魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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3頁目.ノエルとイースと涙と……

 それからさらに5年が経過した。

 

 ノエルとイースは相変わらず2人仲良く穏やかな日々を送っていた。

 少し変わったことといえば、ペン屋のエストが他の国に修行に出かけたことくらいである。

 インクは他の店で買うようになった。

 

 ノエルは34歳になった。

 魔導士は魔力によって若さを保てるため、ノエルの見た目は変わらぬままである。

 

 イースは今年で20歳になる。

 日々の鍛錬を欠かしていないおかげで、筋肉がついてさらに体格が良くなった。

 頭の良さは相変わらずである。

 

 

***

 

 

 そんなある朝のこと。

 

 

「さて、部屋の掃除も終わりましたし、残るは今日の食事の買い物くらいでしょうか」

 

「おや、出かけるのかい?」

 

 

 ノエルは本をパタンと閉じ、イースの方へと振り向く。

 

 

「ええ、そろそろ食糧の貯蔵がなくなる頃ですし」

 

「それなら頼もうかね。行ってらっしゃい。雨が降るかもしれないから、早目に帰ってくるんだよ」

 

「はい、行ってきまーす!」

 

 

 イースは買い物カゴを手に、街へと出かけていった。

 

 

***

 

 

「えーと……食材も買ったし、調味料の備蓄も……。うん、大丈夫ですね」

 

 

 露店で1週間分の野菜や果物、穀物などを買い、イースは帰路についていた。

 

 

「そういえば王政が変わったというのに、魔女への扱いは全く変わりませんでしたね……。大厄災なんてもう20年以上昔の話だというのに……」

 

 

 イースが歩きながらそう呟いていると、後ろから10人程の王国兵士が武装をした状態で通り過ぎていった。

 

 

「ん……? 珍しいですね。何か事件でもあったんでしょうか」

 

 

 すると近くにいた老婆が話しかけてきた。

 

 

「あらお兄さん、知らないの? 1週間ほど前のことなんだけど」

 

「そうか先週はノエルが買い出しに行ったから……。いいえ、知りません。何があったんですか?」

 

「国王様が直々にお触れを出したのよ。『()()()()』の」

 

「えっ……!? 今……何と?」

 

「ほら、ここに貼ってあるでしょう? それで、さっきの兵士達は魔女を討伐するための討伐隊よ。この近くに住んでるのかしら。怖いわ……」

 

 

 老婆が指を差した掲示板には、国の判子が押された紙に大きく『魔女狩りの知らせ』と書かれてあった。

 

 

「『メモラ王の名において、メモラに住む全ての魔女及び魔法使いを殺処分することとなった。国民の方々は急ぎ、魔導士の住所を国に引き渡してもらいたい。報酬として1億G(ゴールド)を用意しよう。メモラ王』……。はっ……!」

 

 

 それを読み上げたイースは、買い物カゴをその場に投げ捨て、急いで駆け出した。

 

 

「さっきの兵士たちが向かっていた方角は……! ノエル……! 間に合ってくれ……!」

 

 

***

 

 

 一方その頃、ノエルは家の周りを兵士が囲んでいることに気がついた。

 

 

「思っていたより嗅ぎつけるのが早かったねぇ……。イースを買い出しに行かせて正解だったよ」

 

 

 ノエルは黒い羽根ペンを置き、玄関のドアに手をかける。

 

 

「やれやれ……まさか『魔女狩り』とはね……。あれから20年経ってもまだ魔女は嫌われ者ってわけかい……」

 

 

 名残惜しげに部屋の中を見回し、ノエルはドアを開けた。

 外に出ると王国兵士たちが槍を構えてノエルを囲む。

 

 

「ここに住むノエルという女は貴様だな?」

 

「あぁ、確かにアタシはノエルという名だ」

 

「貴様は魔女であるため国王の命令により、この場で処刑することとなった! その命、頂戴する!」

 

「そう簡単に殺されてたまるかっての……! 『呪縛円(カースド・サークル)』!」

 

 

 ノエルの周りに黒い鎖が張り巡らされ、触れた兵士たちは身動きが取れなくなる。

 ノエルはじりじりと後ろに下がりながら魔導書を開いて、次の魔法の準備をする。

 

 その時だった。

 

 

「だあぁぁぁぁあっ!!」

 

 

 呪縛円(カースド・サークル)の外にいた別の兵士が、その円外から槍を投げ飛ばしてきた。

 

 

「なっ……1人かかっていなかったか! まずい、これは直撃を避けられな……」

 

「ノエル! 危ない!」

 

「えっ────」

 

 

***

 

 

 その凶槍は、ノエルの目の前で止まった。

 切先は赤く染まっており、ノエルの顔を反射させている。

 

 

「お……おい……? 何やってんだ、イース……?」

 

 

 そう言ったノエルは自分の胸元を見る。

 ノエルの服や手には血が大量に飛び散っていた。

 そして、目の前にあった身体は言葉も発さずに倒れた。

 

 

「あ……あぁ……あぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

 

 その咆哮はノエルにとって、一度も経験したことのない真っ黒な怒りそのものだった。

 

 

***

 

 

 それからのことはもうほとんどノエルの記憶にない。

 気づくとそこには黒い炎に焼かれた10人程の鎧を着た死体と、イースを抱きながら泣き荒ぶ自分の姿があった。

 そして、その炎を消すかのごとく雨が降り始めていた。

 

 

「イース……お前、どうして……!」

 

 

 イースは弱々しく唇を動かす。

 

 

「ボクには……これくらいしか……できないから……」

 

「このバカ……! アタシにはお前しかいないんだぞ……! お前はアタシの命より大事な存在なんだぞ……!!」

 

「はは、そんなこと……言わないでください……。ボクだって……ノエルが大事なん……ですから……」

 

「もういい、喋るんじゃない! お前は絶対アタシが助けてやるからな、待ってろ!!」

 

 

 ノエルは魔導書を取り出し、回復の光魔法をかけようとする。

 すると、イースの手がそれを止めた。

 

 

「もう……助かりませんよ……。ノエルが使える魔法にこの傷を治せるほどのものは無いでしょう……?」

 

「諦めるな! 応急手当てだけでもして早く逃げるんだよ!」

 

 

 イースは首を振り、言った。

 

 

「明日には異変に気付いて他の兵士が来るでしょう……。足手まといにはなりたくないんです……。ボクを置いて早く行ってください……」

 

「そんな……! お前を置いて逃げるだなんて、そんなことできるはずがないだろう!」

 

「ノエルだけでも……生きて……ください……」

 

 

 イースはノエルに精一杯の笑顔をしてみせる。

 その瞬間、ノエルはイースの手がだんだんと冷たくなっているのがわかった。

 ノエルはイースの手を強く握りしめ、泣きながらその体を抱きしめた。

 

 

「今まで……ありがとう……おかあさん……」

 

 

 そしてイースは笑顔のまま息絶えた。

 

 

***

 

 

 ノエルはそのままずっと泣いていた。

 

 日が暮れても泣いていた。

 

 夜が明けても泣いていた。

 

 

 そして昼になった。

 

 ノエルはイースの亡骸を抱え、家の裏に置いた。

 それから魔法で地面を掘り、その中にイースと白の羽根ペンを埋めた。

 

 

『我が愛しの息子 イース ここに眠る』

 

 

 ノエルは花を墓の前に供え、しばらく祈り、立ち上がった。

 そして黙ったまま家に入り、ローブを羽織る。

 鏡を見ると、その目にはもう涙はない。

 しかし目元にはクマがくっきりと残っていた。

 

 

「はは……。こんなにクマが残っちゃ、またあいつに怒られちまうな……」

 

 

 ノエルは顔を両手でパシッとはたき、カバンを持ってイースを埋めたところへと戻って来た。

 

 

「それじゃ、お前の分まで生きることにするよ。ここには帰れないかもしれないけど……行ってくる!」

 

 

***

 

 

 それからというもの、ノエルは王国の目をかいくぐりながらどうにか生き延びた。

 そしてようやくその8年後にメモラ王が病死し、魔女狩りはようやく終わりを迎えたのだった。

 新しい国王は人種差別や種族差別を嫌う人物であったため、魔女への対応は次第に良くなっていった。

 

 ノエルはその8年もの間、イースと過ごした日々を反芻(はんすう)していた。

 言うまでもなく、心に穴が空いたままだったのである。

 

 そして、ある一つの考えに至った。

 

 

「各地の優秀な魔女を集めれば、イースを復活させることができるんじゃないか……?」

 

 

 魔法というものは理解と研究を深めることで新しいものを生み出すことができる。

 ノエルは魔法というものに無限大の可能性を感じていた。

 しかし、今の自分の力だけではその可能性を広げることができない。

 そう感じていたのであった。

 

 

「何年かかってもいい! どれだけの損をしても構わない! イースの声がもう一度聞けるのなら、アタシは自分の命だって賭けてやる!!」

 

 

 ノエルは決意した。

 

 そして各地にいる魔女を訪ねるべく、旅に出ることに決めたのだった。

 こうしてイースの想いとひとつの変わらぬ目標を胸に、魔女・ノエルの運命は動き始めた。

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