魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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48頁目.ノエルと毛並みと若き工房長と……

 ロヴィアはノエルたちの説明を聞いた後、3人に疑いの目を向けていた。

 

 

「へえ……。盗み聞きしてたんだ……?」

 

「それについては魔法と言えども本当に犯罪なので、国に突き出してくれても構いませんわよ、ノエルだけ」

 

「止めなかった時点でお前も共犯だ! サフィーは巻き込まれただけだからまだしもな」

 

「ま、別に秘密がバレた時点で今さらどうしようもないから、そんなことはしないわよ。あんたたちへの信頼が少し下がっただけだし」

 

「ノエル様、やっぱりあの作戦裏目に出てません? 変な時に好感度下がりましたよ?」

 

「うっ……。本当に取り返しのつかないことをしたと思ってる……」

 

「もう良いわ。まだ聞きたいことあるから頭を上げて」

 

 

 ロヴィアはそう言って、怪訝な表情でノエルを見つめる。

 

 

「そしてその後、住民名簿で出身国を調べて、獣人化の薬とはねぇ……」

 

「おい、どうしてまだ疑いの目でこっちを見てる?」

 

「いや、ね? 住民名簿はまだ分かるんだけど、変な薬で私が獣人だって気づくなんて、偶然にしては流石に現実味がなさ過ぎるわよ」

 

「実際、そういう魔法があるんだからしょうがないだろう」

 

「あら? ということは、ロヴィアさんは人化の魔法のようなものを知らないんですの?」

 

「そりゃ、知ってたら疑ったりもしないわよ。むしろ、その魔法でこの耳を隠したいくらいだし。あと尻尾も」

 

 

 そう言って、ロヴィアは耳を手で畳もうとする。

 

 

「え、尻尾? ロヴィアさん、尻尾生えてるの!? 見たい!」

 

「そこに食いつく!? あ、あんまり人に見せたことないから出来れば見ないでくれるとありがたいんだけど……」

 

「さっきからたまにパタパタ聞こえるなと思ったらそういうことか。でも分かるぞ、尻尾は触られると変な気分になるからな……」

 

「ちょ、語ってる暇があったらこの子を止めなさいよ! ひゃあっ……!」

 

 

 そんなことを言っているうちに、サフィアが無言でニコニコしながらロヴィアの腰に手を回していた。

 そして、気づけばその手にはロヴィアの尻尾の先が握られていたのだった。

 

 

「うわぁ〜! ノエル様のよりも毛並みが綺麗で触り心地最高〜!」

 

「うぅっ……。ひゃうっ……。もうお嫁にいけない……」

 

「毛並みって何に左右されるんだ……。アタシの中の何かが傷ついたような気がする……」

 

「はい、サフィー。その辺にしておきなさいな。2人が落ち込んで話が進みませんわよ」

 

「あ、ゴメンなさい……。でもこれは本当に誇って良いくらい素晴らしい毛並みだったの! あたし基準だけど!」

 

「うぅ……。毎日手入れしてるもの……。そう言ってくれると嬉しいわ……」

 

 

 サフィアが元の席に戻ったのを見て、ロヴィアは1つ咳払いをする。

 そしてノエルに尋ねた。

 

 

「そ、それで、あんたたちが知ってる情報ってそれが全部?」

 

「えーっと、調べたことは……本当の名前と、出身国と、獣人だってことと……。あ、そうだ! 年齢のこと!」

 

「えっ……。まさか年齢までバレてるの!?」

 

「その反応を見ると、やはり見た目と本当の年齢が違うんだな?」

 

「しまった! って、まあ私の過去の話をしたらどうせバレることだったし、気にしたら負けな気がするし!」

 

「たくましいというか何というか……。ということは、今からお前の話を聞かせてもらえるということだな?」

 

「ええ、そういうことよ。少し長くなるけど、そこは承知しておいて」

 

 

 ノエルたちが小さく頷いたのを見て、ロヴィアは話を始めたのだった。

 

 

「まず、私がどういう人間……いえ、どういう獣人なのかについて教えておかないと、この話は始めることができないわね」

 

「この大陸に来る前のお前ってことか?」

 

「ええ。まず、私は猫の獣人『ケット・シー』の父親と、人間の魔女との間に生まれた子供だった。獣人と人間の混血とはいえ、ここに来る前は間違いなく猫の獣人の姿だったわ」

 

「ということは、ノーリスに来る前までは獣人の姿だったということですわね」

 

「そういうこと。ちなみにこの大陸に来たきっかけは、魔女だった母から魔女としての才能を鍛えるために、母の出身のこの大陸で修行してこいって言われたからなの」

 

「なるほど、魔女は決まって才能のある娘を魔法の修行に行かせようとするからなぁ。ま、お前には才能があったってことだろうけど」

 

「あはは……そうだと良いんだけどね……」

 

 

 ロヴィアは照れつつ話を続ける。

 

 

「あと年齢についてだけど、ノーリスに来た2年前は52歳だったかしら。獣人でも若魔女の恩恵は受けるみたいだから、見た目自体はかなり若かったけど」

 

「今は54歳くらいだから……アタシより4つはお姉さんだってことかい!?」

 

「つまりノエルは50歳ってことか。道理で見た目の割に年の功を感じるわけね」

 

「逆にお前の年の功が感じ取れなさすぎてるから驚いてるんだよ。まあ、見た目が若すぎるせいで霞んでるだけかもしれないが」

 

「ちゃんとそれについても話すから。まあ、とにかくそういうことで色々あって数年修行した後、私はこの国にやってきた──」

 

 

***

 

 

 ノーリスに来た初日、私はあまりの音のうるささに頭がおかしくなりそうになっていた。

 獣人は耳が良すぎて遠くの音も聞き取れちゃうから、壁越しでも音が聞こえてきちゃってたの。

 当時のノーリスはまだ歯車が動いていて、修行のためとはいえこの音圧に耐えきれるか心配になってたわ。

 そんな中、私が耳を抑えながら歩いていると、1人の女の子が後ろから話しかけてきた。

 それは16歳かそこらの見た目で、いかにも気が強そうな、でも可愛らしさのある女の子だった。

 

 

「ねえ、そこの人。どうして頭を押さえてるんだ?」

 

「ん? あぁ、歯車の音がうるさくてね。あと、押さえてるのは頭じゃなくて耳よ。私は獣人だから」

 

「へー! アタイ、獣人って初めて見たよ! そこに耳が付いてるんだね」

 

「用がないなら行くわよ。今日はさっさと宿で寝たいし」

 

「えー、じゃあ……。これでどうよ!」

 

「えっ……?」

 

 

 その女の子はカバンから1枚の布を取り出して、私の頭に巻きつけた。

 それがこのバンダナだったわ。

 

 

「どう? 耳が隠れるから音も聞こえにくくなったんじゃない?」

 

「んー……あんまり変わらないわね」

 

「ええー! せっかく良い案が浮かんだと思ったのにな……」

 

「ふふ……。でもありがとう。歯車のうるささは少ししか変わらないけど、あなたと話したおかげで気が紛れて気にならなくなったわ」

 

「……! それは良かった! それ、余ってるから貰っちゃってよ!」

 

「良いの? それじゃ遠慮なく頂くわね」

 

 

 私はそのバンダナをカバンの紐に結び付けた。

 

 

「アタイはロウィ! あんた、名前は?」

 

「私はロヴィア。こんな見た目だけど魔女よ」

 

「へえ、魔女を見るのも初めてだよ!」

 

「魔女ってそんなに珍しいの? 他の国でもあんまり見かけなかったけど」

 

「アタイはそもそも工房からあんまり外に出たことないから、魔女だとかどうとかってのは知らないけど、珍しいんじゃない?」

 

「なるほど……って、工房? あなた、何かを作ってるの?」

 

 

 ロウィは上を指差して堂々とこう言った。

 

 

「アタイは、この国を支える歯車を全て管理してる天下一の工房『ロウィ歯車工房』の工房長なのさ!」

 

「ええっ!? じゃあ、あの歯車の音って止められたりしないかしら!」

 

「みんなの生活がかかってるから、何があっても止めるのは無理だね!」

 

「そりゃそうよね……。って、その工房長さんがどうしてここにいるの? 歯車、今も動いてるわよね?」

 

「あはは……。部下から『姐さんは工房に入るにはまだ若すぎる!』『姐さんがいると危なっかしくて作業できねえ!』って言われちゃってね……」

 

「工房長なのに追い出されたの!? この国の生活、そんな感じで支えられてて大丈夫なのかしら……?」

 

 

 そんな私の心配を他所に、ロウィは話を続けた。

 

 

「ってことで、最近追い出されてばっかりで暇だからブラブラしてたってわけ」

 

「それで私に話しかけたってこと? 暇つぶしに?」

 

「いや? 単純にあんたが困ってる風に見えたから声をかけただけだよ?」

 

「えっ……?」

 

 

 その時、私はこの子が心から優しい人間だということを知った。

 そして自分が少しでも彼女の心を疑ったことを同時に後悔した。

 ロウィは私の顔を見上げて心配そうに聞いてきた。

 

 

「も、もしかして余計なお世話だったとか……」

 

「ち、違う違う! 余計なことを考えちゃったのはむしろ私の方だから気にしないで!」

 

「あー、良かった! それじゃ、これで会ったのも何かの縁だし、追い出された日はロヴィアに会いに行くよ!」

 

「え、いや、それは全然構わないんだけど……。どうして私がしばらくこの国にいるって分かったの? 旅行って可能性もあるわよね?」

 

「あっ、その辺は全く考えてなかった! でも許可もらえたから毎日行くよ!」

 

「毎日追い出される前提なの!?」

 

 

 これが私とロウィの出会い。

 その日から、ロウィは宣言通り毎日私がいる宿に来て、私の魔法の修行に付き合ってくれたり、この国の産業のこととか色んなことを教えてくれたりしたわ。

 ある日は工房の見学をさせてもらったり、ある日は図書館でロウィに勉強を教えたり、とても楽しい毎日だった。

 

 でもそれから半年後、彼女は事故で死んでしまった──。

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