少女隠線【完結】   作:畑渚

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バグ

 「それで罠にかかって、鉄血の奴らがお前のシステムに入り込んだってとこか」

 

 「うん。それでシステムを書き換えられる指揮官ならどうにかできないかと思ったの」

 

 9から話を聞いたジョンはため息をついた。人形のシステムに自分が介入することは問題ない。しかしながら戦術人形、しかも特別製ともなれば話は別だ。それに今回は攻撃に対して後手に回っている状況で、完璧な復元というのは不可能な話である。

 

 「指揮官?」

 

 「わかった……最善は尽くそう。しかし一つだけ約束してくれないか?」

 

 9は何か重大なことを言うのだと思い、ゴクリと喉を鳴らした。

 

 「俺に危害を加えない。それだけは約束してくれ」

 

 「えっ?そんなことでいいの?」

 

 9は拍子抜けしたようで首をかしげる。しかしジョンには思惑があった。

 

 「もし重大なエラーが起きてしまったときの目安になるだろ?」

 

 その思惑は隠したまま、当たり障りの無いことを述べる。9も疑う様子はない。

 

 「そっか。でもそんな約束しなくても私は普通指揮官を襲ったりしないよ~」

 

 「すまんな、俺だって9を信じたい気持ちはあるんだ。だけどその左手をナイフからどかさないようじゃ信じる気なんて起きてこないんだよ」

 

 9のリラックスしたような動きが突然止まる。

 

 「いつから?」

 

 「話をしはじめたあたりでは既にだったな。無意識か?」

 

 9は首を縦に振った。もちろん肯定の意味である。

 

 「思ったよりも深刻なようだな。指揮官の首を掻き切る戦術人形なんて一発廃棄だぞ」

 

 「そうだね。それでちょっとお願いがあるんだけど――」

 

 9の足についた外骨格が起動し、静かな空間に駆動音が響く。

 

 「――指揮官、私から逃げて!」

 

 9はナイフを振り切る。それと同時に壁に立てかけてあった銃を右手で掴み、そのまま動きを止めずに構える。ホロサイト越しにジョンを見つめる瞳にはかろうじて正気が残っていた。いや、残ってしまっていた。

 

 「すまん、とりあえず眠っててくれ」

 

 9が引き金を引くよりも早く、ジョンは9のすぐ近くに踏み込んだ。乱暴にポーチから出されたのは注射器である。9はそれが人形の活動を緊急停止させる薬剤が入っているものだと知っていた。

 腹にプスリと針が突き刺さった感触を最後に、9のメモリーは記録を停止した。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 カタカタという打鍵音で9は覚醒する。腕は後ろで縛られ、足は外骨格等の装備が外された状態で縛られていた。身体を楽な姿勢にしたいと四肢に信号を送るも、切断されているようでピクリとも動かない。

 

 「ねえ、指揮官だよね?」

 

 「ああ」

 

 ジョンの返事はそっけない。

 

 「ごめんね。まさかあんなすぐに約束を破っちゃうなんて」

 

 「ああ」

 

 「……ねえ指揮官、聞いてる?」

 

 「ああ」

 

 打鍵音は先程から止まることなく鳴り続いている。9の表情から反省の色が抜けていく。

 

 「……ねえ指揮官、結婚しよ?」

 

 「ああ……ああ?」

 

 「なんてね、冗談だよ~」

 

 9はしてやったりと舌を出す。その顔を見て集中力が切れたジョンはキーボードを膝の上からどかした。

 

 「それで、私は今どうなってるの?」

 

 「そうだな、一応説明しておこう」

 

 ジョンは今9のシステムを端末でハッキングして無理矢理動きを止めていることを伝える。システムを正面突破するには技術が足りず、遠回りしてしまっていることも隠さずに9に報告した。

 

 「直りそう?」

 

 「難しい。そもそも俺はシステムに触ったことはあっても専門家には程遠いからな」

 

 「そう、やっぱり難しいんだね」

 

 「まあ任せておけ。少なくとももう侵入口は見つけられたんだ。きっとこれから良くなるさ」

 

 ジョンは毛布にくるまった。腕時計はもう夜を指し示していた。外は真っ暗になっても、雨は降り止まない。

 

 「ハクション!うう、さみい。9、体温調整のシステムは動いてるか?」

 

 「うん、問題ないみたいだけど」

 

 「ならよかった。毛布は俺がもらう」

 

 ジョンは9用の毛布を自分の方へ手繰り寄せる。

 やたらと気温が低いと思った9は焚き火が消えてしまっていることに気づく。おそらく薪がきれてしまったのだろう。人形である9なら余裕で耐えることのできる気温だが、人であるジョンには少し低すぎた。

 

 「ねえ指揮官」

 

 「なんだ?」

 

 「よかったら毛布に一緒にくるまらない?少し体温を高めに設定すれば湯たんぽみたいで暖かいかも。なんてね~」

 

 「いいのか?ありがたい」

 

 笑ってごまかす9を無視してジョンは9の隣に移動して毛布に一緒に入る。

 

 「ええ!ちょっと指揮官!」

 

 「あったけ~」

 

 すぐに寝息を立て始めたジョンは寝ぼけて9に抱きつく。

 

 「ちょっと指揮官!?私達そういう関係じゃないでしょ!?」

 

 しかし9の抵抗は無駄である。ジョンはいくら大きな音をたてても起きないことで部隊内でいつも話題にのぼるような奴であるし、身体の動かない9はジョンの腕から逃れることなどできないのだから。

 

 「も~。べ、別にいいんだけどさ~」

 

 9は自分のシステムが状況の変化から高速で何かを演算し始めるのを感じ取って、それらを強制中断してスリープモードに無理矢理入った。

 

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