魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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129頁目.ノエルとイースとただいまと……

 ノエルが蘇生魔法を発動する1ヶ月ほど前のこと。

 8人の大魔女たちは、ノエルが寝静まった頃を見計らって集まっていた。

 彼女たちを集めたのは、外でもないマリンだった。

 

 

「ノエルはぐっすり寝ていますわ。ここで話している声は地下までは聞こえませんし、このまま作戦会議を始めさせていただきましょうか」

 

「突然夜に集められたと思ったら、作戦会議っスか? 急にどうしたんス?」

 

「何も急な話ではありませんわ。姉様やソワレさん、ルフールさんが筆頭となって研究を進めていた、『ノエルを死なせない方法』についての話ですもの」

 

「だが、それはもうワタシたちの判断と、蘇生魔法・封印魔法との兼ね合いで不可能という結論に至ったはずだ。なのに、今さら作戦会議とはどういう了見だ?」

 

「もし不可能だとしても、諦めないことが大事なのですわ。魔女にとって大切なのは、好奇心と仮説立て。今さらと言われても、何かないかどうにかできないかを考え続けるのがわたくしたちの仕事でしょう?」

 

「お姉ちゃん……」

 

 

 サフィアはそう言い切ったマリンの姿を見て、自分を奮い立たせて言った。

 

 

「お姉ちゃんの言う通りだよ……。ノエル様が死ぬのを黙って見ているなんて、あたしにはできない! あたしたちにも何か……何か絶対できるはずだもん!」

 

「落ち着いて、サフィアちゃん」

 

「ソワレさん……」

 

「大丈夫、みんな同じ気持ちだから……ね? 私ももちろん、一緒に考え続けるわ」

 

「全く……。このワシより先にそんなことを言われたんじゃ、ノエルとソワレの母親としてのメンツが立たん。それに、マリンがこの時機にワシらを集めたのにはそれなりの理由があるんじゃろう?」

 

「ええ、もちろんですわ。何せ、ようやく蘇生魔法と封印魔法の仕組みが完成したんですから……!」

 

 

 その日は、ノエルたちが蘇生魔法と封印魔法をほぼ完成させた日だった。

 魔法の発動の仕組みができた時点で、ノエルの死に方は確定したも同然。

 マリンは、今こそ大魔女たちの知恵で『ノエルの死』という運命を変えられる時かもしれないと、そう思ったのだった。

 

 

「では、早速ですが……今回の魔法の主軸となるのは『魂と魔力の変換』。つまりは魔力の塊です。ですので、先にロヴィアさんに確認させていただきますわ。ゴーレムやロウィさんの件からして、この中で『魔力核』について最も詳しいのはあなたでしょうし」

 

「そうね……。『魂と魔力の変換』は当然実際にやったことがあるわけじゃないけど、魔力核を扱う魔女としてちゃんと勉強はしてきたつもりだし……。まあ、お役に立てるのならどんな質問でもしてちょうだいな」

 

「でしたら、『魂と魔力の変換』によって生み出される魔力の塊『魔力核』についての説明を……できれば、今回の場合に寄せて話していただけると」

 

「ええ、それくらいなら簡単だわ。そもそも『魔力核』っていうのは『魂と魔力の変換』で生まれるものに限らず、大量の魔力が込められた物体を指す言葉なの。魔力が込められた宝石とかね。『魂と魔力の変換』にあえて寄せるなら……『魂核(こんかく)』とでも呼ぼうかしら」

 

「魂をそのまま魔力の核にするなんて、今さらながらに恐ろしい発想ですよね。誰が考えついたのか分かりませんが、ボクは絶対にやりたくない魔法の発動手段です……」

 

「そうね、『魂核』っていうのはその魔導士の全ての魔力が集約された、魂そのもの。生命を代償にして発動する、最強の魔法発動手段だもの。恐ろしいのは当然だわ。ただ……まだこの魂核については未知な点が多くてね……」

 

 

 ロヴィアはマリンに尋ねる。

 

 

「ねえ、マリン。人間の魂って、どこにあると思う? 難しかったら、『魂』を『心』に置き換えて考えてみて」

 

「心……と言われると思いつくのは、心臓でしょうか?」

 

「まあ、一般的にそう思う人が多いわね。でも、魂が本当はどこにあるのか、誰も知らない。感情の源流は脳の信号だから頭、って言う人もいるし。となると、『魂核』って何なのかしら?」

 

「ボク、気づいたんですけど……今思えば、ファーリの魂核は心臓でした。ということは、普段から魔力が集中している『心臓』が答えではありませんか?」

 

「ルカ、それ()正解」

 

()? ということは、答えがいくつもあるってことですか?」

 

 

 サフィアはハッとして、マリンの方を見る。

 

 

「お姉ちゃん、おばあさまの噴水に入っていた魂核って……」

 

「お母さまに聞いた限りですが、確か髪の毛だったはずですわ。生前、髪の色があまりに綺麗で、とても大切になさっていたとか……」

 

「そう、魂核っていうのは、その人が生前に最も大切にしていた体の部分に魔力が集まって変化したものなの。魂はその人が一番大切にしていた場所に宿るってことね。と言っても、髪の毛とかは特異な例で、基本的には心臓が魂核になるみたいだけど」

 

「それで、その話が今回の件とどう繋がるんじゃ?」

 

「大事なのは、どの体の部位が魂核になるかじゃなくて、魂核に強く()()()()()()()()が何か、なの。そこで、今回の蘇生魔法で一番大事な条件を思い出してくれる?」

 

 

 すると、ルフールが答える。

 

 

「イースの魂を目覚めさせること……。それもノエル自身が、だったか」

 

「じゃあ、どうしてノエルじゃないといけないのかしら?」

 

「ノエル様の魂の中にあるイースさんとの思い出が、イースさんを目覚めさせることができるから……?」

 

「そうね。となると、それがノエルの魂核の本質ってことになるの。曖昧かもしれないけど、恐らくノエルの魂核には、記憶とか思い出とか……あとは気持ちのこもった言葉とか、そういった概念みたいなものが響くんじゃないかしら」

 

「なるほど……。その他に魂核に接続する条件はありませんの? もしあるのなら、今のうちに知っておきたいのですけれど」

 

「最低条件ならあるわよ。魂核側から接続する意思を受けること。つまり……」

 

 

 ロヴィアはマリンたちに言った。

 

 

「ノエルの魂がこっちに未練を残していれば、こちらからの接続に答えてくれる可能性が高まる、ってことね」

 

「なるほどですわね……。では、その線で色々と考えてみましょうか。発動の日まで時間もありませんし、考えられるだけ考えましょう!」

 

 

 こうして、マリンたちはノエルに知られないようにしながら、互いに意見を交わし合い続けた。

 それから1ヶ月経った当日になっても、その話に結論が出ぬまま──。

 

 

***

 

 

 ノエルが蘇生魔法を発動した直後のこと。

 揺れる地面と変わる景色の中、サフィアはマリンに涙目でしがみついていた。

 

 

「どうしよう……! ノエル様が……! お姉ちゃん、もうどうにもできないの……?」

 

「今日、この日をどうにかするために、ずっと考え続けてきましたわよ……。でも、結局何も思いつかなかった……! イースさんを蘇らせるために死ぬノエルを止めることも……」

 

「じゃあ……もうノエル様が言ったみたいに、この場で蘇生魔法を作り上げるしかないじゃない! そんなの……あたしにできるはずもないのに……!」

 

「この場で、蘇生魔法を作る…………?」

 

 

 そう呟いて数秒、マリンはハッとしてエストの方へ振り向く。

 

 

「姉様! あの白い羽根ペンの魔法、複製できませんこと!?」

 

「ええっ……!? 発動中の魔法を複製なんてしたことないっスけど……。いや、今はやってみるしかないっスね! えっと、何に魔法を転写すればいいっスか!?」

 

「うーん……。元々は羽根ペンのために調整をした魔法だったし……」

 

 

 そう言って、サフィアは手に握ったノエルの羽根ペンを見る。

 

 

「あっ、そうだ! これです! ノエル様の黒い羽根ペン!」

 

「分かったっス! じゃあ、やってみるっスよ……! 『複製(リバイバル)』!!」

 

 

 エストの右手が白い羽根ペンに、左手が黒い羽根ペンに向けられる。

 白い羽根ペンは浮いたまま、ノエルの魂核から伸びた魔力の線のようなものと繋がった状態で光り続けている。

 エストは苦しい表情で手に力を入れる。

 

 

「転写するには術式が複雑過ぎるっス……! それに、魔力を放っているせいで転写する情報がどんどん書き換えられている気がするっスよ……!」

 

「姉様、頑張ってくださいまし! あ、そうでしたわ。ロヴィアさん、確認してもよろしくて?」

 

「ええ、この状況だもの。何でも答えてあげるわ! 早く!」

 

「こんな無茶を思いついて今さらですが、ノエルの魂核にどうやって接続すればいいんですの?」

 

「蘇生魔法の場合は魂に直接触れさせなきゃいけなかったけど、魂核に繋げるだけなら簡単! 魂核に直接触れて、その上でノエルの魂に強い影響を与えられればいいわ! と言っても、向こうが未練を持ってくれていないとだけど……って、あぁっ!?」

 

 

 そう言って、ロヴィアはサフィアの方へ振り向く。

 

 

「サフィアちゃん、もしかしてさっきのノエルとのやり取りって、未練を持たせるためにやったの!?」

 

「あ、分かっちゃった? もしかしたらこの時になって、誰かがいい作戦を思いつくかもしれなかったし、少しでも可能性を大きくできればって思ったの」

 

「本当に恐ろしい子ね……。実は羽根ペンを預かったのも偶然じゃなかったり……って、流石にそこまではないか。まあ、とにかく……今はエストの魔法が成功することを祈るしかないわ」

 

 

 すると、白い羽根ペンの光が強くなっていく。

 

 

「あれは……。もしかして、イースさんが目覚める予兆ではありませんか?」

 

「くっ……。どうにか蘇生魔法が発動しきる前に、姉様が複製を終えられれば……!」

 

「全く、無茶を言ってくれるっスねぇ……! こちとらさっきから必死なんスよ!?」

 

「なるほど、()()が足りないんじゃな?」

 

 

 その瞬間、エストの動きが何倍にも速くなる。

 そして、十数秒ほどでエストが魔法を発動し終え、速度が元に戻った。

 

 

「きゅ、急に周りがゆっくりになってビックリしたっスよ! でも、おかげで複製は無事に終わったっス!」

 

「っ……! クロネさん、ありがとうございますわ! 流石は時魔法の使い手です!」

 

「なに、魔女として当然のことをしたまでじゃ。さて、次は誰の番じゃ?」

 

「それなら、当然ワタシだろう。ノエルの魂核はあんな高い場所にある。そこまで()()を繋いでやるとも」

 

 

 そう言って、ルフールはマリンとサフィアを亜空間への穴に突き落とす。

 すると、ノエルの魂核から少し離れた上空に2人が現れた。

 

 

「ちょっ!?」

 

「えええっ!?」

 

「ボクの風で落下速度を減衰させます!」

 

「ゴーレムたち! マリンとサフィアちゃんを受け止めて!」

 

 

 ルカの手から風が放たれ、マリンとサフィアはふわりと浮かぶ。

 ロヴィアが投げたゴーレムの核は、展開されると同時にマリンとサフィアの下に集まって手を伸ばす。

 それを見て、ソワレは笑いながら言った。

 

 

「みんな、ノエルのために頑張ってくれて嬉しいわねぇ。私は元から見守ることしかできないけど、応援だけはしてあげなくちゃ。さあ、あとは任せたわよ! マリンさん、サフィアちゃん!」

 

 

 その声を小さく聞いた2人は、ノエルの魂核を目にする。

 

 

「お姉ちゃん、見えたよ! ノエル様の魂核!」

 

「2人で同時に触れますわよ! せーの!」

 

 

 空中に浮かんだ、赤く光るノエルの魂核。

 それにマリンとサフィアは手を伸ばし、同時に触れた。

 

 

「ノエル様! 帰ってきてください! あたし、本当に信じてますから!」

 

「ノエル! あなたはここで死ぬような器じゃありませんわよ! イースさんと仲良く暮らすんでしょう! 魂の中に引きこもっている場合じゃありませんわよ!」

 

 

 すると、ノエルの魂核はそれに答えるかのように、赤く強く光を放つ。

 

 

「これは……! サフィー! 今ですわ!」

 

「うん! ノエル様! 手を伸ばしてくださーい!!」

 

 

 そう言って、サフィアはもう片方の手に握っていた黒い羽根ペンを、ノエルの魂核に充てがった。

 

 

* * *

 

 

 暗闇の中、ノエルは遠ざかる意識の中で声を聞いていた。

 

 

「……ノエル様! 帰ってきてください!」

 

「(どうして……アタシにサフィーの声が聞こえるんだ……? もしかして、魔法は失敗してしまったのか……?)」

 

「ノエル! あなたはここで死ぬような器じゃありませんわよ! イースさんと仲良く暮らすんでしょう!」

 

「(次はマリンの声……。あぁ、違うな。アタシ、死んだんだ。だから、走馬灯が流れてるだけで……)」

 

「魂の中に引きこもっている場合じゃありませんわよ!」

 

「(あ……? 誰が引きこもりだって?)」

 

 

 その瞬間、ノエルは暗闇の中に明るい光が2つ、赤と青に灯るのが見えた。

 そして、そこから見覚えのある2つの手が伸びてくる。

 

 

「(そうか……なるほど。さては、あいつら何かやったな?)」

 

「ノエル様! 手を伸ばしてくださーい!!」

 

「(これは完全に、あいつらを甘く見ていたアタシの負けだ。仕方ない、あいつらを悲しませる前に帰ってやらないとな……!)」

 

 

***

 

 

「ノエル様、掴んだ!!」

 

「本当ですの!?」

 

「うん、今、確かにそんな実感がしたもん!」

 

「そう言われてみると確かに、そんな気がしたような……」

 

「2人とも! 着地姿勢取って!」

 

「「えっ??」」

 

 

 ドサドサと、マリンとサフィアはゴーレムたちの腕に落下した。

 頭をさすりながら、マリンとサフィアはノエルの魂核から手を離す。

 ノエルの魂核はそのまま上昇し、この空間を作っている結界の中心らしき部分で止まった。

 

 

「成功……したっスか?」

 

「うーん、多分? まあ、イースさんが起きないことには、そもそもこの魔法が失敗している可能性も……」

 

『ええと……ボクの名前、呼びました?』

 

「……!?」

 

 

 突然、その場に響いた男の声に、8人の大魔女たちは驚く。

 すると、その声が先ほどまで光っていた白い羽根ペンの方から聞こえたのが分かる。

 

 

「も、もしかして……イースさん……ですの?」

 

『ええ……。ということは、あなた方がノエルの言っていた、()()()()()……?』

 

「成功じゃ……」

 

『えっ……?』

 

「成功じゃ……!! ノエルの蘇生魔法が成功しておる! つまり! ということは! じゃ!」

 

「ノエルも目覚めるってことね!?」

 

 

 はしゃいでいる大魔女たちを見て、白い羽根ペンはおどおどと浮遊する。

 それに気づいたエストは、ゆっくりと白い羽根ペンに近づいて声をかけた。

 

 

「驚かせてしまって悪いっスね」

 

『エストさん……? あぁ、なるほど。あなたもいらっしゃったんですね! お久しぶりです!』

 

「良かった。やっぱりイースだったっス。もし間違って誰かの魂を復活させてた、とかだったらノエルも悲しむっスから」

 

『あ、そうでした! ノエルは!?』

 

「一応、あの蒼髪の女の子の手の中っス……。まあ、そろそろ目覚める予感が……」

 

 

 その時だった。

 はしゃいで回るサフィアの手から、黒い光が漏れ出す。

 そして、黒い羽根ペンはその手からするりと抜け出し、声を放った。

 

 

『ええい、サフィー! アタシを雑に振り回すんじゃないよ! 視界が気持ち悪くなるだろうが!』

 

「……!!」

 

 

 その女の声が響いた瞬間、その場がしんと静まり返る。

 しばらくして、8人の大魔女たちは黒い羽根ペンに飛びかかるように詰め寄った。

 マリンは黒い羽根ペンに尋ねる。

 

 

「……確認しますわ。わたくしたちの名前と顔、一致させてみなさい」

 

『え? わ、分かったよ』

 

 

 そう言って、黒い羽根ペンは浮いたまま、羽根の方をマリンの顔に向けて言った。

 

 

『じゃあ、お前がマリン』

 

「正解ですわ」

 

『サフィー……。正しくはサフィア』

 

「正解です!」

 

『クロネさん』

 

「ママと呼んでくれてもいいぞ?」

 

『呼ばない。で、次が変態……じゃなかった、ルフール』

 

「正解にしたくないんだが」

 

『次、ルカ』

 

「正解です」

 

『ロヴィア……だよな? 魂側から見ると視界がぼやけるもんで、識別が難しいんだ。ロウィだったらすまないね』

 

「今はロヴィアで合ってるわ。あと、その視界がぼやけるのは、時間が経てば慣れるわよ」

 

『で……エスト』

 

「正解っス」

 

『最後、ソワレ姉さん……』

 

「正解。でも……最後じゃないんじゃない?」

 

『え?』

 

 

 そう言って、ソワレはイースを呼びつける。

 すると、ノエルの前に白い羽根ペンが飛んできた。

 

 

『イース……なのか?』

 

『ええ、そうですよ。ノエル、先ほどぶりですね』

 

『イース……()()()()。あの時……アタシが弱かったせいでお前を犠牲にしちまった……』

 

『もしかして、それがボクに伝えたかった言葉……ですか?』

 

『ん? あ、あぁ、そうだが……』

 

『そんな謝罪、ボクは聞きたくありません。むしろ、感謝してくださいよ。こうして、ボクたちがこんな形で再会できたのは……』

 

 

 そう言って、イースは大魔女たちの方を向く。

 

 

『ノエルが生きて、この仲間たちと一緒に頑張ってきたおかげじゃありませんか』

 

『イース……。分かったよ。じゃあ、言い直す』

 

 

 ノエルはイースと大魔女たちの方へ向き直って、言った。

 

 

『イース。あの時、アタシを守ってくれてありがとう。そして……ただいま、だな!』

 

 

 こうして、ノエルとイースは同時に蘇生を果たし、ノエルたちは『ファーリの心臓』の封印にも成功したのだった。




次回、最終話となります。
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