魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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51頁目.ノエルと門前払いと機械嫌いと……

 それから4時間が経過し、時間は夕暮れ時になっていた。

 しかし、この住宅街は地下にあるため、ノエルたちはそのことに気づかぬまま探索を続けていたのだった。

 聞いて回るのに疲れたノエルは、その地区の中心地の噴水広場に置いてあったベンチに腰掛けた。

 すると丁度、マリンとサフィアもその広場に来ていることにノエルは気がついた。

 

 

「おお。なんだ、お前たちも休憩か?」

 

「そこの時計を見なさいな。休憩どころか、もう終わりの時間ですわよ」

 

「あ、本当だ……。そうだ、ロヴィアは?」

 

「さっき、こっちに来る前にあたしが呼んでおきました。そろそろ来るかと……あ、来ました! ロヴィアさーん! こっちこっちー!」

 

 

 ロヴィアはすぐにその声に気づき、ノエルたちと合流した。

 

 

「ずっとロウィって名乗ってるから、久しぶりに本名で叫ばれると反応が遅れるわね……」

 

「その割にはすぐこっちに来れたじゃないか。いや、それとも獣人ゆえの反応速度か……?」

 

「まあ、それは置いといて。どうだったかしら?」

 

「まずはアタシから。怪しい怪しいと言われて門前払いを食らいまくったせいで、一切の進捗がない」

 

「うわぁ……。なのにずっと聞き込み続けていたなんて、本当にどんな精神力してますの……?」

 

「傷ついてないわけじゃないからな! 全部イースのためだからって、耐えてるだけだ!」

 

 

 そう言って、ノエルは溜息をついて俯く。

 

 

「じゃ、じゃあ……次はあたしとお姉ちゃんだけど、こっちもダメだった。あっち方向の家は全部聞いて回れたけど、パイプの工事とか点検に来た人のことなんていちいち覚えてないみたい」

 

「確かにウチは1年に一度しか点検しないから、覚えてないのも無理はないわね……。私の方も全く同じだったわ」

 

「それでサフィー。ペンダントはどうだった?」

 

「全く光りませんでした。そもそも、光った時点でロヴィアさんも師匠も呼びますし。あ、ペンダント返すわ」

 

「あら、どうも。だけど……うーん、やっぱりこの国の人に聞き込み調査しても無駄なのかしら……」

 

「機械に頼ってばかりで周りに目が行かないから、赤の他人のことがどうでもよくなる、か……。って、ん?」

 

 

 ノエルは俯いた頭を上げ、何かに気がついた様子でロヴィアに尋ねた。

 

 

「なぁ、ロヴィア。この国の機械産業っていつからあるんだっけ?」

 

「え? 確か20年前くらいからって話だったと思うけど……。それがどうかしたの?」

 

「なるほど、20年前ならもしかするか……? ロヴィア、この国に住む人間は全員が機械に頼りきりなのか?」

 

「機械に頼りきりかは人によるけど、少なくとも全ての建築物には蒸気のパイプが繋がってるから、この国での生活には絶対に機械が関わってるわね」

 

「ってことは、だ。もしかして、それ以外の機械を使()()()()()()()()()()んじゃないのか? 例えば……そう、機械化に置いていかれた機械嫌いの老人層とか」

 

「ええ、確かにそういった老人の方々はいるわよ。だけどそれがどうしたって……」

 

 

 ノエルは答える。

 

 

「その人たちなら、ロウィのことを覚えていてもおかしくないんじゃないか?」

 

「え? どういうことですかノエル様?」

 

「そもそも、この国の人が他人をどうでもいいと思う質なのは、元はと言えば機械に頼り過ぎているからですわ。ということは、逆に機械に頼っていない人なら他人のことでも覚えてくれているかも、ということですわね?」

 

「その通り。それに加えて、機械化に置いていかれた機械嫌いだからな。パイプの工事を嫌ってる人もいただろう。嫌なことってのは変に記憶に残るもの、だからねぇ?」

 

「なるほど! もしかしたらパイプの工事をしに来た人も嫌ってて、逆にパイプ工事に来たロウィさんたちの顔を覚えてる人がいるかも、ってことですね!」

 

「あんたたち、3人揃って本当に頭の回転が早いわね? 私もようやく理解したわよ。なるほどね……」

 

 

 ロヴィアは少し考え、そしてノエルの方を向いて言った。

 

 

「ええ、確かにそれならいけるかもしれないわ。私、絶対にそこにだけはロウィが行かないと思って、そういった機械嫌いがいるって聞いた地区は極力避けてたから」

 

「でも、ロウィの父親はそこにも工事に行ってたんだろ? ロウィがついて行ってないって確信でもあるのか?」

 

「機械嫌いの人がいる家に行って何が起こるか分からないから、連れて行かなかったんじゃないかって思ってただけ。本当はどうなのかは知らないから、ちゃんと調べに行かなきゃね」

 

「ま、調べるにしても明日だけどな。もうそろそろ日が暮れる。見えないけど」

 

「あぁ、確かにそんな時間ね。それじゃ、歩いて帰りますか〜!」

 

「げ、忘れてた……。また1時間歩かなきゃいけないんだったな……。くっそー……」

 

 

 文句を言いつつもノエルはベンチから立ち上がり、ローブの裾を払う。

 そして4人は来た道をまっすぐ帰ったのであった。

 その後、ロヴィアと別れたノエルたちは食事を取った後すぐ宿に戻り、3人揃ってベッドに吸い込まれるように眠りに落ちた。

 

 

***

 

 

 次の日の昼。

 ノエルたちはロヴィアの家に集まった。

 

 

「それで……どこの地区に行くんだい?」

 

「とりあえず、昨日帰ってすぐウチの連中に機械嫌いの人の名簿を作らせといたから、今からそれを見て確認するところよ」

 

「そうか、今は作業員の奴らがそういった点検に行ってるんだな。わざわざ名簿まで作ってくれるとは……」

 

「ええ、本当に助かったわ。ええと……機械嫌いのお宅は全部で23軒ね。地区はバラバラだけど、それでも3つの地区まで絞れてるみたい」

 

「その3つの地区というのはどれくらいの距離がありますの?」

 

「全部ここから30分くらいの距離で、それぞれの距離自体はかなり離れてるわね。4人で分担するにしても1日じゃ終わらなさそう」

 

 

 そう言って、ロヴィアは地図を出してペンで丸を付けていく。

 そして全てに丸を付け終わり、ロヴィアはペンを片付けた。

 

 

「まずはここの北にある地区に8軒。そして南東にある地区に6軒。最後に西にある地区に9軒あるみたい」

 

「4人で手分けしたら2軒ずつ回るだけで終わりそうですわね?」

 

「いや、ロウィの顔を覚えている可能性があるから、手分けするより一軒一軒、ロヴィアと一緒に探した方が確実なんじゃないか?」

 

「確かにそれもそうね……。ええ、分かったわ。とりあえず北の8軒を一軒ずつ訪問してみましょうか」

 

 

***

 

 

 それから30分後、ノエルたちは1軒目の家に来ていた。

 その家は、見た目は他の家と何の変わりもないように見えるが、蒸気が送られる音が明らかに小さいことにノエルたちは気づいた。

 ロヴィアは早速、玄関のドアをノックした。

 

 

「すみませーん。ロウィ魔導工房ですけどー」

 

 

 しかし、中から返事はない。

 ロヴィアはもう一度ノックして声を掛けたが、一切の反応がない。

 そしてロヴィアがさらにもう一度ノックしようとした瞬間、玄関の隣の窓が開き、そこから男の声が聞こえた。

 

 

「機械の点検なら勝手にしてくれ! 点検には何の確認も要らないんじゃなかったのか!」

 

「今日は点検じゃありません。お話があって参りました」

 

「あぁ、機械の押し売りなら帰った帰った!」

 

 

 そう言って男は窓を閉め切ってしまった。

 

 

「ね? 見たでしょ? これが機械嫌いの所にロウィが来てなかったって思う理由よ」

 

「確かにこれは過激な対応だな……。というか、この国には機械の押し売り業者ってのがいるんだねぇ……」

 

「恐らくは工房街の発明してる方の営業の連中ね。どの家にも毎日のように色んな機械を売って回ってるらしいから、こういう人たちからしてみればいい迷惑ってものでしょう」

 

「それで、カケラの反応は?」

 

 

 ノエルはロヴィアの持ったペンダントを見ながらそう言った。

 しかし、ロヴィアは首を横に振る。

 

 

「カケラは思い出の場所だけじゃなくて、記憶に残ってる相手に付くこともあるの。きっと今回はその例のはずだから、人に近づいて無反応な時点でないわね」

 

「じゃあ次の家に行こうじゃないか」

 

「ええ、気を取り直していきましょう……!」

 

 

 そうしてノエルたちはさらに6軒回ったが、どこも同じような反応をして門前払いされ、カケラの反応もないのであった。

 そして、4人は最後の家の前にやってきた。

 

 

「ここにあったら全て解決なんだが……」

 

「それで見つかってもまだ地区が2つも残ってますわよ。まぁ、全て解決した気分にはなると思いますが……」

 

「じゃあ……行くわよ」

 

 

 ロヴィアが玄関をノックすると、間もなく1人の老婆が出てきた。

 門前払いを7回も食らったからか、ロヴィアは目線を落としつつ弱々しい声で言った。

 

 

「あ、あの……ロウィ魔道工房ですけど……」

 

「あら……? 今日は点検の日だったかしら?」

 

「い、いえ……お聞きしたいことがございまして……」

 

 

 ロヴィアがそう言って顔を上げた瞬間、老婆は驚いて言った。

 

 

「って、あら? あなた……もしかしてロウィちゃん? しばらく見ない間に大きくなったわねえ?」

 

「え……? えっ、ロウ……私を知ってるんですか!?」

 

「ええ、ロウィちゃんは覚えてないかしら? 小さい頃によくお父さんと一緒に……って、お父さんも最近見かけないわねえ?」

 

「え、ええと……。実は記憶喪失……? になりまして……。父は8年前に亡くなったそうです……」

 

「あら、そうだったの……。大変だったわね……。あ、ここで話すのもなんだし、上がっていってちょうだい! お連れさんも一緒にどうぞ!」

 

「お、お邪魔します!」

 

 

 ロヴィアが家の中に入ろうとしたその時、ロヴィアのカバンがドアに挟まれ、中に入れてあったペンダントが落ちた。

 ノエルはその()()()()()()ペンダントを拾い、微笑んだ。

 そしてそれを静かにロヴィアのカバンに戻して、一緒に家の中に入るのだった。

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