魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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127頁目.ノエルと涙目と最後の夜と……

 2年という長いようで短い期間、ノエルたちは大工房でひたすら研究に明け暮れていた。

 これまでの魔法は作成と実験との試行錯誤を重ねることができたが、イースの羽根ペンに施す蘇生魔法は一度きりのため、実験を行うことができなかった。

 そのため、ノエルたちはロウィの一件を基盤に様々な仮説を立てて魔法を作り、たった一度きりのためだけの万全であろう魔法を作り上げたのだった。

 

 一方、『ファーリの心臓』を封印する魔法はというと、こちらは実験を行うことができたため完成までさほどの時間はかからなかった。

 しかし、肝心の封印場所にぴったりの場所が見つからなかったため、ノエルたちは一度完成した封印魔法の仕組みを根本から変えてしまうことにした。

 これまでは、誰も触れられず壊せず、解除不可能な結界を張るつもりでいたが、そもそも誰にも見つからない空間を作ってしまおうという発想に変わったのだ。

 こちらはルフールの空間魔法を基軸に、時の流れやその場所の作りなどを全員で設計したのだった。

 

 

***

 

 

 時は流れて、蘇生魔法を発動する1日前。

 ノエルにとっては最後の、とても長い夜のこと。

 

 ノエルたちは魔法の最終調整も兼ねて、メモラ城の客間を借りてそれぞれ3人ずつ違う部屋に泊まっていた。

 ノエルは他の大魔女たちにお願いをして、サフィアとマリンと同室を選んだのだった。

 そして、寝る時間になったものの、ノエルは2人とどうしても話がしたくなって、ベッドから身体を起こす。

 

 

「……なあ、2人とも起きてるか?」

 

「……逆に眠れるとでも思って?」

 

「そうですよ。こんな夜、終わって欲しくないし……」

 

「そうか……。でも、アタシはむしろ明日が楽しみだよ。一世一代の、原初魔法にも匹敵……いや、原初魔法を超えた大魔法を試せるんだからね。大魔女としては本望だよ」

 

「でしたら、もう少し楽しそうな声で話してくださいまし。そんな寂しそうな声で話されると、別れが惜しくなるでしょう?」

 

「それは仕方ない。一世一代の大魔法が、一生で最後の魔法になるんだ。お前たちと別れる悲しみは、イースを蘇生した時の喜びと天秤にかけられないだろうさ。できることなら、何の犠牲もなしにイースを復活させたかったに決まっている」

 

 

 ノエルはそう言って、窓の外を見る。

 外にはノエルがイースと暮らした森の景色が、月明かりに照らされて輝いていた。

 

 

「……それでも、アタシはこの日のためにこれまで頑張ってきた。お前たちを集めたのも結果的には蘇生魔法のため。だから、お前たちのためにも絶対に引き返すなんて選択肢は選べないよ」

 

「もちろん、それは分かってます。ただ、別れが惜しいという言葉に尽きるんです……。ノエル様にとってあたしがどんな存在かは分かりませんけど、あたしにとってはたった1人の、大事な師匠ですもん」

 

「アタシにとっても自慢の弟子に決まってるだろう。これまでも、これからもね。サフィーがいてくれたおかげで、こうして生きて明日を迎えられるんだ。お前を弟子にできたことが、アタシの一生一番の自慢と言っても過言じゃないくらいだよ」

 

「でしたら、わたくしを好敵手にできたことも自慢の1つにしてよろしくてよ?」

 

「マリン、お前……それをただ言って欲しいだけだろう。でもまあ、お前と過ごした日々も悪くなかったよ。サフィーももちろんだが、マリンがいてくれたおかげで楽しい日々を送ることができた。その点については感謝しているとも」

 

「あなたと気持ちが一緒だったようで嬉しいですわ。この15年間はわたくしにとって一番有意義で、一番楽しい時間でしたもの。ノエルがいてくれたから、わたくしは……わたくしは…………ぐすっ」

 

 

 静かな部屋にすすり泣く声が響く。

 そして、それは次第に重なっていき、やがてサフィアが声を上げて泣き始めてしまった。

 

 

「分かってるけど……分かってるけど、ノエル様とお別れするなんて嫌ですよぉ…………」

 

「サフィーと同じく、わたくしもノエルとの別れは嫌ですわ……。今日くらいはこれくらいの弱音も許してくださいまし……ぐすっ」

 

「アタシも……お前たちとは一番別れたくないよ……。だからこうして同じ部屋に──」

 

 

 その瞬間、部屋のドアが突然開く。

 すると、その奥からエストが泣きながら部屋に飛び込んできたのだった。

 

 

「ノエルぅ〜!!」

 

「……は? エスト? どうしたんだ、急に。ビックリして涙も全部引っ込んだんだが」

 

「サフィアちゃんの泣く声がこっちの部屋にも聞こえてきて、もらい泣きしちゃったんスよ……。ほら、アチキだけじゃないっス……」

 

 

 ノエルがドアの外を見ると、他の大魔女たちが涙目で部屋の中に入ってくる。

 

 

「はぁ……これじゃ、何のために部屋を分けたのか……。まあ、今日くらいはいいか……。よし、クロネさんもルフールも姉さんもルカもロヴィアもロウィもこっちに来て話そう。全員が泣き止むまで起きといてやるから」

 

 

 そう言って、ノエルはベッドの上に座り直す。

 早速、クロネがノエルの前にやってきた。

 

 

「……ワシは結局、死を克服できなかったんじゃな。魔法で延命はできても、愛娘一人の生命も代替わりできんとは……」

 

「クロネさんの時魔法、きっと将来誰かの生命を助ける魔法になるよ。アタシが生きるはずだった残りの時間、クロネさんに預けるから。大事に使ってその時間を何倍にも増やしてやって欲しい」

 

「……分かった。それがお前の願いなら、ワシが全て預かろう」

 

「頼んだ。これからの魔法社会を支えるのはクロネさんなんだから、応援しているよ」

 

 

 涙を拭き、クロネは後ろに下がった。

 次に、ルフールがやってくる。

 

 

「ワタシが手がけた魔法のためにノエルを犠牲にするなんて、ワタシの一生の恥だよ……。どうしてこうなってしまったんだ……」

 

「アタシの知る限り、あんたはもっと恥じるべき行いをしているはずなんだが……。まあ、最後までアタシの全ての魔法を見せてやれなくてすまないね。でも、明日の魔法はとびっきりのを見せてやる。今度は腰を抜かすんじゃないぞ?」

 

「今からでも遅くない……」

 

「うん? 蘇生魔法は諦めないぞ?」

 

「今からでも、残った魔法を全て見せてくれ! じゃないと、一生心残りになってしまう!」

 

「アホか!! こんな夜に、しかも明日のために魔力を残しておかなきゃならないってのに、お前のためだけに魔法を見せるわけないだろうが! 全く……そんな理由の涙なら大丈夫そうだな。ほら、部屋に帰った帰った」

 

 

 クロネに服を掴まれ、ルフールは下がっていく。

 それを見送り、ルカがノエルの前にやってくる。

 

 

「ボクは皆さんほどノエルさんと過ごした時間はありませんが、ボクにとってノエルさんはもう1人の師匠です。あなたがいてくれたから、ボクは風魔法をここまで扱えるようになったんですから……」

 

「師匠って意味ならサフィーの方じゃないか? 風魔法のコツを掴めたのはサフィーのおかげだろう?」

 

「それはそうですけど、サフィアさんが魔女になったのはノエルさんがいてくれたからですし。それにライジュさんがボクの特訓に付き合ってくれるきっかけを作ってくれたのも、元はと言えばノエルさんです。まあ、師匠と言うよりは恩人……でしょうか?」

 

「そう言われてみると確かにそうだな……。とりあえず……ルカ、お前はサフィーと同じ次世代の魔女だ。今後の魔導士の未来を作っていく存在と言ってもいい。アタシが魔法の理を守ってやるから、代わりにお前たちに魔法の未来を託す」

 

「ええ、託されました。ノエルさんの意志を後世に語り継いでいきますとも。もちろん、『ファーリの心臓』の場所は歴史に残しませんから」

 

「あぁ、頼んだよ。どうやら、お前の涙はとっくに乾いていたみたいだが……。一体いつから泣いてたんだ?」

 

 

 すると、ルカは目尻を擦って涙の跡を拭い去る。

 そして、やや恥ずかしそうに答えた。

 

 

「じ、実はサフィアさんが泣き始める前から、エストさんとロヴィアさんと一緒にノエルさんについて話していて、その時から……」

 

「あぁ……そっちでもやっぱりそんな話になったんだな……」

 

「当然というものです。サフィアさんたち2人ほどではないでしょうけど、ボクたちにとっても大切な人なんですから。それに、大魔女の統括役という意味では、世間的にも必要とされている人です」

 

「まあ、ヴァスカル王と……あとダイヤには悪いが、アタシの悲願のために仕事を増やすことになっちまったな……。それについては話をつけてあるとはいえ、心残りの一つではある」

 

「あはは……。確かに、あのお二方は今日のことを聞いて引き止めてくれましたからね……。でも、それだけ必要とされていたんです。彼らも明日という日を惜しんでいるはずですよ」

 

「そう……だといいな……」

 

 

 それを聞いてルカは優しく微笑む。

 そして、ソワレと交代したのだった。

 

 

「ついに明日ね。ノエルの魔女としての最後の大仕事……。姉として、この私がしっかり見届けてあげるから」

 

「姉さん……。アタシ、姉さんと再会できて本当に良かった。見届けてくれる人は多いに越したことないけど、それ以上に姉さんはアタシの目標なんだから。かっこいいところ、絶対に見ておいてくれよ」

 

「ええ、もちろん。私はもう魔女じゃないけど、それでもあなたにとっての目標でいられて本当に嬉しかったわ……」

 

「確かに魔法は使えないかもしれないけど、魔法の知識とか好奇心旺盛なところは間違いなく魔女だよ。姉さんがいなかったら蘇生魔法は完成しなかったんだからね」

 

「ノエルの方が辛いはずなのにね……。でも、そう言ってくれるだけでもとても心強いわ。これで私もあなたとお別れする覚悟ができたわ。明日はちゃんと見守っておくから」

 

「あぁ、頼むよ。あと、ルナリオにもよろしく伝えておいてくれ。姉さんとアタシたちを繋いでくれたのは他でもないあいつなんだから」

 

 

 ソワレは「もちろん」と頷いて、立ち上がった。

 それから、大魔女たちはそれぞれノエルと抱きしめ合い、別れを告げた。

 部屋に帰る6人を見送って、ノエルたち3人は改めて布団に潜り込むのだった。

 

 ノエルにとって、最後の夜はとても短く、それでいてとても温かな夜だった……。

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