少女隠線【完結】   作:畑渚

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システム

 「45?ねえ、45起きなさい」

 

 45のシステムが再起動し、意識が元の身体へと戻ってくる。

 

 「ダミー人形にでも意識を移してたの?油断しすぎよ」

 

 瞳が作動して顔をのぞき込んできている416の顔にピントがあう。システムチェックが完了し、異常なしという診断結果が視界の端に表示された。

 

 しかしながら、45にはまだ9から撃たれた感触が身体に残っている気がした。動作が効かなくなった後に首に手を突っ込まれ、破壊されるまでのことが何度もフラッシュバックする。

 

 「ちょっと45、なんかおかしいわよ。どうしたの?」

 

 「いえ、なんでもないわ」

 

 45はそう答えて立ち上がる。装備を確認して、再び歩き始めた。そのフラフラとした足取りを見て、416は深いため息をついた。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「あら、めずらしい客人ね」

 

 ペルシカはコーヒーをすすりながら、部屋の入り口に立つ人物を眺めた。その人物はフードを深く被っているが、その腕に付いているものでペルシカは彼女の正体を察した。

 

 「知りたいことがあるの」

 

 「特別な暗号技術を積んだ君がわざわざ訪ねてくるほどのことだ。聞かせてもらおうか」

 

 そういってペルシカはソファーへと移動する。自律人形がお茶を置き、来訪者はそれを手に取った。

 

 「それで、いったいどんな厄介ごとなんだい、ump45」

 

 「人形に関してならあなたが1番詳しいと思ったからここに来たわ。そしてこの情報は外部に漏らして欲しくないんだけど、お願いできるかしら」

 

 フードを脱いでお茶を手にとったものの、45がそれを口に運ぶ様子はない。

 

 「残念ながら確約はできない。何せ私はしがない研究者、出資者からの圧力には抗えないのさ」

 

 「……自分から話さなければそれでいいわ」

 

 「理解してくれてなによりだよ。それで?」

 

 「9がウイルスに侵されているわ。直したいのだけど」

 

 45の言葉にペルシカは笑みを浮かべる。

 

 「鬼の404小隊長にも涙ね。あなたがそんな顔をするようになるなんて思わなかったわ」

 

 「顔……?なにか変?」

 

 「そりゃもう。まるで家族の不幸を嘆き悲しむ人間のようだ。どこでそんな表情を……いや、危機感による感情の暴走……」

 

 突然うつむいたかと思うと、ポケットからメモ帳を取り出し何かを書き始める。

 

 「その……話を続けていいかしら」

 

 「おっとすまない。新しい研究テーマを見つけてしまってつい」

 

 「さすがは研究者ね、扱いきれないわ。それで、直すことは可能かしら?」

 

 ペルシカはおもむろに立ち上がり、デスクへと向かう。そして端末を立ち上げてから45の方へと向き直る。

 

 「どういったウイルスかはわかるかい?」

 

 「システムを改変するらしいわ。実際に私、ダミー人形の一体を破壊されたわ」

 

 「仲間を破壊!?……これは知っていると思うけど、君たち戦術人形にはフレンドリーファイアを防ぐ機能が備わっている」

 

 「ええ、知ってるわ」

 

 「もし、もしウイルスが今もump9の中にいるとすると……手遅れになるかもしれない」

 

 その言葉に45は思わず立ち上がる。

 

 「どういうこと?」

 

 「そのままの意味さ。彼女は既にコアまで侵入されている。つまりはいつメインのシステムを壊されるかわからないのさ。ある日突然動かなくなるなんてこともあるかも」

 

 45は脱力する。彼女ら404小隊にバックアップデータは存在しない。メインシステムがやられてしまえば二度と彼女は戻ってこない。

 

 「とにかく早急な対処が必要だ。彼女は今どこに?」

 

 「……技術員をよこしてくれたりしないかしら?」

 

 「無理だね。私以上に人形のシステムに詳しい人物はもう存在しない。コアへのアクセスができる者も限られているし、私以外は自分の仕事でコーヒーを飲む暇すらないようでね」

 

 「つまりは誰かが9を直そうとしても無駄だってこと?」

 

 「そうだね。ウイルスに侵されたシステムを復旧することは不可能だ。人形のシステムはハッカーですらなげだすほど複雑だ。経験がないとまず無理だ」

 

 「もし書き換えられる人がいる人がいるとしたら?」

 

 「だからそんな人はいないと……いや、いたかもしれないね」

 

 「誰?」

 

 「人形システムの開発者たちさ。何も人形製造に乗り出したのはI.O.Pや鉄血だけじゃない。多くの中小企業だって開発していたさ。最もそのほとんどはもうつぶれてしまったけどね」

 

 「なるほど、そこでシステムを触っていた人ならば」

 

 「あくまでの話しさ。可能性があるならそんなところだろうね。もっともそれに合致する人物は私の記憶の中では全員が死亡しているけどね」

 

 「死亡?何か事件?」

 

 「いや、老衰さ。老後の楽しみとしてばくちをして、その大半がその夢を抱えながら死んでいったという何の面白みもない話だ」

 

 ジョンは少なくとも老人ではなかったと45は彼の容姿を思い出す。であればやはり彼に対しての謎は深まるばかりである。

 

 「しかし、ump9は君たちから離れてしまったんだね?」

 

 「……ええ、ある日突然ね」

 

 「そうか、まるで死期を悟った猫のようだね」

 

 「あまり意味のない発言は控えてくれるかしら」

 

 45の鋭い目線がペルシカに突き刺さる。

 

 「そう怒らないで、ただのたとえ話だよ。それよりも、何か他に用事はあるかい?ump9の話は諦めるか無理やりここに持ってくるかしないと不可能ということが結論だが」

 

 「そうね、欲しいものがあるわ。人形の動作を強制停止する薬はある?」

 

 「……404小隊なら存在を知っていてもおかしくはないか。残念ながらアレを渡すわけにはいかない」

 

 「どうして?」

 

 「だって君、その薬を仲間に使うつもりだろう?しかしそれは無理だ。味方に危害を加える行為はシステムが許さない。そうさっきも話しただろう?」

 

 「……じゃあ私のシステムでその制限を解いて」

 

 「無理だ。もしそうしてしまえば私は打首だ。文字通り首と身体がお別れしてしまう」

 

 「どうしても?」

 

 カチリという音が部屋に響く。それは45が銃のセーフティを外した音だった。

 

 「……しょうがない、私も命は惜しいからね」

 

 「あら、案外あっさり許してくれるのね」

 

 「君はためらいなく私を殺せるようにできているからね。君たちに味方として登録されているのは404小隊だけなのさ」

 

 ペルシカはコードを引っ張って45へと渡す。45はそれを受け取ると、自分に差し込む前にバッグから何かを取り出して机の上に置いた。

 

 「変なことはしないでよ?」

 

 「やれやれ、少しは余裕をくれよ」

 

 45がとりだしたのは、カウントダウンを始めた時限爆弾だった。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「おいおいおい、いったい君は何をしたんだ!」

 

 ペルシカの声が彼女の研究室に響く。彼女のシステムに入り込んだはいいのだが、明らかに手が加えられている。しかしそれはまるで目をつぶって打ったかのようにミスが目立つ。

 

 「これは……編成拡大数の増加?衛星経由の操作……ump45、君まさか自分で書き換えたのか」

 

 45が答えることは今はできない。

 

 「おもしろい、不可能にしてある自己改造をしてしまうとは……これは技術革新がおきるかもしれない」

 

 ペルシカは再びメモ帳をとりだし、書き込んでいく。しかしながら机の上の爆弾を見て再び作業に戻った。

 

 「フフッ、常に冷血であれとプログラムされた君がここまでむちゃをするようになるとはね」

 

 ペルシカは笑いが止まらない。9の離脱によってここまで404小隊が変化するとは想定外なのだ。

 

 「できたよ。気分はどうだい?」

 

 45は目を明けてゆっくりと起き上がる。

 

 「……最悪の気分よ。まるで他人に自分の中を隅々まで見せたみたい」

 

 「みたい、ではなく本当にそうなのだが、まあいい。これで私は解放されるのかい?」

 

 「ええ、用済みね。ここで消したいところだけど、さすがにそこまでの勇気はないわ」

 

 45はフードを被り扉へと向かう。そして一度ペルシカの方へと向き直った。

 

 「まあ、感謝しているわ。ありがとう」

 

 そう言って45は部屋から出た。ペルシカはしばらくは動けなくなった。

 

 「はは、君が感謝の言葉を言えるなんて聞いてないよ」

 

 そう言って机の上のコーヒーカップに手を伸ばしたところ、何かに手が触れる。

 

 それは45の置いた時限爆弾だった。

 

 「おいおい、まさかね」

 

 カウントが0となる。光が部屋を満たしていく。ペルシカは急いでソファを飛び越えて身を隠す。

 

 

 しかし、いつまでたっても爆音も爆風もなかった。

 




改造に改造を重ねる45
未だ45の行動を把握しきれていない416とG11
そしてジョンと9は……
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