魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜 作:もーる
それから数日後。
ノエルたちはアインの話を参考に探索をするため、ヴァスカルに戻った。
そして、ヴァスカル王立図書館に所蔵されている住民票を確認し、イースの父親の家の住所を突き止めたのだった。
しかし──。
「これは……『死亡届』か……」
「イースを預けて、さらに金まで払ってたんスからねぇ。その時点でダメになってたのなら、孤独死してしまう可能性は十分にあり得たわけっス……。で、ノエルどうするんスか?」
「もちろん、この場所に行くさ。あとは、イースの両親の遺体か遺骨がどこかにあるならその場所にも行きたい」
「アインさんの父親がああいう性格ですから、この方には身内がいなかったも同然でしょう。となると、この死亡届は国が作ったものでしょうね。つまり、遺骨の所在を知っているのも国ということになるでしょうけど……」
マリンはそう言って、クロネの方を見る。
「……その男が魔導士で、なおかつ孤独死じゃったのなら、恐らく戦死者用の納骨堂にあるじゃろう。じゃが、そこはあくまで骨壷を納めておく場所じゃ。身元不明のものもあるから、名前や個々の場所までは記録されておらん」
「まあ場所さえ分かれば、残りはしらみ潰しさ。念のためにイースの母親のお墓にも行ってみるとして、とりあえずはこの住所に向かおう。とはいえ、この人数で行くような場所でもないか……」
「ソワレさんは連日の移動でしたから、休んでてくださいな。ノエル様にはあたしがいますから」
「じゃあ、そうさせてもらうわ。って……あら?」
ソワレはノエルの後ろを杖で指す。
ノエルたちが振り向くと、王国の魔導兵士がクロネを呼びながら近づいてきたのだった。
「どうやら、ワシに何か用があるようじゃな。となると、ワシも留守番……と言っても、恐らくは仕事じゃろうが」
「じゃあ、ワタシも少し考えごとがしたいから、残りの連中で行ってきていいぞ」
「となると、ボクたち6人で行くことになりますね」
「それくらいの人数なら気にしなくてもいいか。じゃあ、イースの魂のカケラを集めに行くぞ。今回の探索で全て集まってくれないと、先に進めなくなっちまうからな」
「そうね。それ以上何か足りないものがあったとしても、私が魂のカケラ関連で手伝えるのはそこまでってことになるし」
「それなら早速出かけましょう。懸念点は先に潰しておきたいですし」
ノエルたちは頷き、王立図書館を出たのだった。
***
そして、その日の夜。
探索を終えたノエルたちはクロネの部屋に集められていた。
そんな中、ノエルは嬉しそうにイースの魂のカケラが入った宝石を触っていた。
「ようやく……。ようやく、イースの魂の器が満たされた!」
「おめでとうございます、と言っておきましょう。蘇生魔法の製作過程とはいえ、ノエルの大切な方の魂を取り戻せたのですから」
「あぁ、お前たちも手伝ってくれて本当に感謝しているよ」
「これで材料は揃ったわけっスし、あとは肝心の魔法を作るだけ……と言っても、それが一番大変なんスよねぇ」
「そのために作ってもらった大工房だ。時間はどれだけかかっても、アタシたちなら絶対に完成させられる。まあ、運命魔法によればアタシの理想としていた『犠牲が出ない完璧な蘇生魔法』は作れないみたいだが……」
「うーん……それはどうか分からないところではあるっス。確かにノエルは死ぬっスけど、それが蘇生魔法のために必要なものなのかどうかは分からないっスから。ノエルの死のその先は、ノエルの魂が運命から切り離されるせいで見れないっスし……」
ノエルは少し考え、エストに言う。
「じゃあ、アタシが死ぬのが蘇生魔法絡みじゃないって可能性もあるわけか。まあ……分からない問題は考えるだけ無駄だな。それで……」
「どうしてあたしたち、クロネさんの部屋に呼ばれてるんです? ノエル様、聞いてます?」
「それを今言おうとしていたところだ。まあ、差し詰めクロネさんが呼ばれた件と関わりがあるんだろうが、クロネさんはどこだ?」
「そろそろ定刻だが、確かに姿が見えないな。ワタシが見回りの兵士に聞いてこよう」
そう言ってルフールが扉の方へ向かうと、その扉が開いた。
「おぉ、待たせてすまんの」
「あ、師匠。時間ちょうどとは、流石は時魔法の使い手ですね」
「ワシだけではない。ほれ、さっさと来んか」
「うん? 他に誰かいるのか?」
すると、クロネの後ろからヴァスカル王が顔を見せる。
しかし、何やら後ろめたそうな表情でおずおずとしていた。
「ヴァスカル王……? どういうことだ、クロネさん」
「話があるのはワシではない。こやつじゃ」
「その通りだ。クロネがあなた方を集める時点で、余の話をしていなかったようで悪いが……」
「なぜ少し引いた場所から……? まあ、とりあえずどういう話なのか聞かせてもらいましょう。わたくしたちの研究を妨げないような話であれば良いのですが……」
「……お察しの通り、余の話はあなた方の研究の妨げになる話となるだろう。話というのも、頼みがあるのだが……」
何か大事な話だということを察したノエルたちは、とりあえずヴァスカル王を部屋に通し、椅子に座らせる。
そしてヴァスカル王はノエルたちに話し始めたのだった。
「まず、依頼の内容をはっきりと伝えさせてもらいたい。我が国の神器『ファーリの心臓』を厳重に、そして永遠にどこかに保管して欲しいのだ。今は心臓だけではなく例の悪魔が付いたままではあるが……」
「このままヴァスカルで保管しておっては、いずれ5年前のような事態が起こる可能性がある。魔法文化の中心地にあるよりも、どこか誰も知らない秘所に厳重に隠してしまった方が安全と考えたわけじゃ」
「理由は理解した。だが、どうしてアタシたちに依頼するんだ? 隠し場所を探すなら、アタシたちに頼むより兵士たちに探させた方がいいだろうに」
「それだけであれば確かにあなた方に依頼しなくても良いだろう。だが、問題は
「……魔法で誰にも入れないように封印して欲しいってことっスか? それも、誰にも解除できないような堅固な結界を作って欲しい、って依頼も含まれているっスよね、それ」
「その通りだ。無論、依頼するからには援助はさせてもらう。しかし、この依頼があなた方の蘇生魔法作りを妨げてしまうほどに重要な依頼というのも理解している。その上で、余はあなた方に頼みたいのだ。頼む……!」
ヴァスカル王は申し訳なさそうに頭を下げている。
すると、ノエルはそれを諌め、ヴァスカル王に言った。
「そこまでしなくても、アタシはその依頼を引き受けるつもりだったさ」
「ノエルならそう言うと薄々気づいてはいたっスけど、本当にいいんスか? 早くイース君に会いたいんじゃ……」
「それはそうだ。だが、蘇生魔法を作っても、その効果が切れてしまう可能性があるのであれば、それはできる限り潰しておきたい。それに、魔法が消えて困るのはこの大陸に住む全ての人間だ。受けない理由はないよ」
「……感謝する。あなたならそう言ってくれると信じてはいたが、とても不安だったのだ。いずれ、この魔法文化はかつてのように変化し、ヴァスカルが平和であり続ける保証もない。そうなった時、余はあの神器を守り抜ける自信がなかった」
「
「それもそうだが、自信がない一番の理由はこの国のあり方の問題点にある。魔法文化の中心地として発展してきたこの国も、今やほとんどの魔導士が魔法を捨てて生きている時代となっている。そんな場所で魔法そのものの心臓を管理していいはずがないだろう?」
「それもそうですわね。禁書庫の結界の厳重さは身をもって知っていましたが、あれを管理できる魔導士がいなかったのも事実。
「じゃあ、アタシたちはその結界を超える、最強の封印結界を作り上げなきゃいけないわけだ。蘇生魔法と同じくらい大変な研究になりそうだが……それはそれで腕が鳴るねぇ!」
ノエルは楽しそうに他の大魔女たちにそう語りかけた。
マリンたちはそれを見てホッとしつつ、それぞれで自分の知恵を捻り始める。
その様子を見て安堵したヴァスカル王は、手付金を置いて部屋から出ていくのだった。
***
数日後、ヘルフスの大工房にて。
「ここからは分担作業になる。一方は『ファーリの心臓』を封印する魔法作り。もう一方はもちろん蘇生魔法……もとい、イースの羽根ペンにかける魔法作りだ」
「ですが、それでは進行度が偏りませんこと? 全員が大魔女とはいえ、その力量はまちまちですし」
「そこで、だ。アタシたちはその2つの作業を、ここで同時並行で行う。全員が封印魔法作りに、そして蘇生魔法作りに関わるんだ。ごちゃごちゃになるかもしれないが、お互いの気づきをその場で共有できるに越したことはないからね」
「なるほど……。中々に忙しそうな研究になりそうですわね。では、一応ざっくりと人員を振り分けましょうか。最初から同時並行というわけにもいきませんし」
「じゃあ、分担はマリンに任せる。アタシとサフィーは一緒に1日の流れを考えるとしよう」
「はいっ!」
ノエルたち3人は研究の進め方の基盤を定め、他の大魔女たちに提案した。
クロネをはじめとして、全員が納得してくれたため、ノエルたちは『ファーリの心臓』を守る魔法と、蘇生魔法の研究を同時に始めることとなったのだった。
そして、この2つの魔法が完成するまで、2年もの時が流れた──。