魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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70頁目.ノエルと煙と夢物語と……

 その日の夜、サフィアは泣きじゃくるマリンの背中をさすりながら、眠りつつうなされているノエルの手をもう片方の手で握っていた。

 

 

「ノエル様は仕方ないとして、まさかお姉ちゃんまでこんなになって帰ってくるとは思わなかったわ……」

 

「だっで……グスッ……。フラれるなんて久しぶりすぎて……不意打ちで過去のフラれた悲しい記憶ばかりを思い出してしまって……グスッ……」

 

「お姉ちゃん、そんなになるほど本気で恋愛したことあったの?」

 

「あら、過去にわたくしを振った方々とは本気で恋愛してましたわよ。まあ……それがただの片想いだったと知った時の衝撃たるや、何度味わっても慣れない凄まじいものでしたが……」

 

「……うん、ゴメン。これは聞いたあたしが悪かったわ……。その話は掘り返しちゃいけないやつだもの……」

 

「はぁ……。修行相手を恋人に頼もうとするなんて、昔のわたくしはどれだけ愚かだったのでしょう……。魔女同士の方がよほど修行になりますのに……」

 

 

 マリンは過去を省みつつ、ハンカチで涙を拭く。

 そして自分の背中にあったサフィアの手をノエルの手の上に置かせ、マリンはノエルの様子を伺う。

 すると、うなされていたノエルは次第に落ち着き、すやすやと寝息をたて始めた。

 

 

「それはそうと……。見たところ、かなり参っていたみたいですわね……。帰っている途中とか何か言ってました?」

 

「ううん、特には何も。まあ、実はノエル様、お城から出た瞬間に疲れからか気を失っちゃってたのよね。蒼の棺桶(アクア・ベッド)で運ぶので一苦労よ」

 

「それはご苦労様。この様子ですと……閉会式の日まではわたくしも仕事を早めに切り上げて、様子を見に来た方が良さそうですわね」

 

「大丈夫なの? 一応支配人なんだし、仕事も多いんじゃ……。それに、オクトーさんもまだ万全じゃないんでしょ?」

 

「お姉ちゃんを舐めてもらっては困りますわ。オクトーがいなくても、ちゃんと仕事くらいテキパキこなせます。まあ、早めに終わらせるとなると、多少骨は折れますが」

 

「そう。それならいいんだけど。っていうか、別にあたしやることないし、わざわざお姉ちゃんが様子見に来なくても……」

 

 

 サフィアはそう言ってハッとし、マリンの顔を見て穏やかに溜息をついた。

 

 

「あぁ、そうだよねー? ずっと一緒にいたんだもん、そりゃ心配にもなるわよねぇ?」

 

「サフィーったら、全くもう……。お姉ちゃんだからって、からかうんじゃありません」

 

「でも……うん。そうしてくれたらきっと、ノエル様も喜んでくれると思う。今、ノエル様の傍にはあたしたちしかいないんだから……」

 

「早く立ち直ってくれることを祈るばかりですわ……。でないと、わたくしも本調子が出ませんし……」

 

「あはは、もしかしたら明日起きたらケロッとしてるかもよ? そんな簡単な話じゃないだろうけど、ノエル様ならあり得るかも……?」

 

「ふふ……。そうですわね。とにかく今はぐっすり休ませてあげましょう……」

 

 

 そう言って、マリンは隣のベッドで横になり、サフィアはノエルのベッドに添い寝する形で横になった。

 サフィアは枕元の灯りを消し、2人はおやすみなさいと静かに呟いた。

 

 

***

 

 

 次の日の朝。

 マリンとサフィアが朝食を部屋に運んできたところに、ノエルが起きてきた。

 2人は心配そうにノエルを見つめるが、ノエルは何事もなかったかのようにあくびをして言った。

 

 

「おはよ……」

 

「お、おはようございます!」

 

「おはようございます、ノエル。眠そうですわね?」

 

「あぁ、いつ寝たか覚えてないが、寝付けなかったのは覚えてる……。変な夢見ちまったし」

 

「変な夢……? どんな夢ですか?」

 

「うーん、はっきりとは覚えてないが……。何か黒い煙みたいなものが見えたような……」

 

 

 マリンはその瞬間、ドミニカの話を思い出した。

 

 

『アンノウンに気をつけな。あいつの一番の目的は原初の大厄災の……いや、原初の魔女・ファーリを復活させるための母体を見つけることだからな……!』

 

 

「(もし、アンノウンがノエルに近づくとしたら、きっと他の災司(ファリス)たちと同じ夢の中……。まさか、もうノエルの存在がバレて……!?)」

 

 

 マリンはハッとし、血相を変えてノエルに尋ねた。

 

 

「ノエル! その黒い煙って、どんな感じですの!?」

 

「ど、どうしたんだよ、急に。はっきり覚えてないって言ったろう?」

 

「覚えている分で構いませんから!さあ、さあ!」

 

「そ、そうだな……。ええと、あれは……アタシの家の前だったか……?」

 

「イースさんと過ごした、メモラの方の家ですわね?」

 

「あぁ、そうだ……。あの光景は……アタシがあの魔女狩りの日、兵士の連中を殺したあとの……。うぐっ……」

 

 

 突然、ノエルが頭を抑えてその場でよろけた。

 それを、いち早く異変に気付いたサフィアが倒れる寸前で受け止めた。

 

 

「ふう、間一髪……。ノエル様、大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ……。ありがとう、サフィー」

 

「ゴメンなさい……。気が急いたあまりに、嫌なことを思い出させてしまいました……」

 

「良いさ、どうせ夢で見た本当の話なんだから……。黒い煙ってのも、魔法で殺したあとの兵士からたち上る煙だったみたいだ」

 

「ノエル様……」

 

「……また戻って少し休みます? 食事はサフィーに任せますけれど」

 

 

 ノエルは少し考えたあと、自分の両頬を両手でパンッと叩いてこう言った。

 

 

「大丈夫だ、心配するな。アタシだってイースの死とはずっと向き合ってきたんだ。今さら、アタシがどれだけ悩んでも仕方ないじゃないか!」

 

 

 そう言って、ノエルは姿勢を戻して伸びをする。

 力一杯伸びたあと、ノエルはニヤリと笑ってこう言った。

 

 

災司(ファリス)上等、アンノウン上等だ! あいつらを許すつもりはないが、だからって連中に復讐するつもりも連中の邪魔をするつもりもない! だが、もしアタシたちの邪魔をするってんなら……」

 

「あたしたちが徹底的に!」

 

「ボッコボコにしてやりますわ!」

 

「あぁ、だからアタシのことは気にするな。まあ、今朝は悪い寝覚めだったし、昨日の事情聴取に行った件は多少なりとも後悔してるけど……」

 

「ノエル、睡眠に対してはうるさいですものねぇ。でも間違いなく昨日だけで、国王様にお伝えできる有益な情報を得ることはできましたわ」

 

「そういえばそういうお仕事だった! 内容があたしたちに関係あり過ぎて、当の目的忘れちゃってたわ……!」

 

 

 3人は笑い合い、それから食卓についた。

 こうして3人の変わらぬ朝がまた今日も迎えられたのだった。

 

 

***

 

 

 その数日後にはマリン杯の閉会式と表彰式、そして賭け金の支払いが行われ、盛況のままマリン杯は無事に幕を閉じた。

 それからさらに3日後、ドミニカについての報告を終えたノエルたちは、再び旅支度を始めていた。

 

 

「この部屋ともしばらくおさらばですわねぇ……」

 

「こんな広くて立派な部屋をタダで借りれるなんて、もう二度と味わえない贅沢だったねえ……」

 

「食事は美味しいし、ベッドもふかふか。あとはここから見える景色が良ければ最高の部屋だったのに……」

 

「地下に作った部屋である以上、それは難しい話ですわ。あっ、それならいっそのこと、プリングのどこかに別荘を建てても良いかもしれませんわね!」

 

「急にお金持ちの発想だな!? さてはお前、借金のこと忘れてないか……?」

 

「はぁ……。忘れていたら、こんな夢物語なんて語りませんわよ……。しばらくはまたそのお財布に頼ることになりますわね」

 

 

 マリンは、ノエルが荷物整理のためにカバンから取り出した布財布を見つめる。

 流石に8年以上使っているだけあって布がくたくたになっており、所々インクの汚れがこびりついている。

 

 

「あぁ……。お前の収入に期待していたんだがなぁ……」

 

「元々ここに来るまでは視野にも入ってなかったじゃありませんの。結局同じですわ同じ」

 

「あはは……。でも、たまに贅沢するのはいいけど、やっぱりいつものギリギリな生活もあたしは好きですよ?」

 

「ギリギリな生活が続く前提でそんないい笑顔をされると、流石のアタシも心が痛い……」

 

「こ、今度からはわたくしも積極的に節制に協力しますから! 借金が返せれば、残った収入をこちらに充てることもできますし! お願いですから、サフィーはそれ以上笑わないでくださいまし〜!」

 

 

 そんなことを話しているうちに、準備が整った。

 するとそれと同時に、部屋にオクトーが入ってきた。

 

 

「おや、準備は万端のご様子で」

 

「あぁ、お世話になったね。主にマリンが」

 

「わたくしの名前は余計ですわ。この部屋だって、ここで食べていた食事だって、全部オクトーが時間をかけて準備してくれたものなのですから、失礼ですわよ」

 

「おっと、そうだったのかい。それはすまなかった」

 

「いえいえ、今はマリン様のお役に立てただけで満足してますから、お気になさらず。まあ、決勝戦では酷い姿を見せてしまいましたが……」

 

 

 オクトーはあからさまに肩を落とす。

 

 

「そいつは全部ドミニカのせいなんだから、気にしても仕方ないだろ。お前は十分マリンに尽くしたさ」

 

「ですが……。そのせいでマリン様に多大な迷惑を……」

 

「だから、気にするなと言っているでしょう? 彼は規定違反をしてあなたに勝っただけなのですから。あなたにはこれでも感謝しているのですわよ?」

 

「マリン様……。やっぱり好きです、結婚してください!!」

 

「いつもいつも思っていましたが、そういうところですわよ! 断じてあなたと結婚する気はありませんわ! もうマリン杯も二度とやりません!」

 

「そ、そんな!! あんなに盛況で、過去一番の興行収入だったんですよ!?」

 

 

 その言葉にマリンは一瞬だけピクッと反応した。

 しかし、首を振ってマリンは言った。

 

 

「あぁ……もう! 観客があんなものを求めているのであれば獣人が戦う闘技大会ではなく、誰でも参加できる最強格闘王決定戦でも毎月行えば良いでしょう!」

 

「一瞬迷ったな」

 

「迷いましたね、一瞬」

 

「はいそこ、うるさいですわ! とにかく、またしばらくは帰りませんから! また支配人代理として精進なさい!」

 

「は、はいっ! 今、ものすごく良い大会の案が浮かびましたから、次お帰りになった時にはもっと良い成績を残しておきます!!」

 

 

 そう言って、オクトーは部屋から飛び出て行った。

 そしてすぐ戻ってきてこう言った。

 

 

「マリン様、ノエル様、サフィア様、お気をつけて! 良い旅を!」

 

「あぁ、お前も頑張れよ!」

 

「いってきます!」

 

「また帰ってきますから、その時までお元気で。そして、いい加減わたくしを諦めなさい!」

 

「それは無理な話ですよ、マリン様! では、仕事に戻らせていただきます!」

 

 

 オクトーは風のように去っていった。

 マリンは頭を掻きながら、ノエルとサフィアは2人でずっと笑っていたのであった。

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