9はジョンの襟をつかんで思いっきり引っ張り、端末から遠ざける。端末に爆破物が仕掛けられた可能性を演算が導き出したのだ。
「指揮官、あれは洞窟に置いてきた端末で間違いない?」
「ああ、少なくとも俺以外であの型の端末を持っているやつはみたことがないよ」
「じゃあ指揮官の端末っていう可能性が一番高いってことだよね……もしや45姉……?」
9は銃を構えてシェルターの外に出る。辺りに変化が見られないことを確認して、罠を確認する。しかしながらなにの痕跡も見つけられない。端末のことさえなければ、だれも来なかったことを確信していただろう。
「9、まずいぞ……」
「ちょっと指揮官!端末は危険だよ!」
「いや、そこは大丈夫なようだが……端末のパスワードが変えられている」
つまりは誰かに確実に侵入されたということだ。ジョンはいろいろとパスワードを試してみるが、パスワードの不一致ではじかれてしまう。
「指揮官ちょっと貸して?45姉ならきっと……」
9はジョンから端末を受け取ってキーボードをたたく。2回ほどエンターを押した後、少し悩んでもう一度打ち直す。
「はいれた……やっぱり45姉だ、間違いないよ」
「45というと……洞窟に襲撃してきた方か」
「そういえば指揮官って404小隊を知らないんだね」
「ああ、結局もうひとりは姿すら見てないしな」
そう話しながらもジョンは端末の変更履歴を探す。案の定自分の知らない領域にデータが入れられているようだ。打鍵音をシェルターに響かせながらジョンは集中していく。9はその様子を見ながら、まだ周囲を警戒していた。
ジョンの手が止まったのはそれから1時間ほどたってからだった。
「指揮官、どうだった?」
「ダメだ……尻尾をつかむことすらできなかった……」
何重もの堅固なセキュリティがあり、その中には多くのダミーとさらにまたセキュリティロックが用意されていた。端末を初期化してしまえば9を直すためのソフトウェアが消えてしまうし、履歴から復旧しようにもバックアップデータの最も古いものが2日前である。消去されたデータを掘り出そうとすればまたマトリョーシカ人形のようなダミーとセキュリティをぬける必要がでてくるのだ。
「しょうがないよ指揮官。だから今は少し休んで?」
「ああ、そうするよ。警戒は頼んだ」
熱がでている中でさらに集中したジョンは疲れており、すぐに寝息を立て始める。9はその寝顔をしばらく見つめて、それからシェルターの外に出てクリアリングを行う。9はもう少し遠くまで安全確認をすることにした。だが異常は見られず、地面を探しても見つかるのは自分とジョンの足跡だけである。
足跡は自分とジョンのものだけである。
どうして分かるかといえば、ブーツが特徴的な足跡を残しているからだ。
ではもし同じ靴を用意したからと言って、9のシステムは欺けない。固有の足跡パターンがあるからだ。彼女の演算機能は、残っている足跡の付き方は間違いなく9とジョンのものであると計算していた。
だがしかし、同じ靴で足跡をたどればどうかといえば、土の凹み具合が体重の差を示してくれるはずである。戦術人形であればハンドガンやサブマシンガンの一部の者たちを除けば、9がつけたものとは違う深さに足跡がついているはずだ。
9がここを離れていた時間はそう長くない。そんな短い時間の中で足跡をたどり、なおかつ後ろ向きで同じ足跡をたどって帰ることは、人形に積める演算機能の制限からして不可能である。
例えばの話として9は条件を組み合わせて計算を行う。
端末を置いていったのが45であるとして、9の足跡をたどってきたとする。
45は9が置いてきた予備の靴を持っている可能性があり、体重は9と同じかむしろ軽く、9の足跡のパターンを持っているはずなので比較的早く足跡をたどることができる。
しかしそこで疑問に残るのは45の現在の居場所である。さすがに高スペックな演算機を持つ45でも、足跡を後ろ向きでたどっていくことをあの短時間で成し遂げることは不可能である。ずっと隣にいた9だからこそ、45の処理能力の限界も知っていた。
ではどこにいるか、と9は考える。その視線は足跡の続く方へ向かっていった。
「もしかして……シェルターの近く!?」
9は走り出す。銃をにぎり直してセーフティーをいつでも解除できるように指をそえた。