少女隠線【完結】   作:畑渚

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失速

 「なあじいちゃん、なにしてるの?」

 

 男の子はソファに座る老人の手元をのぞき込む。老人は年齢からは考えられないほどの打鍵音で、端末に文字を打ちこんでいた。

 

 「これはね、ヒトを作っているんだよ」

 

 「ヒトって人間のこと?でもお母さんは人間は畑から取れるんだって言ってたよ」

 

 「ははは、人間はさすがに作れないさ。でも人間に近い存在を作る、それが私の夢さ」

 

 「夢?……じゃあ僕も大きくなったらおじいちゃんと一緒にヒトを作る!」

 

 「うれしいねぇ。そうだ、じゃあこれをやろう」

 

 そういって老人は胸ポケットから金属の板を取り出した。何か文字が刻印されているが、男の子にはまだそれが読めなかった。

 

 「なにこれ?なんて書いてあるの?」

 

 「知りたい?」

 

 「うん、知りたい!」

 

 「そうかそうか。じゃあ宿題を終わらせてからだな」

 

 「えー!」

 

 家の中は談笑の声で満たされる。ごく普通の、ただの一般家庭であった。

 

  =*=*=*=*=

 

 

 「指揮官、おはよう!」

 

 「おはよう、9」

 

 9はジョンの腕から抜け出して軽く身体を伸ばす。ジョンは朝の肌寒さに毛布に包まる。少し熱も下がったようで、冷たい風に心地よさを感じる。

 

 「よし、出発するぞ」

 

 「うん、了解!」

 

 9は笑顔で銃を構える。ジョンはその笑顔からつい目をそらしてしまった。

 

 45の襲撃以降、9とジョンは再び404小隊から逃げる生活に戻っていた。たまに聞こえる銃声は、追跡者が迫ってきていることを2人に告げてくる。

 

 そしてもう一つ、変化があった。夜の時間に9が外に出るようになったのだ。ジョンは警戒に出ているだけだろうと考えていた。朝までには戻ってきてジョンの腕の中に収まっているので、それほど心配もしていなかった。

 

 「指揮官、あれを見て!」

 

 すこしひらけた場所に出た9は視界の先に映る町を指差す。廃村よりも大きく、スーパーマーケットや病院も見えた。

 ジョンの顔も心なしか明るくなったようだ。

 

 「今日……はさすがに無理かな。でも明日には付きそうだよ!」

 

 「ようやく補給できるのか、今夜はごちそうだな」

 

 「ごちそうって言っても缶詰だけどね~。でも戦闘糧食よりかはましか」

 

 「ははっ、違いねえや」

 

 そう言ってジョンはペットボトルのキャップを外す。回転するキャップはするりと手を抜けて地面へと落ちていく。

 

 「おっと」

 

 ジョンはそれが地面に落ちる前にキャッチした。その瞬間、銃弾がすぐ近くの木に突き刺さる。

 

 「指揮官、伏せて!」

 

 9はジョンの頭を上から押さえつけながら、もう片方の手で銃弾の飛んできた方向へ弾をばらまく。その弾はおそらく当たっていないのだが、ジョンを狙った銃撃はもうこなかった。

 

 「もう404小隊に追いつかれたのか!?」

 

 「違う……と思う。とにかく今はここを離れなきゃ」

 

 その小さい身体でジョンをかばいながら移動する。ジョンはそんな中、銃弾の当たった木を見ていた。もしキャップを拾うためにしゃがんでなければ、あの木ではなくジョンの頭に銃弾がめり込んでいただろう。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 2人は崖下のくぼみに逃げ込んだ。ちょうど良く倒木があり、寝転がっていれば姿が隠れるようになっていた。

 

 「それで、さっき404じゃないと言ってたよな」

 

 「うん、あの撃ち方……一発で仕留めようとするのは404小隊の誰でもないよ」

 

 「そうなのか?」

 

 「うん、G11なら頭なんて狙わずに足とかを撃って動きを止めてからトドメをさすはず。416は私から狙うはずだし、45姉だったら――」

 

 「いや、もういい。それで、何者だと思う?」

 

 「十中八九は鉄血じゃないかな」

 

 「だよなぁ。まったくしつこい奴らだ」

 

 ジョンは木々の隙間から見える夕焼け空を眺める。その様子を見て9は疑問を思い出した。

 

 「そういえば指揮官って何か特別な存在だったりする?」

 

 「どういうことだそりゃ?」

 

 「いや、前から気になってたんだけどね。鉄血にヘリコプターを落とされて、捜索されてるなんて一般人にしては過剰なほどに狙われてるなって」

 

 「ああ……そうか。もしかして落とされたのは俺が原因か……あいつには悪いことをしたな」

 

 隣に座っていた相棒をジョンは思い出す。軽口をたたきあうほど仲がよかった戦友である。少なくとも間違いで殺さえるような人物ではなかった。

 

 「それで、どうなの?」

 

 「そうだな……、話すまえに水飲んでいいか?」

 

 「うん、はいどうぞ」

 

 「ありが……」

 

 ジョンに水を渡して残りの本数を数えていた9は、自分の後ろでドスンと何かが倒れた音を聞いた。

 

 「指揮官?……指揮官!」

 

 倒れたジョンに急いで駆け寄る。息はしているが荒い。手を額に当ててみると、明らかに熱い。どうやら熱が下がったのは一時的で、ぶり返してしまったようだ。

 

 9の中でさまざまなタスクが組み上がっていく。ジョンを救う最善手を選ぼうと演算能力をフルに使って解決策を探してゆく。

 

 「指揮官……待ってて!」

 

 水や食料をすべて取り出してジョンの近くへと置くと、9はバッグを持って立ち上がった。彼女の出した答えは、近くの町へと向かうことだった。人がいれば助けを求めることができ、いなくとも解熱剤などが残っているかもしれない。

 もうこれ以上ジョンに熱を出させるわけにはいかない。どんどんと削られていく体力からして、彼が町へと到着したころには一歩も動けない可能性が高いと9は計算したのだ。

 

 9は森を駆け抜ける。途中、枝に服が引っかかりほつれてしまうが、気にもとめずに走り続ける。

 

 9が町に着いたのはもう日が暮れてあたりが真っ暗になった後だった。しかし、夜だと言うのに町には街灯の一つすらつく気配がなかった。

 

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