘇生魔法が完成する時。
それは、ノエルが死を受け入れる時なのだと、ここにいる誰もが考えた。
「アタシは運命から逃げない。だが、その死という運命がつまらないものだとしたら、アタシはそれに全力で抵抗したい。だから頼む! お前たちの力を借りたいんだ!」
ノエルが頭を下げてそう言うと、大魔女たちは各々、ノエルのことを思い返す。
そして、彼女たちは次第にノエルの元へと集まり、全員でその手を取ってこう言ったのだった。
『ノエルのために、蘇生魔法を全力で完成させる!!』