少女隠線【完結】   作:畑渚

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移動

 静かな森の中に、連続した爆発音が鳴り響く。

 

 それは9が銃を放つ音だ。隣にはジョンが立っており、耳を抑えている。

 

 「どうかな、指揮官」

 

 「う~ん。ダメだな」

 

 ジョンの言葉に9は肩を落とす。ジョンの視線の先には、大きな木がある。そこにはナイフで刻まれた円と、そこを中心に四方八方へとばらついた着弾跡がある。

 

 先日のイントゥルーダーとの戦闘で、9は右目を損傷した。その結果、基本的に右利きに設計された9は支障が生じた。射撃の命中率の低さもこれが原因である。

 

 「指揮官、もしかして烙印システムも不具合ある?」

 

 「かもしれないな。まったくこれの製作者誰だよ。絶対性格悪いだろ」

 

 ジョンは得体も知れない開発者に愚痴を送る。あまりにも複雑すぎて、ジョンは烙印システムもコアのときと同様に諦めることにしていた。

 

 「指揮官、これからどうしよっか」

 

 「どうするもなにも、このままサバイバル生活を続けるしかないだろ?」

 

 ジョンは当たり前であるかのようにそう言った。9は作業しながらそう答えたジョンの顔をのぞきこむ。

 

 「なんだ?」

 

 「私はそうは思わないよ」

 

 9は地図を指差す。その指の先にはI.O.Pの研究所があることを二人は知っていた。

 

 「そこまで行って直そうってことか?でもここからじゃ遠すぎるだろ」

 

 「思ったの。指揮官はヘリコプターを操縦できるんでしょ?ならヘリコプターさえ調達できれば簡単に移動できるんじゃないかって」

 

 「あのなぁ、俺が操縦できるのはG&Kで使ってたやつだけだぞ?」

 

 「大丈夫でしょ!同じヘリコプターなんだから!」

 

 ニシシと笑う9の頭を雑になでる。

 

 「でもアテはあるのか?」

 

 「大きな都市だったらあると思うの。報道用とか救急用とか」

 

 「なるほどな……確かに残されている可能性もある」

 

 地図を指す指が現在地へと向かい、途中で止まる。そこにはそこそこ名のしれた都市名が書かれていた。

 

 「二日……いや、三日くらいでいけるか?」

 

 「しっかり警戒しながら行きたいから五日くらいを見ていたほうがいいかも」

 

 「そうだな。じゃあそうしよう」

 

 案外すんなりと了承したジョンに、9は首をかしげる。

 

 「もうちょっと反対すると思ったんだけど」

 

 「そりゃおまえ、俺だってそろそろ暖かいベッドが恋しいだけさ」

 

 「私とベッドどっちが大事なのよ!」

 

 「僅差でベッド」

 

 「え~ひど~い」

 

 森のなかに二人の笑い声が響いた。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 そろそろ寝ようかと端末を閉じる手が止まる。メールが届いたのだ。

 

 「また45のやつか?」

 

 「どうしたの、指揮官?」

 

 「またメールがきたんだが……ウイルスが仕込まれてるな」

 

 ダイアログボックスがウイルスを検知したと表示してくる。ジョンはメールを隔離環境下へと持っていき、そこで開いた。

 

 「なにこれ……45姉も感染したってこと?」

 

 メールの文面には、404小隊の現状が書かれていた。45はウイルスに侵され、敵味方問わず攻撃してしまっているらしい。

 

 「G11と416に影響はなし……ということは声での感染は考えなくてもいいか」

 

 「もしかして私が45姉のダミーを壊したときに?」

 

 「だろうな……45を助けたいか?」

 

 9はうつむいたまま首を横に振った。

 

 「私たちに他人を気にする余裕なんてないもん」

 

 「……他人じゃないだろ?おまえの家族だ」

 

 「でも!……私たちが行ったところで45姉を直せるかなんて――」

 

 「直す必要はないさ」

 

 そう言いながらジョンは注射器をとりだした。

 

 「あと何本あるの?」

 

 「……これが最後の一本だ。だが、これで45の動きを止めれば研究所まで運べるだろ?」

 

 「本当にいいの?」

 

 「ああ、少しくらい寄り道してもバチは当たらないさ」

 

 ジョンは地図を取り出し、メールにあった座標と照らし合わせる。そこは目的地とほぼ同じ方向で、一日ほど行程が伸びるくらいで済むと考えた。

 

 「指揮官……ありがとう」

 

 「ほら、もう寝るぞ。明日からは移動するんだ」

 

 「うん!おやすみ、指揮官」

 

 「ああ、おやすみ」

 

 ジョンが毛布をかぶると、9が潜り込んでくる。今日もジョンは、寒さに凍えることはなく熟睡した。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「ねえ416、もう諦めようよ~」

 

 「なにをいってるの!これ以上メンバーを減らすわけにはいかないわ!」

 

 そう言う416の顔を弾丸がかすめる。通路の先に目をやると、こちらに銃口を向ける45がいる。その瞳は赤く染まっており、それがエラーのダイアログボックスであることを理解した。

 

 「もう!ボケっとしないでよ~!」

 

 G11が416の手を引いて物陰に隠れる。先程まで二人がいた場所を銃弾が埋め尽くす。

 

 「G11、45を撃てる?」

 

 「識別システムがあるから無理~」

 

 「そうね、45はどうして私たちを撃てるのかしら」

 

 「とにかく無力化すれば良いんでしょ?ここは頼んだ」

 

 そう言ってG11は銃を抱えて走っていく。416は引き留めようとするも、頭上を弾丸がかすめてそれどころじゃなくなる。

 

 「ああもう!どうしてイレギュラーばっかりなのよ!」

 

 416は応戦しようとするが、45に銃口が向くと自動でトリガーがロックされる。

 

 障害物を変えながら後退していく。なんとか致命傷は避けているが、416の身体にはすでに数発の銃弾が貫いていた。そんななか、G11から無線がはいった。

 

 「416、聞こえる?」

 

 「なによ!」

 

 「榴弾を撃って」

 

 「だからトリガーロックで!」

 

 「だから45からすこし離れたところに撃って」

 

 416に考える暇はなかった。言われたとおりに榴弾を45からそらして撃った。

 

 「ナイス」

 

 榴弾は地面や壁に着弾する前に爆発した。それはちょうど45の右横くらいで、右腕に大きな損傷を与えたようだった。

 

 

 

 

 「あれ?私……」

 

 「45、正気に戻ったの?」

 

 416の言葉で、45は状況を察した。手は自然と腰のポーチに伸びていた。そこには、ペルシカの研究室で受け取った注射器が入っている。

 

 「ごめん416、G11。二人は基地に戻って」

 

 45はためらいなく注射器を自分に刺した。中に含まれた薬剤を検知し、ダイアログボックスが視界を埋め尽くす。

 

 

 

 

 「ちょっと45?聞いてるの?」

 

 「……おかしい」

 

 45はつぶやいた。薬剤は人形を強制停止させるもののはずだった。しかし45は今、身体を動かすことこそできないものの、思考はめぐっていた。

 

 「416、これは小隊長命令よ。いますぐG11を連れて基地へと戻りなさい。私のことは……ペルシカに言えばたぶん分かってくれるはずよ」

 

 「いったいどういうこと?説明して……くれそうにもないわね。わかったわ、じゃあね小隊長」

 

 416は45に背を向けて走っていく。これでよかったのだと45は自分を説得した。先程まで脳内を満たしていた破壊欲はなくなり、味方を攻撃したという罪悪感だけが残った。

 

 「もう動ける……違う薬を渡されたのかしらね」

 

 空になった注射器を投げ捨てる。せめて彼にだけはとメールを作成して送信したあと、45は自身の通信機能を遮断した。

 

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