魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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33頁目.ノエルと大博打と砂嵐と……

 それから2日が経過した。

 

 反転の風魔法を順転の風魔法で強化することに成功したルカとサフィアは、あれからお互いの魔法の発動時間や回転速度などを何度も合わせで練習し、今やバッチリと言っていいほどの連携を見せていた。

 

 一方、ノエルとマリンは、こちらもこちらで指輪の力について実験を重ねていた。

 結果としては一歩の前進もなく、指輪は相変わらずの効果を発揮しているだけなのであった。

 そんなこんなで、4人はその日の朝からルカの家で対砂嵐の準備を進めていた。

 

 

「はぁ…………」

 

「急に溜息をつくのはやめて下さいません? 指輪の研究が進まず虚しくなっているのはわたくしも同じですのに」

 

「それもそうだが、今日なんだろ? 砂嵐が来るかもしれない日って」

 

 

 ノエルの呟きに、ルカが少し遠くから反応する。

 

 

「ええ、その通りです。2日後に発生しなかった場合は必ず、その次の日に発生していますから」

 

「だよなぁ……」

 

「それでどうしてあなたが溜息をつく必要があるのです?」

 

「どうせならもう少し研究が進んでから事に当たりたかった」

 

「別に研究の成果があってもなくても、砂嵐への対策は完成しているじゃありませんの。それに、終わってからいくらでも研究は進められますわよね?」

 

 

 マリンはそう言って黙々と魔導書の整理を進める。

 するとノエルは立ち上がり、マリンに向かって大声で叫ぶ。

 

 

「災害級の魔法なんて滅多に見られないんだぞ!? そいつで実験できる機会が生きてる中で何回あるのか!」

 

「分かってますわよ! ただ今回に限っては早めの解決が優先事項。わたくしだってこんな機会、逃したくて逃してるわけじゃありません!」

 

「2人とも、落ち着いて」

 

 

 荒ぶるノエルとマリンをサフィアが冷静に諌める。

 

 

「「だって……」」

 

「今回の目的はルカさんを手伝うこと。そうクロネさんに頼まれたんだから仕方ないでしょ? 特にノエル様はイースさんのためなんだから我慢して下さい」

 

「う……そこでイースの名前を出されると返す言葉もない……。し、仕方ない、今回は我慢するよ……」

 

「わたくしは元から我慢してましたが、ノエルがイースさんのために我慢するのであれば大人しくしておきますわ」

 

「あ、あの……」

 

 

 ノエルたちが振り向くと、そこにはルカが立っていた。

 

 

「ルカさん、どうかしまして?」

 

「先程から聞こえる『イースさん』とは一体……?」

 

「あ、あぁ……聞こえてたのか……。この話は砂嵐の一件が終わってからする予定だったんだが……」

 

「なるほど、以前仰っていた()とやらに関係があるのですね。砂嵐の発生まで時間がありますし、よろしければお聞かせ願えますか?」

 

「まあ……そうだな。いずれ話す事にはなっていたんだし、聞かせてやっても問題はない、か」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

「あぁ、そうだ。前にも言った通り、今から聞かせる話に続く依頼は断ってくれても構わないからな。別にこの依頼のためにお前に協力しているわけじゃない、ということだけ覚えておいてくれ」

 

「分かりました。覚えておきます」

 

 

 そうしてノエルはイースとの出会いと別れ、そしてその後の自分の話をいつもと同じように話し始めた。

 

 

***

 

 

 3時間後──。

 

 

「な、なるほど……。完璧な蘇生魔法を求めてボクの所へ……」

 

「この話を聞いた人はみんなそんな微妙な表情をするよ。いや、こいつら姉妹は例外だったか……」

 

「あの……断るとかそういうわけではないのですが、ボクはあまりに力足らずではありませんか……? 風魔法が多少は得意といっても、あなたの研究に成果を残せるほどとは思えませんし……」

 

「なに、お前ほどの実力なら全く問題ないよ。そもそも現時点で人数が少なすぎる上に、風魔法の実力があるアテがお前しかいないというのもあるがね」

 

 

 ルカは少し考え、言った。

 

 

「こんなボクでもお役に立てるのであれば……と言いたい所ですが、時間を頂けませんか?」

 

「あぁ、考える時間は必要だもんな。全然構わな──」

 

「いえ、そういう意味ではありません。ボクに出来る限り修行の時間を下さい、という意味です」

 

 

 ノエルの言葉をルカが遮ってこう言う。

 ルカの表情は真剣で、その圧にノエルは少し仰け反る。

 

 

「ほ、ほう……?」

 

「話を聞く限りですと、少なくとも9属性全ての使い手を集めきるまで、あと数年はかかりますよね? その間だけでも構いません。ボクに修行を積ませて下さい!」

 

「今のままでも実力は十分だと言っても……その様子だと今の自分に満足していないようだな。まあ、確かに数年はかかるだろうから、いくらでも修行の時間はあると考えてくれて構わないよ」

 

「そういうことでしたら、集めきった後にボクを訪問して下さい。その時点でボクがボク自身の実力に満足できていれば協力しましょう」

 

「そりゃとんだ大博打だな? そうするくらいなら今の時点で承諾してもいいんじゃないのか?」

 

「いえ、ボクは──」

 

 

 その時だった。

 突然、家の窓がガタガタと揺れ始める。

 ルカは急いで外を見て、こう言った。

 

 

()()()()! 砂嵐の予兆、海風です!」

 

 

 ノエルたちが外を見ると、海面は波立ち、砂浜の砂が風に煽られているのが分かる。

 

 

「チッ、分かっちゃいたが、折が悪い!」

 

「急ぎましょう! いつもならあと10分程で砂嵐が発生します!」

 

「分かった。行くぞお前たち!」

 

「「「はい!!」」」

 

 

 4人は急いで荷物を持って外に出たのだった。

 

 

***

 

 

 ノエルたちが砂嵐発生予測地点に行くと、そこは強風が吹き荒れ、立ってもいられないような場所と化していた。

 だが、まだ砂嵐は発生していない。

 

 

「良かった、間に合ったみたいだな……」

 

「安心するのはまだ早いですよ。とりあえずこの強風がどこから発生しているのか探る必要があるんですから」

 

「おっと、そうだった。砂嵐が発生した時は頼んだぞ、サフィー、ルカ!」

 

「ええ、もちろん。そちらもお気をつけて」

 

「バッチリ任されました!」

 

 

 手を振る2人に見送られ、ノエルは海に足を踏み入れる。

 

 

「じゃあマリン、行くぞ」

 

「サフィー! いざとなったらわたくしたちを置いて逃げなさいよー!」

 

「そんなこと言ったらあいつ怒るぞ? 『流石に見くびりすぎー!』ってな」

 

 

 そんなことを話しながら、ノエルたちは腰下まで水が来るくらいまで深くに来た。

 

 

「さて。それで、どうやって探すんですの? 深みに行き過ぎると流石のわたくしたちでも戻るのは大変ですわよ?」

 

「分かってるよ。だから極力集中して遠くまで魔力感知するしかない」

 

「集中と言われても、風が強すぎて……!」

 

「まだこれでも弱い方だって言うんだから耐えるしかない! 始めるぞ!」

 

 

 ノエルとマリンは目を瞑って風の吹いてくる方の魔力を調べる。

 そして、30秒ほどで2人同時に目を開いた。

 

 

「「見つけた!!」」

 

 

 しかし見つかったにも関わらず、2人は頭を抱えている。

 

 

「思ったより厄介なことになってるな……」

 

「発生場所がまばらな理由も分かりましたわね……」

 

「あぁ、とにかくこのままじゃ呪いの残滓を回収できない。一度戻って対策を考えるぞ!」

 

「えぇ、そうしましょ──」

 

 

 そう言いながら、後ろを振り向いたマリンが固まる。

 それに気づいたノエルも後ろを振り返る。

 

 

「な、何だ、こいつは……!」

 

 

 2人の目に映っていたのは、()()()()()()()()()()()()砂嵐であった。

 

 

「ここまでの大きさだなんて聞いてないぞ!」

 

「サフィーは!? 無事なんですわよね!?」

 

 

 砂嵐はサフィアたちとノエルたちのちょうど間の砂浜の上で発生している。

 マリンは急いで砂浜に戻ろうとするが、砂嵐の風に押し戻される。

 

 

「落ち着け! アタシたちは横に移動して合流するんだ! それと、サフィーたちを信じろ!」

 

「で、でも……!」

 

「心配ならなおのこと早く合流するんだよ! 今は自分が助かることを考えろ!」

 

「っ……!」

 

 

 マリンはノエルを追って走る。

 ノエルは重い足を持ち上げて魔導書をギュッと握りしめ、砂浜沿いの浅瀬を駆けるのであった。


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