魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜 作:もーる
それからノエルは8人の大魔女たちから、大魔法の発動後に何があったのかを聞かされた。
ノエルの死の運命を変えようと、ノエルが諦めたあともずっと考えていてくれたこと。
イースのための蘇生魔法を発動中に、その魔法をノエルの黒い羽根ペンに複製したこと。
そして、マリンとサフィアが自分の
ノエルは8人の大魔女たちに礼を言い、真っ先にエストの方へ飛んでいった。
『おい、エスト。もし複製の過程で蘇生魔法に何かあったらどうするつもりだったんだ! 感謝はしてるけど!』
「はあ!? マリンの機転とクロネさんの時魔法のおかげでどうにかなったとはいえ、命の恩人に最初に言うことがそれっスか!?」
『その2人がいなかったら、もしもの可能性があったわけだろう? なるほど、それすら考えずに無茶したってわけか。まさか、蘇生魔法を
「いやはや、アチキも初めての経験でそれなりに楽しめたっス。あと、運命魔法の使い手に対して『もしも』なんて言葉は無駄ってもんっスよ!」
『その運命が見えてなかったから、発動中に複製するなんて暴挙に出たんだろうがぁぁ!』
「痛い、痛いっス! 羽根の部分とはいえ強化の土魔法のせいで硬くなってて、ビンタされるとめっちゃ痛いっス!」
気が済むまでエストをはたいたノエルは、次にマリンのところへと飛んでいく。
そして、マリンに頼んで自分の姿を鏡で見せてもらった。
『ほう、こんな感じなのか。と言っても、この羽根ペンは元はアタシのだし、見た目としては真新しくないはねぇ……。ただ、この
「奇怪……ですの?」
『いや、むしろ
「確かにノエル様ならそういう考えなのも頷けますね。あたしだったらびっくりして言葉も出ないと思う……」
『そりゃ、蘇生魔法で死んだと思ってたのに、目の前にお前たちがいた時は驚いたさ。もしかして、夢でも見てるんじゃないかってね。でも、イースを見た時にこれが現実なんだって分かった。そんな鮮烈な現実の前じゃ、姿なんて小さな問題だよ』
『ボクもこの姿に少しは驚きましたけど、ノエルと皆さんが頑張ってくれたからここにいるという現実の驚きには確かに勝りませんね。とはいえ、まだボクの身体という実感は湧いていませんが……』
そう言って、イースは不慣れな動きで浮遊している。
「まあ、じきに慣れると思うぜ。アタイだってそうだったし、ロヴィアもそう言ってる」
『おお、ロウィじゃないか!』
「意思を持った羽根ペンも一種のゴーレムみたいなもんだろうし、ロヴィアの話は聞いておいて損はないはずだろうに、アタイも挨拶しろって引っ込んじまった。にしても、さっきは区別できてなかったのによく分かったな? その視界に慣れたか?」
『慣れたというよりは、明らかに別物に見える感じだな。なるほど、こうして見るとロウィが魔力を纏っていないのがよく分か……うん?』
ノエルはハッとした様子で周りを見回すように回転する。
そして、あることに気づいた。
『もしかして、魔力を……視覚的に感じ取れるようになった……? あ、視界がぼやけてたのって、魔力の色が視界を邪魔していたせいか!』
「それって……私がフェブラでサティーヌから聞いた、大厄災の呪いに触れることで発現する能力よね? どうしてノエルがそんな力を持っているのかしら……? イース君はどう?」
『ボクはそんな風には感じ取れません。生前の視覚と遜色ないですね。まあ、よく考えるとそれもそれで凄いですけど……』
「まさかとは思うが……。ノエルの魂がファーリの心臓と封印魔法で強く繋がったことで、ノエルにファーリの力の一部が引き継がれた……ということかの? ということは、全ての属性の魔法を自在に操れるようになった可能性もあるのう」
『それはさっきから試してるんだが……どうやら無理みたいだ。羽根ペン自体に魔力は流れていても、それはアタシが操作できる魔力じゃない。やっぱり、魔女の身体を捨てた時点で魔法は使えなくなってる……か』
ノエルはしょんぼりした様子で羽根の部分を下に傾ける。
すると、ルカが言葉をかける。
「命あっての物種、とはよく言ったものです。魔法が使えなくなる以前に、ノエルさんはその魂をあの魂核に完全に封じてしまうところだったんですから。イースさんに会うことと魔法、ノエルさんはどっちが大事なんです?」
『それは……どっちもだな。イースはアタシの人生そのものだけど、アタシの人生は常に魔法と共にあった。イースと出会えたのはアタシが魔法の修行をするためだったし、イースと再会できたのも魔法のおかげだろう? だから比べられないよ』
『ボクも、ノエルが魔法の研究をしていない姿なんて想像できないくらい、魔法とノエルは共にあった存在だと思います。その魔法を捨ててまでボクの蘇生をすると決断した時は、一番苦しかった……はずです』
『そういうこった。だから、魔法を使えなくなって生きているっていうのは、肉体的に生きていた頃では絶対に考えられない事実なのさ。でもまあ、イースを取り戻せたんだ。そういう愚痴は無しにするよ』
「そういえば魔法といえば、ちゃんと説明しておく必要があるっスね」
『何か説明が必要なことなんてあったか?』
エストは頷いて、イースとノエルをそれぞれの手の上に乗せた。
「まず、大前提について話しておくっス。イースとノエルはこの結界の中から外に出ることはできないっス。蘇生魔法は、ノエルの魂核がこの空間にあるからこそ永続的に発動しているもの。そして、この封印結界はノエルの魂核の力も内側に封じているんス」
『アタシの魂核がこの結界の中にある限り、アタシたちはこの場から動けないってわけだ。ファーリの心臓の秘匿性のことを考えると、アタシの魂核をこの場から動かすわけにもいかないからね』
『つまり、ボクたちはずっとこの不思議な空間の中……というわけですね。ちなみにどれくらいの時間、ボクたちはこの身体で生きていられるんです?』
「それが本題なんスけど、イースはノエルの魂核が壊れない限り永遠に生き続けられるっス」
『ボク
『アタシに残された時間は、エストと同じ……ってことだろう? この身体は実物かもしれないが、この魂が入っている魔法はエストの複製によって生まれた偽物だ。つまり、エストが死ねばアタシの魔法は切れる』
エストは頷く。
「アチキが魂と魔力の変換をして複製をしていたのならまだしも、普通に魔法を発動した以上はその魔法にも期限があるっス。つまり、それ以降どうするかはイース次第っス」
『そんな……』
『まあ、エストが寿命で死ぬなら数十年は時間があるはず。それまではゆっくり話をしてやるよ。あと、もしお前が孤独になったとしても、お前の夢の中にアタシはずっといるだろうし、寂しがる必要はないさ』
「そういえば、ノエルの魂は3つに分かれたわけですが、記憶とかはどうなっているんですの? 例えば、イースさんを起こした記憶は残っていますの?」
『うーん、残ってないね。どうやら意識そのものが3つに分かれたみたいだ。あとイースから聞いた限りだと、魂核のアタシ、この身体のアタシ、イースの夢のアタシ、の順で魂がより多く分配されているらしい。ただまあ、どれもアタシには変わりないよ』
『なるほど……。そういうことでしたら、定期的に夢の中のノエルと会った方が良さそうですね。不貞腐れて話してくれなくなるかもしれませんし……』
それを聞いた大魔女たちは、一同に「確かに」と頷く。
ノエルも同じことを思ったらしく、頷くように揺れていたのだった。
『あぁ、そうだった。今の話で思い出したんだが……』
ノエルは周りを見回すように回転し、尋ねる。
『アタシの
「上ですわ。結界の中心の赤い光の方です」
それを聞いて、ノエルは上の方へと飛んでいく。
そして、赤い光の前でじっと止まり、しばらくして帰ってきた。
『あれが……アタシの魂核なのか?』
「驚くのは分かりますが、一番驚いたのはわたくしたちの方ですわ。あなたの人生で一番大切なものなんて、仲間とはいえ他人であるわたくしたちには分からないんですから。というか、あれがあなたの魂核ではないはずがないでしょう!」
その赤い光の中には、ノエルの
ノエルの遺体は赤い結晶の中で眠ったまま、魔力を放ち続けている。
「まさか、ノエル様自身が魂核になるなんて……。普通は心臓か身体の一部が魂核になるんじゃなかったの?」
「私も初めて知ったわよ、こんな事例。と言っても、ノエルにとって一番大事なものが何か。それを考えれば自明の利ってものだけど」
『アタシの一番大事なもの……』
「そもそも魔導士の心臓が魂核になるのは、魔法が人生そのものだった人の場合が多くて、魔力の源である心臓に魔力が集まるから、と言われているわ。さっきの口ぶりだとノエルもその例だと思ったんだけど、それ以上に大事なものがあったみたい」
ロヴィアがそう言うと、イースは言った。
『それって、
「いやいや、ノエルに限ってそんな……。ねえ……?」
『…………』
「……顔がないからその無言の意味が掴めないんですけれど、もしかして?」
『……否めない』
「あら……。あらあら……!? まさかとは思いますが、ノエル、照れていましたの〜!?」
ノエルはその瞬間、マリンの方に飛んでいき、そのままマリンの身体をぱしぱしとはたき始めたのだった。
それを見て、ルフールは呟く。
「なるほど、ノエルの魂核は思い出が土台となっていたから、
「だから面白いんじゃろう? 早く新しい魔法を研究したいって顔になっておるぞ」
「おっと、今は抑えないと。だがしかし……これからどうするんだ? ワタシたちは
「それは……ノエルを生かすという話が出た時点で覚悟していたはずじゃよ。マリンとサフィアはノエルを死なせる悲しみより、別れの悲しみの方がずっといいと思ってここまで来ておる。ワシらも同じ気持ちじゃろう?」
「それはそうだが……」
「まあまあ、ノエルがイース君と生きていてくれるんだもの。それ以上は贅沢言えないわよ?」
ソワレは笑顔でルフールに語りかける。
しかし、ルフールはソワレの手が震えているのに気がついた。
ルフールとクロネはソワレの手にそっと触れる。
「ソワレ……分かったよ。ワタシたちは誰よりもノエルの家族だ。だからこそ、別れはきっちりとしておこう。今は……この景色をしっかりと目に焼き付けておくんだ」
「ええ……そうね……。ノエルが……そして私たちが命をかけて作りたかった理想の景色だもの。それに、ノエルからこの魔法世界を託された責任があるわけだし、出ていかないなんて選択肢だけは絶対にないわね」
「その通りじゃ。それと、ワシらはノエルの死と存在を隠したまま、これからの人生を歩むことになる。元々、大魔女という存在の中でもノエルの地域的な知名度は低い。じゃから、そのまま歴史から消して欲しい、とワシらはノエルに頼まれた」
「覚えているとも。それがこの世界を守るためなのも分かっている。もちろん、ワタシたちはノエルを忘れるわけにはいかないが、まさかそこまで頼まれるとは思ってもみなかったよ」
「これまでのことは全て胸の中に。そして、これからのことを考えないとね……」
大魔女たちはその日、日が暮れるまでノエルとイースと一緒に話をした。
別れが惜しくなろうとも、その日のことを絶対に忘れないために。
小さく不思議な空間の中で、外に漏れることのない声が楽しげに響くのだった。
***
「…………そろそろ、ですわね」
「そう……だね……」
マリンとサフィアの口からその言葉を聞くまで、ずっと話を続けていた大魔女たちは、一斉に目線を落とす。
ノエルは、円を作っている大魔女たちの中心に飛んでいった。
『お前たちとは昨日のうちに別れを済ませたつもりだったんだがねぇ……』
「ええ、もうあなたに伝えたいことは全て伝えましたわ。だから、あとはただ……あなたと別れるだけです」
「でも、今度のノエル様との別れは悲しい別れじゃありません。あたしが生きている時、ノエル様もここで生きていてくれるんですから!」
『そうだな……。あの時イースに救われた命を、今度はお前たちに救われた。肉体こそ失ったが、魂はこうして生きている。2度も救われた生命、ちゃんと大事にさせてもらうよ』
『ノエルのことはボクに任せてください。もし外に出ようとしたら全力で止めますから!』
「封印結界の外に出たら羽根ペンの魔法が切れちゃうっスから、それだけはホントによろしく頼むっスよ! 特に、ノエルは一度死んだせいで運命の理から外れてるんス。アチキの占いじゃこれからの運命は分からないってこと、覚えておいて欲しいっス」
『肝に銘じておくよ。肝、ないけど』
そう言って、ノエルはケラケラと笑う。
そして、ノエルはマリンの前に飛んで行き、言った。
『じゃあ、あとは頼んだ。アタシのこと、忘れるんじゃないぞ』
「誰が忘れるもんですか。あなたはわたくしにとって、生涯無比の大親友ですのに」
「あたしも絶対に忘れたりなんてしません。だって、あたしのたったひとりの大事な大事な師匠ですもん!」
『そうだな。お前たちと出会えて本当に良かった。本当に、ありがとうな。これで、さよならだ』
サフィアとマリンはノエルの羽根に両手で触れ、ノエルに別れを告げる。
それから2人はノエルの元から離れ、振り向くこともなく結界の外へと走り去っていった。
「……行ってしまいましたね。次はボク……で良かったでしょうか」
『ここにいるのは全員、アタシの大事な仲間だ。順番なんて気にする必要ないよ。ルカ、大魔女の中ではお前がサフィアの次に若い。だから、あの2人のことをこれからも支えてやって欲しいんだ。もちろん、他の連中のこともね』
「もちろんですとも。ボクも大魔女として、ノエルさんに胸を張れるよう頑張りますから!」
「アチキも負けてらんないっスねぇ。今回の件で色んな着想を得られたっスから、大魔女の名に恥じない凄い魔法をもっと作ってみせるっスよー!」
『もしもがあって、見られる機会があるとすれば、楽しみにしているよ。頼むから、長生きしてくれよ?』
「もしもがないことを祈るばかりっスけど、長生きの方は祈ってもどうしようもないっスねぇ。もちろん、健康にはより一層気を遣うことにするっス!」
そう言って、ルカとエストもノエルの羽根に触れ、元気良く別れの言葉を言った。
2人を見送ったロヴィアが、続けてノエルのところへやってくる。
「まずは先に私から。イース君と再会できて良かったわね。おめでとう」
『ありがとう、ロヴィア。お前は誰よりもイースの蘇生魔法の作成に貢献してくれた。感謝しているよ』
「ロウィと再会させてくれたお礼……って言っても、釣り合うかどうかは分かんないけど。そうね……じゃあ、あえて私はこう言うわ。
『……! ああ、またな、ロヴィア』
「ってことで、次はアタイだ。その……アタイは少しでもノエルの助けになってやれたか……? それだけが不安だったんだ……」
『何言ってんだ、大助かりだったよ。ロウィがいてくれて、アタシの話を親身になって聞いていてくれたから、何事もなく今日を迎えられたんだ。お前も、立派なアタシの仲間だったよ!』
ロウィは涙を拭う。
そして、ノエルの羽根と握手をして別れを済ませたロウィは、魔力を纏い直して結界の外へと出て行った。
『あとは……3人か……』
「ワタシにできることなら、この場所に転移できる結界をこの場で作り上げたいところだった……」
『わがまま言うんじゃないよ、ルフール! ファーリの心臓の秘匿性がガタ落ちだろう! 師匠のくせにみっともない!』
「……冗談だ。だが、お前は最期に素晴らしい魔法を見せてくれた。確か……大魔法だったか? ワタシもあれくらい美しい魔法を、いつかまた見てみたいものだよ」
『……お前たちならきっと、自分だけの大魔法を作り上げられるだろうさ。それに、アタシがこの世界の魔法を守っている限り、大魔女は魔法世界を発展させてくれる。そうだろう?』
「もちろんじゃ。ファーリが作り、ヴァスカルで発展し、衰退した魔法。今度はワシらが紡いでいく番じゃ。ノエルが生きている限り、この世界は魔法の力でずっと成長し続けることじゃろう!」
ソワレはクロネの見栄を聞いて笑い、言った。
「じゃあ、その未来を私の子孫たちにもちゃんと任せられるよう、私も頑張らなきゃ。多分この中で一番最初に死ぬのは私だろうけど、それまでには魔法世界の発展に少しでも寄与できれば嬉しいわねぇ」
『昨日も言ったが、ルナリオにもよろしく伝えといてくれ。あと、マリンとサフィアにはいつも通り、収穫祭で美味しいものを食わせといてやってくれよ?』
「そうね、それもちゃんと伝えておくわ。あ、そうだ。今度は8人みんなで行きましょう? 大魔女集会は何も、絶対に円卓に集まる必要なんてないんだもの!」
『お、いいじゃないか。アタシの分まで楽しんできてくれ!』
3人は見合ったあと、微笑みながら答えた。
「「「もちろん!!」」」
そして、ルフール、クロネ、ソワレの3人はそれぞれノエルに優しく触れ、別れの言葉を口にする。
最後の大魔女たちが結界の外に出て行った。
***
8人の大魔女を見送り、ノエルはぽつりと呟いた。
『……これで、良かったんだ』
それは妥協の言葉でも後悔の言葉でもなく、最後の結末を迎えられた安堵からノエルの心が溢した言葉だった。
『ノエルの旅、終わっちゃいましたね……』
『元々、ここが終着点だったんだ。だから、正直ホッとしてるよ』
『……ボクはノエルの判断を肯定します。ですから、今日は好きなだけ言いたいことを言ってください。楽しい話でも、悲しい話でも、どんな話でもボクは聞きますよ』
『イース……。いや……ここで泣いたら全てが台無しだ! ええい、景気付けに最初から楽しい話をしてやろう!』
『ええ……! とても楽しみです!』
『覚悟しろよ? アタシの話はとんでもなく長いんだ。今夜は絶対に寝かせないからな!』
***
『魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜』
-完-
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