魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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52頁目.ノエルと暖炉とクッキーと……

 ノエルたちが家の中に入ると、そこは至って普通の家であった。

 ノーリスの他の家には機械がたくさん置いてあったが、この家にはほとんど置かれていない。

 老婆は暖炉の上に乗せてあったやかんを手に取り、それで4人にお茶を振る舞った。

 温かいお茶を飲み、ホッと落ち着いたロヴィアは老婆に尋ねた。

 

 

「ロウィのこと、教えて頂けませんか? 今の私には昔のロウィの記憶が必要なんです」

 

「ええ、もちろん良いわよ。と言っても、ロウィちゃんが10歳くらいの頃に会ったきりだから、あまりお役には立てないかもだけど……」

 

「いえ、それでもありがたいです! お願いします!」

 

「分かったわ。ロウィちゃんのためだもの」

 

 

 そう言って、老婆は昔話を始めた。

 

 

***

 

 

 ロウィちゃんに初めて会ったのは……12年くらい前かしら。お父さんに連れられて、パイプの点検のお仕事を見学していたわ。

 パイプの点検っていうのは毎月あってね?

 それからは毎月、点検日にはロウィちゃんがウチに来てたの。

 もちろんお父さんは他の家も回ってたみたいけど、ロウィちゃんったらここを気に入ったらしくて、一度来たら帰るまでずっとこの家に居たのよ。

 どうしてか、ずっと暖炉の火を見つめて目をキラキラさせていたわ。

 私もお菓子を食べさせてあげたり、おしゃべりしたり、可愛い孫ができた気分でとても楽しかった……。

 

 だけどそれから4年くらいが経って、突然ロウィちゃんとお父さんが来なくなったの。

 何かあったんだろうとは思ってたけど、まさかお父さんが亡くなってるとは思わなかったわ……。

 

 

***

 

 

「私が覚えてるのはこれだけ。あんまり参考にならないかもしれないわね、ごめんなさい」

 

「いえ、そんなことありません……。あの子を……ロウィを覚えてる人が居ただけで嬉しいですから」

 

「記憶、戻ると良いわね」

 

「はい……」

 

 

 ロヴィアは穏やかにそう答えた。

 すると、隣に座っていたノエルがロヴィアの肩を叩く。

 

 

「あら、ノエル。どうかした?」

 

「確認だが、この家にカケラがあることは分かってるんだよな?」

 

「それはもちろん。だけど、まだ場所が探知できてなくて……」

 

「アタシは分かった気がするよ。カケラの場所がどこなのか」

 

「え、本当に!? どこにあるの!?」

 

「ほら、さっきこのお婆さんが言ってたじゃないか。どうしてかずっと暖炉の火を見つめていた、って」

 

 

 そう言われて、ロヴィアは暖炉のある方へ振り向いた。

 そして老婆に尋ねる。

 

 

「ちょっとあの暖炉、正面から見ても良いですか? 記憶が戻るかもしれませんし……」

 

「ええ、もちろん。好きなだけ見てくれて構わないわ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 ロヴィアはペンダントを手に取って暖炉の目の前に行った。

 そして暖炉の火をじっと見つめる。

 ノエルたちも一緒に火を見つめるが、当然ながら見えているのはただの暖炉だった。

 

 

「どうだ、何か見えるか?」

 

「う、うーん……。パッと見た感じはないわね……。いつもだったら、何かモヤっとした光が見えるんだけど……」

 

「炎が明るいから光が見えない、ということはありませんの?」

 

「それはあるかもしれないけど、そもそも魂の器が暖炉そのものに反応してないみたいなのよね……」

 

「さっきのお婆さんの言い方だと、この暖炉は確かにロウィが見ていたもので間違いないはず。だとしたら……見ていた()()が鍵なのか……?」

 

「ノエル様、あたしが聞いてきます!」

 

 

 そう言って、サフィアは老婆に尋ねに行き、間もなく戻ってきた。

 

 

「もう少し後ろの、このソファーの前だそうです」

 

「後ろだって……? ただ後ろに下がるだけで一体何が変わって……」

 

 

 ノエルたちは後ろに下がり、再び暖炉の方を見た。

 

 

「見た感じは何も変わらないわね? でも、魂の器の反応が強まった……」

 

「うーむ、まだその時と違う状況があるってことなのか……? 何か足りないとか……?」

 

「やかん……は流石におかしいですよね?」

 

「おかしいとは思うが、やってみる価値はある。アタシが貰ってくるよ」

 

 

 そうしてノエルがやかんを暖炉の上に置くと、ペンダントの点滅がより強くなった。

 

 

「これでもまだ見えないのか? もしかして、昔ロウィが見ていた光景を復活させないとカケラが見えない……なんてことないよな?」

 

「これまでも何回か似たようなことがあったわね……。ここまで何度も段階を踏むことはなかったけど」

 

「そういえば……この暖炉、上にかまどのようなものがありますわね? ここで何か作っていたのでしょうか?」

 

「よし、それも聞いてこよう。他に色々気になることがあったらまとめて言ってくれ」

 

 

 ノエルたちはそれぞれ気になることを挙げ、それらをまとめて老婆に尋ねた。

 すると、かまどでクッキーを焼いていたこと、やかんで紅茶を入れていたこと、隣に薪が並んでいたこと、火バサミ立ての場所が違ったことなどが分かり、ノエルたちは老婆に頭を下げてその状況を再現することに成功した。

 

 

「あとでアタシたちで代金はお支払いいたしますので……」

 

「いいのいいの。ロウィちゃんのためだし、何だか懐かしくて、私も楽しくなってきちゃったから」

 

「いえ、今月と来月の点検費を私の方で返金させて頂きます。これは私なりのお礼として受け取ってください」

 

「あら……そういうことなら、お言葉に甘えるわ。さあ、クッキーがそろそろ焼けるわよ」

 

 

 ノエルたちは香ばしい匂いに心を持っていかれつつ、暖炉の方を眺める。

 ロヴィアはロウィの見ていた景色を思い描きながら、燃え盛る炎を見つめていた。

 そしてこう呟いた。

 

 

「どうして……ロウィは暖炉の方をじっと見つめていたのかしら」

 

「ロウィの気持ちになってみようとしてるのか? 残念ながら、アタシには子供の考えることなんて分からないねぇ」

 

「あたしは何となく分かる気がしますよ。炎って綺麗ですもん。ねえ、お姉ちゃん?」

 

「確かに炎は、火魔法を使うわたくしからすれば当然美しいものだとは思いますが……。ただ、ロウィさんは違う意味で暖炉を見つめていたのではないでしょうか」

 

「ふーん。何か分かったの?」

 

「まあ、結果はカケラが見つかってから、ですわ」

 

 

 しばらくして老婆はかまどを開き、中からクッキーの乗った鉄板を取り出した。

 そしてそれを網に乗せて、手でパタパタと扇ぎ、皿に乗せてノエルたちの前に置いた。

 

 

「とても熱いから、食べる時は気をつけてね?」

 

「はい、ありがとうございます。それじゃあ、私から先に……いただきます」

 

 

 ロヴィアは紅茶を片手にクッキーを食べた。

 食べた直後はその熱さに驚いていたが、紅茶を一口飲んだ瞬間、ロヴィアから笑顔がこぼれた。

 ノエルたちはそれを見て唾を飲み、我先にとクッキーに手を伸ばして食べた。

 そして美味しそうに食べている様子を、老婆はニコニコしながら見ているのであった。

 すると突然、ロヴィアが驚く。

 

 

「あ……あぁっ!?」

 

「お、もしかしてカケラが見つかったのか!」

 

「え、えぇ……。見つかったというか、いつの間にか器に収まってたというか……」

 

「いつの間にか……って、カケラがいつ出てきたのか気づかなかったってことか!? もしかして取り越し苦労だった可能性も……?」

 

「大丈夫ですわよ。今の状況が恐らく正解ですから」

 

「あ、そういえばマリン、気になること言ってたわね。さっきの答え、教えなさいよ」

 

「ちょっとここでは言い辛いので、家から出たら教えますわね……」

 

 

 こうして、ロヴィアは魂のカケラを1つ取り戻した。

 その後、ノエルたちは老婆に別れと感謝の言葉を告げて、家から去った。

 

 

***

 

 

 老婆の家から離れ、ノエルたちはマリンに詰め寄った。

 

 

「さあ、家から離れたわよ。教えなさい」

 

「ええ……。あのお婆さんは、ロウィさんが()()()()()()()()()()()()()この家にずっといた。そう言ってましたわよね?」

 

「あぁ、かなり漠然とした理由だったが……。あのお婆さんに懐いてただけじゃないのか?」

 

「それもあるかもしれませんが、もっとはっきりした理由があったはずですわ。それが、残りのカケラ探しの鍵を握っているかもしれません」

 

「別の理由? もしかして、それでさっきのカケラが見つかってたってこと?」

 

「ええ、恐らくは。ロウィさんはきっと、()()()()()()()()()()()()()()、だったのですわ」

 

 

 マリンは堂々と、そう答えた。

 サフィアはマリンに尋ねる。

 

 

「えーと……。4年間食べ続けたクッキーが忘れられない思い出になってて、クッキーそのものに魂のカケラがくっついてたってこと?」

 

「クッキーそのものと言いますか、あの場所にくっついていたと言いますか……。とにかく、あの方がいるあの場所で、あのクッキーを食べた。それが今回のカケラの回収条件だったのですわ」

 

「それ、もしあの家が無くなってたりしたら詰みだったんじゃないか……?」

 

「それについては大丈夫よ。マリンの言う通り、カケラっていうのは形としてそこにあるものじゃなくて、器が記憶として()()()()()()()()()だから。あくまでカケラの数は記憶の総数じゃなくて、思い出せる記憶の数なの」

 

「ということは、記憶の容量分だけ回収すれば良いってことか? だとしたら残りの3つが見つからなかったのって、本当にただの……」

 

「私の探索不足。だから人手が欲しかったのよ。それに、私は一度たりとも『記憶があと3つで全て揃う』なんて言ってないから」

 

 

 マリンは3人に言った。

 

 

「ということで、まあクッキーを食べるためだけに毎月来ていたなんて、あのお婆さんに聞かせるのはどうかと思ったので、外に出た次第でございましたわ……」

 

「あのお婆さんがどう思うかはさておき、確かに失礼かもね。はぁ……これであと2つか……」

 

「意外と残りの2件も食べ物関連だったり──」

 

 

 した。

 次の日尋ねた家では、ロウィが点検日の昼にカレーを食べて帰っていたという話を聞き、それを再現して回収に成功。

 さらにその次の日尋ねた家では、ロウィが点検日の夕方にハンバーグを食べて帰っていたという話を聞いて、同じく再現での回収に成功したのだった。

 

 

「ロウィの記憶……これで集まって良かったのか……?」

 

「え、ええ……。誰かと一緒に美味しいものを食べるというのはなかなかに良い思い出でしょうし、魂の器に入る記憶としては何の問題もないはず……」

 

「子供だから食いしん坊だったのか、そもそも食べることが好きだったのか……。ロウィさんにちゃんと聞く必要がありますわねぇ」

 

「あたし、ロウィさんと会うのが少し楽しみになってきたかも……」

 

 

 こうしてロヴィアは魂のカケラを集めきり、ノエルたちはロウィ復活の準備を始めるのであった。

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