魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜 作:もーる
その次の日。
ノエルからイースの羽根ペンについての話を聞いた大魔女たちは、満場一致で羽根ペンがイースの魂の器となりうると判断した。
そしてロウィが融合の秘術を使い、イースの羽根ペンにイースの魂を映す魔法を組み込んだのだった。
ロウィと入れ替わったロヴィアは、ノエルたちに向き直って話し始める。
「じゃあこれで準備はできたし、早速イース君の魂のカケラを探しに行きましょうか」
「そうだな。確か、イースの記憶や思い出に残っている場所に行けば、魂のカケラが見つかるんだったか」
「ええ、そうね。ただ……」
「何か懸念があるみたいだな。教えてもらえるか?」
「ロウィの時は、魂の器がロウィの肉体そのものだったから魂のカケラが9割くらいしか集まってなくても魂を蘇らせられた。でも、今回は器が本人の肉体じゃないから、
「カケラの総数が分からない以上、かなり骨の折れる作業になりそうじゃな。ノエルがいるから大半はどうにかなるじゃろうが、イースというのは拾い子なのじゃろう? ノエルに覚えのない時期の記憶も集めるのは、ほぼ不可能ではないかの……?」
ノエルはクロネの言葉に納得しつつも、すぐに頭を振って言った。
「ほぼ不可能だとしても、それを可能にするのがアタシたち魔女の仕事だ。アタシが知らないイースの過去だって、誰かが知ってるかもしれない。それを見つけるのが必要なことなら、とことん調べ尽くしてやるさ」
「では、ノエルを中心としたカケラ探索班と、イースさんの情報を集めるルカさんを中心とした調査班の二手に分かれましょうか。その方が効率も良さそうですし」
「それはいい提案だ。アタシの方は問題ないよ」
「ちょ、ちょっとマリンさん!? どうしてボクが調査班の代表なんです!?」
「風魔法は隠密行動にピッタリですもの。足音や姿を消すのにも使えますし、もし見つかって怪しまれても、足を速くしてすぐに逃げられますから」
「別に国王には話を通しておくし、堂々と調査していいとは思うが……まあ、念には念をって意味ではルカが最適か。どういう分担にするかにもよるが、他の連中よりは比較的まともに調査してくれると思うし……」
そう言って、ノエルはクロネとルフールに目をやる。
「これでも母親じゃし、学園長でもあるんじゃぞ。何じゃ、その目は」
「そりゃ、尊敬する師であり母親だけど、はっきり言ってあんたは調査向きじゃない。終着点が見えない作業より、ちゃんとした目標がある作業の方が熱中する質だって知ってるからな」
「確かにそれはそうかもしれんが……。って、ルフールはどうして言い返さんのじゃ」
「ワタシは最初からそういうの向いてないって分かってるから、全く気にしない。むしろ、そういう作業向きだと思われていたとしたらそっちの方が驚きだ」
「ま、とにかく分担しよう。調査班は3人くらいで大丈夫かな。ルカが先に選んでくれていいぞ」
「分かりました。じゃあ……」
ルカは他の8人を見回す。
そして、しばらく悩み、ノエルに言った。
「師匠とルフールさんで!」
「あぁ、分かっ……て、えっ? ルカ、さっきの話を忘れちゃいないよな……?」
「マリンさんとサフィアさんは確定でそちらですし、ロヴィアさんも器のことを考えるとそちら。エストさんもノエルさん・イースさんと旧知の仲ですしそちら、ソワレさんは調査に連れ回すのも悪いのでそちらです」
「……つまり、消去法か?」
「えっ、ワシら余り物扱い?」
「そ、そういう意図はありません! ただ効率化を鑑みて優先順位を考えた時にそうなってしまっただけで……って、あれ? これって消去法ってことになりますかね……?」
ノエルたちは苦笑いしながら頷く。
ルカは申し訳なさそうな顔でクロネとルフールに全力で謝るのだった。
クロネはそれを諌めながらルカに言った。
「ま、まあ、調査の定石から外れた探し方ができると考えれば良いのじゃ。簡単に見つかるならいちいちワシらが調査する必要もないんじゃからな」
「そうだな。少なくとも、イースが前住んでいた家は15年前の魔女狩り終結時点で既に無くなっていたし、イースの従兄弟たちの居場所も全くの不明だ。正攻法で見つかるとも思えない。生きていればいいんだが……」
「他に血縁の情報はないのか? 両親とか兄弟とか」
「あいつの母親はイースを拾う前に既に死んでいたらしい。父親はイースを嫌っていたらしく、イースをイースの叔父のところに預けていたんだ。兄弟がいたなんて話も聞いたことはない」
「その居場所も分からないとなると、どう調査したものかの……。何せ35年以上前の話じゃ。イースについて住民に聞き込むにしても空振りに終わるじゃろうし……」
「うーん……イースでダメなら、ノエルの名前を知っている人物を探せばいいんじゃないか? ワタシたちは大魔女になった時点でそれぞれの国中にその名が広まっている。知らない単語でもないだろうし、探しようはあるかもしれないだろう?」
そんな話をしているルフールを横目に、ノエルはマリンたちに言った。
「うん、あっちは大丈夫そうだな。アタシたちも探索に出かけるとしようか。まずは、さっき行ったイースの前の家からだ」
「ですわね。では調査は御三方に任せて、わたくしたちはわたくしたちの仕事をこなしましょう!」
「うん! ちゃんと器を映した宝石も持ったし、準備は万端!」
「じゃあ、出発するっス!」
「ふふ……。ノエルの幸せだった頃を辿る旅ってことになるのかしら。楽しくなりそうねぇ」
「魂のカケラを全部見つける必要があるっていうのに、ソワレさんは呑気ねぇ……。ロウィに手伝ってもらいたいくらいには面倒な作業のはずだけど……ま、確かに退屈はしなさそうね」
ルカたちにその場を預け、ノエルたち6人は魂のカケラ集めに向かうのだった。
***
それぞれが探索や調査を終えたその日の夜。
「今日だけでカケラが8割くらい集まった」
「ええっ!? もうそんなに集まったんですか!?」
「まあ、ノエルの家周辺を歩き回るだけで勝手に集まったものね。でも、ロウィの時もこんなものだったわ。大変なのはここからよ」
「こっちは収穫なしじゃ。聞き込めた範囲がまだ不十分じゃから、あと2日ほどあればこの街中の聞き込みを終えられると……ルカの見込みじゃ」
「ま、1日でどうにかできるとも思ってないさ。ロヴィアだって1年半もかかったんだし」
「私の場合はただ単に、ロウィとの付き合いが浅かったから時間がかかっただけだけどね。ずっと一緒にいた家族が集めるんだし、そこまではかからないと思うわ。とは言っても、聞き込みの方がどうにか進まないとそれも無理なんだっけ」
一同は頷く。
ノエルはルカに言った。
「メモラ王にアタシから言って、兵士たちにアタシかイースを知ってる人物を探させるってのはどうなんだ? その方が手数もあるし、確実に情報を集められると思うんだが」
「うーん……できれば避けたいですね。大魔女の名前を知ってるか、なんて聞かれたら、不審に思う人が出てくる恐れがありますから。そもそもこの蘇生魔法の研究自体、秘密裏に進めたいって言ったのはノエルさんですよ?」
「確かにそれもそうか……。とりあえず、残りの探索次第でこれからの進め方を判断するとしよう。アタシたちもまだ、現状集められる全部のカケラを十分には見つけられちゃいないだろうし」
「今日はイースさんの前の家とノエル様の家、あとエストさんが住んでいたお店……の周りを探索しただけですしね。明日はエストさんの旧家に住んでいる人とエストさんが顔見知りらしいので、家の中の探索を交渉するんでしたっけ」
「そうっス。信頼できる人にあの店は買い取ってもらいたかったんで、買い手が出たら直々に交渉する場を設けてもらいたいって、土地の管理者の人にそうお願いしてたんスよ。まあ、会うのは25年振りになるっスけど、アチキの見た目は変わってないっスから」
「若魔女の強みと言えば強みですが、何も知らない一般人からすれば恐ろしいですわよねぇ。60歳を超えるはずの女性が、30代後半の頃と違わぬ姿で現れるんですから。まあ、本当はもっと若い頃のままなのですが……」
それを聞いて、ノエルやエストたちは一瞬固まる。
「……アタシ、もう少しで60歳になるのか。全く実感していなかったが、そんなに生きてたんだな……」
「アチキなんて、知らぬ間に超えてたっスよ……」
「ワシなんて今年で92じゃぞ」
「母さんはそもそも、老いるはずの肉体の年齢を10年単位で巻き戻し続けてるでしょ。そう考えるとズルいわね……」
「わたくしはまだ41歳。まだギリギリ驚かれることもないでしょうが……。少しキツくなってきた気はしていますわ……」
「ところで、エストの家がその時と別の人物に引き渡されてるって可能性はないのか? ワタシたちが思っている以上に情勢ってのは移ろいやすい。今もずっと住んでいるって確証もないだろう?」
「そう思って今日、探索ついでに様子を見てきたんスよ。見た目は変わってたっスけど、表札も住んでいる人もアチキが売った家族で間違いなかったっス」
ノエルは頷いて、ルカたちに言った。
「まあ、少なくとも数日分の足掛かりはある。とにかく、それぞれ頑張ってイースの魂を完成に近づけるぞ!」
こうして、ノエルたちはイースの魂のカケラを集めるために、共に数日を過ごしたのだった。
***
そして、その数日が経過した夕方のこと。
「カケラの収集率は9割。あとはアタシの知らないイースの過去の記憶だけ……のはずだ。まさか、5年前に使った『
「メモラの地図を転写して、魂の器の探索範囲を結界で広げるなんてね。そんな手があるんだったら、私も1年半なんて長期間、頑張らなくて良かったかもしれないのに」
「ま、アチキたち特殊魔法の使い手3人の力作っスから。その1年半だって、ロウィちゃんにとっては大事な時間だったかもしれないっスよ?それくらい、ロヴィアがロウィちゃんのために頑張ったって証にもなるんスし」
「無駄な時間とは言ってないわ。もっと早くに蘇生できたら、それに越したことはないでしょって話よ」
「はいはい、とりあえずアタシたちの方はこんなものだ。そっちはどうだった、ルカ?」
「はっきり言います。見つかりませんでした……」
ルカはそう言って肩を落とす。
クロネはルカの肩をポンと叩き、ノエルに言う。
「ルカもワシらも頑張った。これはただ、この街の住人に昔のノエルを知る人物がいなかった。ということじゃ」
「分かってる。責めるつもりは全くないよ。ただ……どうしたもんか」
「いっそ、兵士たちにメモラ中を探索させた方が見つかります……。ボクたちでは数日でこの街を調査するのが精一杯ですから……」
「それは最終手段だ。まだ諦めるには早過ぎる。どうにかして見つける方法を考えろ……考えろ……」
ノエルたちは一緒に考え始めた。
しばらくしても、彼女たちは動きを止めたままだった。
それに痺れを切らしたノエルが他の提案をしようと、椅子から立ち上がったその時だった。
突然、部屋のドアが叩かれる。
「おーい、ノエル!」
「その声……ダイヤ? お前、こんなところで何してる?」
「オイラだって、ノエルの役に立ちたいと思ってさ。独自で調べてたんだよ、お前の息子のこと!」
「何だって?」
「そしたら、見つかったんだ! メモラの監獄に収監されてる囚人に、イースって人物のことを知ってるヤツが……!」