イントゥルーダーは配下の人形たちに突入の指示を出す。出し惜しみなどしない。全力で二人をつぶしにかかるつもりだ。
出入り口は正面のものを除いて封鎖されていた。屋上まで登る手段もないので、必然的に全人形がそこに集中することになる。
最大限に警戒しながら鉄血兵たちは前へと進む。イントゥルーダーの指揮のもと、見事な連携でクリアリングしていく。1階にはいないようで、手をつけられた形跡もほとんどなかった。
二階へと行く階段にさしかかったときだった。
「行くよ指揮官!」
「ああ!せーのっ」
階段の上から何かが雪崩のように押し寄せる。それは台車に載っているパイプ椅子の山だ。台車が段差で倒れてパイプ椅子は空を舞う。
人間が最も守るべき場所は脳であるというのはわかりきったことである。であるからして、人間は頭蓋骨に髪の毛と過剰に頭に保護機構が備わっている。人形にもこの構造は受け継がれ、頭の内部には首のパネルなどの別の場所からしかアクセスできず、頭部も強固な構造で守られている。
しかし、脳ではない弱点がある。それは首だ。人間は首をやってしまうと身体が動かなくなる。それは人形も同じで、首をおられた後にもまともに動く人形はいない。人の形に似せたがゆえの、拭いきれぬ弱点である。
突入してきた人形の半分ほどが動けなくなっていた。パイプ椅子の下敷きに、飛んできたパイプ椅子の衝突で、中には他の人形が死ぬ間際にエラーを起こし放った弾丸で、というのもいた。
「元404小隊にあの男の組み合わせ……流石といったところね」
イントゥルーダーは眼の前に転がってきた鉄血兵の首をそっと机の上に置く。鉄血兵の残数は二桁にも満たない。パイプ椅子で階段がつぶされた今、二階に上がる手段は一つだけだ。イントゥルーダーは非常階段へと目を向ける。建物の外側にあるそれは視界が通りやすく、しかも足をのせればきしんで音が出る。
「仕方がないわ……スナイパーのあなたたちは外に出て見張っていなさい」
イントゥルーダーの言葉にうなずき、二体の鉄血兵は玄関へと向かう。その背中から目を離した瞬間、鈍い音が響いた。
後ろを振り向けば、ロープでつるされた長机がゆらゆらと揺れていた。スナイパーの二体は首がひしゃげており、もがくように手足が意味もなく動いている。イントゥルーダーは顔を背けて、配下の人形に二体を殺すように指示した。
「これだから人間って嫌いなのよ。どんな生き方をしたらこんな戦術を思いつくのかしら」
イントゥルーダーは静かに憤る。彼女は自分の首をなでる。そこに何かあるわけではなかった。当たり前である。彼女はこの素体に入ってから今まで傷一つ負ったことがない。
しかし、前の素体が死んだときの痛みが彼女をむしばんでいた。常に付きまとう息苦しさを払拭するには彼を殺すしかない。そうイントゥルーダーは確信していた。
「殺してあげるわ。あなたが私を殺した方法でね」
彼女の脳内を埋め尽くすのは、ジョンへの純粋な殺意だ。
=*=*=*=*=
何事もなく二階へと上がったイントゥルーダーたちは、壁にぶち当たっていた。文字通り壁である。非常階段口から入った彼女らを迎えたのは長机で作られた壁であった。
「どきなさい」
イントゥルーダーのガトリングが火を噴く。壁は決して薄くはないのだが、ガトリングの弾を受けてしまえば紙切れのようにボロボロになっていく。
ガトリングの回転が止まり、木の壁が崩れていく。その先に彼女らが見たものは……
閃光だった。
光が視界を満たし、耳に爆音が鳴り響く。人間であれば失神していたかもしれない容赦ないそれは、9の閃光手榴弾だった。
視覚モジュールは光の情報を過度に集め、聴覚モジュールは意味もない音を解析し始める。情報過多により、処理能力が不足していく。それが人形が閃光手榴弾を受けたときの症状だ。スペックの良さを逆に利用するこの手段は、人形が戦争利用される前から無力化する手段として用いられてきた。
古くから使用されてきた手段であるからこそ、人形側にもそれに対処する機構が備わっている。すぐに予備の視覚聴覚モジュールが起動する。
しかし、その一瞬が大事だった。銃撃戦の始まりだ。
=*=*=*=*=
「9!残弾は!?」
「大丈夫だよ!ちゃんと節約して撃ってるから!それよりも指揮官、絶対に頭を上げちゃダメだよ?」
「そうだな……天国まで一直線だわ」
頭上を飛んでいく弾は、コンクリート製の柱すら削る威力を持っている。
「ほら!ボケっとしてないで早く準備してよ!」
「すまんすまん!じゃあ頼んだぞ!」
ジョンは端末に挿していた小型の補助記憶装置を取り外してポケットへと入れる。そして、必要なものだけが入ったバッグを肩にかける。
「さあ、決着をつけようかイントゥルーダー!」
ジョンの目には、自分の勝利する未来が見えていた。