ターンという一発の銃声でジョンは飛び起きる。たぬきの寝入りが得意であると隠し続けてきた彼であるが、命の危険があるこのときばかりは反応した。
「指揮官~起きたなら離して~」
「ああ、すまん」
9はふくれっ面でジョンに抗議するも、彼はそれを気にもとめずに装備を確認する。
「どっちの方角だった?」
「わからないよ。洞窟の中で反響しちゃった」
「ちっ、G&Kの奴らならいいんだが」
「銃声の音から銃の割り出しはできるよ?」
「そうか、頼む」
9は目を瞑ってしばらくう~んと唸る。
「味方……?の銃みたい」
「どういうことだ?」
9はジョンの視線から目をそらす。
「わからないの。敵味方の識別システムもバグがあるみたいで」
「そこもか……こりゃ早く直さないと大変だ」
前途多難過ぎやしないかと、ジョンは神を睨むかのように快晴の空を睨みつけた。
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草木をかきわけながら森を進む。ジョンは額から流れ出る汗を袖口で拭った。
「あっついな、脱ぐか」
9は洞窟に置き去りにしてきたので遠慮なしにジャケットを脱ぎ去る。腕に張り付く葉がうっとおしく思うも、少しだけ暑さが増しになったように感じた。
銃声の方向はジョンが来た方向、つまりヘリコプターの落下地点の方向からだった。9は味方だといっていたが、システムの状態を覗いたジョンはそれを信用できなかった。
9に埋め込まれていたウイルスはとても厄介なものだった。取り除こうとすればより奥深くまで根を張るトラップまで仕込まれており、うかつに手が出せるものではなかったのだ。
また、ウイルスは9のシステムを消去するのではなく、上書きや追記をするものだった。つまり、9はウイルスの影響で鉄血の人形すらも味方と認識してしまうようになっているかもしれないということだ。
しばらく歩いたあと、ふと足元の違和感に気づきジョンは足を止めた。
「これは……小さいながらに深い足跡……重い荷物をもつ少女?……なわけないか」
武装した戦術人形がここを通ったということだろう。ジョンは拳銃を手にとり、さらに警戒しながら進む。しばらくするとヘリの墜落地点に着いた。
「物資を回収してから撤収するわ。一つずつ持って帰りなさい」
突然聞こえてきた声にジョンは反応して草むらに隠れる。草の隙間から覗いてみれば、鉄血の人形たちがヘリコプターに積んであった補給物資を盗んでいるのが見える。
「ホント……どこに行っちゃったのかしらね……」
ジョンは歯を食いしばって今すぐ飛び出したくなる気持ちを抑え込む。相棒の死体を足で転がす光景を黙って見ていることしかできない無力さを悔やむ。
人形たちが去ったあとにジョンは警戒を緩めないまま草むらから出た。相棒の死体に近づき、手を合わせる。しばらく黙って祈ったあと、首から下げられているドッグタグを引きちぎる。
残っている物資はほとんど燃えてしまったもので、まともなものはバッグ一つ分程しか残っていなかった。なけなしの物資をかき集めたジョンは、丁寧に痕跡を消しながら来た道を戻った。遠くからその影を見ているものがいたことに、彼が気づくことはなかった。
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「おかえりなさい、指揮官」
「ああ、ただいま」
「何か見つかった?……ってどうしたの?」
「何がだ?」
「酷い顔してる。何か嫌なものでも見ちゃった?」
「いや、何でもない。それよりも、鉄血の人形がいた。イントゥルーダーのオマケ付きでな」
ジョンの報告に9は悲しい顔をする。やはり彼女の敵味方判別システムは壊れてしまったようだ。
「ごめんね。私、役立たずで」
「なに、昨晩凍えずに寝れたんだ。感謝してるよ」
「……ありがと」
9のことを一瞥してジョンは荷物を置く。
「だから今夜も頼むわ」
「指揮官なら……いいよ」
「……冗談のつもりだったんだが、言質はとったからな」
その日もぐっすりと眠るジョンに抱かれながら、9は見たこともないきれいな夜空を眺めていた。