シェルターの近くに忍ばせているダミー人形の録音を聞いて45は、普段とは違って自分の表情の動きを感じる。
どうやらあのジョンという9のシステムを改変している男は熱を出して寝込んでいるらしい
今ならば容易に殺すことができるだろう
45は前々から考えていた端末と共に設置した即席爆破装置で殺す作戦を実行に移すことにした。自分の制御を一度切り、ダミー人形へと意識を移動する。
ダミー人形の方へ意識が移ったことを確認し、記憶の同期ログを横目で見ながらバッグから必要なものを取り出す。また、端末に端子をつないでハッキングを開始、いろいろなプログラムデータを流し込み始める。
「うんわかった!すぐに帰ってくるからね!」
シェルターの方から9の声が聞こえる。どうやら9が水を求めて川まで走っていったようだ。設置のチャンスである。
手早く作業を済ませて忍び足でシェルターへと向かう。どうやらジョンは寝ているようだ。爆破装置を隠してその近くに端末を置く。後はスイッチを押せば起爆できる状態だ。爆破威力は低いが、端末に近づいたときに爆破すれば十分に人間を殺せるだろう。
シェルターの中が見える位置に隠れる。手の中のスイッチを押す瞬間を楽しみに感じてきてしまい、45は自分を落ち着けるように戦闘糧食を口にいれた。
「指揮官、ただいま!」
9がシェルターに戻ってくる。その手には濡れたタオルが握られていた。45はタイミングを考えなければいけなくなった。ジョンを殺して9を取り戻す。その過程で9を傷つけることは避けたかった。
その瞬間を一時も逃さないよう、45の目が細まる。スイッチを握る手が誤作動を起こさないか心配になるほど彼女は緊張していた。
「なあ、もし俺が死んだらお前はどうするんだ?」
ジョンの言葉に9が怒る。そして、こう答えた。
「それは……私も後を追うよ。でも絶対に死んじゃ駄目だからね!」
その言葉は45を動揺させるには十分だった。
なぜ9は男の後を追うというのだろう?やはり疑似人格まで改変されてしまったのだろうか?
45の脳内を疑問が駆け巡る。
「そうだよ!指揮官には私を直すっていう重要な任務があるんだから!」
45は9のその言葉を何度も繰り返して解釈し直す。私を直す、と9は言った。ジョンは9のシステムを直していたのではという推測を振り払い、何度も解釈を変えてみる。
「ははは、端末がなけりゃ無理な話だがな」
ジョンがそう言って端末を置いた近くのバッグへと手を伸ばした。今爆破させれば腕を吹っ飛ばせるだろう。まともな治療施設がないこの状況ならジョンを殺すには十分だ。
スイッチを握る手に力が入る。そのスイッチを押せばこの悩みから開放されるかもしれない。しかし、大切な9を失う可能性すらあるそのスイッチを、45に押すことはできなかった。
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45はジョンの寝顔を見下ろす。その目には敵意こそあれど、殺意はなかった。ジョンはまだ熱がさがっておらず、苦しそうにしていた。
「誰だ……?」
ジョンが薄く目を開けた。45はジョンに馬乗りになり足と片手で彼の手を押さえつける。ジョンは元から弱っていることもあり大した抵抗もできずに動きを封じられてしまった。
「たしか……45だったか?」
「覚えててくれたの?だけど……もう覚えていなくてもいいわ」
空いた片腕でジョンの首に手をかける。この手に力を入れてしまえば、人間である彼はいとも簡単に窒息死してしまうだろう。45の手に力が入っていく。
ジョンは意識が薄れていく中、その手の力が弱まっていくことに気がついた。しかし、その力が弱まるよりも先に、彼の意識は闇へと沈んでいった。
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「指揮官!」
シェルターに駆けつけた9はそう叫んで中へと入る。するとそこにはジョンの上に乗って首を絞めている45のダミー人形の姿があった。
「9……大丈夫よ」
そう言う45の表情は優しい。しかし、それは45の意識がダミー人形に宿っていることの証明になってしまった。
「絶対に……絶対に許さない!」
9の指に力が入り、連続した爆発音がシェルターを満たす。45の身体に銃弾が突き刺さっていく。45のダミー人形が完全に動かなくなった後、9はゆっくりとその人形に近づく。首元のパネルを外して手を突っ込み脳にあるメインシステムを破壊してから、ようやく銃のセーフティーをかけた。
「指揮官……!生きてる!」
意識を失ってはいるが、ジョンの胸は上下しており生きていることを視覚的に9に伝えてくる。
「良かった……本当に良かった……」
9の声が、寂しくシェルターの中へと響いた。