「そういえばさ、指揮官はなにか端末を持ってる?」
9が用意してくれた毛布にくるまって寝ようとしたところで、そう尋ねてくる。
「たしかに持っているが……その指揮官って呼び方はどうにかならんのか」
ジョンはそう言いながらポケットから端末を取り出す。あまりいじられたくないが今は休みたい。そう思ったジョンは9に端末を投げ渡す。
「パスはかけてないから自由に触ってていいぞ。だけど変なことはするなよ」
そう言ってジョンは横になった。事故での負傷とその後の移動の疲れからだろうか、寝息を立て始めるのにそう時間はかからなった。
9は受け取った端末を眺める。彼女が特に注目したのは側面にある端子だ。普通ならば2~3の差込口があるだけなのだが、彼女の持つそれには5つある。
「こっちは戦術人形用……そしてこっちは重要機密転送用……やっぱり一般兵じゃないみたい」
一介の傭兵であれば端末の支給はないが、ジョンのようにG&Kに所属するようになれば一般用の端末が配られる。
しかし例外で別の端末を配られる者たちがいる。所謂指揮官という者たちだ。彼らの端末は戦術人形のシステム改ざん用の端子と、本部との重要機密をやり取りするときのための端子とがついている。まさにジョンの持つそれである。
9がジョンを指揮官と呼んでしまうのはまさにこの端末のせいだろう。所属がないはぐれ人形という状態の9に指揮官権限をもつジョンが近づいてしまったのだ。システムはただ機械的に、指揮官が人形を保護したときの動作をしただけに過ぎない。
「指揮官……あなたは一体何者なの?」
9のつぶやきは夜空に消えていく。明日からはまた忙しくなると気合を入れ直して、9はスリープモードをオンにした。
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「9、どこなの……」
暗闇を縫うようにして影が動く。その数は6……いや、7である。ふと端末が着信を振動で伝える。影は一斉に動きを止め、中心にいた一人がヘッドセットのスイッチを入れる。
「416、何?」
「45、先行しすぎよ。下がりなさい」
「でも9が……」
「私だって心配。でも今は優先すべきことが別にあるでしょう?」
「……分かった」
45はヘッドセットを外して近くの倒木に腰掛ける。腰のポーチから彼女の腕にあるものと同じ部隊章をとりだすと、それを握りしめる。
「9……お願い、無事でいて」
思い出すのはいつも元気に振る舞っていた彼女だ。その彼女はある日忽然と45たちの部隊――404小隊から姿を消した。
彼女の願いの言葉が9に届くなんて奇跡は、起きるわけがなかった。
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「おはよう!指揮官」
「うん、ああ、おはよう」
目が覚めたら突然少女が目の前にいるものだから、ジョンはびっくりして間抜けな挨拶を返すことしかできなかった。昨日の出来事を思い出し、今日するべきことを頭の中で整理していく。
「9、食料はあるか?」
「残念ながら人用はないよ」
そういって彼女はバッグからチューブ状のものを取り出す。ジョンはそれをみてげんなりとした顔をする。
「戦闘糧食……それも最悪の時代の?」
「うん、そうだよ。人の食べ物じゃないってやつ」
そういって9はそれを食べ始める。戦術人形にも味覚は搭載されているはずだ。しかし彼女の表情は変わっていない。
ジョンは覚悟を決めて一本に手をのばす。切り口から開けてみると独特な匂いが鼻に突き刺さる。灰色のペースト状のそれは見ているだけで食欲が失せてくるから不思議である。
鼻をつまんで一気に中身を絞り出す。食感も最悪で、ヌルヌルのなかにあるザラザラが頬の裏側につき、いそいで水で口を濯いだ。
「はあ、お前味覚死んでるのか?」
「うん、そうみたい」
9は平気な顔をして2本目を咥えながらそう言う。
「今回ばかりはそれが羨ましいよ」
ジョンは今度これを食べるときは空腹で死ぬ間際にしようと心から誓った。
朝食を済ませた9とジョンは、向かい合って座っていた。あいにくの雨で、外で活動することを諦めたのだ。
「そういや端末で何をしたんだ?」
「えっと……ちょっと確かめたいことがあってね」
「で、わかったのか?」
「うん……指揮官の端末は一般兵用ではなくて、つまりは指揮官も只者じゃないってこと」
「……そうか」
9はジョンの表情をうかがうが、洞窟の薄暗さとジョンが俯いていることもあって影になっていて見えない。
「やっぱ……他のやつとは違うとは思ったんだよな」
「……へっ?」
「いやな、この端末をもらったときに一人だけ違うからハブられててな」
「それは……ご愁傷様?」
「ははは、そうか。他のやつよりも多機能なだけなのか」
「うん。簡単に言うなら指揮官の端末には人形のシステムをいじれる機能とアクセス許可があるものなら何でもダウンロードしておく機能があるの」
「人形の……システムを?なるほどな」
「なるほど?」
「いやなに、こう見えて俺は技術畑出身でね。人形のシステムにも触ったことがあるのさ」
意外だとは9も思ったが、口には出さなかった。それよりも彼に聞きたいことがあったのだ。
「あのね、指揮官……お願いがあるの」
「なんだ?」
9は自分が人形らしくもなく緊張で体がこわばっているのに気がつく。
「私を……直してくれない?」
9の表情は真剣で、ジョンはそれに軽口で返すことはできなかった。
「話を聞こうか」
ジョンの顔にも真剣さが移る。紆余曲折はあれど、彼も昔はエンジニア志望であったただの一般人であった。その技術者魂に、再び火が入れられるのをジョンは感じ取っていた。
スローペースにはなりますが少しずつ投稿していけたらと思います。応援よろしくお願いします。