魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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5頁目.ノエルと師匠とお財布と……

「やっと着いた……。東の国・ノルベン……」

 

 

 ヴァスカルから4日ほど馬車に揺られ、ノエルはクタクタになっていた。

 

 

「げっ……マズイ。今回の旅費で所持金が600G(ゴールド)しかない……」

 

 

 加えて、手持ちの財も底を尽きようとしていた。

 ノエルは震えつつもどうにか正気を保ち、ノルベンの門をくぐったのであった。

 

 

***

 

 

 ノルベンは鉱石の国。

 この国の男たちは鉱山で働いて手に入れた鉱石を街に持ち込み、国に売ることで稼ぎを得ている。

 つまりこの街は、この国で働く人たちの住宅地域でもある。

 

 

「それじゃ、とりあえず師匠の家を探す──」

 

 

 までもなかった。

 門をくぐったノエルの目線の先の高台に、周りの風景に全く溶けこんでいない奇妙な色と形をした、一軒の家が建っていたのだった。

 

 

「流石に趣味悪すぎるだろ、あの家……。ま、あの人の趣味に口を出すつもりはないけどさ……」

 

 

 ノエルは溜息をつきながらもその家のところまで歩いていった。

 

 

***

 

 

 ノエルは奇妙な家のドアを叩いて声を掛ける。

 

 

「おーい、アタシだアタシ。中にいるんなら出てきてくれー」

 

 

 ノエルは扉に刻まれた色んな形の模様を観察しながら呼びかける。

 すると中から若い女性の声が響いてきた。

 

 

「あいにく、ワタシに『アタシ』とかいう名前の知人はいない! だから出ていくつもりはないぞ、ノエル!」

 

「分かってんなら早く出てこいよ! こっちは急用なんだ!」

 

「やれやれ……これが師匠に対する態度なのかねぇ? ほらよ、鍵を開けたから自分で入ってきてくれ」

 

 

 ノエルは扉を開き、中に入りながら言った。

 

 

「あのなぁ、あんたは確かにアタシの師匠だが、言ってしまうとアタシはあんたが大の苦手なもんでね」

 

「ワタシはお前が大好きなんだけどねぇ?」

 

「はいはい、あんたが好きなのはアタシじゃなくてアタシの魔法だろ」

 

「そうとも言う」

 

「はぁ……。相変わらずというかなんというか……。それにしても……周りから見たらちっぽけな家だったのに、中はめちゃくちゃに広いねぇ。ま、それも相変わらずってことか」

 

 

 彼女はこの家の主人にしてノエルの師匠の1人。

 名前はルフールという。

 特殊魔法のひとつ、『空間魔法』を扱える大陸有数の魔女である。

 背が高いのと、白衣を常に着ているのが特徴的な女性だ。

 

 

「それで、急用だったか。どうしたんだ? もしかしてワタシに魔法を見せに……!?」

 

「そんなわけあるか、この変態が。それに、あんたに魔法を見せたら数日はその余韻に浸って活動不能になるだろ。アタシも時間が惜しいんだ」

 

「なーんだ、残念。20年の修行の成果が見れると思ってたのに……」

 

「いつかまた、な。とにかくアタシの話を聞いて欲しい」

 

 

***

 

 

 2日後、ノエルの話は終わった。

 

 

「なるほど……蘇生魔法か。それも、一切の犠牲も伴わない完璧な……」

 

「どうだ、この話に乗ってくれないか?」

 

「ま、まあ、とても魅力的ではある……。完成したらワタシも見たいものなのだが……」

 

「やはりそういう反応をするか……」

 

 

 ルフールは目元を押さえ、非常に悩んだ顔をしている。

 

 

「いや、まあ確かに優秀な魔女がたくさん集まれば蘇生だけはできる可能性があるが、どうにも完璧なものを作れるとは思えないものでね。このワタシでも失敗は怖いんだよ」

 

「だからアタシは何十年かけてでも完璧なものを作り出せる人材と、方法を探し出すんだ。最悪、蘇生魔法の発動には参加しなくてもいい。その魔法を作る方法と魔女を探す手伝いをしてくれればそれでいいんだ」

 

 

 それを聞いたルフールは何かピンときた顔をする。

 

 

「なるほど。そういうことならワタシもその話に乗ってやろう!」

 

「おお、心強い!!」

 

「その代わり、対価は頂くぞ」

 

「アタシの魔法とお金以外ならいくらでも払う」

 

「先回りしないでくれよ!?」

 

「冗談だ。魔法なら少しくらいは見せてやるよ」

 

「やったあああああ!」

 

 

 ルフールは叫び、喜びながら家の中を駆け回るのであった。

 

 

「あ、あともうひとつ頼み事してもいいかな、師匠」

 

「ん? 今ならいくらでも聞いてやるよ?」

 

「よし、言質取ったからな。お金を貸してくれ」

 

 

 ルフールは耳を疑い、もう一度聞き返した。

 すると、聞こえたそのままの言葉が返ってきたのだった。

 ルフールは呆れながら尋ねる。

 

 

「今、所持金は?」

 

「600G(ゴールド)……」

 

「師匠にお金を借りる弟子って……」

 

「本当に申し訳ない……。これまでは書き溜めた魔導書を売って儲けにしていたが、旅をしていると移動代でそれすら消えてしまって……」

 

「まぁ、ちゃんと自分でお金を得た上で無くなってるんなら仕方ないか……」

 

 

 そうしてルフールは悩むのをやめ、ノエルの目を見つめて言った。

 

 

「よし、決めた。今回のお前の旅、ワタシが手伝うのは()()()()だ」

 

「え……。な、何十年もかかるかもしれないのに?」

 

「あぁ、ワタシの財産は有り余ってるし、お前の旅の援助くらいなら100年分は軽いだろう」

 

「いや、でも流石にそれは悪いよ……」

 

 

 ルフールの手がノエルの両頬をつまむ。

 そして、ルフールはそれを軽く引っ張りながら言った。

 

 

「いいか、ワタシは空間魔法しか使えない。空間魔法なんて結界を張れるくらいで、蘇生魔法には役に立たないだろうからな。手伝えるとするならこれくらいなんだ」

 

ほんなほと(そんなこと)……」

 

「いいから黙ってこの条件を飲んでくれ。弟子にいい格好したいだけの、師匠のワガママだと思ってくれよ」

 

 

 ノエルの目に映っていたのはルフールの真剣な表情。

 ノエルは彼女のこんな真面目な顔を見たことがなかった。

 そしてルフールの手がノエルから離れた後、ノエルは言った。

 

 

「分かった。それがあんたのためにもアタシのためにもなるのなら、頼もう。お世話になります、師匠」

 

「あぁ、お世話任された。これからもよろしく、ノエル」

 

 

 2人は握手を交わし、椅子に座った。

 その瞬間、ルフールは目を光らせながらノエルにこう言った。

 

 

「ってことで、早速どうぞ!」

 

「は……?」

 

「いや、だから魔法を見せてくれるんだろう?」

 

「ほ、本当に早速だな!?」

 

 

 ノエルは溜息をつき、魔導書を取り出す。

 

 

「はぁ……何が見たい? 束縛系と呪い系以外なら何でもいいぞ」

 

「だから先回りしないでくれよ!?」

 

 

 こうしてかつての師弟関係は、妙な利害の一致により蘇ったのであった。

 

 

***

 

 

 それから数時間後、ノエルはルフールから空の財布を渡された。

 

 

「何だい、これ。空っぽじゃないか」

 

魔具(まぐ)というやつだ。その中に手を入れて『エイプリー・ルフール』と唱えれば、一度につき2000G(ゴールド)がワタシの金庫から消える」

 

「うわ、物騒だな……。とはいえ、もし盗まれたらどうするんだい? お金がいくらでも出てくる財布なんて、みんな喉から手が出るほど欲しいものだろう?」

 

「本来は盗まれないようにすべきだけども、もしもがあっても大丈夫だ。これが使えるのは1日に1回限りだからね。0時になればもう一度使えるようになる」

 

「つまり、朝に一度使えば盗まれる危険性はほとんどない……か。よく考えられてるもんだ」

 

 

 そう言って、ノエルはローブの裏にその財布を仕舞った。

 

 

「もちろん普通に財布として使ってくれても構わないよ。ワタシが改良する前は、願った金額分のお金を出し入れできる便利な財布だったんだ。つまり元々は容量が無限の財布というわけだ」

 

「なるほど。新しくお金を引き出せるのは1日に1回限りだけど、それまでに引き出したお金はいつでも出せるってことか。便利すぎる……」

 

「もちろん使い方を誤ると身を滅ぼす財布だけどね。ノエルなら大丈夫だろう。大事にしてくれよ?」

 

「あぁ、もちろんだ。大切に使わせてもらうよ」

 

 

 それから、ノエルは1週間ほどルフールの元に泊まり、ほぼ全ての魔法を見せた後、再び旅に出るのであった。

 なお、その後の4週間、ルフールはノエルの魔法を思い返すたびに感動し、興奮し、眠れない夜が続いたという。

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