魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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121頁目.ノエルと魔獣と大工房と……

 悪魔を無力化して数日後。

 9人の大魔女とヴァスカル王は一度ヴァスカルに戻り、蘇生魔法のために必要な資料や人材を必死でかき集めていた。

 

 そんな中、ノエルたち3人はクロネに呼ばれ、ヴァスカル王の部屋に来ていた。

 

 

「スノウ! ナイト! 元気にしてたー?」

 

 

 部屋の中に飛びこんできたサフィアに、2匹の猫はピクッと反応して駆け寄る。

 そしてすぐさま甘える猫たちに、サフィアは骨抜きにされるのだった。

 

 

「どうやら、アタシたちがいない間も元気にしていたみたいだねぇ」

 

「全く……。世話をさせられる側の身にもなって欲しいもんじゃよ。お前たちにはそうやって甘えておるが、ワシには全く懐いておらんままなんじゃから」

 

「世話をしているのはヴァスカル王とその使用人だろうが。クロネさんはその2匹をただ研究しているだけだろう? あ、だから嫌われてるのか?」

 

「それもあるでしょうけど、確か魔力を持った人に懐きやすいんでしたわね? 時の魔力に反応していないのは、単純に魔力の好みが違うだけかもしれませんわよ?」

 

「まあとにかく、お主らを呼んだのはその2匹の『魔獣(まじゅう)』の研究の話をするためじゃ。蘇生魔法に役立つかはさておき、これからの世に関わる重大な話となろう」

 

「これからの世、だって? この2匹にそんな力が……?」

 

 

 クロネは首を振って言った。

 

 

「この2匹ではなく、魔獣が、じゃ。とりあえず魔獣について話すとするかの」

 

「分かった。ほら、サフィーもそいつらにかまけてないでこっちに来な」

 

「はーい」

 

 

 サフィアは猫たちを抱えてノエルたちの隣に座る。

 クロネは話し始めた。

 

 

「まず、その2匹は魔力を持っておる猫じゃ。じゃが、研究の結果、元々は魔力を持たないただの猫、ということが分かったんじゃよ」

 

「ただの猫が魔力を得た、ってことか? そんなまさか」

 

「事実じゃ。そしてそれは、これまでに確認できなかった新たな生き物として分類されることを意味する。元より魔力を持つ生き物は『魔物』、魔力を持つ人間は『魔導士』と呼ばれるように、後天的に魔力を得た生き物をワシは『魔獣』と呼ぶことにした」

 

「なるほど……。それで、この子たちが魔力を持ったからって何かおかしなことでも起きるんですか? これからの世が何とか言ってましたけど」

 

「では、試しに魔獣の恐ろしさを教えてやるとするかの。ほれ、スノウとナイトをこちらへ」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

 

 サフィアは向かいにいるクロネに猫たちを預ける。

 そして、クロネはその2匹をノエルたちの目の前にある机の上に座らせた。

 

 

「見ておれ」

 

 

 クロネは2匹の背中に手を当て、精神を研ぎ澄ませる。

 すると突然、2匹の首輪に付いていた魔力計がチリンチリンと鳴り始めた。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「魔力計の音じゃ。一定の数値以上の魔力を検知すると鳴る、安全装置のようなものじゃよ」

 

「待ってくださいまし? それが鳴ったということは……」

 

「では、いくぞ。それ、ポンっと」

 

 

 クロネは魔力に満ち溢れた2匹の背中を手で軽く叩いた。

 その瞬間、サフィアは2匹の口元に魔力が集中することに気づき、不意に叫んだ。

 

 

「ぷ、『防護壁(プロテクション)』!」

 

 

 2匹の口元に集まった魔力は、そのまま魔力の弾となってノエルたちに発射されたのだった。

 バン! と軽い爆発音が響き、それを聞きつけたヴァスカル王が隣の執務室から部屋に入ってきた。

 

 

「な、何事だ!」

 

「そ、それはこっちのセリフだ! サフィーが早く気づいてくれたから良かったものの……。どういうつもりだ、クロネさん!」

 

「すまんすまん。思ったより魔力を注ぎすぎたようじゃな」

 

「はぁ……。また猫たちの魔力砲か……。余の部屋が無事だっただけ、安心しておくとしよう……」

 

「魔力砲……? って、もしかして、魔獣は魔法を使えるんですの!?」

 

「厳密には魔法ではなく、体内に溜まった魔力を吐き出しておるんじゃよ。いわゆる、()()()()()、と言ったところか。先ほどはワシが魔力を注いだが、こやつらは空気中の魔力を次第に吸収し、それが一定の数値を超えると全て吐き出す性質を持っておる」

 

 

 そう言って、クロネは机の上から猫たちを下ろした。

 

 

「あぁ、そうだった。さっきはありがとな、サフィー。お前が魔力感知に優れてたおかげで助かった」

 

「いえいえ。まさかこの子たちから攻撃されるとは思いませんでしたけど」

 

「それにしても……。一定時間で魔力を吐き出す生き物とは、確かに放っておくと危険かもしれませんわね……」

 

「だが、現存する魔獣はその2匹だけだろう? 何を恐れる必要がある?」

 

「ワシは今後、魔獣へと変化した生き物が各地に出現するようになると踏んでおる」

 

「どうしてだ?」

 

 

 すると、クロネは大陸の地図を取り出してきた。

 

 

「この2匹は、この前のファーリの生家がある森で大量の魔力を浴びたことで魔獣となったんじゃろう。ということは、何かしらで大量の魔力を浴びることがあれば、どんな生き物も魔獣となる可能性があるということじゃ」

 

「なるほど……?」

 

「そして、この大陸には大量の魔力を放つ物質があるじゃろう?」

 

「……呪いの残滓か!」

 

「その通りじゃ。あの悪魔が無力化されたとはいえ、呪いの残滓自体はまだこの大陸にいくつも残っておる。そして、それは海の中や森の中、ワシらが認知できない場所にもあることじゃろう。となれば、将来的に魔獣化する生き物が増える可能性は大いにあり得る」

 

「なるほどな。それがこれからの世の中に降りかかる可能性のある危険となるわけだ。まさか拾ってきた猫からそんな事態を予測できるとは思わなかったよ」

 

 

 クロネは頷き、話を続ける。

 

 

「あともう1つ、面白い話がある。ファーリのことじゃ」

 

「うん? 急な話題替えだな?」

 

「いやそれが、魔獣の話と繋がっておるんじゃよ。後天的に魔力を得た生き物が魔獣と呼ばれる。ということは、精霊たちから魔力をもらったファーリもまた、魔獣と呼ぶべき存在だったのではないか、とね」

 

「そういうことか。確かに魔導士という括りが生まれなければ魔獣という分類に値するだろうな。ただ、ファーリは魔力の代謝なんてしてないだろう? そんなの文献に残っていない」

 

「わたくしには分かりましたわ。もしや、ファーリが使っていた魔法こそ、彼女なりの魔力の代謝だったのではありません? 魔法を使うことで体内の魔力の量を自然と調節できていたとか」

 

「ワシもそう考えておる。まあ、だから何という話ではない。結局、ファーリから生まれた子供たちは生まれながらに魔力を持っていたためか、魔力の代謝を行うことはなかった。実際、魔導士の家系で魔法を使わない者など、この国にはザラにおるしの」

 

 

 ノエルは少し考えて、クロネに尋ねた。

 

 

「つまり、魔獣の子供は魔獣ではなく『魔物』ってことになるのか?」

 

「恐らくは、な。くぅ……こやつらが(つがい)であればそれも判明したというものを……」

 

「両方ともメスですもんねぇ。あ、だからってどこぞのオスとくっつけようなんて思わないで下さいよ?」

 

「安心せい。下手に野良猫に近づけて病気にでもなられる方が困るわい」

 

「ま、とにかく今後は魔獣への警戒を払うよう、各国に定期的に知らせておけばいいだろうさ。アタシたちはそろそろ蘇生魔法作りに戻らないとね」

 

「そうじゃな。手を止めたようで悪かった。ワシの研究の成果をどうしても聞いておいて欲しくての」

 

「楽しい時間だったから気にしないでくれ。それに、アタシは何も蘇生魔法だけなんて一辺倒になるつもりはないからね」

 

 

 それを聞いたクロネはホッとして穏やかに微笑む。

 そして、それを見たノエルは一息ついて、ソファから立ち上がって言った。

 

 

「さて、アタシたちは先にヘルフスに向かうとするか」

 

「エストさんが用意したっていう()()()ですね!」

 

「まさか本当に5年足らずで大規模な工房を用意できるなんて、流石は姉様ですわ……」

 

「ワシは他の大魔女たちと一緒に書類を持って、明日にでも出発するつもりじゃ。先に行って準備でもしておくんじゃな」

 

「あぁ、分かった。よろしく頼むよ。じゃ、お先に失礼する」

 

 

 ノエルはヴァスカル王の部屋の扉を開け、クロネに軽く手を振る。

 サフィアは猫たちを軽く撫で、もの惜しげに部屋を出た。

 マリンはクロネとヴァスカル王に軽く会釈をして、扉を閉めたのだった。

 

 

***

 

 

 それから数時間後。

 ノエルたちは様変わりした北東の国・ヘルフスを見て感嘆していた。

 

 

「……プリングにある指輪の結界を複製できたとは聞いていたが、まさかここまで変わるとはな」

 

「雪は降り積もっているのに、指輪の結界の範囲内ですと全く寒くありませんわ! 環境を壊さないまま、人間の体感のみを変化させる結界……。やはり、おばあさまも姉様も偉大な魔女ですわ」

 

「そのおかげで、駅周辺がすごい繁華街になってる。これぞ観光都市って感じ!」

 

 

 5年前のヘルフスは雪山を利用した観光業を営んでいたが、あまり客足は伸びないまま、雪国で取れる豊富な作物を収入源としていた。

 しかし、エストが持ち込んだ指輪の魔法によって駅周辺一帯が寒くなくなり、鉄道を利用してヘルフスに観光しにくる客が爆増。

 それによって莫大な収益を得たヘルフス王家は、駅周辺にあった露店街の土地を一気に開発したのだった。

 

 

「大工房を作るのはいいが、ヘルフスには作れないだろうなんて思っていた時期もあった。だが、むしろヘルフスにエストがいたからこそ、大工房を作れる土地と金を調達できたってわけだ」

 

「そういうわけっス。満足してもらえたっスか?」

 

「うぉぉっ!! ビックリした!」

 

 

 ノエルの後ろに突然現れたエストは、面白そうに笑っている。

 ノエルは溜息を吐いて、気を取り直した。

 

 

「先に戻っているとは聞いていたが、迎えに来てくれるとは思ってなかったよ」

 

「そりゃ、迎えに行けるなら行くっスよ。アチキの占いは幸か不幸か、絶対に当たるんスから」

 

「あぁ、占い魔法……じゃなかった、運命魔法か」

 

「何か言い方に毒を感じるっスね……」

 

「それで、エストさんの大工房ってどこにあるんです? 繁華街が広すぎて、大きな工房が全く目につかないというか……。あっ、あっちに可愛い服売ってる店があるよ、お姉ちゃん!」

 

「目につかない理由は色んな店に目移りしてるからっスよね!? まあ、そもそもここからじゃ見えないんで、当然と言えば当然っスけど……」

 

 

 そう言って、エストはノエルたちに背を向ける。

 

 

「こっちっス。先に場所教えとくんで、買い物はそのあとっスよ」

 

「恩に着る」

 

 

***

 

 

 繁華街を抜け、雪山の洞窟を通り、ノエルたちは王城のある方面へと歩いていく。

 そして洞窟を抜けると、ノエルたちの目の前に大きな建物が現れた。

 ノーリスにあるロヴィアの魔導工房と似た作りのようだが、その広さは3倍以上あるようだった。

 

 

「……まさか、これか?」

 

「そうっスよ。ビックリしたっスか? ビックリしちゃったっスか??」

 

「い、いや……これは凄いな……」

 

「もっと褒めてくれてもいいんスよ?」

 

「流石ですわ、姉様!」

 

「んー。でも、どうしてこんな所に作ったんです? 普通に人通りのある場所ですし、それなら繁華街の方に作っても良かったんじゃ?」

 

 

 サフィアの疑問にエストは答える。

 

 

「そもそもここは大工房じゃなくて、アチキの何でも相談所だったっス。元々はこの辺に住んでる人とかヘルフス王の依頼を請け負う場所だったのを、次第に規模拡大していったからこんな場所にあるままなんスよ」

 

「うん……? ってことは、今も相談所が併設されてるのか?」

 

「そりゃもちろん。工房はその隣っス」

 

「そんな場所で……蘇生魔法の研究をするってのか?」

 

「そういうことになるっスねぇ……」

 

「人通りもあって、普通に情報が筒抜けなこの場所で……?」

 

 

 エストは次第にノエルから目を逸らす。

 

 

「あー……。声とか漏れないようにする結界と、防犯の結界を用意してもらえたり……しないっスか?」

 

「……エスト、お前ーーー!!」

 

「あだだだだ!! 痛い! 痛いっス!!」

 

「サフィー! マリン! 買い物はあとだ! 先に来ているアタシたちが工房に結界を張らないと、他の連中に申し訳が立たない!」

 

「えぇー……。楽しみにしてたのに……」

 

「まあ……姉様ならあるいはと思いましたが……。仕方がないですわ。ちゃっちゃと終わらせてしまいましょう!」

 

 

 ノエルはエストの耳を引っ張ったまま工房へと入り、サフィアとマリンと共に様々な結界を施し始めた。

 そして、その作業は翌日まで続き、クロネたちが来る頃になってようやく終わったのだった。

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