遠くから近づいてくる爆音に、ジョンと9の二人は身を隠す。
「9、見えるか?」
「うん……ヘリコプターみたい。所属は……G&Kだよ!」
「乗員は見えるか?」
「さすがに無理~。でも戦闘区域の方に向かってるわけではないみたいだよ」
ジョンは地図を広げる。指でなぞった先に、45から送られてきた座標が重なった。
「404小隊の可能性があるな……」
「どうする?」
「どうするもなにも、行くしかないだろ」
ジョンは地図をしまい、拳銃の残弾を確認する。イントゥルーダーとの戦いでも消費したため、残りは3発しか残っていない。
「9、そっちは残弾はどうだ?」
「もうほとんどないよ。あと1本だけ換えマガジンがあるくらい」
「戦闘はきついな……」
ジョンはルートを変更するか頭を悩ませる。最短で進むほうがいいかもしれないが、どうしても開けた場所を通ることになる。もともとは森の中を進み、目的地に一番近い場所で抜ける予定だった。しかしヘリコプターという制限時間が加わった以上、悠長に回り道をしている場合ではない。
「指揮官、私は大丈夫だよ。必ず指揮官のことを守ってみせる」
「……わかった。でも自己犠牲だけはやめてくれよ?おまえが死んだら元も子もない」
「わかってるよ。私は死んだりしない。じゃないと指揮官が今後、夜の寒さに震えることになるからね!」
「あのなぁ……まあそうだな。せめて湯たんぽ以上の働きはしてくれ」
「ちょっとひど~い!」
静かな森の中には二人の声だけが響いていた。
=*=*=*=*=
森を抜けて市街地へと着いた二人は、再び聞こえてきた爆音に建物の影に隠れる。
「9、同じヘリか?」
「そうみたい。404のみんなを回収した帰りとかかな」
「だといいが……暴走状態の45がおとなしく乗ってるとは思えないな」
ジョンがそう言いながらヘリの近くのビルに目を向けたときだ。何かがキラリと光った。
「9、スナイパー!」
9は素早くジョンの隠れている物陰に身を隠した。
ジョンは嫌な予感がした。ヘリコプターにスナイパーは、今の彼が考えうる中で最悪の組み合わせだった。
プロペラの回転音に混じって一発の銃声が耳に届いた。ジョンと9は物陰から出ていない。
「9!ヘリを確認してくれ!」
「了解だよ!」
9は物陰から顔の左側だけを出した。そこから見えたのは、案の定落ちていくヘリだった。
「指揮官のときと一緒だね。もしかすると同じスナイパーかも?」
「あいつのかたきか……」
ジョンは手が拳銃に伸びた。しかし、手が届く前にスナイパーの位置を確認した。
「まだこっちには気づいてないみたいだな。いまのうちに行くぞ」
「行くってどこに?」
「決まってる。ヘリの墜落地点だ」
「スナイパーはいいの?」
「いまの装備じゃ難しいだろ。それよりも今はヘリの乗員の方が重要だ」
ジョンが言葉に出さずとも、9には彼が苦渋の決断をしたことがわかった。
「了解だよ。私が先行するからちゃんとついてきてね」
9は銃のグリップを強く握る。絶対に守ってみせるという強い決意が、そこにはあった。
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9は十数メートル後方へといるジョンへ止まれとハンドサインをだした。草木の切れ間からヘリコプターの残骸が見えたからだ。
落ちたヘリコプターに鉄血兵が寄ってくる可能性を考えた。ジョンのときにも鉄血兵たちは墜落地点に来ていた。否定することはできない。
9はゆっくりとヘリコプターへと近づく。辺りには、人形のちぎれた腕や足などが転がっている。
「416……?」
沼に半分沈む形でうつぶせになっている人形の着ている服には見覚えがあった。404小隊のメンバーのHK416がいつも着用しているものである。
動かないことを確認してからそばに寄る。身体を仰向けに回転させると、それは紛れようもなく、416の顔をしていた。
「なんだ、ダミーか」
9は瞬時に判断できた。416のチャームポイントがなかったからだ。
ダミー身体から手を放した瞬間、9は大きく横に跳ぶ。先程まで9が居た場所を弾丸が通り過ぎていった。
「ちょっとG11!撃たないでよ!」
しかし、G11はトリガーを引き続けていた。
「ああもう!」
9は簡単に被弾するようなひ弱な人形ではない。巧みな脚さばきで銃弾を避け、G11から距離をとっていく。
それからまもなく、G11は銃をおろした。
「リロード?のんきだね~」
「うう、違うよぉ~。換えマガジンが水没したんだよ」
G11の指は、沼に落ちている物資を指していた。
「あらら~。でもG11は無事だったんだね。良かった」
「ひぃ、ち、近寄らないでよ!伝染る!」
「あはは、そっか。そうだね」
9は笑いながらも、少し悲しそうな表情を浮かべた。
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ジョンは9の止まれというハンドサインに従い、その場にしゃがみこんでいた。バッグをおろして一息いれ、中からペットボトルを取り出す。水が喉を通り過ぎる感触を楽しみながらも、周囲の警戒は怠らない。
パキリ
後ろで枝を踏み折った音が聞こえた。ジョンはすばやくホルスターから拳銃をとりだし、音の発生源へと銃を向けた。人影が視界に入った瞬間、ジョンは引き金を引いた。人影はグラリと後ろへ倒れていく。
「少女……いや、戦術人形か!」
ジョンはすばやく目を動かす。正面に他に居ないことを確認して、後ろへと振り返る。
「ええ、正解よ」
振り返った先には、アサルトライフルを構えた戦術人形がいた。その銃口は、彼の心臓がある位置を正確にとらえている。ジョンは、戦術人形の左目下のタトゥーの赤さが嫌に目に残った。