魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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24頁目.ノエルと初召喚と魔具と……

 次の日の朝。

 

 ノエルはジュンに魔法を教えるべく宿を出た。

 サフィアとマリンは疲れていたようで、そのまま寝かせてある。

 ノエルも寝ぼけ眼をこすりながら、いつもの教室の前に立った。

 そしてノエルは教室に入るなり、ジュンにこう伝える。

 

 

「アタシがお前に教えるのは今日が最後だ。だから心して──」

 

「えっ……。嘘だろ!?」

 

「おや、聞いてなかったのかい? クロネさんが伝えてるもんかと……」

 

「学長とはあれ以来会ってない。っていうか、えー……? 今日で本当に終わりなのか?」

 

「あぁ、いつまでもここに居るわけにはいかないからね」

 

「教師になりゃ、絶対いい先生になれると思うんだけどなー」

 

 

 ジュンは手を後ろに回して椅子にもたれかかりながら言う。

 ノエルは苦笑いしながら言った。

 

 

「クロネさんにも同じこと言われたが断ったよ。アタシにはやるべきことがあるんだ」

 

「やるべきこと?」

 

「そうさ。まぁ、教えるつもりはないけどね」

 

「え〜。教えてくれてもいいじゃんか〜」

 

「お前にゃまだ早すぎる。次会った時にでも教えるから、とりあえず授業始めるぞ」

 

「ちぇっ……。はーい」

 

 

 ジュンはつまらなさそうに答えるのだった。

 

 

***

 

 

「6限目。召喚魔法を使ってみよう」

 

「昨日のアレみたいに、カッコいいの出せるんだよな!」

 

「流石にああいった巨大な魔物を出せるようになるには鍛錬が必要だ。今のお前が召喚できるとしても『鬼火(ウィスプ)』くらいが限度だろう」

 

「とにかくしょうかん? できるんだったら何でもいいや! 早く教えてくれよ〜!」

 

「慌てるんじゃない。先に召喚魔法の説明だけはさせてくれ。注意が必要な魔法だからね」

 

「はーい」

 

 

***

 

 

『召喚魔法』

 

 その名の通り魔物を召喚する魔法だ。

 魔導書に陣を書き込み、自分の魔力を大量に注ぎ込むことで扉を作る。

 そして魔物がいる場所に繋ぎ、自分の魔力をエサにして一度だけ命令を聞いてもらう、というものだ。

 この大陸にはあまり魔物はいないが、他の大陸には色んな魔物が住んでいる。

 召喚したい魔物についてきちんと調べた上で召喚しないと、どの属性のどれくらいの量の魔力が好物なのか分からずに召喚できないから、その点だけは注意して欲しい。

 そして命令が終わったら勝手に扉に戻っていくから、あとは扉の鍵を閉めて終わりだ。

 

 

***

 

 

 話を聞いていたジュンは頭を抱えながらウンウンと唸っている。

 どうやら話が難しかったようだった。

 

 

「まぁ、こうなるのは分かってたけど。簡単に説明すると、自分の得意な属性の魔力を、魔導書に注ぎ込んで、その魔力をエサにして魔物を呼び出して命令する! そして魔物が帰ったら、扉を閉める! 以上だ」

 

 

 すると理解できたようで、ジュンは手をポンと叩いた。

 

 

「なるほど! 分かった!」

 

「ちゃんと魔物について調べるのも忘れないようにな」

 

「もちろん!」

 

「よしよし。それじゃ今回召喚する鬼火(ウィスプ)についてはアタシが教えてやるから、ちゃんと聞いておきな」

 

「はーい!」

 

 

***

 

 

鬼火(ウィスプ)

 

 鬼火(ウィスプ)はどこにでも生息している魔物で、生き物の魂が集まったものと言われている。

 暗いところや墓地を住処として、空気中の魔力を食べて生きている。

 魔導士の魔力ならどんな属性でも好物らしいから、召喚初心者向けの魔物と言えるだろうね。

 大きさは手のひらに乗るくらいで、色は食べている魔力の属性によってまちまちだ。

 基本的に浮いているだけで攻撃とかはできないから、出せる命令は移動くらいだね。

 

 

***

 

 

「魔物にしては怖くないというか何というか……」

 

「まぁ間違いなく最も無害な魔物だね。たまに寝てる人に取り憑いて悪夢を見せるとは聞いたことはあるけど」

 

「ある意味恐ろしい魔物ってことか……。じゃあとりあえず召喚のやり方を教えてくれよ」

 

「気合十分で何より。それじゃ魔導書でも何でもいいから、紙を一枚机の上に置いてくれ」

 

 

 ジュンは言われた通りに紙を机の上に置く。

 

 

「そしてそこに大きく丸を描いて。できるだけ正円でな」

 

「こんな感じで……。うん、描き終わった」

 

「じゃあその円を割るように横線を引っ張るんだ」

 

「分かった。まっすぐ……まっすぐ……。よし、描けた!」

 

 

 ノエルはチョークで魔法文字を書き、ジュンに見せる。

 

 

「半円の上にこの魔法文字を書いてくれ。鬼火(ウィスプ)と書いてある」

 

「なかなか難しい綴りだな……。書けた!」

 

「そしてその半円の下には自分の名前を書くんだ。契約の署名みたいなものだと思え」

 

「なるほど……。書けた」

 

「最後に横線の上ならどこでもいいから黒丸を描くんだ。ああ、触れる大きさにしろよ? それが扉の鍵になるから」

 

「これくらい?」

 

 

 ジュンはノエルに陣を見せる。

 

 

「それじゃ小さすぎる。目安はその丸を持ち上げて棒状にした時、手に握れるくらいがいい。うっかり鍵を無くしちゃ大変だからな」

 

「なるほど。じゃあこれくらいかな。よし、描けたぞ!」

 

「あぁ、それならちょうどいいだろう」

 

 

 ノエルは黒板に文字を書き連ねる。

 そして部屋のカーテンを閉め、黒板灯以外の灯りを消した。

 

 

「じゃあそれに手を当てて魔力を少し注いで、黒板に書いてある通りに言うんだ」

 

「えーと……。『ここに来たるは魔の扉。開け。我が召喚に応じよ。』」

 

 

 すると紙に書いた黒い丸が立体的に浮かび上がり、小さな細い棒となる。

 そしてそこから黒い煙が出たかと思うと、小さな石の扉が現れた。

 

 

「『出でて飛び回れ。鬼火(ウィスプ)!』」

 

 

 ゴリゴリと石の扉が開き、その中から紫色の火の玉のようなものが飛び出てきた。

 火の玉はフヨフヨと浮きながら部屋の中を縦横無尽に飛び回っている。

 

 

「やった! 呼び出せた!」

 

「こいつは闇鬼火(ダーク・ウィスプ)だね。闇属性の魔力をたくさん食べた鬼火(ウィスプ)だ」

 

「へー。不思議な生き物だな、こいつ」

 

「霊魂の塊だから生きちゃいないけどね。暗いところではよく光るから綺麗だろう?」

 

「確かに……」

 

 

 紫色の光は暗い教室を仄かに照らし、2人はそれをただぼんやりと眺めていた。

 しばらくすると、鬼火(ウィスプ)は扉の中に戻っていった。

 その瞬間、扉が閉まる。

 

 

「そこの穴にさっき出てきた棒を入れるんだ」

 

「あ、これか」

 

 

 ジュンは言われた通り、扉に棒を差し込んだ。

 その瞬間、ガチャンという音とともに扉がみるみるうちに消えていった。

 

 

「これが召喚魔法だ。どうだった?」

 

「うーん、すごい魔法なのは分かったけど、もう少しカッコいい魔物を召喚したかったなー」

 

「まあ、進級すりゃ低級の魔物くらいは呼び出させてくれるだろう。自分の魔力量に合った魔物しか召喚できないし、知識も必要になるから今は我慢してな」

 

「うん。でも、いつか昨日のやつみたいな強い魔物を召喚したい!」

 

「ジュンの魔力量だと、さっきみたいな召喚法であいつを呼び出すのは無理だろうね」

 

「ん? つまり、他にも召喚する方法があるのか?」

 

「そういうこと。それじゃ、次の授業だ」

 

 

***

 

 

「7限目。魔具を使いこなそう」

 

「まぐ……?」

 

「魔具ってのは魔力が込められた便利な道具の総称だ。単に魔導士が使う道具のことを指すこともあるけどね」

 

「魔導書とか?」

 

「そうそう。それも立派な魔具だ。何も知らない普通の人間にとっちゃただの紙切れだがね」

 

「それで、使いこなすってどういうことだ?」

 

 

 ノエルはカバンから1つの腕輪を取り出した。

 そしてそれをジュンの机の上に置く。

 

 

「こいつはアタシが数年前に買った魔具『闇夜の腕輪(ナイト・バングル)』だ。貸してやるから腕につけてみろ」

 

「う、うん」

 

 

 ジュンが腕輪をつけると、突然腕輪が黒く光り始めた。

 しばらくするとその光が次第に収まってくる。

 

 

「さて、何か変わったことはあるか?」

 

「うーん……。特には感じられないけど」

 

「じゃあ魔力計で測ってみよう」

 

「え、どういうことだ?」

 

「いいからいいから」

 

 

 言われるがまま、ジュンは魔力計に魔力を注ぎ込む。

 すると紫と緑の二色に分かれたが、以前より紫が2倍ほどの量になっている。

 

 

「魔力量が増えてる!? 魔法使いって魔力は成長しないんじゃなかったのかよ!」

 

「落ち着け。そいつがその魔具の効果なんだ。闇の魔力量を少しだけ増やしてくれる」

 

「魔力量の最大値が増える道具!? そんな便利なものあったのかよ!」

 

「落ち着けって。そんな簡単に魔力量の最大値が増えてたまるか。もう1回測ってみろ」

 

 

 ジュンはもう一度魔力計に魔力を注ぎ込んだ。

 

 

「あれ? おかしいな。さっきはもっとあったはず……」

 

「それがその腕輪の力だからな。言ったろう? 増えるのは『闇の魔力量』と。いつ誰が『魔力量の最大値』と言った?」

 

「あっ、そういうことか! この腕輪は、オレの闇属性の魔力を一度だけ増やせるものなんだな!」

 

「ご名答。つまりは魔力を溜め込んでおける財布のようなものだ。まあ、自然に魔力は回復するから一度だけってわけではないけどね。じゃあ、それが使いこなせればどうなるか分かるか?」

 

「自分じゃ魔力が足りない魔法を出すことができる?」

 

「半分正解だな。普通の魔法を使うときは一度に魔力が持っていかれるから、この魔具の回復速度が追いつかない。だが、召喚魔法ならどうだ?」

 

 

 ジュンは合点のいった表情をして言った。

 

 

「そうか、少しずつ魔力を送る魔法ならこの腕輪が役に立つ!」

 

「その通り。魔具をうまく使いこなすことができれば、自分の力を高めることもできるというわけさ」

 

「それで、他の召喚法って?」

 

「なに、簡単な話だ。市販の簡易召喚陣や簡易供物とか、魔具を使った召喚法だよ。簡易供物ってのは召喚するのに足りない魔力を代わりに送ってくれる代物だ。ちょっと高いがね」

 

「つまりオレが将来、昨日みたいな強い魔物を召喚する時は魔具を活用したらいい、ってことだな!」

 

「そういうこと。まあその腕輪は別だが、基本的に魔具は消耗品だからお金は大事にしろよ……?」

 

 

 ノエルはややげっそりとした顔をする。

 

 

「う、うん。気をつけるよ。そういえばこんな魔具があるなら、魔力量の最大値が増えるやつとかあってもいいと思うんだけどなー?」

 

「いやいや、魔力の最大値を常に増やせる魔具なんて、そいつはもう神器(じんぎ)と言っていい代物だよ」

 

「じんぎ……? 魔具とは別のものなのか?」

 

「流石に神器なんて持ってないから見せるのは無理だが、説明だけはしとくか」

 

 

***

 

 

『神器』

 

 神器は魔具の中でも、神が作ったと言われるほど別格の力を持つものを指す。

 魔具との大きな違いは『世界に二つと無い』という点だ。

 魔具は1つ1つに小さな差はあれど、ほぼ同じものが作れる。

 しかし神器は、作った本人でさえ同じものを作ろうと思っても作れないそうだ。

 アタシの知っている限りだと、自分の命を核にして魔法の水を永久に作り続ける神器とかいうものがあった。

 並大抵の魔具職人には作り出せないし、とても魔法に秀でた魔導士が数年同じ魔具を作り続けてようやく1つ生まれるくらい稀少なものらしい。

 

 

***

 

 

「さらに言うと神器はあまりに珍しいから、基本的には国が所有するか、高値で取引されてるかのどっちかだ」

 

「そんなに珍しいものなのか……」

 

「あぁ、1つ持ってるだけでも相当な財力を持った家だと思われる。なんせ安いものでも10人分は一生養えると言われているくらいだからな」

 

「じ、神器って買う以外に手に入らないのか?」

 

「興味を持ってもらったところで悪いが、譲ってもらえるわけもないし、神器を作った職人は普通なら高値で売るだろうさ」

 

「だ、だよな……。一度くらい使ってみたかった……」

 

 

 その時、急にガラガラと教室のドアが開いた。

 そこにはマリンとサフィアがボーッと立っていたのだった。

 

 

「おお、起きたか。2人とも」

 

「おはようですわー。ふあぁ……」

 

「おはようございます……。遅れてすみません……」

 

「眠いなら寝ててよかったのに。律儀な姉妹なことだねぇ」

 

 

 するとマリンは目を見開き、腕を組んでノエルに言った。

 

 

「一度受けた依頼は、きちんとこなさないと気が済まないタチなのです。それに、あなただけじゃ教えられないことがあるかもしれませんでしょう?」

 

「あ、そうだ、ちょうど良かった。お前たち、見たことある神器ってあるか? 今ジュンに魔具の説明と実演はしたんだが、神器については基礎知識しかなくてな」

 

「ん? 神器ならここにありますわよ?」

 

 

 マリンはきょとんとしている。

 ノエルも同じようにきょとんとしている。

 

 

「え? クロネさんに聞いたが、この学園にはないらしいぞ?」

 

「ちゃんとこっちを見なさいな。ここですわよ、ここ」

 

 

 ノエルがマリンの方を振り向くと、マリンは自分の左手の小指に付いた指輪を指していた。

 ノエルとジュンはそれを見て固まった。

 

 

「この指輪、あとサフィーの指輪も。どちらも神器ですわよ」

 

 

 サフィアはうんうん、と頷いている。

 

 

「「えええぇぇぇぇ!?」」

 

 

 ノエルとジュンは目が飛び出るほど驚いたのだった。

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