魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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94頁目.ノエルと防衛とお土産と……

 ノエルたちは実地調査をするために、災司(ファリス)らしき人物の目撃情報があった場所に来ていた。

 その周辺は、地下鉄の駅近くの住宅街であるもののあまり人通りがなく、ヴァスカルの王国兵士が十数人、見回りをしているだけだった。

 

 

「へえ……。時運命(ときさだめ)の鏡の予測は本当に当たるんだなぁ。ワタシも術式を除いてはみたが、ここまでのものだったとは……」

 

「いやぁ、自分でもビックリっスよ。性能を確認する余裕もあんまりなかったっスし、半分以上はクロネさんの魔法だからアチキも完全に仕組みは把握できてないんスよ」

 

「ほう、そうだったのか。アタシはてっきり、エストの占いが大部分を占めているものだと思っていたんだが」

 

「アチキはただクロネさんの未来視を可視化して、クロネさんの代わりに最もあり得る未来を選んでるだけっスから。つまり、ほとんどは時魔法で構築されてるんス」

 

「なるほど。で……何か情報として得られそうなものはありそうか?」

 

「パッと見た感じですと、数日前とあまり変化しているようには見えませんわね。とりあえず王国兵士さんたちに聞いてみましょうか」

 

 

 サフィアとマリンは王国兵士たちに異変があったか尋ね、ノエルたちのところへ戻ってきた。

 

 

「どうだった?」

 

「ほとんどジュン君がくれた資料と同じでしたわね……。このままですと、十分に情報が集まらないかもしれませんわ」

 

「そもそも、どうしてこの辺りで目撃されたんだろ? 普通、身を隠すつもりなら人通りが少ない場所を通ったり、不審に思われない格好をしたり、色々やりようはあったんじゃ……」

 

「私もサフィアちゃんと同じこと考えてたわ。駅から入ってきたのだとしても、明らかに自分が不審な格好だってのは分かってるはずなのに……。まさか、自分の立場が分かっていないバカな子だったのかしら?」

 

「あえて()()()()()、ということはないでしょうか? ボクたちを錯乱させるために……というただの憶測ではありますが」

 

 

 ノエルは考える素振りを見せ、しばらくしてこう言った。

 

 

「あの脅迫文は大魔女会議が行われる前に届いたものだ。そして災司(ファリス)のことも、ファーリの遺産についても、新聞では報道されてない。加えて、大魔女ってのも、国を代表する魔女ってことでしか認知されていない……」

 

「そういえばそうだったわ。だからジュン君たち国民は何も知らなかったのよね。ってことは、連中も新聞で知ることができる情報は限られてる、ってことか……」

 

「つまり、アタシたち大魔女がファーリの遺産の防衛に回っていることは、連中からすると予定外のはず。となると……錯乱させる相手はアタシたちじゃない……?」

 

「まあ、こうして王国兵士さんたちが見回りに駆り出されてますわね。ジュン君たちの聞き込みの成果ではありますが、駅周辺の防衛は十全と言えるでしょう」

 

「……こういう仕事をする兵士って、足りない場合はどこから削られるんだっけか」

 

「なぜわたくしに聞くのかはさておき……。戦闘向けの兵士ですし、防衛する優先順位が低いところからでしょうね。今のこの国の場合ですと……大魔女であるクロネさんのいる、アカデミーか王城……?」

 

 

 その瞬間、ノエルたちはハッとした。

 

 

「ジュンたちが危ない!!」

 

 

***

 

 

 ちょうどその頃、ジュンは転入生のジェニーの後ろをついて行っていた。

 

 

「うーん……。いくら大魔女からの頼みとはいえ、実はもの凄く悪いことをしてるんじゃ……」

 

 

 中々話しかけられず、数時間が経過していたのだった。

 

 

「ただ、少なくとも水の魔力の残滓は消えてないな。……って、あいつさっきから何してんだ?」

 

 

 ジェニーはクラスメイトたちに何かを手渡している。

 生徒たちは喜んで受け取っており、全員の手に行き渡っていた。

 

 

「あれは一体……? 転入土産みたいなもんかな……」

 

 

 すると、ジェニーは生徒と話し終わったのかジュンの方へ振り向いて、歩いてきた。

 ジュンは驚き、たじろいでいる。

 

 

「あなたが、最後……」

 

「えっ?」

 

「これ、お土産。もうみんなには配ったから……」

 

「あ、ありがとう……。そ、そう! 自己紹介してなかったよな! オレはジュンって言うんだ! よろしくな、ジェニー!」

 

「……よろしく」

 

 

 そう言って、ジェニーはどこかへ行ってしまった。

 ジュンはついて行く足を止め、手に握られたお土産をじっと見る。

 

 

「……なんだこれ? ただの彫刻みたいだけど……」

 

 

 それは手のひらくらいの大きさの、木彫りの花だった。

 中央には小さな宝石がはめ込まれており、紫色に光っている。

 

 

「これ……ちょっとだけ変な魔力を感じる。つまりは魔具なんだろうけど……って、あぁしまった! 見失った!」

 

 

 ジュンはジェニーを探すために追いかけるのであった。

 

 

***

 

 

 それから数十分後。

 ノエルたち7人はアカデミーに到着した。

 彼女たちの心配とは裏腹に、生徒たちは何事もなく生活を送っている様子だった。

 

 

「良かった……特に何も起きてないみたいだな……」

 

「ジュン君が危ないとか言っていた割に……大したことないじゃないですの」

 

「全員同じこと考えてここに来たんスから、誰も文句は言えないっスよ」

 

「結局、時運命(ときさだめ)の鏡に必要な情報収集も中断されちゃったねぇ。じゃ、ワタシは作った術式の展開をいつでもできるよう準備してくるよ。さっきの推測が正しければ、連中が明日きっかりに決行するかも定かじゃないし」

 

「それもそうだな。頼んだよ」

 

 

 ルフールは部屋へと戻るのだった。

 ノエルたちは職員室へと向かい、ジュンを呼び出すことにした。

 

 

***

 

 

「はあ? 見失っただって?」

 

「本当にゴメン! オレも学内を必死に探してみたんだけど、全く見つからなくて……。目撃情報もないし……」

 

「目撃情報がない、か……。魔力の方はどうだった?」

 

「水の魔力の残滓しか分からなかったよ。少なくとも土の魔力なんて全く感じなかった。あ、魔力といえば……これ!」

 

 

 ジュンはそう言って、ジェニーからもらった魔具をノエルたちに見せた。

 

 

「ジェニーからもらったんだ。クラスのみんなが持ってるよ」

 

「この魔力は……。パッと見ただけだと何の魔法か判別できないくらい、小さく圧縮されてるな……」

 

「って、クラスの全員がこれ持ってるの!? ノエル様、大丈夫でしょうか……?」

 

「注意はしておいた方がいいとは思うが……。なあ、ジュン。念のためにこいつを預かってもいいかい?」

 

「もちろん! クラスのみんなのはどうすればいい?」

 

「お前のクラスメイトはジェニーをただの転入生だと思っているだろうし、下手に動くとアタシたちの存在がバレる恐れがある。だからそのままでいいよ。もし危険なものだったとしても、アタシたち大魔女がついているから安心しな」

 

 

 ジュンは頷いて、魔具をノエルに渡した。

 

 

「じゃあ、引き続きジェニーの消息を探ってくれ。もしかしたら思わぬ発見があるかもしれないしね」

 

「分かった。ノエル先生たちも気をつけて」

 

「あぁ。任せろ!」

 

 

 そう言ってジュンとノエルたちは別れ、ノエルたちはクロネに会いに行った。

 そしてクロネと合流した一行は、王城にあるクロネの部屋に戻って話し合いをすることにしたのだった。

 

 

***

 

 

 クロネの部屋にて。

 今日あったことをノエルたちはクロネに全て伝えた。

 

 

「今から話す議題は3つ。1つ目は消えたジェニーとかいう魔女の消息について。2つ目は、ジェニーがクラスメイトに渡したこの魔具について。そして3つ目は災司(ファリス)たちの目的について、だな」

 

「なるほど、ワシの知らぬ間にそんな大事(おおごと)になっていたとはの……」

 

「1つ目については不明としか言いようがないですわね。もし本当に彼女がわたくしたちがヘルフスで会った姉様の偽物だとすると、誰かに変身して潜伏したと考えるのが自然ですし」

 

「じゃあ、2つ目について。さっきぶっ壊して宝石の中身を確認してみた。だが、何の魔法かは結局分からなかったよ。この魔力の感じに覚えはあるんだが、あまりに微量過ぎて判別ができなくてね……」

 

「ちょっとあたしが確認してもいいですか? 微量な魔力ならあたしの方が分かるかもですし」

 

「あぁ、頼んだよ。若い魔女の方が感覚は鋭いし」

 

 

 ノエルはサフィアに宝石を渡し、サフィアは集中して目を瞑った。

 

 

「確かに魔力は感じるけど、とても小さい力で属性が判別しにくい……。でも、この違和感……嫌な感じ……?」

 

「嫌な感じの魔力って……。まさか、大厄災の呪いですの!?」

 

「なんだって!?」

 

「そう、それに似てるのよ! でも、その呪いの内容までは分からないわ……。ただ、力は弱いから普通の光魔法でも祓えるかも?」

 

 

 それを聞いたエストは立ち上がって言った。

 

 

「じゃあ、早速クラスメイト全員の分を浄化しに行くっス──」

 

「待て。そんなことをしたら、次に連中がどんな手を使ってくるか分からないだろう? せめてその対策を立てた上で行動してくれ」

 

「それもそうっスね……。それなら、どうするんスか? 連中が呪いを国中にばら撒きでもしたら、それこそ手がつけられないっスよ?」

 

「万が一の時はマリンの指輪があるから問題ないとしても、これが連中の考えた国民を人質に取る方法と考えるべきだろう。となると、こちらもちゃんとそれに対して万全に対応するしかないさ」

 

「でも浄化はしないんスよね? どうするんスか?」

 

「ここで3つ目の議題だ。連中の目的は少なくとも脅迫状にあった通り、ファーリの遺産だろう。そして、城の防衛を崩すために不審者として目撃され、アカデミーに潜入してこの呪いをばら撒くことにした」

 

 

 サフィアたちは頷きながらノエルの話を聞いている。

 

 

「連中はアタシたちの存在を計算から外して行動していると予測される。つまり、アタシたちがファーリの遺産の防衛をしていることも、呪いを祓う手段を持っていることも知らないはず!」

 

「まさか……連中をこのまま泳がせるつもりかの?」

 

「あぁ、その通りだ。国王がファーリの遺産を渡す気がない前提で連中は動いているはず。となると、アタシたちの目的はただ一つ。このまま連中を泳がせ、最後の最後で作戦を全力で潰すことだ!!」

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