少女隠線【完結】   作:畑渚

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本日二本目


コア

 鉄血の人形に遭遇してから三日後、洞窟を満たす打鍵音を少女の声が上書きした。

 

 「あっ動いた」

 

 9が嬉しそうに身体を動かすなか、ジョンは座った体勢から後ろに倒れ込む。

 

 「久しぶりにこんなに頭を使ったかも知れん。流石に疲れた」

 

 「指揮官、お疲れ様。私ちょっと外に行ってくるね!」

 

 「ああ、いってらっしゃい」

 

 ジョンは寝転がった状態のまま手だけ振って彼女を見送る。嬉しそうに駆けていく彼女をみていると元気が出てくるが、身体の疲労をごまかすことはできなかった。

 

 9の身体が動くようになったのは、数日前の暴走の原因を解明できたからであった。どうやら鉄血からハッキングを受けたことを他者に伝えると発動するらしい。そのプログラムを削除はできなかったが、発動したものを再び潜伏状態に書き換えることはできた。

 

 「しっかしまさかこんなところでキーボードを叩く日が来るとはね」

 

 ジョンは辺りに散らばるメモ用紙の一枚を手に取る。そこには何度も修正線の入れられた、プログラミング言語の仕様を表す文字がびっしりと書き込まれている。もちろん彼のお手製のもので、今や彼の手助けをする聖書である。

 

 「まったく……見たことがない言語を組むのは骨が折れる」

 

 ジョンは目を瞑る。木々の擦れ合う音が疲れた彼の脳に染み入る。

 少しうとうとしたあと、彼は起き上がって洞窟の外に出る。近場で薪を拾って、川で空のペットボトルに水を注ぐ。そしてポケットから端末をとりだして電源を入れた。

 

 「ここでもダメか」

 

 ネットワークの接続強度を示すバーが未接続状態であると示している。もしここがG&Kの勢力内であるなら、基地局が機能しているはずだった。しかしその様子は感じられない。

 

 はあ、とため息をついて洞窟へと戻る。まだ9は帰っていなかったので、ジョンは火をつけて待つことにした。サバイバルキットがありジョン自身そういった訓練を受けたこともあったのですんなりと火は着いた。

 

 「ただいま!指揮官見てみて!」

 

 「おかえり……ってなんだそりゃ!」

 

 「何って今日の晩ごはん?」

 

 9が持って帰ってきたのは、肉付きの良い見事な鹿だった。

 

 「解体の仕方なんて知らねえぞ!」

 

 「大丈夫!私にまかせて!」

 

 9は手慣れた手付きで解体していく。戦術人形とは……とジョンが自問している間に9は火にかけ始める。

 

 「う……美味え……」

 

 「それはよかった!料理の腕にバグはないみたいだね」

 

 香草の良い匂いがジョンの鼻をくすぐる。用意した分はすぐになくなってしまった。

 

 「ふう、腹いっぱいだ。ごちそうさま」

 

 「おそまつさまでした~。残りは干し肉にしてみるね」

 

 9は木の枝を巧みに使い、肉を干していく。数日はあのまずい戦闘糧食を食べなくても良いという事実にジョンは自分の気分が上向きになるのを感じた。

 

 

 片付けを終えると9にプラグを差し込んで作業を再開する。9には告げていないが、ジョンは戦術人形にとって致命的ともなるプログラムを仕込んでいた。一刻も早く9を正常に動く状態に戻して、そのプログラムを削除できるようにしたかった。

 

 「ねえ、指揮官」

 

 「どうした?」

 

 「指揮官はどうしてパイロットになったの?」

 

 ジョンは無言でキーボードを叩き続ける。9はその様子を見て話す気がないと察し、諦めて俯く。

 

 「空を……空を飛んでみたかったんだ」

 

 しばしの無言の後、ジョンはそうぼそっと呟いた。

 

 「空?」

 

 「元々はヘリコプターじゃなくて戦闘機のパイロットになりたかったんだ。でも入隊検査で落とされてな。その後は普通にプログラムの技術で就職したよ」

 

 ジョンはキーボードを叩く手を止めた。

 

 「就職ってことはG&Kじゃないとこ?」

 

 「ああ、そのあといろいろあってG&Kに引き抜かれてな。パイロットに成りたかったと言った次の日には乗せられてたよ」

 

 「珍しい。システムエンジニアを引き抜くなんて」

 

 「……ほら、一回意識途切れるから寝転がってくれ」

 

 「はいは~い」

 

 9は何も疑わず、言われたとおりに横になり目を閉じた。

 

 

 ジョンは物言わぬ本物の人形と化した9に手を伸ばす。シャツのボタンを丁寧にひとつひとつ外していき、そのまま胸と腹はだけさせる。下着も破かぬよう丁寧にめくると、胸の下あたり、つまりは鳩尾のあたりを触る。

 

 「やはり……か」

 

 押し込むとカチリと音がして、パネル状になった人口皮膚がスライドする。中には人体を模倣したパーツの他に、真っ黒な箱が収まっていた。これが彼女を戦術人形たらしめるコアである。これがなければ彼女は戦闘に関する機能を喪失してしまう。

 

 コアを丁寧に取り出す。途中配線が絡まっておりヒヤリとするが、なんとか無事に取り出すことができた。唯一ある端子に端末をつないでアクセスを開始する。

 

 「なんだこりゃ……流石に素人が手に出せる代物じゃなかったか」

 

 表示されるのは膨大な量の規則的な文字列だ。しかしジョンにはそれが、見たことがないプログラミング言語で書かれたものということしかわからない。

 

 「また解読しなおし!?ふざけんな!」

 

 ジョンは潔く諦めてコアを元に戻す。人工皮膚をスライドさせると、つなぎ目は消えて綺麗な肌に戻る。服も元通りにしてジョンは再び9のシステムにアクセスする。コアを覗いたことによるプログラムの強制変更がないことを確認して、ジョンは起動コマンドを打ち込んだ。

 

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