少女隠線【完結】   作:畑渚

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破壊

 「あ、しまった!くそ!」

 

 ジョンの声が洞窟に響く。元々速かった打鍵音がさらに速く、そして強くなる。

 

 「ど、どうしたの指揮官?」

 

 「9、すまんが話してる暇はない」

 

 「えっちょっ…指揮…どうし…の?」

 

 「ちくしょう!9、端末にありったけのデータを流し込め!」

 

 「よくわ…んない…ど、了…!」

 

 ジョンは画面の端に出てきた進行状態を表すバーを横目で見る。しかし進み具合が遅い。送信側のメモリが別の動作に盗られているのだ。

 

 バーが半分を過ぎた頃、突然座っていた9の身体が横に倒れる。ジョンは端末を投げ捨てるように置いて9に近づく。

 

 「あ…?おか…いな、力が…らな…よ」

 

 「頑張れ!できる限りデータを送り込め!」

 

 フッと9の目から光が消える。全身は既に脱力しきっており、肩を揺らしても何も反応しない。

 

 「くそっ!内部から壊すウイルスは想定してたのに!……そうだ、データ!」

 

 ジョンは再び端末に向かうが、画面はエラーのダイアログが無数に表示されているだけだった。

 

 「まさか……端末にまでウイルスが?」

 

 端末はその数秒後、急いで対処したジョンの努力をあざ笑うかのように、煙を吹きながら画面が真っ黒にそまった。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 9はジョンのバイタルの不安定を察知してスリープモードを解いて起動状態に戻った。見てみればそこには額に汗を流してうなされるジョンの姿があった。

 

 悪夢を見てうなされるなんて子供みたい

 

 9はそう思ってクスリと笑った。

 

 「9……ちくしょう……頑張れ……」

 

 「指揮官、私の夢をみてるの?」

 

 9はジョンの汗を拭って、手をにぎる。

 

 「大丈夫、指揮官。私はここにいるよ」

 

 そう9が呟いた瞬間、ジョンの手に力が入る。完全に油断していた9はその引かれる手に抵抗できずに、ジョンの胸元に引き寄せられてしまった。

 

 「夢……か……夢で良かった」

 

 そう言いながらジョンは9を抱く力をさらに強める。

 

 「ちょっと!指揮官!苦しいってば!」

 

 9の抗議の声はジョンに届かない。むしろさらに強く抱きしめられるばかりだ。

 

 「もう……指揮官ったら」

 

 抵抗が無駄だとわかり、9は腕をジョンの背中へ回した。

 

 「大丈夫、私はここにいるよ」

 

 9はジョンが落ち着くまでその背中をさすってあげた。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「すまん、取り乱した」

 

 「いや~まさか指揮官の胸で窒息死する体験をするとは思わなかったよ」

 

 「ほんとにすまんかった」

 

 ジョンは土下座をしていた。昔の仲間に聞いた最上級の謝罪の構えである。

 

 「ふん!しばらくは戦闘糧食しか食べさせてあげないんだから!」

 

 「それだけはご勘弁を~!」

 

 「……フフッ。ハハハ!」

 

 9は急に怒っていた顔を笑顔に変えて、腹を抱えて笑い始めた。

 

 「そんなに嫌なの?戦闘糧食なら食べ慣れてるはずなのに!?」

 

 9の笑いは止まらない。それにつられてジョンも笑い始めた。

 

 「戦闘糧食っていっても人形用だろ?あれはまさしく人間の食べ物じゃないんだよ!」

 

 「美味しいじゃん!栄養素をとってるみたいでさ!」

 

 「とうとう味覚までバグったか!?」

 

 「なら早く直してくださ~い」

 

 笑い声は洞窟に響き渡る。それはとても愉しげではあるのだが、その声は彼ら以外にも聞こえているとなれば話は別である。

 

 「くそが!直してやんよ!」

 

 ジョンはコードを持って9を押し倒す。そしてそのまま首にあるパネルを外し、端子を突き刺そうとした。

 

 「動くな」

 

 洞窟の入り口から声が聞こえた。明らかに殺意の含まれたそれは、ジョンを戦闘態勢にするには十分だった。

 

 ジョンは考えていた。もし殺しに来た人物であれば声もかけずに発砲してきただろう。つまりは襲撃者の目的は自分か9の身柄である可能性が高い。そして、彼には奥の手……9の動きも止めた薬がまだ残っていた。人形相手であればなんとか殺れるはずである。

 

 「動くな、と警告はちゃんとしたわ」

 

 すばやく起き上がってポーチに伸ばした手を、襲撃者は容赦なく撃ち抜いた。

 

 「いってえな!」

 

 無事である右手で拳銃を抜き、相手に向かって構える。

 

 「無駄よ。それはダミー人形だから」

 

 入り口から同じ声が聞こえる。と同時にジョンの太ももに赤いレーザーポインターが着いた。

 

 「あなたが何者かは知らないけど……バイバイ」

 

 ポインターはだんだん上に昇ってくる。そして心臓の位置でピタリと止まった。

 

 「45姉!待って!その人を撃っちゃだめ!」

 

 「9、それはできないわ」

 

 45は9の言葉に答えた。いや、答えてしまった。目線は必然的にジョンから離れ、9の方を向いてしまった。

 

 撃鉄が落ちる音がして、爆発音が洞窟内を反響する。

 

 「9!逃げるぞ!」

 

 「了解!ごめんね45姉!」

 

 ジョンに銃を向けていた人形はジョンの発砲によって身体が受けた衝撃により、その照準を心臓から外してしまっていた。

 

 カランという音の後に辺りを光と音が満たす。光が収まったあとすぐに、ジョンと9は動けなくなっている人形の脇を通り抜けて洞窟から飛び出た。

 

 「どこに行くの指揮官!」

 

 「わからん!とにかく走れ!」

 

 襲撃者が9と同じ服を着ていたということをジョンはしっかりと見ていた。襲撃者はおそらく9が元いた部隊のメンバーであるだろうと目星をつける。であれば、まさか編成拡大の回数が一回だなんてことはないはずである。

 

 

 しばらく走った後二人は廃墟に着いた。どうやら元工場のようである。

 

 「指揮官、少し中で休もう」

 

 「ああ、流石にきつい」

 

 工場の中は意外と綺麗であった。まるで従業員だけどこかに消えてしまったかのようである。

 

 「指揮官、こっちにベッドがあったよ」

 

 「仮眠室か、ありがたい」

 

 ジョンは横になって目を瞑る。脳内麻薬が切れたのだろうか、撃たれた手が熱を持ち始める。

 

 「指揮官、ちょっとまってて!応急処置のために道具を探してくる!」

 

 「ああ、頼んだ」

 

 ジョンは痛みに耐えながらそう返した。

 

 「くそっ、早くここも離れないといけないか」

 

 「その必要はないよ」

 

 額に冷たい金属の感触がする。目を開けて見れば、そこには帽子を被った少女が銃らしきものをこちらに構えながら立っていた。

 

 「……詰みか」

 

 9はまだ戻ってこない。ただの人間であるジョンでも、この状況の打破が不可能であると導き出すのはそう難しくはなかった。

 

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