魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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6頁目.ノエルと忠告と噴水と……

 ノエルがノルベンを出発し、他の街へと優秀な魔女を探しに行ってから、さらに2年が経過した。

 と言っても、新しい国へと向かったわけではなく、メモラからヴァスカル、ヴァスカルからノルベンの間にあった小さな村や町を訪れていたのである。

 その中で魔女を数人見つけることはできたものの、魔女をやめた者であったり、魔法を思うように使えない者ばかりであった。

 そしてノエルは三国間の全ての町々を周り尽くしたが、優秀と言えるほどの魔女は見つからなかったのであった。

 

 

「さて、次の目的地はどこにしようか……」

 

 

 地図を開いた瞬間、ノエルはクロネの言葉をふと思い出した。

 

 

「『次の行き先に迷ったらセプタに行け』か……。まあ、間違いなく何かがあるんだろうが……」

 

 

 ノエルは地図に羽根ペンで自分が行った町に×をつけ、地図を閉じ、カバンに戻す。

 

 

「あの人の忠告や助言は聞いておくに越したことはないからねぇ……。仕方ない、少し遠いが行ってやろうじゃないか」

 

 

 ノエルは西の国・セプタに行くことのしたのであった。

 

 

***

 

 

「ふう、やっと着いた……」

 

 

 二週間ほど歩き、ノエルはようやくセプタの中にある街に到着した。

 ノエルの知る限り、セプタには特に深い歴史があるわけでも、特に何かの名所があるわけでもないため観光客などはほとんど来ない。

 そのため馬車がセプタまで届いておらず、ノエルはいくつも街を経由しつつ徒歩でここまで来たのであった。

 

 

「やれやれ……。果たして本当にこの国に魔女はいるのかねぇ……」

 

 

 クロネの言葉を信じたい反面、見つからなかった時のことも考えてしまうノエルだったが、自分で気合を入れ直す。

 

 

「ま、基本は聞き込みからだ。誰かいないかな……っと……。お、いたいた」

 

 

 ノエルは家から出てきた若者に声をかけてみた。

 

 

「ん? よそ者とは珍しいな」

 

「ああ、人を探して旅をしているんだ。この国に魔女がいるか知っているかい?」

 

「魔女? うーん……知らないな。そんな話は聞いたこともないよ」

 

「そうかい、どうもすまないね」

 

 

 そうしてしばらくノエルは聞き込みを続けてみたが、誰も魔女の居所については知らないようだった。

 

 

「なるほど……つまりこの国には有名な魔女ってのはいないわけだ……。それなら、次は魔力の痕跡探しだね」

 

 

 魔法を使った後、魔力は光る塵のように残ることがある。

 例えば魔法で付けた火があれば、その火があった場所と火の粉が辿った場所には微かに火の魔力の痕跡が残る。

 普通は目に見えるものではないが、ノエルは集中することで魔力の痕跡を感知することができた。

 

 

「まずは……火……は昼間だからどこにも灯ってないね。次は土……だがこの国は家が全て岩石でできているせいで感知するのは難しい……。なら水は……ん?」

 

 

 ノエルはこの国の異変に気が付いた。

 

 

「そういやここに来て一度も井戸や蛇口を見てないね……。用水路はあるのに、水の供給が整備されていないとは思えない……。じゃあ、水はどうしてるんだ……?」

 

 

 すると、そこに1人の少女がノエルの前を横切った。

 

 

「お、丁度いい。そこのちびっ子、水はどこで飲めるんだい?」

 

 

 ちびっ子と呼ばれたその少女はくるっと振り返り、ノエルを見る。

 

 

「私はちびっ子って名前じゃないもん! サフィアって言うの! あなたは誰?」

 

 

 サフィアと名乗るその少女は綺麗な蒼い長髪で、ふたつ結びをしていた。

 ノエルはその綺麗な髪に一瞬見惚れつつ、少女に答えた。

 

 

「アタシはノエルという。サフィア、さっきの質問に答えてくれないか?」

 

()()()? ()、じゃないの?」

 

「ん、んん……違う質問で返されるとは……。え、ええと、何というか強そうだろ! だから気にするな! それで水はどこで飲めるんだい、サフィア」

 

「強そう……確かに! 強そうね!」

 

「うう……これだから子供は苦手なんだ……。イースみたいな子は稀なのかねぇ……」

 

 

 サフィアはノエルのローブをめくったり、周りをぐるぐる回ってずっと見てきたりと落ち着かない様子だった。

 それからしばらくしてサフィアが落ち着いたところを見計らって、ノエルは質問し直した。

 

 

「さぁサフィア、水飲み場を教えておくれ?」

 

「うん、分かったわ。みんなあっちにある噴水から水を汲んでるのよ。えーと、街に一つしかない噴水? らしいわ。ノエルも喉が渇いたのかしら?」

 

「(噴水……? この街の人口に対して、一つの噴水だけで水を配分するなんてできるはずが……)」

 

 

 ノエルは少し考え、サフィアに言った。

 

 

「あ、あぁ、そうだ。案内してくれ、サフィア」

 

 

 サフィアはノエルを国の中央に位置する噴水に案内した。

 

 

***

 

 

「こ、れは…………本当にただの噴水じゃないか……」

 

 

 それはノエルの背ほどの小さな噴水で、上へ噴き出した水が下の器に溜まっている。

 人々はそこから水を汲んでいた。

 

 

「水を飲みたいならそこの線に並ぶのよ。水汲みなら反対側の線ね」

 

 

 ノエルは水を飲む方の列に並んだ。

 そして順番が来て、ノエルは水を手ですくい、飲んでみた。

 

 

「こいつは……水魔法で作り出した水じゃないか……! それに、ただの水じゃない。数滴で喉が潤うなんて……! そりゃ、これくらいの大きさで全て事足りるわけだ……」

 

「この噴水は私のおばあさまが作ったものなの。ずっとこの国が溢れる水で満たされますようにって」

 

「……今なんて?」

 

 

 ノエルは振り返り、聞き返す。

 

 

「この国が溢れる水で……」

 

「その前!」

 

「この噴水は私のおばあさまが作った……」

 

「そう、それだ! それだと、サフィアのおばあさまってのが魔女ってことになるが……。そうだ、お前の家に連れて行ってくれないか!」

 

「え、ええと……そこが私の家だけど……。ちょっと待って? お母さまに聞いてみるわ」

 

 

 サフィアは自宅に駆け込み、しばらくして母親らしき女性が家から出て来た。

 

 

「ええと……何用でございましょう?」

 

「失礼だが……あんたは魔女かい?」

 

 

 サフィアの母親は一瞬驚き、答える。

 

 

「い、いいえ……? ですが、今日のところはお引き取りください……」

 

 

 サフィアの母親は明らかに動揺している。

 

 

「おや、用は聞かないのかい」

 

「……あの子に何も吹き込んでませんよね?」

 

「あの子……? あぁ、サフィアか。吹き込むって何を?」

 

「い、いえ、特に何もないならいいのです……」

 

「まさか、おばあさまってのが魔女だってこと、あの子は知らないのかい?」

 

 

 それを聞いた瞬間、サフィアの母親の顔が歪んで固まる。

 そしてノエルを見る目は明らかな警戒へと変わっていた。

 

 

「あなたは何者ですか……」

 

「アタシは魔女だ。ちょいと各地を周って他の魔女を探してる」

 

「なるほど……。それならこれからの話はサフィー……サフィアには内緒ですからね……?」

 

 

 ノエルは頷き、耳を傾ける。

 

 

「サフィーが言うおばあさま……私の母は、サフィーが生まれる前に亡くなりました……。魔女だったのですが、私はそんな母が嫌いだったんです……」

 

「ほう……?」

 

「近所の人から『魔女の子供だ』などと指を指されるのはいつものことでしたから……」

 

 

 ノエルはそれを聞き、辛そうな顔をする。

 

 

「ですが母は死ぬ直前、干ばつで水不足に苦しめられていたこの街に、限りなく水が湧き出る噴水を作り与えたんです……。それと同時に母の希望で、魔女だった、という記録も街中から消され……」

 

「それがあの魔法の水が出る噴水……」

 

「はい。それ以降は私は偉業を成し遂げた人の子供として扱われるようになり、サフィーにもその話だけ伝わっているのです……。実際、この街で起きた水不足はそれで無事に解決しましたから……」

 

「なるほど……。あんたの母親は最後にあんたを守るための魔法をかけてくれたってことか……。まあ、その話が聞けただけでも十分だ。今日のところは帰るとするよ」

 

「本当にすみません……。サフィーにも帰ったと伝えておきますから……」

 

 

 そう言って彼女は家に戻り、ノエルは宿を取りに行った。

 

 

***

 

 

 その日の夜、宿にて。

 

 

「さて、この時点でありえないことが起きている。それは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということだ」

 

 

 お酒を飲みながら、ノエルは一人で語り始める。

 

 

「魔法は発動と取消ができる。だが、一度発動した魔法は発動した本人が死んだ場合、取り消される……。なのになぜあの噴水の水魔法はあんなに新鮮なまま生きているのか……。うーむ……」

 

 

 ノエルは頭を抱えながらさらに酒を注ぎ、それを飲み干す。

 

 

「サフィアは魔法という存在を知らないらしいし、母親は魔法が使えるような魔女じゃなかった……。それなら間違いなくアレだ。『魂と魔力の変換』……」

 

 

 魔導士の魂、特に魔女の魂は魔力の塊である。

 死ぬ寸前に全ての魔力を使って魔法を発動することで、術者の魂を核としてその魔法が発動したままになることがあるという。

 

 

「だかしかし……あそこまで純度の高い水魔法は初めて見た……。どうすればあんなに綺麗な魔力が出せるんだ……ってそこじゃなかった。」

 

 

 ノエルは首を振る。

 

 

「つまりこの国の魔女さんはもうとっくに死んでて、アタシが来た意味はなかったってことだ……。くそっ……!」

 

 

 酔いが回ってきたのか、だんだんとフラフラしてくる。

 

 

「うっ……流石にもう寝るか……。明日の昼にでも次の街に行かないと……」

 

 

 その日ノエルはすぐに眠りにつき、次の日の朝を迎えるのであった。

 

 

***

 

 

「ノエル! おーーきーーてーー!!」

 

 

 耳元で少女の甲高い声がガンガンと響く。

 

 

「んあぁぁ!? サフィア!? どうしてここにいるんだ!?」

 

「ここの宿に泊まってるって聞いたから来ちゃった!」

 

「い、いやいや、来ちゃった! じゃないよ! もうアタシに用はないんじゃないのかい?」

 

「え……? ノエルはもう私に会いたくない……?」

 

 

 サフィアはうるうると涙目になり、手で顔を覆う。

 

 

「い、いや、そういうわけじゃ……」

 

「じゃあ決まりね! 今日は私がこの国を案内してあげる!」

 

 

 コロッとサフィアの表情が変わり、明るい笑顔になる。

 

 

「お前……さては嘘泣きだったな!?」

 

「えへへ! じゃ、早く! 置いてくわよ!」

 

 

 サフィアはノエルの袖を強引に引っ張る。

 

 

「ま、待て、サフィア! 朝食くらい取らせてく……ああもう! これだから子供ってやつは……!」

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