少女隠線【完結】   作:畑渚

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終章

 「G11?起きなさいよ」

 

 416は合流地点で帽子を顔にかぶって寝ているG11を揺さぶった。

 

 「うぅ~眠いよぉ」

 

 「人形なんだから睡眠なんて必要ないわよ。ほら、次の地点に行くわよ」

 

 G11は渋々と起き上がり、両脇に銃を抱えた。

 

 「……聞きたいのだけれど」

 

 「どうしたの416?」

 

 「なんであなたがHK416を持っているのかしら?」

 

 そう言って416はG11が左手に持つ銃を指さした。

 

 「別にいいでしょ~?」

 

 「いったいどこで……まさかあんた私のダミーの死骸から!」

 

 「へへへ~」

 

 G11は無邪気に笑いながら、次の地点へと歩き始めた。

 

 「まったく……あの猫耳研究員は何をやっているんだか」

 

 416は頭を手で抑えて、ため息をついた。そして、G11の後へと続いていった。

 

 

 

 

 G11の寝ていた場所には、鉄血兵の無残な死体のみが残っていた。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「すこし遅れたわね、ごめんなさい」

 

 416とG11が次の地点でしばらく待っていると、黒いパーカーのフードを被った人物が来た。

 その人物は左手でフードを脱ぎ去り、その灰色がかった髪を整えた。

 

 「もうそれは大丈夫なの?」

 

 416は45に尋ねた。G11は寝転がっているが、視線は45の方へと向いていた。

 

 二人の視線は、45の右腕に向いていた。

 

 「まだ上手く扱えないわ。もう少し時間がかかりそう」

 

 45はそう言いながら、右腕を動かした。

 

 

 45の右腕は陽の光を鈍く反射し、金属同士の擦れ合う音が微かに響いた。

 

 「G11といいあなたといい、あいつから受けた影響が大きいわね」

 

 「そういうあなただって、最近は榴弾以外も使っているようじゃない」

 

 416はウッと声を出した。彼女のポーチには、普通の榴弾とは色の違うものが入っていた。

 

 「わ、私は彼の戦い方を学んだだけよ」

 

 そういってそっぽを向く416を見て、G11はこんなキャラクターがいる資料を誰かが持っていたなと考えた。

 

 「それで45、元気だった?」

 

 「今日は会ってないわ。家にいなかったのよ」

 

 「あら珍しいわね。たしか足は完治しなかったからあまり外に出ないときいたけど?」

 

 416の質問に45は首を振った。

 

 「知らないわよ。きっと大事な用事でもあったんじゃないかしら?墓参りとか……ね」

 

 「はあ、変なこと言ってないで任務に集中しなさい。久しぶりの任務なんだから確実に成功させないと」

 

 「416~肩に力が入りすぎだよぉ」

 

 「あんたは抜けすぎよ!」

 

 二人の会話を見て45は軽く笑う。

 

 「……珍しいわね、45が普通に笑うなんて」

 

 「失礼な。まあ今日は面白い出会いもあったし多少浮かれてるのかもしれないわ」

 

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「君があの子のプログラムを書き換えた張本人かい?」

 

 視界の端に白衣の女性が立っていた。ジョンは真っ白なベッドから身体を起こす。

 

 「あなたは?」

 

 「私はペルシカ。16LABの主席研究員さ」

 

 そういってペルシカは首から掛けた社員証をジョンへと見せた。

 

 「そうか、あんたが……。9は直りそうか?」

 

 「端的に言えば無理だね」

 

 ペルシカは椅子を手繰り寄せて座った。どうやら長話していくつもりのようだ。

 

 「絡まった糸を整えるくらいに面倒な作業になるだろうね。そしてそれに加えて一部が破壊されている。もう彼女は戦場に立つことはできないだろう。この破壊も君の仕業だね?」

 

 「……そうだといったら?」

 

 「人形を行動不能にできる人物を処理するというのは珍しい話でもないさ」

 

 ペルシカは端的にそう言って、コーヒーを啜った。

 

 「殺すのか?それとも監禁か?」

 

 「そうするのが普通なんだが、どうやら君はG&Kの兵士だったらしいじゃないか。だとするとI.O.P側は君に手を出すわけにはいかなくなるんだ。取引先の兵士を殺したとなれば大問題だからね」

 

 「じゃあどうするつもりなんだ?」

 

 「解放さ。君は治療が終われば自由だ。新しく義足でもつければ復帰はできなくはないだろうし、安全圏でひっそり過ごすのもいいだろうね」

 

 「どういうつもりだ?野放しにする気か?」

 

 「まさか!そんなに甘い世界じゃないよ」

 

 ペルシカの口角が上がる。ジョンはそれを見て悪魔とでも契約するかのような緊張感を覚えた。

 

 「鉄血の人形だけを殺すプログラム。その開発をしてもらう。私も自分の作ったものにウイルスを仕込まれるばかりで嫌気がさしていてね。そろそろ仕返しがしたいんだ」

 

 「開発?俺みたいな素人よりもプロに任せたほうが良いだろ」

 

 「そうしたいのは山々なんだけどね、なかなか鉄血兵のセキュリティを突破できないんだ。そこに自称素人のハッカー君が現れたものだから、こちらとしては喉から手が出るほどほしいんだよ君のことが」

 

 「そうか。だがその話は断って――」

 

 「君に拒否権はないよ」

 

 ジョンの言葉をペルシカが遮る。

 

 「実に残念ながら君にこの話の拒否権はないんだ」

 

 ペルシカの手には拳銃が握られている。

 

 「……分かった。開発に協力くらいはしてやる」

 

 ジョンはそう言うしかなかった。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 ジョンは墓標に刻まれた名前を見て、いろいろなことを思い出した。

 

 結局あの後、ジョンは安全圏の街に住むことにした。オンラインで開発を手伝いながら、のんびりと暮らしている。

 負傷した傷はほぼ癒えたが、左足だけは完治しなかった。歩くことに障害があり、常に介護用に人形を側に置いている。

 

 エンジン音がして後ろを振り向く。駐車場に停めてあった車をとってきてくれたようだ。運転は件の人形である。

 

 

 ジョンは再び墓標へと向き直り、目を閉じて祈りを捧げる。そこまで信心深くない彼でも、死者が安らかに眠れるように神に祈るのだった。

 

 「さて、行くか」

 

 杖を握り直して車へと向かう。人形が車から降り、こちらへと走り寄ってくる。

 

 「指揮官、帰ろう!」

 

 「ああ、9」

 

 ジョンは9に支えられながら、車へと乗った。

 




ここまで読んでくださってありがとうございました!
長ったらしいあとがきは活動報告にてしようと思います。質問等はこちらでもかまいません。
無事に完結できたのはひとえに読者の皆さんのおかげです。本当に応援ありがとうございました。

最後に宣伝
「北区の店主」:https://syosetu.org/novel/172933/
を投稿してます。全5話中現在3話まで投稿しているので、よかったら見てください。
45の言っていた「面白い出会い」の意味がわかるかもしれません。

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