魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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125頁目.ノエルと屍とダメ人間と……

 メモラ王・ダイヤのその言葉は、ノエルたちに残された唯一の手掛かりであった。

 それを聞いた瞬間、ノエルは部屋のドアを勢いよく開く。

 そして、鬼の形相でダイヤに近づき、目を見開いてその両肩を掴む。

 

 

「ノエル……? 顔が怖いぞ……?」

 

「どうして、どうやってそんなことを調べたのか、聞こうとも思ったが……。今さっきの言葉で考えが変わった。お前にしちゃ上出来だ!」

 

「そう言いながら怒ってるよな!?」

 

「そして、それを報告しに来たってことは……そいつに会えるんだな?」

 

「あ、あぁ! 言ってくれれば、今すぐにでも会えるよう準備してある! ただ……」

 

「うん?」

 

 

 ノエルはダイヤの肩から手を退ける。

 ダイヤは恐る恐る、その口を開いて言った。

 

 

「その男はお前を……()()・ノエルを死ぬほど憎んでいる。お前が会うには危険過ぎる。名前は『アイン』。聞き覚えがあるかは知らないけど」

 

「ノエル……。あなた、何か憎まれるようなことでもしでかしたんですの……?」

 

「いや、その名前も聞いたことないし、憎まれるようなこともほとんど身に覚えがないんだが……」

 

「オイラも色々調べはしたけど、そいつの身内は全員死んでたし、その辺の事情は本人に聞く他ない。ただ、一応オイラはノエルと会わせるのだけは避けておいた方がいいと思ってる。冷静な話ができなくなるだろうしね」

 

「なるほど……。とはいえ、なぜその男は殺人を? そもそも誰を殺したんです?」

 

「殺されたのは彼の父親だ。だが、当時は錯乱状態にあったせいで、その理由は全く突き止められていないらしい。少なくとも分かっているのは、ヤツがノエルに対して絶大な復讐心を持っている、ということだけ」

 

「それこそ本人に聞かないと分からないってことか。だったら、アタシは会うよ」

 

 

 ダイヤは驚いて、ノエルに言った。

 

 

「正気か? 危険だと分かっていて、わざわざ会うだなんて」

 

「だったら、どうしてお前はアタシたちにその男のことを話した?」

 

「う……それは……」

 

「そう、アタシが会うと分かっていたからだろう。そもそも、囚人なんだ。面会人とは隔離されてるだろうし、アタシたちに危害が及んだりしたらそれはお前の責任だからな、ダイヤ」

 

「わ、分かってるよ。その辺は拘束を強めとくよう言っておく」

 

「じゃあ、明日の午前中にでも尋ねるとするよ。時間がいっぱい取れるに越したことはないし、色々とこちらでも考えをまとめておきたい」

 

「承知した。監獄の兵士たちにはそう言っておくよ。じゃあ、お邪魔したな」

 

 

 そう言って、ダイヤは駆け足気味にノエルの前から去っていった。

 ノエルは振り返り、大魔女たちに言った。

 

 

「それじゃ、早速作戦会議でもしようか。明日は早いし、手短に済ませよう」

 

「ええ。イースさんを知っているという囚人……。ノエルに恨みを持っているという点においても、色々と聞くべきことをまとめておきましょう」

 

「おー!」

 

 

 こうして、ノエルたちはイースに繋がる手掛かりをどうにか掴み、次の日に備えて休息を取るのであった。

 

 

***

 

 

 次の日の朝。

 ノエルはマリンとサフィア、そしてクロネを連れて監獄の面会室に来ていた。

 流石に9人で訪問するのは相手を下手に刺激してしまうだろう、ということで人数を減らしている。

 また、クロネは相手の嘘を見抜く力を買われ、付いてくることになった。

 

 

「さて、聞こえているか、5人とも」

 

 

 ノエルは自分の手首に向けて小声で囁く。

 すると、ノエルの右手首に巻かれた魔法の糸の輪が振動する。

 その糸は扉の外を伝って、別室にいるエストたちに繋がっている。

 

 

「よし、調子は良さそうだな」

 

「ロヴィアさんの時に使った『盗賊の音叉(ワイヤー・トーン)』を逆に情報伝達に使うなんて、そんな発想ありませんでした!」

 

「あっちの声が下手に聞こえないようにあっちからの反応を振動に変えてみたが、意外と役に立つかもな」

 

「そろそろですわよ。大人しく待っていなさいな」

 

 

 しばらくして、透明な板を挟んだ向こうの部屋にその男が入って来た。

 目隠しをされており、看守によって部屋の中の拘束具に繋ぎ止められていく。

 ダイヤに頼んでノエルの名前は伝えさせていなかったが、目隠しを外されたその男は、ノエルを見るなり大声で叫び始めた。

 

 

「その顔……てめえ、魔女・ノエル!! どの面下げて俺の前に現れた!!」

 

 

 拘束具で動けなくなっているとはいえ、暴れ回っているのが分かる。

 看守はノエルにその男を鎮静させるか尋ねるが、ノエルはその申請を断った。

 ノエルは、落ち着いた声でその男に話しかける。

 

 

「お前はアタシを知っているようだが、あいにくアタシはお前を知らない。アタシとイースとの関連性を教えてもらえるか?」

 

「知らないはずねえだろうが! てめえは俺らの親父からイースを奪った! そして、俺ら家族をめちゃくちゃにしやがった!!」

 

「イースを奪った……? まさか、お前……! イースを虐めていた、イースの従兄弟か!」

 

「あぁ、そうだよ! だが、それだけじゃねえ……。俺は絶対にてめえだけは許せねえんだよ……。てめえは、()()()()()()()()()()()()()()んだからな!!」

 

「アタシが……お前の弟を殺した、だって……?」

 

「……今のところ、この男は全く嘘を吐いておらん。勘違いという可能性もあるが、何か確信に至る理由があるんじゃろう」

 

 

 そのクロネの言葉にノエルはハッとした。

 ノエルはイースの死後、誓って殺しはしていない。

 しかし、イースが死ぬ前に一度、10人まとめて焼き殺したことが、間違いなくあった。

 

 

「……お前の弟たちってのは、魔女狩りでアタシを殺そうとした兵士だった。そうだな?」

 

「そんな、まさか……!」

 

「あぁ、てめえが2人とも焼き殺したんだ……! 弟たちは王国兵士に憧れて、王国兵士にようやくなれたのに、てめえは弟たちの夢も希望も全部燃やし尽くした!! そして、てめえはその屍の上で今日までのうのうと生きてやがる……!」

 

「もしあの日、アタシが殺されそうになったってだけで兵士たちを殺したのなら、過剰防衛だったかもしれない。だが、その兵士たちがイースを殺したとなっては、アタシも我を忘れざるを得なかったんだ」

 

「……は? イースが……死んだ?」

 

「確かにアタシは10人の兵士たちの屍の上に立って、今日まで暮らしてきた。だが、この生命はイースが身代わりに殺されたせいで残ってしまった生命でもある。生命を天秤に掛けるつもりはないが、アタシだって大事な家族を奪われた1人だ」

 

 

 すると、アインの覇気が失われていく。

 しばらくして、アインはノエルに尋ねる。

 

 

「イースは、弟たちが殺したのか?」

 

「さあね。もしかしたらイースは殺される直前に見ていたかもしれないが、今となっては確認することもできないね」

 

「そうか……。急にイースの名前を知ってるか、なんて聞かれたから何かと思っていたが、まさかてめえが会いに来ることになるなんてな」

 

「落ち着いたようで何よりだ。聞かせてもらえるか、お前の家族のこと。そして、イースのことを」

 

「調子に乗るんじゃねえよ。俺はてめえを絶対に許さねえ。ただ、てめえが弟たちを殺したことに理由があった。俺はそれを知っただけだ」

 

「……その弟たちが死んだ原因、魔女狩りの元凶をアタシたちは倒した。それでも罪が許されないのなら、アタシはお前に殺されても構わないよ」

 

 

 アインは少し考え、再びノエルに尋ねる。

 

 

「魔女狩りの主導者は先代の国王だったんじゃないのか?」

 

「確かに先導したのは先代国王だ。でも、魔女狩りはとある知恵のある魔物によって引き起こされた儀式の一種だった。その魔物が、国王を影で操って魔女狩りを煽動したんだ。信じられないのなら、今の国王に聞いてみるといいさ」

 

「にわかには信じがたいが……アホ王子に聞くくらいなら信じた方がマシだ。あいつは見ているだけでイライラする」

 

「で、許してくれるのか?」

 

「しつこいな!? 絶対に許さねえって言ってんだろ!」

 

「じゃあ、このままお前が許すまで待ってやるよ。アタシを殺したいんなら拘束具外してもらうよう頼めるし」

 

 

 ノエルはそう言って、看守を呼ぼうと席を立つ。

 

 

「あぁ、もう分かった。話してやるよ。別に俺には、てめえを恨んでいても殺す理由はねえ。ここにいるのだって親父を殺したからであって、人を殺すことに快楽もクソも感じてねえよ」

 

「じゃあ、まずはその父親を殺したことについて話してもらおうか。じゃないと、お前と家族の関係性が掴みにくいからね」

 

「王国兵士になった弟2人と違って、俺は特に夢もなけりゃ得意なこともなかった。だから、弟たちの訃報と犯人を聞いた頃、俺は無職だった。だからお袋が必死こいて働いて、昼から酒飲みまくって俺以上に浪費するクソ親父と、こんな俺を養ってくれてたんだ」

 

「イースの叔父……だったか。まさかそんな男だったとはね」

 

「だが、先代国王が死んで魔女狩りが終わったあの日、お袋はパタッと死んだ。死因は過労死だ。なのに、親父は金がもったいないからって葬式もせず、俺に働けって言い始めた。自分は働こうともしないくせに、自分の金のことしか考えてなかったんだよ」

 

 

 ノエルたちは静かにその話を聞いている。

 アインは震えた声で話を続ける。

 

 

「お袋が死んだのは俺にも責がある。それは分かってた。それなのに、あのクソ親父は弟たちが死んだことまで俺のせいにし始めたんだ。俺が王国兵士になっていれば、弟たちの身代わりになってやれたってな。それだけは魔女・ノエルのせいだってのに……!」

 

「……それから?」

 

「ある日、俺が仕事から帰ってきたら家の金庫から金が全部消えていた。俺が親父の部屋に行くと、親父が高い酒瓶を大量に抱えて酔い潰れていたんだ。その瞬間、俺は死んでいった弟たちとお袋の顔が思い浮かんで、気づいたら酒瓶で何度も親父を殴り続けてた」

 

「それでお前は捕まってからずっと、この監獄に入れられてるってわけか」

 

「そうだとも。数年前に他の囚人たちが農作業に行くようになってからも、危険な囚人扱いされてずっと牢屋の中さ」

 

「……分かった。じゃあ、イースについて聞かせてもらえないか? アタシはイースをお前たちから助けて以降のことしか知らない。生まれ育った場所、親の居場所、お前たちと暮らし始めてからのこと、何でも聞かせてくれ」

 

 

 アインは少し頷き、ノエルたちに話し始めた。

 

 

「イースは魔法の国・ヴァスカルから来たらしい。確か父親が魔導士で、母親が流行り病で死んだって聞いたな。あの頃は大厄災から間もなかったから、ヴァスカルから来たってだけで『魔女の子』って虐めてたっけ」

 

「なるほど、あれはそういう意味だったのか……。って……イースがヴァスカル出身で、父親が魔導士!?」

 

「知るはずもないか。あいつ、かなり小さい頃に父親からクソ親父に押しつけられてな。あいつの父親はあいつの母親が死んだせいでダメになったらしい。よっぽど母親に執着していたのか、イースを育てることすら放棄してたんだよ」

 

「お前の父親兄弟、ダメ人間ばっかりじゃないか……。でも、どうしてイースはお前たちの家に預けられたんだ?」

 

「その理由もあとで親父から聞いたが、クソみてえなもんだったよ。『金はやるからイースを預かってくれ。邪魔で仕方ない』ってさ。そんな話、親父が食いつかないわけがねえ。で、イースが居なくなってからも金を取り続けたのさ」

 

「誰もイースを探しに来なかったのはそういうことか……。って、あれ? さっき、アタシがイースを奪ったことで家庭崩壊したとか言ってなかったか?」

 

 

 アインは答える。

 

 

「簡単な話だ。イースに飛んでた親父の酒癖の暴力が、代わりに俺らとお袋に飛ぶようになったんだよ。それからお袋は逃げるように働くようになって、弟たちはそれを支えるために早く職にあり付ける王国兵士に志願したんだ」

 

「……お前は?」

 

「弟たちとお袋が家にいない間、誰が親父を見張るんだよ。まあ、そう言ってただ金を貪ってた1人だったのは認めるけど」

 

「なるほどな……」

 

 

 それから、ノエルたちはイースの父親の名前や居場所など、アインが知っている限りの情報を聞き出した。

 その代わりに、ノエルはイースの話を聞かせてやった。

 アインは弟たちとの話を交えながら、その話に乗ってくれたのだった。

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