ローターの起こす大きな音で何も聞こえない中、二人の男はヘッドセットを介して談笑していた。
「おいおい、それじゃあお前はスコーピオンに変態認定されたわけか?」
「そうらしいな……俺みたいな紳士はなかなかいないだろうに」
「ちがいねえ。確かに修復施設前で堂々と立っているアホはお前くらいさ」
これがお硬い人物を乗せていたなら、任務中のこんな軽口は処罰モノである。しかしながらここは部隊を迎えに行くヘリコプターの中、談笑し合う二人の男しか存在しない。
「帰ったらなにか甘い物でも奢って……」
「……?どうした?」
外を眺めていた男が相棒へと向き直る。遅れて制御を失ったヘリコプターが暴れだした。
「っ!ちくしょーが」
急いで操縦桿を握り直し、なんとか制御を取り戻そうと奮闘する。人員不足のG&Kだがパイロットが二人体制であったのが幸いした。でなければ、隣に座る彼が撃ち抜かれていた瞬間にこの貴重なヘリコプターは空飛ぶハリボテに変わっていただろう。
「くそ!HQ!」
乱暴に無線機を操作し、周波数をあわせる。しかしながら返ってくるのは雑音ばかりで、人の声は全く聞こえない。
急いで周波数を変えるが、それも無駄に終わる。
「ジャミング!?ここはまだウチの勢力圏のハズじゃ!」
大声をだした瞬間、大きな衝撃が機体を襲う。回る視界の中、テールローターが吹き飛んでいくのが見えた。こうなれば万が一にもヘリコプターが立て直す可能性は消えた。男は衝撃に備えて身を縮こまらせ、神に祈るしか無かった。
=*=*=*=*=
「ねえ、生きてるの?」
少女の声が聞こえる。目は上手く開かず、鼻をつくのは鉄と炎の匂いだ。
「ねえ、所属は?」
「その前に助けてくれ、こんなところで焦げたくない」
「もう、仕方ないなあ」
少女の近づいてくる足音には金属同士がぶつかってたてる乾いた音が含まれている。それを聞いて、男は彼女が戦術人形であることを確信した。
「おっもい……」
「すまんな、まだ力がはいらん」
少女に抱えられヘリコプターの残骸の外へと出される。相棒はもう燃え始めており、遺品すら回収できそうにない。
「ありがとう、なんとか歩けそうだ」
「そう、じゃあすぐにここから離れなきゃ。すぐに鉄血の人形たちが集まってくるから」
少女はそういうと銃を構え直し、木の生い茂った方へあるき出す。男は近くに落ちていた手頃な枝を杖代わりに、彼女の後ろへと続いた。
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少女がやっと立ち止まったのは小さな洞窟の中だった。火の痕や周りに仕掛けられていた罠から見るに、数日はここにとどまっているらしい。単独行動の戦術人形というだけで男の警戒心は最大限まで引き上げられているのだが、このようにサバイバルしているとなると尚さらである。
「それで、所属を聞かせてもらえる?」
少女の手には銃が握られたままである。洞窟に入る前あたりにカチリとセーフティを解除していたのを男は確認していた。距離は近い。男にはアーミーナイフと拳銃の備えがある。相手が彼女――戦術人形でなければ彼は襲いかかっていただろう。
「俺はG&Kに所属しているただのヘリパイロットだ。名前は……ジョンとでも呼んでくれ」
「……あくまで明かす気は無いってこと?」
彼女の落ち着きを持った声に凄みが増す。男は偽名を使ったことは申し訳なく思うも、謝罪する気はなかった。
「……はあ、まあいいわ。私はump9、気づいていると思うけど戦術人形だよ」
「戦術人形がどうしてこんなところに居る。所属はどこだ」
「所属は40……いや、今はどこにも所属してないわ」
そう言って9は銃のセーフティを戻して地面に置いた。しかし武器を置いたと侮るなかれ、戦術人形は成人男性に匹敵するかそれ異常の力をもっている。
「そうか、じゃあボッチ仲間だな」
「ボッチ仲間……そうね。これからはよろしく、指揮官!」
9は笑顔で手を差し出してくる。ジョンはその握手を受け入れたが、その瞳に光が灯っていないことに気が付き、苦笑いしか返せなかった。
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