魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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88頁目.ノエルと称号と円卓と……

 その次の日の昼時。

 

 ノエルたちはヴァスカル城内にある謁見の間に呼び出された。

 ヴァスカル王は玉座に座っており、ノエルたちは指示された場所に跪く。

 準備が完了したことを伝えられたヴァスカル王は玉座から立ち上がり、ノエルたちの前へと歩いてきてこう言った。

 

 

「まず最初に、今日のために各地から召集に答えてくれたことに感謝する。そして、今日の余はあなた方と同じ立場の魔導士として振る舞いたい。であるからして、面を上げて楽にしてくれ」

 

「えっ……? お、お言葉ですが──」

 

「はい、かしこまりました。ヴァスカル王の仰せのままに」

 

 

 ノエルたちの困惑を遮るように、クロネはそう答えて立ち上がる。

 

 

「ワシがおる以上、今日は無礼だとかそういうことは気にしなくて良いぞ。あくまで大魔女の称号を授与する立場としての国王じゃからな。話し方も普段通りで構わんよ」

 

「そう言われると国王としての立場がないんだが……。まあ、クロネのいう通り、あなた方は大魔女の称号を与えられるべき賓客として扱わせていただきたい。だから今日は()()()というやつだ」

 

「クロネさんがそう言うなら……」

 

「どうやら楽にしないと話が進みそうにない空気ですわね。では、遠慮なく」

 

 

 ノエルたちは各々、座ったり立ったりして楽な姿勢になった。

 全員が跪いていないことを確認したヴァスカル王は話を始めた。

 

 

「オホン……。それでは、早速本題に入らせてもらおう。今日、あなた方を集めた理由である『大魔女』の称号についてだ」

 

「昨日から気になって仕方がなかったんだ。知り合いである以上の関係がないアタシたち9人に、ヴァスカル王から直々に与えられる称号とは何なのか。じっくり説明してもらいたいね」

 

「もちろんだとも。ではまず、大魔女というのは察している者もいるだろうが、ただの称号ではない。大陸中の9カ国の国王たちである事件について話し合った際に余が対策として提案した、『その国を代表する守護者としての魔女』に与えられる称号だ」

 

「守護者……? それに、ある事件とは一体……」

 

「皆知っているだろう。『災司(ファリス)』と彼らを統べる存在、あなたの命名によると『誰も知らない者(アンノウン)』だったか。彼らが大陸中で魔法関連の事件を引き起こし始めているのだ」

 

 

 ノエルたち3人とエストは驚いた。

 

 

「あいつら、大陸中に手を広げていたのか……。それも、目的は全て『ファーリの復活』のためってわけかい」

 

「その通り。余たちの祖先である偉大なる魔女・ファーリ。彼女を復活させ、大厄災を再演することこそが彼らの目的……というのが、あなた方が調査した事件と一連の事件の目撃情報からまとめたものだ」

 

「ん? そういえば災司(ファリス)って、ここにいる皆が知っている情報なのか? どうやら国王もアタシたちが連中と会ったことあるのを知ってるみたいだし……」

 

「昨日までに災司(ファリス)について知らない者にはワシが教えておいた。ノエルたちがプリングで解決した事件は、各国の国王たちの間で全て情報共有されておっての。その後、そこの国王に相談されたこともあって、ワシは全て知っておるってわけじゃ」

 

 

 なるほど、とノエルは相槌を打つ。

 ヴァスカル王は話を続けた。

 

 

「大魔女は9カ国それぞれに1人ずつ、それで合計9人。そして大魔女は災司(ファリス)に対抗するための国守の守護者となってもらい、ひいては悪しき魔導士たちへの抑止力となってもらいたいのだ」

 

「……一応聞いておくが、拒否権は?」

 

「ない、とは言いたくないが、断る理由が要らないほどの待遇を各国から与えてもらえるはずだ。例えば、魔法の研究費用は全額負担してくれるだろうし、美味しいものなら各地から取り揃えてくれるだろうし、何か欲しいものがあればある程度は用意してくれるだろう」

 

「ではわたくしからも質問を。国守の守護者とは、具体的にどうすれば良いのです? わたくしたちは旅をしていますし、ずっとその国にというわけにもいきませんわよ?」

 

「大魔女としての力を自分の担当している国中に知らしめることができれば、それ以降は自由にしてくれて構わん。とはいえ、もちろんそれに数年かかる者もいるだろう。そこで余はクロネと相談し、9人の大魔女の条件を『その国で元から知名度がある者』としたのだ」

 

 

 すると、数人思い当たる節があるような表情をする。

 クロネはヴァスカル王に言った。

 

 

「とりあえず担当する国と、その国での功績を1人1人に発表してはどうじゃ? 選考基準が分かった方が方が、称号を受け取るか受け取らないか選びやすいじゃろうて」

 

「それもそうか。では、早速発表させてもらおう。手元の書類順で発表させてもらうから、呼ばれたらそこにある円卓に座ってくれたまえ」

 

 

 ヴァスカル王が指を差したのは、謁見の間の隣の部屋にある広い会議室。

 その部屋の中心に大きな円卓がひとつ置いてあり、それを囲むように9つの椅子が並んでいた。

 

 

「央の国の担当は円卓の中心に……というわけにもいかんじゃろうから、北の国担当の隣に座ってくれ。その方が方角も判断しやすかろうし」

 

「というわけだ。それでは発表させてもらう」

 

 

 ノエルたちは唾を飲む。

 ヴァスカル王は書類をめくり、大きな声で言った。

 

 

「まずは、東の国・ノルベン担当。空間魔法の使い手、ルフール!」

 

「だと思ったよ。というか、ワタシの行動範囲ノルベンだけだったしね。とりあえず、選考理由を聞かせて欲しい」

 

「ノルベンでは、多くの炭鉱夫たちが採掘場で危険と隣り合わせの作業をこなしている。しかし、あなたが作った空間魔法の術式のおかげでこの数年の間、落石事故や崩落事故が起きても巻き込まれる人が1人もいなかったと聞いたのだ」

 

「あぁ、連中の服に貼り付けてる空間保持の術式か。そういうのを作っていた時期もあったねえ。まあ、それで知名度が高いのであれば良かった良かった」

 

「服に付ける空間保持……。身体の周囲に一定の空間の広さを固定することで、岩が落ちてきても内側から空間の壁に支えられて直撃を免れる……といったところかい?」

 

「ご名答、流石はノエルだ。魔法については発想力が人並み外れている。立派な弟子に育ってくれて、師匠冥利に尽きるったらありゃしない!」

 

 

 ルフールはノエルの頭をぐしゃぐしゃと撫でくり回す。

 ノエルは目一杯抵抗するが、やがて諦めるのだった。

 そして間もなく、ヴァスカル王が咳払いをして尋ねる。

 

 

「それでルフール、大魔女の称号を受け取るかね? 受け取るならば円卓に座っていただきたい。何か要望があるなら今のうちに聞いておくのが賢明だぞ」

 

「ワタシは大量のお金が欲しい。ここ数年、ずっと弟子に資金援助をしてきたが、まさか旅の仲間が増えているとはいざ知らず、そういうことなら援助する資金をもっと増やしてあげたいと思っていたところだ」

 

「なるほど、私利私欲のためではなく弟子のために財を尽くすか。ノルベン王は10億G(ゴールド)までは出せると言っていたな。十分かね?」

 

「十分過ぎるとも。そういうことなら遠慮なくその称号をもらおうじゃないか」

 

「では、あちらの椅子に座ってもらおう」

 

 

 クロネに案内され、ルフールは円卓の椅子に座った。

 声が届く距離ではあったため、遠くから「次だ、次ー!」と喧しい声が聞こえるようになったことにノエルは耳を塞ぐのであった。

 

 

「では次、西の国・セプタ担当。水魔法の使い手、サフィア! 選考理由は、数年前に展開された水のベールの仕掛けを解き、セプタの水道整備に貢献したためだ」

 

「あれ、それってあたしが魔女になる前の話じゃない? それに、あれは偶然の出来事だったし、そのあとすぐ旅に出たんだから誰もあたしのことなんて知らないはずよね?」

 

「一大観光都市を作った子供の魔女ってことで、セプタでは祭り上げられておるんじゃよ? 毎年の水のベール発生日に『サフィア祭』とかいう名前の祭りもあるくらいじゃし……。まさか知らんかったのか?」

 

「初耳にもほどがあるわ!? 何ですか、それ!! ノエル様もお姉ちゃんも、知らなかったよね!?」

 

「あ、あー……。うん、知らなかった……よ?」

 

「(わたくし主催だとは口が裂けても言える空気じゃありませんわね……)」

 

 

 自分から目を逸らす2人を見て、サフィアは怒るのだった。

 ルフールとクロネとエストは爆笑している。

 

 

「どうして黙ってたんですか! 知らぬ間に勝手に祭り上げられる身にもなって下さいよ!」

 

「いや、だって……教えない方が面白いことになるかなぁと……」

 

「それに、国を挙げたお祭りにまで拡大し始めているので、完全に言う機会を逃したと言いますか……」

 

「はあ!? もう、あたしセプタに帰れなくなっちゃったじゃないの! お母さまにも恥ずかしくて顔向けできないし……」

 

 

 ヴァスカル王は再び咳払いをする。

 

 

「では、大魔女の称号を受け取るに値する知名度であることは理解してもらえただろう。どうするかね?」

 

「だったらあたしの要望はただひとつよ! 『サフィア祭』なんてふざけたお祭りをやめさせるわ! それでセプタの財政に影響が出るなら、ノエル様とお姉ちゃんがどうにかしてくれるだろうし!」

 

「「サフィー!?」」

 

「そういうことであれば問題ない。他に何か求めたりしないのかね?」

 

「あ、確かにせっかくなら何かもらっておきたいかも……。じゃあ……水魔法の文献を可能な限り集めてもらおうかしら。知らない魔法があったら知りたいし、旅が終わった時の楽しみにしてるわ」

 

「伝えておこう。どこに集めておけば良いかなどの指示はセプタ王と話し合っておくように」

 

「はーい」

 

 

 そう言って、サフィアも円卓の席に座った。

 

 

「次は南東の国・フェブラ担当だが、今回は代理が来ている。大魔女の称号を受け取る旨は聞いているから、一応形として発表しておこう。光魔法の使い手、ソワレ!」

 

「…………え、姉さん!?」

 

「ソワレの代理人、前へ」

 

「はい」

 

 

 ノエルが周りを見回すと、1人の女性が列の前に出た。

 その顔にノエルは見覚えがあった。

 

 

「お久しぶりですね。ノエルさん」

 

「サティーヌ! お前が姉さんの代理なのか!」

 

「ええ、ソワレさんに頼まれて。あと、ノエルさんに伝言も頂いていますよ」

 

「姉さんからアタシに……?」

 

「『ノエル、魔法の研究の力になれなくてごめんなさい。でも、既に光はノエルの手の中にあるわ。私も応援しているわね。』とのことです」

 

「アタシの手の中に……光……あっ……!」

 

 

 ノエルはカバンの中からボロボロの魔導書を取り出した。

 それは、フェブラにてスアールからもらった魔導書だった。

 

 

「やっぱりこれ、姉さんの魔導書だったのか! どこが力になれなくて、だ……。しっかり姉としてのメンツを保ちやがって……」

 

「良かったのう。ワシも久々にソワレに会いに行かねばなぁ。仕事が落ち着いたら会いに行くとするか」

 

「アタシも連れて行ってくれるんだろうな?」

 

「いーや、お前は絶対に連れて行かん。ワシと娘の親子水入らずを邪魔されては困るからの」

 

「アタシも娘なんだが!? 家族水入らずでもいいだろう!」

 

「そこの仲間2人も付いてくるじゃろう。とにかく話が進まんから、この話はあとでじゃ」

 

 

 ヴァスカル王は間髪入れずに話を挟む。

 

 

「選考理由を言っておくと、フェブラ中の農作物にかかっていた大厄災の呪いを祓ったからだ。これも知っている人は多いだろう」

 

「というわけで、ソワレさんは大魔女の称号をもらうそうなので……円卓に私が座るのはまずいですよね?」

 

「余は構わん。誰か気になる者がいれば別だが」

 

「……いなさそうじゃな。ちゃんと代理という話はしておったし、気にせず南東の席に座っていいぞ」

 

「わ、分かりました。では、代理として席に着かせてもらいます」

 

 

 サティーヌは円卓の席にちょこんと座った。

 ヴァスカル王が書類をめくる。

 

 

「では次。南西の国・ヴァスカル担当。時魔法の使い手、クロネ! 選考理由は言うまでもないだろうが、一応言っておこう。魔導士学園(ウィザード・アカデミー)設立の立役者だから、だ」

 

「大魔女の提案をしたのもワシじゃし、まあ当然じゃな。断る理由もなし、大人しく円卓の席に着くとしようかの」

 

 

 クロネが円卓の席に着いたのを確認したヴァスカル王は、引き続いて名前を読み上げる。

 

 

「南の国・ラウディ担当。風魔法の使い手、ルカ! 選考理由はラウディで数年間起きていた砂嵐の発生源が大海蛇(シーサーペント)であったことの特定と、その解決に尽力したためだ」

 

「ありがたく頂戴します。特にこれといった要望もありませんし、何かあればボクからラウディ王に言付ければ良いのですよね?」

 

「あぁ、それで構わない。そういうことで国王間で話が付いている」

 

「では、失礼をば」

 

 

 ルカも円卓に着き、残るはノエル、マリン、ロヴィア、エストの4人となった。

 しかし、ずっとそわそわしている3人を横目に、ノエルはずっと怪訝な顔をしているのであった。

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