9は銃をにぎり直して、静まり返った町を歩く。確かにもう夜ではあるが、寝静まるには早すぎる。
「どういうこと?」
廃村のように廃れていれば理解できる。しかし、ここはまるで住人が突然消えてしまったかのように生活感が残っているのだ。
警戒を緩めないまま9はスーパーマーケットへと向かう。薬に関して専門知識があるわけではない9は、市販薬に頼ることにしたのである。
ゆっくりと扉を押してみると、普通に開いてしまった。店の中にも人の気配はなく、商品も陳列されたままだ。9は薬が置いてあるコーナーへと向かい、いくつかの薬を雑にバッグへと詰めこんだ。この不思議な場所をもう少し調べたかったが、早くジョンのところへと戻らなければいけない。
9は再び全速力で町を駆け抜け、山へと突入した。
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「良かった、見つかってないみたい」
戻ってみればそこにはまだ眠っているジョンがいた。缶詰が一つ開いているところを見ると、一度目を覚ましたらしい。
「えっとこれは頭痛薬で、これは整腸剤で……あった、解熱剤」
9は箱の側面の用法を読み込む。しかし、寝ている相手への薬の飲ませ方など書いてあるはずもなく、とりあえず枕元に薬を置いておくことにした。しばらく9はジョンの顔を眺めながら座っていた。彼に会ってから刻一刻と状況が変わっていく。初めこそ自分を直してもらうための共同生活であったが、今はその目的から大幅にそれてしまっていることを自覚していた。しかし、9にとってはもうジョンもかけがえのない家族の1人であった。
「じゃあ次は……ゴミ掃除だね」
9はおもむろに立ち上がって銃のセーフティを外す。不要な荷物をバッグにいれてジョンとともに倒木の陰へと隠した。
パーカーのファスナーを上まで上げてフードをかぶる。バンダナで口元を隠せば、ほぼ真っ黒な人型のできあがりだ。
「じゃあ指揮官、行ってきます」
9は真っすぐ目的地へと進んでいく。目標は鉄血の人形だ。404小隊を相手取るには力不足ではあれど、鉄血兵数体であれば勝てるくらいの実力はあると自負していた。
敵はすぐに見つかった。ジョンが撃たれたときに軽く計算した予測位置のすぐ近くにいたのだ。9は木の陰に隠れながらゆっくりと射程圏内まで近づく。特別製の人形である9をただの鉄血兵が感知することは不可能だった。しかし、引き金にかけたその指が動くことはなかった。
9は驚いた表情を浮かべたあと、唇を噛んだ。
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ジョンが目を覚ますと目の前に何かの箱が視界を塞いでいた。しかしほんのり温かい腕の中からして、これは彼女からの贈り物だろうと見当をつけた。
「9、おはよう」
「おはよう、指揮官!ぐあいはどう?」
「まだ熱がひどいみたいだ。熱いのに寒気がしてきた。これはおまえが?」
「うん!ただの市販薬だけどね」
「いや、ありがたい」
ジョンは薬を取り出して水で一気に飲み込む。
「ところで昨日はどこに行ってたんだ?薬の入手手段も気になる」
「昨日見えた町までひとっ走りね。途中木の枝に髪の毛が引っかかっちゃって痛かったんだよ」
「町か……どうだった?」
ジョンの質問に9はあまり良い表情を浮かべなかった。しかし情報を伝えないのはそれはそれで問題だろう、9は町の様子をジョンに話した。
「あやしい町か。でも行かざるを得ないからな……」
「うん、町では私から離れたりしないでね?」
「わかってるさ。……もう少し休む、警備頼んだぞ」
「了解、指揮官」
ジョンは再び横になって毛布をかぶる。薬があればこの熱はなんとかなるだろう。だから彼は体力の回復を優先するべきだと結論づけたのだ。
「……ごめんね、指揮官」
ジョンが完全に眠りについたことを確認して9はそうつぶやいた。彼女の身体に隠れたところに、ump9が置いてある。しかしその銃は、まるで何か硬いものを殴ったかのように銃床が歪んでいた。