魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜 作:もーる
そして魔女・ノエルの出会いと別れと愛の物語。
1頁目.ノエルとイースと出会いと……
『魔女とは?』
魔法を使役することができる者『魔導士』のうち、女性の魔導士を指す言葉だ。
男の魔導士である魔法使いよりも魔力が強いため、より優秀だとされる。
『魔法とは?』
魔導士しか使えない神秘の力のことだ。
火・水・土・風・光・闇の基本属性に加えて、時・運命・空間の特殊属性がある。
あとは……自然にある魔力と自分の体内にある魔力を用いて色んなことが出来る。
『原初の大厄災とは?』
……10年前、この世全ての魔導士の祖先である原初の魔女・ファーリが引き起こした、魔導士として忘れてはならない災害だ。
7日に渡って世界中に呪いと災いを振り撒いた挙句、彼女は死んだ。
だから最近じゃ、魔女だけを嫌っている人もいるらしい。
『忘れ物はないか?』
ないはず。
***
「って、どうして出発直前までそんなことを確認する必要があるんだ!」
ここは南西の国・ヴァスカルのとある一軒家。
そこに住む1人の若い魔女が今、修行の旅に出ようとしていた。
「だって……これがもしかしたら最後の別れかもしれんじゃろ?」
「だからって最後に確認するようなことじゃないだろう……」
「なあ、ノエル……。細かいことを気にしてるといつまで経ってもいい男は捕まらんぞ?」
「はあ? 娘にかける最後の言葉がそれか? もっとまともな言葉をかけてくれよ、クロネさん」
ノエルと呼ばれたその若者は、仕立てたばかりの黒いローブのボタンをパチっと留める。
クロネと呼ばれた女性はノエルの襟元を正した。
「はぁ……お前はいつになったらワシのことをちゃんと『ママ』と呼んでくれるのやら……」
「アンタは確かにアタシの母親だが、それ以上にアタシの師匠なんだ。けじめはしっかりつけないとな。あと、呼ぶとしても『ママ』とだけは絶対に呼ばない」
「ふん、良いもんね! いつか絶対に『ママ』って呼ばせてみせるし!」
「変な駄々の捏ね方をするんじゃないよ。あぁ、もう馬車の出発まで時間ないから、他に言うことがあるなら早くしてくれ!」
「ああ、行ってらー」
「急に軽過ぎないか!?」
クロネは「冗談、冗談」と言いながらノエルの頭を抱きしめる。
「行ってらっしゃい。疲れたらいつでも帰ってきていいんじゃよ」
「あぁ、ちゃんと一人前の魔女になって戻ってくるよ。アタシがいないからって、夜更かしとかして体調崩すなよ? そうなる前にアタシか姉さんに連絡するんだぞ」
そう言って、ノエルはクロネと抱き合う。
2人は固く抱擁しあい、しばらくしてその手を解いた。
「それじゃ、行ってきます!!」
ずっと手を振るクロネを背に、ノエルは魔女修行の旅に出たのだった。
この時、ノエルは22歳だった。
***
それから半年が経過した。
ノエルは北の国・メモラの辺境にある森の中に住んでいた。
この大陸には9つの国があり、
それぞれの国同士は様々な協定を結んでおり、お互い友好的な関係であるため、どの国も比較的平和だった。
彼女はその中でも森林地帯が多い自然豊かな国、メモラを修行の場所に選んだ。
魔法は自分の魔力だけでなく、自然の力も利用するため、大自然の中ならば自分の魔法の研究を進めることができるのではないかと考えていたからだ。
しかし、原初の大厄災の被害の中心地だったメモラでは、10年経った今でも魔女は忌み嫌われる存在だった。
そのためノエルは身分を隠し、人里から離れた森の中の小屋に住んでいた。
***
そんなある日のことだった。
ノエルがメモラの王都で買い物をした帰り道。
ノエルは街のはずれの裏路地に差し掛かった辺りで、その奥から子供の苦しげな叫び声を聞いた。
「ん? 何だか騒がしいねえ?」
路地の奥を覗いてみると、6、7歳くらいの少年が年上らしき3人の子供に石を投げつけられていた。
「醜い魔女の子め! 早くここから出て行け!」
「そうだそうだ! 目障りなんだよ!」
「もっとやられないと分からないのか!?」
「う、うぅっ……痛い……。痛いよぉ……やめてよぉ……」
ノエルは自分が弱い立場である魔女ゆえに、弱い者いじめが嫌いだった。
さらにその血まみれの少年が魔女の子だからという理由でいじめられていることが、なおのこと許せなかった。
ノエルは怒りの声を上げながらその場へ駆けつける。
「おい! そこのガキども! 弱い者いじめしてんじゃないよ!」
「やべっ、変なのに見つかった! おい、さっさと帰るぞ!」
3人の子供はノエルの横を走り去って行った。
***
それからしばらくして、ノエルは少年を自分の家まで連れて行き、治療を施した。
「ありがとう、おねえさん」
「……いつもあんなことされてんのかい?」
少年は黙ったまま頷く。
「あんたの親は? このことを知ってるのかい?」
「ママはいないし、パパはボクのこと嫌いだから。ボク、叔父さんの家に住んでるんだ」
「さっきの子たちは?」
「叔父さんのとこの子たち……。叔父さんもボクのこと嫌いみたい……」
「学校とかは……その様子だと行ってるわけなさそうだな」
少年はコクっと首を縦に振った。
ノエルは痛ましく思い、優しく微笑んで少年の頭を撫でる。
「辛かったな……。安心しな、アタシはお前の味方だから」
「……ありがとう」
「あー……そうだ。お前が魔女の子ってのは本当かい?」
「ううん、違う……と思う。あの子たちが勝手にそう呼んでるだけだから……」
「チッ、あいつら……。ありもしない事実で弱い者いじめなんてしやがって……」
ノエルは「よしっ」と言って椅子から立ち上がる。
そして、少し考えてノエルは少年にこう言った。
「それなら……ここに住まないか? ちゃんと食事も食わせてやるし、勉強も教えてやる。そんな酷い家よりずっと良いと思うんだが」
「……良いの?」
少年は目を見開いてノエルを見つめる。
ノエルは胸を張って言った。
「あぁ、良いとも。とりあえず、お前の意思を教えてくれ」
「ボクはここに住みたい! あんな所には居たくない!!」
「お前、名前と年齢は?」
「イース! 8歳!」
「じゃあイース、歓迎するよ。アタシはノエル。よろしく!」
彼女はその少年を引き取り、自分の家で育てることにしたのだった。
子供を引き取れるくらいの金銭的余裕はあるし、何よりも魔法の修行を手伝ってくれる助手のような存在がいてくれた方が便利じゃないか?
ノエルはそんなことを思いながら、イースを家に迎え入れたのだった。
「おっと、そうだ。その前に……あいつらに仕返しする気はないかい?」
「あいつらって……まさかあの子たち!? で、でも、もしバレたら後が怖いし……」
「大丈夫、その時はアタシがお前を守ってやる」
「それなら……仕返し……する!」
「よしよし、良い子だ。それじゃ、作戦は……」
***
その次の日。
人通りの少ない裏路地にイースとその従兄弟たちが集まっていた。
しかし、そこにノエルの姿はない。
イースは震えながら、3人に囲まれている。
「おい、こんなところに呼び出すなんて良い度胸してんじゃねえか!」
「そうだそうだ! 魔女の子のくせに生意気だぞ!」
「昨日帰って来てないみたいだし、ようやく出て行ったのかと思ってたぜ!」
3人の少年はイースを小突きながら嘲笑っている。
イースは一瞬、3人に怖気づいたが、震える足を押さえながらも彼らをキッと睨む。
「いっ……いいっ、いつまでもボクがやられっぱなしだと思うなよ!!」
3人はそう叫んだイースを見て一瞬キョトンとし、そして大笑いし始めた。
「あっはっはっは!! 無理無理!」
「そんなに震えてちゃパンチの一つも当たりゃしねえよ!」
「流石は魔女の子・弱虫イースだな!!」
イースは涙を浮かべながら地面に転がっていた小石を握りしめて、3人に向かって目一杯投げつけた。
ところが、その石は全ておかしな方向に飛んでいく。
「うおっ、危ねえな!」
「でも全然届いてねえじゃん、ギャハハハ!」
「そんなんじゃ勝てっこな…………ん?」
その時だった。
おかしな方向へ飛んで行ったはずの石が急に上へと飛んでいき、全て少年たちの頭に降り注いだ。
「「「痛えぇっ……!!」」」
従兄弟3人組は揃って声を上げ、頭を押さえる。
「こ、これがボクの本気だ!」
そんなことを言いながらイースは地面の石を投げ続ける。
その石は全て、まるで
「ど、どうなってんだ!?」
「な、なな、何であんなめちゃくちゃな投げ方なのに頭の上に当たるんだよ!」
「こ、この石、追いかけてくるぞ! やっぱりあいつは魔女の子だったんだ!」
3人はその場から逃げようと後ろへ振り向いた。
「ほう……? ということは、魔女の子をいじめると痛い目を見るってことだね?」
3人の目の前には、ノエルが立っていた。
「いっ、いつの間に!?」
「ああっ! お前、昨日の女!」
「何しに来たんだよ!」
「おや、何しに来たとはご挨拶だねぇ」
ノエルはカバンから魔導書を取り出し、栞が挟まれたページを開く。
「その分厚い本……!」
「ま、まさかお前……」
「ほ、本物の魔女!?」
「あぁ、そうだよ。アタシは魔女だ。だが、それ以前に1人の人間なんだよ! えーと……エル・ナイトメア・スリーズ・クリステ……」
ノエルは詠唱を始める。
「まずい、逃げろ!」
「ボクが逃がさない!」
イースは大きな石を持ち上げながら3人の行く手を塞ぐ。
背後にはノエル、目の前には大きな石を構えたイース。
少年たちは囲まれたままたじろいでいる。
「流石にあの石は食らったらひとたまりもないぞ!?」
「で、でも、逃げないと魔女に呪われちゃうじゃねえか!」
「だ、誰か助けてくれー!」
「ハッ、叫んでも無駄さ。なんたって、この恐ろしい恐ろしい魔女を、怒らせちゃったんだからね!」
「「「ヒイィィィィ!!」」」
「どんな理由であろうといじめはもちろん許されない。だが普通じゃないからって理由でいじめるのなら、それなりの覚悟を持つべきじゃないか? なんせ相手は
ノエルはそう言って、魔法の最後の呪文を唱えた。
「……フォンス・コウル・ノエル!」
すると、3人組の周りに暗い光が現れ、次の瞬間には少年たちはその場で泡を吹いて失神してしまったのだった。
「せいぜい良い夢を見るんだな。と言ってもこの魔法『
ノエルは魔導書をパタンと閉じ、カバンに戻す。
一方でイースは手に持った石を落とし、その場にへたり込んだ。
「こ、怖かったぁ……」
「よくやったな。出口を塞ぐ指示はしてなかったはずだが、あれは思いつきかい? アタシは別にその大きな石には何もしてなかったというのに」
「うん。あの子たち、石を怖がってたみたいだから大きいのを持ち上げてみたんだ」
「ほう……頭の回転が速い上に勘がいいみたいだな。こりゃ教え甲斐がありそうだ」
ノエルは帰ろうと後ろへ振り向く。
すると、イースは俯きながらノエルのローブの裾をくいっ、と引っ張った。
「ん? どうかしたのかい?」
「おねえさん、魔女だったの?」
「ま、流石にあれを見たらそうじゃないとは言えないねぇ。そうさ、アタシは魔女だ。教えてなくてすまなかった」
「も、もしかしてボクを助けてくれたのって……うぅっ……」
「あぁ……怖がるんじゃない。別に取って食ったりはしないよ。お前たちが魔女についてどんな風に教わってるかは知らないが、魔法が使えること以外は普通の人間なんだから」
ノエルは微笑んでイースの緊張を解こうとした。
その顔を見たからか、イースはぱぁっと笑顔になってノエルの足に引っ付いた。
「それなら良かった! だっておねえさんの顔、怖かったんだもん!」
「えっ、そ、そんなに怖かったか……?」
「うん、前に読んだ絵本に出てきた悪魔みたい!」
「そ、それは凹むな……。確かに目つきが鋭いと昔から言われていたから、いつか怖がられる日が来るとは思っていたが……」
「でも、さっきの笑った顔は全然怖くなかったよ!」
「っ……!?」
そんなことを言われ、少しときめいてしまうノエルなのであった。
このイースとの出会いは、ノエルの人生を、そして魔導士の運命を大きく変えることになる。