少女隠線【完結】   作:畑渚

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追いかけっこ

 ガシャンという音が規則正しく連続して響き渡る。その音はあまりにも大きすぎて、管理室の大窓を揺れさせる。

 

 「いつか壊れるんじゃねえかな」

 

 部屋でコーヒーを飲んでいた男がそう言葉を漏らした。

 

 「俺の帰宅後にしてほしいもんだね」

 

 向かいに座る男は肩をすくめながらそういった。しばらく談笑していると、壁に備え付けられた計器が異常であることを告げた。

 

 「おい、お前見てこいよ」

 

 「しゃあねえな」

 

 男の片方は立ち上がるとヘルメットを被った。ゴーグル型のディスプレイの電源を入れて各機能を点検する。

 

 「じゃあ行ってくる」

 

 男はそういって管理人室を出て、工場内を歩く。異常を告げるアラームの箇所に着くのにそれほど時間はかからなかった。そこは外からの搬入口のベルトコンベア上で、何かが赤い液体を撒き散らしながら流れを止めていた。

 

 それが人間の死体であることに気がつくと同時に、工場内に銃声が響き渡った。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「夢……か。懐かしいのを見たもんだ」

 

 「おはよう指揮官、また悪夢でも見たの?」

 

 「いや、悪夢っていう程じゃないさ」

 

 そう言いながらもジョンは汗をびっしょりとかいていた。

 

 「出発しよう、見つかる前に」

 

 ジョンは立ち上がって土を払い落とす。9も点検プログラムを走らせて、異常なしの文字にほっと胸をなでおろした。

 

 

 軍人とはいえジョンは人間である。少しでも栄養をつけようと道端の木の実を齧る。身体への影響は不安ではあるが、9のデータベースにも無害と記録されており、なにより飲水すらまともに得られていない中、水分も摂取できる木の実を食べずにはいられなかった。

 

 「あれは、建物?」

 

 「廃村か、すこし寄っていってもいいか?」

 

 「うん、もちろん。手分けして物色しよう!」

 

 9は少し興奮していた。こういった人間の生活の痕跡を見ることは彼女が昔からよく好んでしていたことの一つだ。あまり良い顔をしないながらもいつも一緒に付いて来てくれた45のことを思い出し、9は棚を開く手が止まった。

 

 「いや、今はそれどころじゃないんだった」

 

 棚を片っ端から開けていく。食料の方は大方駄目になっていたが、包帯などの医療品やバッグなどはまだ使えるものが残っていた。

 

 あらかた探し尽くしたリビングを出て廊下を進み、寝室の扉を開ける。そこにはほとんどが白骨化した死体が抱き合うようにそばに転がっていた。

 

 視界が真っ赤に染まる。エラーを告げるダイアログボックスが視界を埋め尽くす。

 

 9はすぐにその家から出るが、玄関先で蹲ってしまう。しばらくするとダイアログボックスは1つずつ、ゆっくりと消えていった。

 

 「い、今のは何なの……?」

 

 初めて体験する現象に9は戸惑いを隠せない。全身の制御が効かずに震えが止まらない。原因不明のエラーに頭を悩ませていると、後ろから足音が聞こえてくる。

 

 

 恐る恐る振り返ってみると、ジョンが満面の笑みで立っていた。

 

 「避難所らしきところがあってな。そこにたくさんあったんだ」

 

 そういって背負ったリュックの中身を9に見せつける。そこには賞味期限間近の缶詰がぎっしりと詰まっていた。

 

 「もう、こんなに持ってても足が遅くなるだけでしょう?もう少し減らせないの?」

 

 「次はいつこんな場所に出られるかわからないんだぞ?持っていけるだけ持っていかなきゃ損だ」

 

 「あのね指揮官、物事には限度というものがあってね?」

 

 話しながら9は震えが止まっていることに気がつく。エラーを示すダイアログボックスもすでになくなっていた。

 

 「説教じみた話はあとだ。今は出発しよう」

 

 「そうね。でも道をたどっていくのは発見のリスクが高いわ」

 

 「そりゃもっともだ。だがこれを見つけた」

 

 そういってジョンはポケットから折り畳まれた紙を取り出す。それは山登りのためのルートの書かれた地図だった。

 

 「山登りか……指揮官、身体は大丈夫?」

 

 「大丈夫……とは言えねえな。まだ完全に止血できたわけではないみたいでな」

 

 包帯はすでに赤く染まっていた。物色しているときにまた傷口から出血してしまったのだ。

 

 「じゃあ今手当てしよう、幸いここには医療品がいっぱいあるし」

 

 そういってジョンの手をとり包帯をほどき始める。痛々しい傷の跡を見ても9は動じずに淡々と作業をこなす。9は初めて自分が人形で良かったと考えた。

 

 「サンキューな。じゃあ行こうか」

 

 廃村を見つけられたのは幸運であった。物資の補給はもちろんのこと、近くにまた村や町がある可能性も高いとわかったからだ。

 

 しかし不運であったのは、廃村から痕跡を完全に消せなかったことだった。

 

 

 =*=*=*=*=

 

 

 「416、聞こえる?痕跡を見つけたわ。そこから三時の方向にある廃村よ」

 

 「45、お願いだから先行しすぎないでってたった数分前に言ったばかりよ?」

 

 「……それで、二人はどこに行ったと思う?」

 

 「そりゃ道沿いに次の村だか町だかへ向かうんじゃないかしら」

 

 416はため息をつきながら無線で45と連絡をとっていた。となりではG11が銃の手入れをしている。

 

 「9ならきっとそんな見つかりやすい道を通らないよ」

 

 「G11のいうとおりね。私は山道の入り口を探しておくわ」

 

 そういって一方的に無線を切られる。ついため息をもらした416を咎める者はいない。

 

 「ほらG11、行くわよ。早く45に追いつかなきゃいつか鉄血の群れに一人で突っ込んじゃうわよアイツ」

 

 「少し待って……おっけ~出発~」

 

 「……なんで背中に乗るのよ」

 

 「ちょっと休憩……」

 

 「寝ないでよ!ああ、ほんともう!」

 

 416は背中の重りを担ぎ直して廃村への道を進み始めた。

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