魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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27頁目.ノエルと決着と将来の夢と……

 ノエルとマリンが戦い始めてから、実に1時間が経過した。

 白熱した戦いが続いたが、基本的にお互いの魔法を捌いてばかりでなかなか決着がつかなかった。

 しかし、流石にどちらも体力が切れてきたのか、次第に肩で息をし始める。

 時たま起こる爆風に髪をなびかせながら、ジュンとサフィアはそれをただ眺めていたのだった。

 

 

「……すげえ」

 

「ジュン君、それがあの二人の魔法についての感想なら当然でしょう?」

 

「いや、そりゃ魔法も凄いけどさ。よくあんなに長時間詠唱しながら走り回ってられるなぁと……」

 

「あー、うん……。それはあの二人がバカほど体力があるだけだから……」

 

「オレももっとちゃんと鍛えなきゃいけないのかもな……」

 

「多分あの2人はいっつも喧嘩してるから、その時に体力がついたんじゃないかしら。だからきちんと鍛えさえすれば体力だけは十分につくはずよ」

 

「よし、明日から体作りの鍛錬も始める!」

 

 

 するとその瞬間、ノエルとマリンが同時に膝をついて倒れこんだ。

 

 

「あ、終わったみたいね」

 

「ということは……引き分け?」

 

「「いいや、あっちの方が先に膝をついた!!」」

 

「はぁ……。やれやれ……」

 

 

 ノエルとマリンは引き分けという結果を受け入れようとしない。

 すると、2人とも膝をついたまま魔導書を再び開く。

 

 

「ま、まさかあんなバテバテでまだ戦うつもりなのか……?」

 

「大丈夫よ。見た感じ魔力はほとんど回復できてないし、ただのケンカに強力な魔導書なんて使わないはずだから。ケチだし」

 

「いや、でもアレ……」

 

「ん……?」

 

 

 ジュンが指をさした方向には、2つの召喚門が出現していたのだった。

 

 

「あ……あの2人は〜!!」

 

 

 気づくと、ノエルとマリンは召喚の詠唱をどちらが早く唱えられるか、どちらの方が強い魔物を召喚できるかという勝負になっていた。

 もちろん相手が死ぬようなことがないよう、低級の魔物を召喚しようとしていることはお互いに分かっていた。

 

 

「(アタシの方が召喚魔法は得意なはず……。だが本当のあいつの実力をアタシはまだ見たことがないというのも事実……。いや、でもきっと勝てる!)」

 

「(わたくしの方が丁寧に魔法陣を描いていますし、詠唱だって噛まずに言えるはず……。ノエルが先に召喚しようとも、わたくしの方が強力な魔物を召喚できる……!)」

 

 

「『小悪魔の召か(インプ・サモ)──』」

 

「『炎魔の召か(パイロデビル・サモ)──』」

 

「はい、そこまでっ!」

 

 

 サフィアは2人の魔導書を奪い、パタンと閉じた。

 すると召喚門がパッと塵に消える。

 

 

「な、何をするんだサフィー!」

 

「そうですわよ、これはわたくしたちの戦いですのよ!」

 

「あのねぇ……。2人とも疲れてそのままその場で寝ちゃうのがいつものオチでしょ? それを毎回毎回あたしが運んであげてるってこと、もしかして忘れてない?」

 

「うっ……そ、それは面目無い……」

 

「それについては謝罪を……」

 

「まあ別に反省はしてるみたいだから良いんだけど。ところで、どうして今日はこんなに2人とも諦めが悪いの?」

 

 

 いつもなら30分もかからずに決着がつくのだが、今回はなぜかいつもの2倍の時間で引き分けていた。

 

 

「だって……ジュンにカッコいいとこ見せたいだろ……?」

 

「ですわよねぇ……?」

 

「はぁ……。道理でいつもより難しい魔法ばっかり使ってたわけだ……」

 

「ま、何にせよ魔力がスッカラカンだ。流石に戦う気力はもうないよ……」

 

「わたくしも流石にこれくらいにしておかないと、いざという時に戦えませんわね……」

 

 

 2人は手を取り合い、よろよろと立ち上がる。

 そしてそのままジュンのいる場所へ歩いて戻ってきた。

 

 

「だ、大丈夫なのか? かなりボロボロだけど……」

 

「なに、これくらいならすぐに治るさ。書き溜めてた魔導書が減ったのは痛いけど……」

 

「それで……いかがでしたか、ジュン君?」

 

 

 ジュンはハッとして答える。

 

 

「凄かった! って……月並な感想しか言えないけど、2人とも本当に凄い魔女だったんだな!」

 

「ま、当然よ。あたしの自慢の師匠とお姉ちゃんなんだから!」

 

「そう言われると照れ……って、どうしてサフィーが自慢げなんだ?」

 

「まあ? どちらの方が強いかは決着がつきませんけど、凄い魔女と言われるのは悪くないですわね」

 

「そうだな。魔女としての実力を他の人に評価されるのは久しぶりだ……」

 

 

 すると向こうの地平線から馬車の音が聞こえてきた。

 

 

「さて、そろそろだな」

 

「ですわね」

 

「ですね! あたしが話つけてきます!」

 

「そうか……。もう行くのか……」

 

 

 ジュンは寂しげな表情で3人を見つめる。

 そしてこう言った。

 

 

「な、なあ、また教えに来てくれよ! その時はもっと強くなっててやるから!」

 

「あぁ、アタシの悲願を叶えた後でまた稽古をつけてやる。もしかしたら数十年くらいかかるかもしれないけどね」

 

「いいよ、待ってるから! あ、あとな……!」

 

「ん……? どうかしたかい?」

 

「俺……将来、魔法を教える先生になる! もちろん魔女ほど優秀じゃないかもしれないけど、目標はノエル先生だ!」

 

「……! そうか……だったらもっと勉強してもっと修行しないとな! これからはちゃんと授業を受けるんだぞ?」

 

「分かってるって!」

 

 

 その無邪気な笑顔を、ノエルは知っていた。

 かつて自分の息子・イースが笑っていた時の顔とよく似ていたのだ。

 

 

「(……なおのことイースを蘇らせなきゃいけなくなったな。こいつに会わせてみたい……!)」

 

 

 そんなことを考えていると、ノエルはよろけて膝をついてしまった。

 

 

「おっとと……」

 

「ノエル様!?」

 

「大丈夫か!?」

 

 

 馬車乗り場から戻ってきたサフィアがノエルに肩を貸す。

 

 

「あ、あぁ、どうやら思ったより疲れてたみたいだ」

 

「あと10分で出発だそうです。移動中はぐっすりお休みくださいノエル様」

 

「そうさせてもらうよ……。すまないな……」

 

「全く……いくら身体が若いとはいえ、疲れは溜まるんですから。ここ最近、授業の準備であまり寝れていなかったんですのよね?」

 

「え……そんな状態でずっと戦ってたのか? 何でそんなに……」

 

「疲れてるって理由だけでこいつに負けたくないからな……。そうだ、お前も魔導士になるんなら、好敵手は必要だぞ?」

 

「あはは……流石にそれは見てるだけで痛感した……。今度上級生に勝負でも挑んでみるか!」

 

「できれば自分より強い魔女が一番ですわよ。いろんな魔導書の使い方を勉強できますから」

 

「なるほど……勉強になった」

 

 

 すると乗り場にいる御者が鈴を鳴らした。

『そろそろ出発』の合図だ。

 

 

「じゃあ……お別れだな」

 

「あぁ、ずっと待ってるからな!」

 

「またいつか会いましょう」

 

「ああ!」

 

「さよならね。ま、ノエル様が行く時はあたしもいると思うから」

 

「別にお前に教わることは何もねえよ〜」

 

「キーッ! これでもあたしの方が年上なんだからね! 次会う時まで覚えてなさい!」

 

「オレの方が強くなってるかもな? 楽しみにしてるぜ!」

 

 

 こうして3人は馬車に乗り込み、ジュンに別れを告げた。

 ジュンは馬車が見えなくなるまでずっと手を振っていた。

 

 

***

 

 

 次なる国、南の国・ラウディに向かう馬車の中。

 ノエルは寝る前にサフィアに声をかけた。

 

 

「あぁ、そうだ。指輪、返しておくよ。ありがとな」

 

「あ、どういたしまして。またケンカする時は貸しますよ」

 

「それなんだが、ラウディに着いたらその指輪を調べさせてくれないか? マリンのも」

 

「まぁ、無くしたり壊したりしなければ喜んで貸しますわよ」

 

「同じくです!」

 

「助かる。もしかしたら未知の能力があるかもしれないからね。実際セプタの噴水にはあんな仕掛けが施されてたわけだし……」

 

「確かに……。この指輪にただ環境順応能力が備わってるだけとも思えませんしね。実はもの凄い威力の魔法が放てるとか……!」

 

「そんな力があるんなら、お姉ちゃんが勝ってたかもね」

 

「確かに! それならなおのこと調べてもらう必要が……って、あら……」

 

「ノエル様、もう寝ちゃったね……」

 

 

 ノエルはサフィアの膝の上で穏やかな寝息をたてている。

 マリンは声を抑えてサフィアと話す。

 

 

「はぁ……普段からこれくらい静かなら少しは好感が持てるのに……。いい寝顔ね、全く……」

 

「仕方ないよ。息子さんのために東奔西走してるんだもの。純粋な魔法バカのお姉ちゃんとは大違い」

 

「その魔法バカの血はあなたにも流れてるってこと忘れてないわよね、サフィー?」

 

「そんなこと、重々承知してるわ」

 

 

 そう言いながらサフィアはノエルに毛布をかける。

 

 

「って、あれ? 今お姉ちゃん、昔の話し方に戻って……」

 

「気のせいですわ」

 

「……あ、そ。ま、そっちの喋り方に慣れちゃってるから、今さら気にしないけど」

 

「そう、気にしたら負けですわ。気にしてしまうから負けてしまうのですわ……」

 

 

 馬車は山を越え砂漠の道を通りラウディへと向かうのであった。

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