少女隠線【完結】   作:畑渚

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戦闘開始

 9は森の中を走り抜ける。後ろからは両手でも足りないほどの数の鉄血兵が追いかけてきていた。

 

 「やっぱり人数差あり過ぎだよ指揮官!」

 

 9でなければとっくに銃弾が突き刺さっていただろう。ここまで敵を引きつけられるのは、ひとえに彼女の囮役としての経験の賜物である。

 

 指揮官の方は大丈夫かな……

 

 9は街の方にいる三人のことを考える。

 416とG11の腕を侮っているわけではない。しかし、二人とも万全の状態とは言えない。ダミーもおらず、416に至っては身体の損傷で戦闘能力が低下している。

 

 走る足を適度に緩める。スペックの差と人数の差で、全速力だとどうしても先に行き過ぎてしまうのだ。

 9は囮だ。敵をうまく分断し、その片方を森の中で引き止める。時間になるまで一人で逃げ回ることが9に与えられた任務だ。

 

 9は時計を見た。そろそろ街の方で戦いが始まった頃だろう。9は木々の切れ間から見えた街の方へと目を向けた。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「……!G11から連絡がきたわ。接敵まであと1分よ」

 

 「了解だ。まあこんなもんだろ」

 

 そう言ってジョンは持っていた大きな箱を道路の上に置いた。それは、416が立っているところからちょうど隠れられる場所になっている。

 

 「こんなのが本当に上手くいくのかしら?」

 

 「あとで神にでも祈っておくさ」

 

 「人形が祈るべき神って誰かしら?」

 

 「I.O.Pのお偉いさんとかでいいだろ」

 

 「……祈ったほうが状況が悪化しそうだからやめておくわ」

 

 「そりゃ賢明なこった。っと来たか」

 

 鉄血兵が曲がり角から姿を現した。

 

 「416、ここは頼んだぞ!」

 

 ジョンは建物の中へと入っていった。

 

 「まったく、私を置いて逃げればいいものを」

 

 そういいながら416は銃を構える。急ごしらえのバイポッドは安定しないが、片手で撃つよりかはましである。

 

 「倒さなくていいなんて言ってたわね……。完璧である私が腕の一本失ったところで、敵を倒せなくなるわけないじゃない!」

 

 416は引き金に指をかけ、ためらわず引いた。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「始まったか……」

 

 ジョンは銃声を聞きながらそうつぶやいた。彼の足元には即席の火炎瓶がいくつもある。その中の二つを手に持ち、移動を開始する。

 

 ここら一体の建物は、地下ですべてつながっている。ジョンは地図を見ながら、事前にチェックしていた場所から火炎瓶を投げる。

 

 

 地上ではパニックが起きていた。銃撃戦をしていたと思ったら突然火の手が上がったからだ。到着したばかりでここの地理状況を把握しきれておらず、前に居た数体はあっという間に行く手を阻まれた。

 

 後方の部隊と合流しようとしてもすでに火の手は回っている。動きを止めた彼女らを416の放つ弾丸が襲う。急所を狙ってくるそれは腕の損傷を思わせない正確さだ。

 先行部隊の異常を察知して後方の部隊は散開し、416の射線を意識しながら障害物に隠れた。

 

 

 ハイエンドモデルならば気づけただろう。しかし彼女らはただの一般モデルで、高度ではあっても複雑な思考を再現するようなスペックはなかった。

 

 彼女らは道路に転がる箱やドラム缶を盾にした。

 

 

 それは元からあったものではなく、ジョンが設置したものだ。

 

 

 突然上から何かが落ちてくる。それは酒瓶のようだが、その先には火の着いた布が付いていた。

 

 その物陰は、意図的に設置されたものだ。近くの建物内から狙いやすい場所におかれたそれは、416の射線を遮るのに都合が良すぎた。そして、ジョンが火炎瓶を投げ込むには絶好の位置だった。

 

 

 一体がジョンの存在に気づき、他の兵と情報を共有する。複数体で情報を共有することで、演算を分散させてより高度な計算を素早く行えるようになるのだ。

 

 しかし、416の射撃という脅威を優先して排除しようとしてしまう。どれだけ計算しても、手負いの416を撃破後にもう片方へと行くルートを選んでしまう。

 

 演算を繰り返す間にも火の手は広がるばかりだ。街中の燃えるものをかき集めたのだろう。その勢いはもはや消火活動でどうにかできる域を越えていた。

 

 「よそ見してる場合じゃないわよ!」

 

 416の正確な射撃は確実に敵の数を減らしていた。それに加え火の手に巻き込まれ銃の暴発、回路への熱によるダメージ、熱暴走による異常の発生など、さまざまな症状が現れ始める。

 

 まさにこの世の地獄のような光景だった。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 9は焦げ臭い匂いを感じて街の方へと顔を向ける。立ち上る煙を見た後、時計に目を向けた。

 

 もう時間稼ぎは十分かな

 

 9は相変わらず追いかけてくる鉄血兵を見た。足を止めればいつ当たってもおかしくないほどの弾幕が9に今も襲いかかっている。

 しかし9に有効打は当たらない。損傷を最低限にしながらも、敵の目を引き続けている。

 

 突然開けた場所へと出る。そこはヘリの墜落地点だった。9はヘリの残骸を盾に休憩をとる。疲労感というものはないが、パーツの疲労という概念を知っていた。なにより、動かし続ければ熱を持ち、制御があまくなってしまうこともある。

 

 

 

 

 「9!」

 

 突然の声に9が振り向くと、顔の横を弾丸がすり抜けていった。

 鉄血兵とは逆方向からの銃撃に9は目を見開く。

 

 「よ……45姉!」

 

 「9!私から逃げて!早く!」

 

 45は銃口を9の方向に向けている。9はそこで45の暴走の件を思い出した。9は再び走り出す。

 

 

 

 

 45の方へ向かって。

 

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