魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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123頁目.ノエルと劣化と魂の器と……

 それから数日後。

 相談所が休みの日に、ノエルたちはようやく蘇生魔法に着手することにした。

 

 

「さて、何から着手したものか」

 

「うーん……。まずは蘇生魔法に何が必要なのか。その洗い出しからではありません?」

 

「そうだな……。少なくともロウィの件で必要だったものが前提として必要だとは思っているんだが、それを集めるところから……かな」

 

「ええと、確か『魂』とそれを入れる『肉体』が必要なんスよね」

 

「そうよ。魂はロウィの時と同じように、魂のカケラを集めることができればどうにかできると思うわ。ただ、問題は『肉体』の方ね。魂を入れる器となる肉体は、彼の人生と全く同じものか、それに強い所縁があるものでなければならないんだもの」

 

「ボクの記憶が正しければ、魔女狩りが始まったのがちょうど23年前。確かノエルさんの息子さんはその1年目に亡くなったんでしたね。となると、その遺体はとっくの昔に腐敗しているはず……」

 

 

 ノエルはそれに頷いて言った。

 

 

「それはアタシも確認済みだ。前に墓参りした時、念のために遺骨を集めておいたからね。どこぞの猫やら魔物やらに持っていかれない保証はないし」

 

「じゃあ、それこそクロネさんの時魔法でその骨を巻き戻せば、肉体だけは戻るんじゃないんですか? ノエル様がクロネさんに頼めなかったのって、完全な蘇生ができないからでしたよね?」

 

「そうじゃな。ワシの時魔法なら30年ほど巻き戻す程度は造作もない。じゃが……」

 

「それは、あくまで()()()()。時間が進めばイースの身体は数年で腐敗してしまう。だろう? ワタシの知る限り、時魔法は時間の流れを変化させるだけの魔法だからね」

 

「うむ。時というのは運命にまでは抗えん。時魔法とはあくまでその時の流れを戻したり、止めたり、遅くすることしかできん、その程度の魔法じゃからな」

 

「そんな……。それじゃ、せっかく蘇生できてもすぐに魂の器がなくなっちゃうってこと……?」

 

 

 すると、ソワレがクロネに尋ねる。

 

 

「ねえ、母さん」

 

「……久々にそう呼ばれた気がするの。どうした、ソワレ」

 

「イース君の肉体を戻したあとで、その腐敗するまでの時間を遅くするとかできないかしら?」

 

「可能ではある。じゃが、そもそも肉体の腐敗を止めるには何の時間を操作すれば良いのか、ワシには分からん」

 

「あ、ボク知ってますよ。細胞の劣化を止めればいいんです。体内の菌が増殖したり、外の雑菌に食べられるのを防いでるのは、皮膚や粘膜などの細胞でできた壁ですから」

 

 

 その発言に、一同は一瞬固まる。

 マリンはおずおずと尋ねた。

 

 

「な……なぜそんなことを知っているんですの?」

 

「あ、いや……。最近まで死霊術を扱う人が近くにいたので、死体についての知識がいつの間にか身についてて……」

 

「あぁ、ライジュか……。まさか、あいつの知恵が役に立つとはねぇ……」

 

「細胞の劣化……。つまり、細胞そのものの時間を遅くする必要があるということになるが、それは人間が生きる上で大問題ではないかの?」

 

「確かに……大問題ですね……。正しく代謝が行われないので、人間的な生活はまず不可能でしょう。もしかしたら、自然治癒も遅くなってしまうせいで腐敗が余計に加速してしまうかもしれません」

 

「そうじゃな。つまり、肉体を時魔法で戻すという線はなしで──」

 

 

 すると、ノエルの手がクロネの前に延び、静止する。

 そして少し考える素振りを見せ、ノエルはクロネに尋ねた。

 

 

「待て。今さっき、ルカは細胞の時間を遅くすると腐敗が余計に()()()()、って言ったよな? で、それをクロネさんは肯定した」

 

「じゃな」

 

「時間を遅くしても、腐敗するまでの時間は変わらないんじゃないのか? 時魔法ってのは運命までは変えられないんだろう?」

 

「腐敗する、という事実が変わらないだけで、自然治癒が働かずに腐敗するのは当然じゃないんですか?」

 

「時魔法でそれが可能なのだとしたら、イースが腐敗する原因そのものを止めればいいんじゃないのか? そもそもの死因は、身体の傷からの過剰な出血だ。巻き戻した身体にも同じように傷が開くのなら、その傷を治せばいいだけだろう?」

 

「それでもルカの言う通り、イースが死に、腐敗するという運命は変わらん。そもそもの話、傷が治らんじゃろうな。それほどまでに運命というものは強力なんじゃよ。ワシらは特にそういうものじゃと、分かっておろう」

 

 

 ノエルはそのまま黙り込んでしまった。

 一緒に他の大魔女たちも考え込むが答えが出ず、結局肉体を戻すという話は白紙となった。

 

 

「では、イースさんと強い所縁があるもの。この線でいきましょう。わたくしたちは考えてこそですし、色々と案がある方がいいでしょう」

 

「そもそも、どれくらい強い繋がりがないといけないのか、アタシ知らないんだよな」

 

「じゃあ簡単に説明するわね。魂と強い所縁を持つものには、少なくとも3つの条件があるの。それが彼の運命の一部であること、それが彼の最も身近にあったこと、それが彼が最も大切にしていたものであること」

 

「……話を聞く限り、ノエル様では?」

 

「いやいや、それだとロウィの時と同じ手順になるだろう。それなら、アタシじゃない理由があるはずだ。おい、ロヴィア。その3つの最低限の条件以外に、満たすべき別の条件があるんじゃないのか?」

 

「もちろんあるわよ。あくまでさっきの3つは最低限満たすべき条件。次の1つが場合によって必要になる条件よ。それは、彼が死ぬ直前に触れたものであること。もし、それがないのであれば……って、どうしたの?」

 

 

 ノエルは目を見開いたまま硬直している。

 

 

「もしかして……それ、あなただった?」

 

「あ、あぁ……。死んだあともずっと、あいつの手を握ってたから……」

 

「なるほどね……。それなら、ノエルという線を除いた上で探しましょう」

 

「え? さっきの条件だと、アタシじゃないといけないんじゃないのか?」

 

「強い所縁があれば、何も器の()()は1つに限られないのよ? それに、別に生き物じゃないといけないってわけでもないんだから。言ってなかったかしら」

 

「聞いてない! あと、器が非生物でもいいなんて、今初めて知ったぞ!?」

 

 

 ロヴィアはノエルを諌める。

 すると、エストが1つ提案をする。

 

 

「じゃあ、とりあえずノエルの家の周辺の探索をするってのはどうスか? 工房で話してるだけじゃ分からないこともきっとあるはずっスから」

 

「そうだな。少なくとも足掛かりがない以上は探索からだ。ついでに魂のカケラを集める準備も進めておくか」

 

「はいはい、ちゃんと魂の器を映す用の宝石は持ってきてあるわ。器が見つかったらいつでも同期できるから。まあ、多分ロウィの力を借りることにはなるけど」

 

「助かるよ。じゃあ、それぞれ準備できたらメモラに向かうとするか! しばらく相談所の担当がいなくなることにはなるが……大丈夫なのか?」

 

「ちゃんと理由があるなら、国王に話をつければ問題ないっス。あくまで手伝いっスし、研究優先にさせてくれるっていうのはこういうことっスよ」

 

「それはとてもありがたい。なら、エストの報告が終わり次第、ヘルフスの駅で集合だ!」

 

 

***

 

 

 それから数時間後の夕方。

 ノエルたちはようやくノエルの旧家が見える森の中に辿り着いた。

 ソワレはその場所で起きた出来事に胸を痛めながら、ノエルに尋ねる。

 

 

「あそこが……ノエルとイース君が住んでた家なのね?」

 

「数年前にボロボロになって壊れちまったけどな。見たところ、イースの墓は無事みたいだ」

 

「あの時はどうなることかと思いましたが……。まあ、とりあえず探索をするにも日が暮れるでしょうし、場所の確認だけ済ませてお城に戻りませんこと?」

 

「あぁ、そうしようか。って……うん?」

 

「どうかしました、ノエル様?」

 

「いや……何かあっちで光ったような気がして……。ちょっと行ってくる」

 

 

 そう言って、ノエルは光が見えた墓標の方へと駆けていった。

 

 

***

 

 

 ノエルがイースの墓の前に立つと、遺体を埋めた土の中から何かが夕陽を反射して煌めいているのが見える。

 

 

「これは……白い鳥の羽根……? いや、違う!」

 

 

 ノエルは急いで土を掻き分け、それを手に取り、土埃を払った。

 彼女の手に握られていたのは、かつてイースが大切にしていた白い羽根ペンだった。

 

 

「前来た時に見落としてたのか……。ただ、見つかって良かった。これはあいつが一番大事にしていた…………あれ?」

 

 

 ノエルが首を傾げていると、ロヴィアがノエルを呼びに来た。

 ロヴィアは不思議そうな顔でノエルの手にある羽根ペンを見る。

 

 

「それ、ノエルの羽根ペン? 羽根の色褪せ具合からして、かなり昔の物だけど」

 

「いや、これはイースのだ」

 

「へえ、そんな昔の羽根ペンがここまで立派な形で残ってるなんて、よっぽど丁寧に手入れされてたのね。どれだけの高級品でも、手入れしないと使ってるうちに羽根がボロボロになっちゃうし」

 

「なあ……ロヴィア」

 

「何かしら?」

 

「例えば、こんなものでも魂の器にできるのか?」

 

 

 魂と強い所縁を持つものの3つの条件。

 それがイースの運命の一部であること、それがイースの最も身近にあったこと、それがイースが最も大切にしていたものであること。

 その羽根ペンはノエルが覚えている限りで、全ての条件を満たしていた。

 ロヴィアは一瞬きょとんとして、答える。

 

 

「え、ええ……できるわ。ちゃんと条件を満たしていれば、大抵どんな物でも器にすることは可能よ。ただ、ここまで単純な作りのものなら、その魂が活動できるために色んな魔法をかけてあげる必要があるけど……」

 

「できるんだな、分かった。じゃあ、これがイースの魂の器だ」

 

「……ええっ!? 羽根ペンが器!? そ、それじゃ、イース君が羽根ペンの姿で蘇るってことになるけど、それでいいの!?」

 

「アタシの身体を器にしてイースが蘇っても、アタシがそこにいないとイースが悲しむだろ。それなら、器の条件を満たすモノを器にする他に道がない。もし、羽根ペンの姿をイースに残念がられたら、別の器を探してやるだけだ!」

 

「それくらいは分かってたようで何よりよ。生きてイース君に会うこと、それがあなたの目標とする蘇生魔法だものね、分かったわ。とりあえず、その羽根ペンが器となりうるのか、お城に戻って話を聞かせてもらいましょうか」

 

「あぁ、そして、明日からイースの記憶や思い出を辿って、魂のカケラを集めるんだ……!」

 

 

 ノエルはそう言って、イースが作った木箱をカバンの中から取り出し、白い羽根ペンをその中に入れた。

 そして、これまでにあったイースと羽根ペンの所縁を8人に話しながら、ノエルたちはメモラ城へと向かうのだった。

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