魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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22頁目.ノエルと死霊術と召喚術と……

 風が吹く音がする。

 ここどこだっけ……。

 というか背中と足に、何か柔らかい感触が……。

 

 

***

 

 

「う、ううん……」

 

「あぁ、良かった……。目が覚めたのですね、サフィー」

 

「お姉ちゃん……? ここは……って、んん!?」

 

 

 サフィアは周りを見回し、目の前にある壊れた校舎に驚く。

 さらに自分が姉に()()()()()()をされていることに驚いたのであった。

 

 

「ちょっ、恥ずかしいから降ろして!」

 

「あらまあ……。サフィーを助けてあげたの、わたくしですのに……?」

 

「よく分かんないけど、それは感謝するから。とりあえず降ろして」

 

「はいはい、ですわ」

 

 

 マリンは渋々サフィアを降ろした。

 

 

「それで……一体あの後どうなったの?」

 

「簡単な話ですわ。わたくしたちが床を崩した瞬間、このオンボロ校舎が全部壊れたので、気を失って落下していくサフィーをわたくしが空中で掴んで外まで運んで、今に至る、といった感じです」

 

「ライジュさんは?」

 

「まだ見つけられてませんわ。下敷きになったのであればオバケも結界も消えるはずでしょうけど、まだ嫌な反応はありますわね」

 

「ということはまだ気絶していないか、下敷きにすらなっていないか……ってことか」

 

「見立てが甘かったですわね。死霊術士(ネクロマンサー)というのはやはりやりにくい相手ですわ……」

 

 

 すると突然、マリンたちの後ろの茂みからガサガサと物音が聞こえる。

 恐る恐る近づいてみると、茂みの中に謎の白い毛玉が見えた。

 

 

「あの……見えてますわよ……?」

 

「ひぇっ!? わ、わわっ、私はここにはいませんよ!」

 

「いや、誤魔化しきれてないから……。バレバレにも程があるわよ、その白い()()()……」

 

「ギクッ……。ば、バレてはしょうがありませんね……。はいぃ……」

 

 

 茂みから出てきたのは、白いアフロヘアの女だった。

 丸メガネをかけ、白衣を着ており、いかにも学者のような見た目だ。

 マリンたちとは目も合わせようとせず、少し震えているようにも見える。

 

 

「その様子から察するに、あなたがライジュさんですわね?」

 

「は、はいぃ……。ライジュと申します……。魔女であり死霊術士(ネクロマンサー)でもあります……はいぃ……」

 

「どうしてあんな結界張ったり、オバケを呼び出したりしたのかを聞かせてもらおうかしら? あと、この魔導書の件も」

 

 

 サフィアはジュンから借りた魔導書を出した。

 

 

「それは……ジュン君に渡した魔導書……。どうしてあなたたちが……?」

 

「ここに書かれていた魔法をジュン君が使おうとして危なかったというのと、校則違反だそうなので調べに来たんです」

 

「なるほど……。あなたたちが話に聞く、今回のジュン君の特別講師の方なのですね……?」

 

「そういうことですわ。とりあえず質問には答えていただきますから」

 

「は、はいぃ……。長い話になりますが……」

 

「なら、そこに座って話しましょうか」

 

 

 マリンたちは近くにあったベンチに座り、ライジュの話を聞くことにした。

 

 

***

 

 

 私はその……いわゆる死霊術に興味があってですね……。

 この国のある街で1人で研究に没頭していたんです。

 私は魔女という立場でありながら死霊術を研究していたので、街の皆さんからは後ろ指を指されることが日常茶飯事でした……。

 

 なので私はいつも夜に出歩くことにしていたんです。

 それならあまり街の人とも出会いませんし、暗いのであまり他人の目が気にならずに済むので……。

 でも私はそんな日常が嫌でたまりませんでした……。

 

 そんなある日、私のことを知ったクロネ学長がやってきて、私のためにこの研究場所を貸してくれたんです。

『ここなら辛い思いをしなくてもいい』って……。

 もちろん教師として魔法を教えることが条件でしたが、教えるのは昔から得意だったのですぐに決断しました。

 

 ですが、ここに来ても他の先生方からは冷たい目で見られて……。

 どうやら生徒たちも私の悪い噂を聞いていたようで、授業の時はほとんどみんな言うことを聞いてくれないという始末でした……。

 

 そこで出会ったのがジュン君なんです。

 彼は他の授業では暴れてしょうがないと聞いていましたが、私の授業だけは真剣に聞いてくれてたんです……。

 

 

***

 

 

「あなたは何を教えていたんですの?」

 

「呪い系の闇魔法です。かける方ではなく解く方の」

 

「確か中級魔法よね? それ」

 

「ええ、そうです。私は低学年向けの中級魔法を教えるように言われていますので」

 

「だからジュン君は真剣に聞いてたんですわね……」

 

「その時私は、彼が真面目で勤勉な生徒なのだと悟りました。なのでその魔導書をあげたんです。いつか彼が良き魔導士になったなら、その時に使って欲しいと思い……」

 

「なるほどね……。それじゃ、次はあたしたちにしたことについて説明を求めるわ」

 

 

 ライジュは頷く。

 

 

「分かりました……。研究の一環なんですよ。先ほどの結界とオバケたちは……」

 

「死霊術に結界を張るようなものがあるんですの?」

 

「はい。『学園七不思議』という術がありまして、その中に『無限階段』というものがあったので使ってみたのです。が、自分で入ると抜けられないことに気づいたのと、この死霊術は誰かが罠にかかるまで解除が効かなかったので……」

 

「誰かが入るのをじっと待っていたってことですか? こんな誰もこなさそうな場所で?」

 

「うっ、そう言われると返す言葉もございません……。でも本当は学長に頼むつもりだったんですけど、今日は忙しいと断られてしまい……」

 

 

 サフィアとマリンはその理由に思い当たった。

 

 

「その……多分、忙しいのはわたくしたちのせいですわね……」

 

「ごめんなさい……」

 

「い、いえいえ! 無事研究の成果は得られましたし、問題はないです! 校舎は壊れてしまいましたけど……」

 

 

 ライジュは壊れた校舎をやや悲しげな目で眺める。

 

 

「それについても謝罪しますわ……。結界から出る方法を模索した結果がアレしかなくて……」

 

「これについては私の実験準備が疎かだっただけですので! それに、結界を外から見ようとした結果、この通り生きてますし!」

 

「あれ? それだとやっぱりあたしたちが一方的に悪いような……」

 

「大丈夫です! 全ては私が発動した死霊術が問題だらけだっただけなので!」

 

 

 流石のサフィアもこれには圧されてしまった。

 

 

「それで、オバケの件はどういう……?」

 

「えーとですね、久しぶりに人が来たので不審に思って亡霊たちを監視に向かわせたのですが、どうやら私の言うことよりも『遊びたい』という自分の未練を果たすことを優先してしまったみたいで……」

 

「それも研究不足……といったところですわね」

 

「大変ご迷惑をおかけしました……」

 

「ところで……その亡霊たちは?」

 

「あっ……」

 

「「()()……?」」

 

 

 3人が後ろを振り向くと、目の前には先ほどのオバケたちがズラッと並んでいた。

 日光のせいか、より白く光って見える。

 

 

『 ど う し て あ そ ん で く れ な い の ? 』

 

 

「「「ヒィィィッッッ!!」」」

 

 

 少しずつ後ろに下がりながらライジュは頭を抱えている。

 マリンたちもそれに合わせて後ずさりする。

 

 

「まずいですね……。亡霊は時間が経つと怨念化してしまって手がつけられなくなるんですよ……」

 

「ええっ!? 魔法は当たりませんし……撃退する方法は……?」

 

「死霊術しかないですけど、お祓い用の道具はこの校舎の中……」

 

「「ということは……??」」

 

「逃げます! 捕まったら未練を果たしきるまで絞られちゃいますから!」

 

 

 ライジュはマリンとサフィアを置いて本館の方へと逃げ去ってしまった。

 

 

「ちょっと、逃げ足早すぎない!?」

 

「ライジュさんには悪いですが、やっぱりわたくし死霊術士(ネクロマンサー)は苦手ですわぁぁぁ!」

 

 

 マリンとサフィアもライジュの後を追い、怨霊たちから全速力で逃げるのであった。

 

 

***

 

 

「よし、今日はここまでだ。明日はもっと面白いものを見せてやるよ」

 

 

 ノエルとジュンは今日の授業を無事終わり、帰る準備をしていた。

 

 

「明日が楽しみだなー! 早く帰って寝るか!」

 

「ふふ、早く寝ても明日が早く来るわけじゃなかろうに」

 

 

 練習場から出た瞬間、2人の目の前を白い毛玉が爆速で通り過ぎて行った。

 

 

「あ、ライジュ先生だ。また実験に失敗したのかな?」

 

「ん? ライジュってあの魔導書をお前に渡した奴か?」

 

「うん、そうだよ。オレ、あの人の授業は好きなんだ!」

 

「へえ? 実験っていつも何やってるんだい?」

 

「オバケを呼び出すんだ。それでいつも失敗してオバケから逃げてんだよ」

 

「オバケ……死霊術士(ネクロマンサー)か! ん……? それなら……あいつらは……?」

 

 

 するとライジュが来た方向から、マリンとサフィアが走って来るのが見える。

 そしてその後ろから謎の光の塊が、嫌な魔力のようなものを放出しながらやってきているのも見えた。

 

 

「なるほど、あいつらも巻き込まれてるのか……。やれやれ……」

 

 

 ノエルはカバンから魔道書を取り出し、羽根ペンを手に取る。

 

 

「魔導書なんて構えて、何するんだ?」

 

「これでも闇魔法を研究して長いからね。怨霊を祓える魔法を今考えてる」

 

「おお! 魔女っぽい!」

 

「アタシは正真正銘魔女だよ! まあ、よく見てな」

 

 

 ノエルは魔導書に羽根ペンでスラスラと模様を書き込む。

 そしてそれを破って地面に置いた。

 

 

「おーい! マリン、サフィー! そのまま真っ直ぐ来て、アタシの隣をそのまま駆け抜けろ!!」

 

「了解でーすわーー!!」

 

「分かりましたーー!!」

 

 

 2人ともノエルの指示通りに走ってくる。

 ノエルは2人が通り過ぎたのを確認して、地面の魔導書に手を触れた。

 

 

「ジュン、本来は明日教えるつもりだったが、先に見せてやるよ。魔導書のもう一つの使い方をな!」

 

 

 ノエルが呪文を唱え始めると、魔導書を中心にして暗く光る陣が描かれる。

 するとその陣の四隅の円から鉄の柱が出現した。

 

 

「『ここに来たるは冥府の扉。』」

 

 

 ノエルの詠唱と同時に鉄の柱が黒い光に包まれ、中心に扉が出現した。

 

 

「『開け。我が召喚に応じよ。』」

 

 

 扉が開き、中からは黒いオーラが漏れ出しているのが見える。

 

 

「『出でて掴め、死神の手!』」

 

 

 すると扉から巨大な手が現れ、怨霊たちをまとめて掴んだ。

 そして、その手はそのまま扉の中へと戻っていき、しばらくして魔法陣も消えていくのであった。

 

 

「ふう……これでよかったかな」

 

「す…………」

 

 

 ジュンはノエルを見上げて固まっている。

 

 

「すげえぇぇぇぇ!! 何だよそれ!」

 

「これは術式といって、召喚魔法や儀式魔法を発動するために用いる道具の1つだ」

 

「いやそっちじゃなくて、さっきの魔法の方!」

 

「あ、そっちか。さっきのは、闇属性の上級召喚魔法『死神の手の召喚(サモンズ・リーパーハンド)』というんだ」

 

「しょうかん……?」

 

「んー、簡単に言うと、強力な魔物を呼び出す魔法だ。種族によっては呼び出しに応じてくれないこともあるが、餌となる魔力を払う代わりに、助けに来てくれる」

 

 

 ノエルは地面の魔導書を拾い、土を払う。

 

 

「オレも召喚してみたい!」

 

「そう言うと思ったから本当は明日見せるつもりだったんだ。ま、明日を楽しみにしてな。絶対に魔物を召喚させてやるから」

 

「よっしゃあ! じゃあ、また明日!」

 

「あぁ、また明日。気をつけて帰るんだぞ〜」

 

 

 ジュンは走って家に帰っていった。

 

 

「さて、と。そっちは無事終わったのかい?」

 

 

 ノエルはマリンたちの方へ振り返る。

 すると2人+1人は息をあげてへたりこんでいる。

 

 

「これが……無事に……見えますの?」

 

「生きてるなら無事だ。死霊術士(ネクロマンサー)の相手をして五体満足ならなおさらな」

 

「別に戦ったわけじゃないですから……。逃げ疲れたんですよぉ……」

 

「ま、詳しい話は後で聞くとして……こいつは悪い奴だったのか?」

 

「えっ、私悪い人に見えます……?」

 

 

 ライジュはノエルもジュンの特別講師であることを察し、見上げながら言った。

 

 

「まぁそんな格好してりゃ、一見して怪しいとは思った」

 

「そんなに変ですか……?」

 

「自覚してないならいい、気にするな。それで、お前たちの報告を聞こうか?」

 

 

 マリンとサフィアは声を合わせて声高らかに答えた。

 

 

「「結論! ライジュさんは悪い人じゃありませんでした!」」

 

「よろしい。それじゃあとりあえずこの件は解決ということでいいな?」

 

「い、いいんですか……? 私、死霊術士(ネクロマンサー)なんですよ……?」

 

 

 ノエルは頭に疑問符を浮かべている。

 

 

「それがどうした? お前はお前のやりたいことをやってただけなんだろ?」

 

「え、ええ、そうですけど……。その……」

 

「何だ、もしかしてみんなが自分を避けるから、アタシもあんたを冷たい目で見るとでも思っていたのか……?」

 

 

 ノエルはライジュにずいっと近寄り、ニヤリとしている。

 

 

「残念ながら、アタシは本当に悪い奴じゃなきゃ憎めないし嫌いにもなれない性格でね。何が正しい、何が間違ってるなんて世間体を気にしないタチなのさ」

 

 

 マリンとサフィアは顔を見合わせ微笑んで、ノエルの方へ目を向けた。

 

 

「だからアタシはあんたが悪人じゃないのなら、何とも言うつもりはないさ。むしろあんたが誰かに何か悪口を言われたんなら、アタシがそいつらをぶっ飛ばしてやる!」

 

 

 ライジュは目をうるうるとさせ、口に手を当てている。

 そして頭を下げながら言った。

 

 

「あ……ありがとうございます……! ありがとうございます……!」

 

 

 ノエルは泣きじゃくるライジュの頭を泣き止むまでずっと撫で続けたのであった。

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