魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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69頁目.ノエルと『あいつ』と魔女狩りと……

 16年前に魔女狩りを引き起こした原因が、ドミニカの言う『あいつ』であることを知ったノエルたちは、戸惑いを隠せぬままドミニカの尋問を続けた。

 

 

「い、一度話を整理させてくれ。お前は『あいつ』が魔女狩りを引き起こしたって、なぜ知っているんだ? お前が力を手にしたのは7年前だ。まさかそれ以前に『あいつ』と関わってたってのか?」

 

「いつ関わったかは問題じゃない。あの力を手にした時点で、あいつの過去が分かってんだよ」

 

「過去が分かるですって……? あなた、一体何を言っているんですの? それに、急に重要な情報らしきものを話し始めるなんて、どんな風の吹き回しで……」

 

「どうせお前らが知ったところで何の意味もないからだ。実際、今のも何のことかも理解できてないみたいだしな!」

 

 

 それを聞いたノエルたちはピクッと反応し、ニヤリと笑った。

 

 

「……おいおい。お前、アタシたちを誰だと思ってる?」

 

「そんじょそこらの魔導士とは一味違う探究心の塊、旅する若魔女ですわよ?」

 

「そんなの、あたしたちが理解できるまで話してもらうに決まってるでしょ!」

 

「はぁ……。もしかしなくても……俺が話さない限りこの部屋から出さないつもりじゃ……」

 

「拷問なんだから当たり前だろう?」

 

 

 ノエルたちはにっこりと満面の笑みを浮かべる。

 ドミニカは濡れた髪を払ってノエルたちを一見し、溜息をついて言った。

 

 

「……仕方ねえ。魔女狩りの生き残りがいるってだけで、もう俺が黙る意味は消えたようなもんだからな。全部教えてやるよ」

 

「なに……? そいつは一体どういう意味だ……?」

 

「話には順序ってもんがある。そいつも追って教えてやるから、今は黙ってろ」

 

「ちっ、話してくれるだけマシか……。じゃあ、全部話してもらうぞ」

 

「そんじゃ、最初は俺らが何者か……そこからだな。紋章を見せろ」

 

 

 マリンは紙に描いた紋章をドミニカに見せる。

 その紋章は、大きな円の中央に黒と白の羽根が斜め十字に重なっており、二本の羽根は円の上部から突き出ている。

 また、羽根と羽根の間にある右・左・上の3つの隙間には、それぞれ瞳の模様が描かれていた。

 そして、円に沿って何かの文字が書いてあった。

 

 

「まず、その紋章は『あいつ』が作ったもんだ。その紋章そのものが原初の大厄災を表してんのさ」

 

「この黒い羽根と白い羽根……。まさか、ノエル様の昔話に出てきた2人の羽根ペンの……?」

 

「そもそも羽根ペンに使われてる鳥の羽根は基本的にその2色だ。原初の魔女とは直接的には何の関連もない。その黒い羽根と白い羽根ってのは、原初の魔女・ファーリが大厄災となった時に背中に生えていた翼の象徴なんだろうさ」

 

「へえ、よく分かったな。じゃあ、3つの眼の意味も分かるな?」

 

「あぁ、ファーリの人間としての2つの眼と、大厄災となった時に現れたという額の3つ目の眼か。だが、あまりにも直接的すぎないか? アタシは気づかなかったが、気づく人は気づくんじゃ……?」

 

「その紋章に書かれた文字が隠蔽の魔法の術式になってるんだ。だから誰も俺たちの存在に気づかねえ。実際、文献には全く残ってねえだろ?」

 

 

 ノエルが紋章の文字を読むと、確かに魔法の術式が書いてあることが分かる。

 

 

「それなら、なぜさっきアタシはその紋章を思い出せたんだい? お前だって紋章のことを覚えているし、それじゃ隠蔽になってなくないか?」

 

「過去のことは記憶の片隅には残ったとしても、全てを思い出せるわけじゃねえだろ。普通の連中にはその程度の隠蔽で十分だったんだよ。逆に、その紋章についてっていう特定の記憶を思い出せば、記憶にはっきり残るってわけだ」

 

「紋章のことはよく分かりました。ですが、結局あなた方とその紋章にどんな関わりが?」

 

「おっと、そうだった。その紋章の名は『災印(ファーレン)』。あいつの力を得た者を示す仲間の証だ。俺たちはそれを目印に仲間を判断している」

 

災印(ファーレン)……。それでは、あなた方は仲間がいるにも関わらず、その仲間のことは知らないということですのね? 一体どういうことですの?」

 

 

 ドミニカは地べたに座ったまま足を組み直し、言った。

 

 

「俺たちはあいつの野望を果たすために力をもらっただけで、それ以外の共通点は特にねえんだよ。共通の集まる場所があるわけでも、全員にそれぞれ何か繋がりがあるわけでもねえ。ただあいつの野望を果たすのが使命なのさ」

 

「じゃあ、『あいつ』の野望ってのは何なんだ?」

 

「大きく言えば『原初の大厄災の再演』だ。そのために各地から大厄災の呪いの残滓とか、濃厚な魔力を持つ魔導士を集めているって聞いたな……。あぁ、細かい目的は知らねえからな。俺らは力をもらった対価を支払ってるだけだ」

 

「そのためにお姉ちゃんに近づいたのね……。それに加えて、お姉ちゃんの代わりにあたしを連れて行こうとしてたような……」

 

「まあ、俺はこうやって投獄されて、その力も今は消えちまったわけだから、俺があいつに協力する義理もなくなったってわけだ。他の奴らにお前らが狙われる可能性は大いにあるが、あの光魔法があれば関係なさそうだしな」

 

「では、呪いらしき魔力を感じた瞬間に発動できるくらいには練習しておきませんとねぇ……」

 

 

 ノエルはドミニカに尋ねた。

 

 

「そうだ、お前たちに名前はあるのかい? その『あいつ』にも、だ」

 

「さあ、あいつにちゃんとした名前があるのかは知らねえな。あいつは俺たちのことを『災司(ファリス)』って呼んじゃいるが」

 

「ん……? 『あいつ』には会ったことあるんだろう? 仲間なら名前くらい教えるもんじゃないのかい?」

 

「いいや、誰もあいつに会ったことなんざねえよ。男なのか女なのか、大人なのか子供なのか、それすらも分からねえ」

 

「はい……? ではどうやってその力を手にしたと?」

 

「夢の中さ。何でもするから誰にも負けねえ力を手にしたい、そう思ったらあいつが夢に出てきたんだ。それから毎日のようにあいつの過去話を聞かされて、そしたらある日の朝にあの魔導書が枕元に置いてあったのさ」

 

 

 ノエルたちは一瞬、言葉を失った。

 そして、ノエルは我に返って言った。

 

 

「信じられないことではあるが、恐らくその夢ってのは魔法の一種だろう。呪いの力がどんな魔法かも分かってない以上は、こいつの言うことを信じるしかないさ」

 

「そう、あいつの力に理屈なんて通用しねえ。ただ分かっているのは、あいつが呪いの力を分け与える存在だってことと、色んな手を使って原初の大厄災を再び引き起こそうとしているってことだけだ」

 

「それが『あいつ』とあなた方『災司(ファリス)』と、呪いの力の関係ってことですわね。とはいえ……いつまで経っても『あいつ』はややこしいですわね。何か勝手に名前でもつけましょうか」

 

「そうだな……。じゃあ、『誰も知らない者(アンノウン)』とでも名付けておこう。それで……そうだ。そのアンノウンがお前に教えてくれたっていう、魔女狩りを行わせた理由は何だ? 原初の大厄災とどう関係している?」

 

「端的に言うと、原初の魔女・ファーリが大厄災になった原因を引き起こす実験を、対象をファーリの故郷であるメモラに住む魔女に絞って行ったのさ」

 

「原初の魔女が大厄災になった原因……? そういえばノエル様からそんなお話を聞いたことがあるような──」

 

 

 サフィアがノエルの方を見ると、ノエルは目を見開いたまま、怒りと悲しみと苦しみといった色々な感情が籠った表情をして固まっている。

 マリンはその顔を見てハッとし、ドミニカを力強く睨んで尋ねた。

 

 

「まさか……。アンノウンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()気だったと……。そう言いたいんですの!?」

 

「あぁ、その通りだ。だが、さっきも言ったが俺を睨まれても困る。俺はそれには関わってねえし、あいつ……アンノウンがどう関わったかまでは知らねえ」

 

「ええと、確か原初の魔女が大厄災になったきっかけって……」

 

「あくまでノエルやおばあさまから聞いた伝承でしかありませんが、自分が信じていた魔法という力を殺しに使われ、心を病んでいたこともあって全てに絶望して暴走した。そういう話だったはずですわ」

 

「そうだった……。すごく……悲しいお話……」

 

「まあ、アンノウンは魔女狩りをファーリの故郷で起こして、魔女を迫害するだけでその条件を満たせると思ってたんだろうさ。普通の魔女がファーリと同等の魔力なんて持ってるわけねえのに」

 

 

 ノエルは俯いて手を握りしめ、そのままボタンが乗っている机に強く打ちつけた。

 マリンたちも口をつぐんで顔を伏せる。

 そしてノエルは、か細い涙ぐんだ声で言った。

 

 

「どうして……どうしてそんなことでアタシは……。無関係のイースを失わなきゃいけなかったんだよ……」

 

「……なるほど。魔女狩りに家族が巻き込まれちまったのか。恨むならアンノウンを──」

 

「恨んでるさ! 一生許すつもりはないよ! だけど……! だけど……ただの実験なんてくだらない目的に巻き込まれて無駄死にするなんて、あいつが可哀想にも程があるじゃないか……!」

 

「ノエル……」

 

「ノエル様……」

 

 

 ドミニカは黙り込み、マリンたちも心配そうにはしているものの声をかけづらそうにしている。

 するとしばらくして、サフィアはひとつ深呼吸をした。

 そしてノエルの元へと行き、ノエルの握った手にそっと触れる。

 そのままサフィアはその指を解き、両手で優しく包み込んで言った。

 

 

「ノエル様……。もう今日は帰りましょう? それで、帰ったら好きなだけ泣いてください、怒ってください、寝てください。辛いことは忘れてなんて、誰も言いませんから……」

 

「サフィー……。アタシは……」

 

「そうですわね……。続きはわたくしが聞いておきますから、サフィーと一緒に戻っていてくださいな。これ以上はあなたの心身に障りますわ」

 

「……あぁ、そうだな。すまないね……。マリン、サフィー……」

 

「いえ……。大事な師匠のためですもん……」

 

 

 サフィアはぐったりするノエルの腕を肩に回し、荷物を持って扉を開いた。

 こうしてノエルはサフィアに連れられて、闘技場の宿泊部屋に戻ったのだった。

 

 

***

 

 

「さて、最後のお話といきましょうか」

 

「あぁ……そうだな」

 

「最後の質問ですわ。ノエルが……魔女狩りの生き残りがいるだけで、なぜあなた方の利益になるのです?」

 

「そうだ、その前に確認させてくれ。あの女、あの性格とさっきの様子……その家族が殺された時に魔力が暴走したんじゃねえのか?」

 

「ええ……。我を忘れて、自分を殺しに来た兵士を10人ほど……と聞いてますわ」

 

「やっぱりそうか……。だったらアンノウンに気をつけな。あいつの一番の目的は原初の大厄災の……いや、原初の魔女・ファーリを復活させるための母体を見つけることだからな……!」

 

「なんですって……!?」

 

 

 マリンは食い入るようにドミニカの目を見る。

 

 

「……嘘ではなさそうですわね。もしや、それが魔女狩りの生き残りがいることによる、あなた方の利益……?」

 

「その通り。だが、もう俺は力を失って、あいつの意図を知ることもできなくなった。だから詳しいことは分かんねえ。ただ俺は、アンノウンが呪いの残滓を集めてファーリの復活を目論んでいるんじゃないか、そう踏んでいる」

 

「魔女狩りもその目的のための準備に過ぎなかったと……。本当にアンノウンとは何者なんですの……?」

 

「さあね……。俺だって、あいつが教えてくれたいくつもの目的を推測で繋ぎ合わせてるだけだ。これが本当かは分かんねえ。だが、注意するに越したことはねえだろ」

 

「そのことをあなたの仲間たち……災司(ファリス)たちは知っているんですの?」

 

「呪いが消えた時点でアンノウンの夢は見なくなった。だから連中にバレてるなんてことはねえはずだ。まあ、どこにあの女の情報が転がってるかは知らねえけどな」

 

「なるほど……。それは確かに注意しておかねばなりませんわね……」

 

 

 マリンは目を閉じて少し考え、そして静かに目を開けた。

 

 

「……ふう。では、以上ですわね。拷も……尋問を終了しますわ」

 

「薄々気づいちゃいたが、お前……相当キレてんな?」

 

「ええ……それはもう、あなたのせいでオクトーは負けるわ、大会はめちゃくちゃになるわ、それに加えてわたくしが借金する羽目になるわで、今でもこのボタンを押したくて押したくてたまりませんわよ!!」

 

「はぁ……。反省する気なんてもんはねえけど、死刑になるならお前に殺されるのは本望かもしれねえな……」

 

「そんな人殺しなんかに手をかけるつもりは毛頭ありませんわよ。大人しく勝手に牢屋で寿命を全うしなさいな。それでは、二度と会うことはないでしょうけど、さようなら」

 

 

 マリンが手を振って後ろを向いた瞬間、ドミニカは自嘲気味に笑った。

 

 

「あぁ……そういや俺、お前に負けたんだったな。流石に3人相手はキツかったけど、あのまま1対1でも俺、負けてたかもな……」

 

「呪いの力があった以上、それはなんとも言えませんわ。ですが……一回戦と二回戦、あれは見事でした。あなたの本当の実力は、確かに優勝者に相応しいものでしたわ」

 

「はは……。まさか、天下の魔女様に自分の力を認めてもらえる日が来るなんてな……。もう少し頑張ってりゃ、こんな所で人生終わることもなかったのかねえ……」

 

「もしそんな運命があったのだとしても、あなたの罪は消えません。ですが、そんな運命があったのなら、わたくしの隣にいたのはあなたかもしれませんわね?」

 

「へっ……冗談はよしてくれ。誰がお前みたいな血の気の多い女を好きになるかってんだ」

 

「あら、それは残念。振られてしまいましたわ」

 

 

 マリンはクスッと笑い、振り返って手を振った。

 

 

「それでは……また」

 

 

 そう言って、マリンは尋問室から出ていった。

 ドミニカは1人残されたまま、しばらく笑い続けていたという。

 

 こうして、マリンはドミニカとの決着をつけ終わり、久しぶりに一人泣きながら帰路についたのだった。

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