何でこう間があくんでしょうね?
…俺が悪いんだっけな。
俺はキュウべえに、言外に三瀬に向かうようなそ素振りを見せてそんな雰囲気を匂わせつつ、見滝原に向かっていた。
「(……つーか、キュウべえバカだな、あれ。いくら魔法が強力だからって、俺自身はまだまだルーキー。強くて危ない奴がいるような街に行くわけないだろ)」
もしかしたら見滝原にも魔法少女はいるのかもしれないが、まさか忠告されるような実力者ではないだろう。というか、近場にそんな強者が二人もいたらたまったものじゃない
電車を降りて、見滝原の街に入る。立ち並ぶ高層ビルは今まで見たことがないほどの高さだし、行き交う人の量も沖島町とは段違いだ。
「ほえー……こんなんで心が不安とか、贅沢だなー……」
というのは、田舎者の感想。というか、せいぜい数十キロも離れてないのに、どうしてここまで環境に格があるのか、そっちを気にした方がいいかもしれない。
まあ、そういうお偉いさんのするお話は、俺の知ったことではないが。
「んじゃ、さっそく始めますかね」
そう言って、俺は右耳に付けられているイヤリングに触れる。
直後、僅かにイヤリングが光り、消失。同時に、俺の手には卵よりも少し小さい程度の、漆黒の宝石があった。
ソウルジェム。キュウべえと契約した人間の本体であり、『敵』と戦うために必要なものだ。
「(確か、裏路地とか廃ビルとかに多いって言ってたなー……まあ手当たり次第に歩き回っていれば、その内見つかるだろ)」
魔女探しはひたすら歩く。これもなぎさから教わったことだ。
魔女がいそうな雰囲気の場所を求めて、俺はとりあえず裏路地か廃ビル群を探すところから始めた。
☆
見滝原を縄張りとする魔法少女、巴マミは、いつも通り街のパトロールに出掛けていた。
いや、いつも通り、というのは、少し語弊があるかもしれない。今日の彼女は、魔法少女になるかどうか絶賛お悩み中の二人の後輩を連れているのだから。
「……ここね。昨日の魔女で、ほぼ間違いないわ」
「え……? いや、マミさん、何もないように見えるんですけど……」
そうマミに問いかけたのは、彼女と同じ見滝原中学に通う二年生、美樹さやか。
その隣で、少し不安そうにしているのは、さやかのクラスメイト、鹿目まどか。
二人とも、キュウべえに素質を見込まれた、魔法少女候補である。
「それじゃ、魔法少女体験コース、行ってみましょうか!」
そう言うと、マミは指輪に変形させていたソウルジェムを実体化させ、変身する。
魔力で具現化したマスケット銃を手に、魔女の結界を開く。
「(……あら?)」
違和感を感じたのは、その直後だった。
結界の中に誰かがいる。使い魔ではないし、おそらく一般人でもない。自身と同じ、魔法少女の可能性が高い。
「……どうしたんですか、マミさん?」
「先客がいるわ。多分、私と同じ、魔法少女ね」
「え!?」
想定外の事態に驚くさやかを大丈夫だと諭し、マミは結界の中へと侵入する。かつての相棒が自分の元を去ってから、この見滝原にマミ以外の魔法少女が訪れたことはない。
それは、縄張りを競うには、マミがあまりに強すぎたからだ。他の魔法少女は、マミとの激突を恐れ、見滝原に寄りつこうとしなかった。
だが、この結界の中にいる魔法少女は、どういうわけか見滝原を訪れた。勿論、激突する可能性もあるが、話し合えば一緒に魔女と戦ってくれるかもしれないと、マミはほんの僅かに胸を躍らせる。
「――――ッ!」
飛びかかってくる使い魔を、周囲に複数のマスケット銃を展開することで撃退。
基本的に単発構造――――拳銃よりも火縄銃に近い設計のマスケット銃だが、マミはそれを周囲に大量展開することで、手数の少なさを補っている。
「うわぁ……」
「すっげぇ……」
マミの踊るような戦闘に、まどかとさやかは思わず驚嘆する。
が、当のマミはそう悠長に事を構えてはいなかった。
「(そろそろ魔法少女がいるあたりね……鹿目さんや美樹さんを、魔法少女同士の小競り合いには巻き込めない。出来るだけ事を穏便に済ませないと)」
自分は別だが、後ろの二人は魔法少女候補とは言えまだ一般人。
切羽詰まった状況で、まともに考える余裕もなく契約することだけは、マミはしてほしくなかった。
彼女が、そうできなかったから。
「二人とも、多分この先に、さっき話した魔法少女がいるわ。なるべく穏便に事を済ませるつもりだけど、衝突するかもしれないから、覚悟はしておいて頂戴」
「……縄張り争いって奴ですか」
「そうよ。……悲しいことだけどね」
勿論、そんなことをする気は毛頭ない。
マミは目の前の蔦が絡み合った扉を、両手で押しあける。
その先にいたのは――――
☆
「ど、りゃああああああああ!!」
俺は具現化した鎌を振りまわし、寄ってくる使い魔を手当たり次第に蹴散らす。
攻撃力や耐久力は最低レベルだが、この使い魔、とにかく数が多くて鬱陶しい!
苦戦などするような相手ではないが、倒しても倒しても沸いて出てくるので、そろそろ無視して魔女のところまで突っ切ってやろうかと思いたくなってきた。
「だ・か・ら! 鬱陶しいんだよゴラアア!」
周囲に幾重にも重ね合わせた魔糸を展開、それを細かく振動させることで、周囲の空間を丸ごとチェーンソーの刃のように作り変える。
ガガガギャギャギャバババ!!と音が炸裂し、俺を取り囲んでいた使い魔を一掃する。
「ちっ……いくらメリットがあるって言ったって、俺の魔力は無尽蔵じゃねえんだよ。使い魔ごときが時間食わせやがって……」
長柄鎌を担ぎ、結界のより奥を目指して歩きだしたとき、それを俺は視界にとらえた。
というか、捕えた瞬間思考が一瞬消し飛んだ。
そこにいたのは、マスケット銃を携えた黄色い魔法少女。
「(見滝原を仕切ってる魔法少女か……?)」
つまり、彼女はこの街の魔女のグリーフシードをたくさん持っているということだ。
これは、思わぬところで臨時収入だな。
「おい、お前、この街の魔法少女だよな?」
「ええ、そうよ」
問いかけに対する答えで、俺の行動は固まった。
この結界の魔女は勿論速攻片づけてグリーフシードをいただくが、その前に前哨戦だ。
「アンタが持ってるグリーフシード、俺にくれよ。そんでもってこの結界から出てけ」
「……何ですって?」
「だから、グリーフシード。俺んトコロは魔女が枯渇しててな、正直切羽詰まってるんだよ。ここの魔女は勿論狩るが、その前にいくつか保存用を手に入れておくのは間違ってないだろう?」
「な……何考えてんだよ、お前!」
そう叫んだのは、魔法少女の後ろにいた青い髪の少女だった。
……というか、アイツと、あともう一人の女の子は変身していない。何で?
「縄張り争いなんてしてないで、協力して魔女を倒そうって気はないの!?」
「いや、協力する必要ないし。ここの魔女程度なら、俺一人で狩れる」
別段今のところ困ってもいないし、手柄を横取りする可能性のある方々には早急にお引き取り頂くのが得策だろう。向こうの都合など知ったことではない。
「……その前に、一つ聞いてもいいかしら」
「別に構わないけど」
黄色い魔法少女が、マスケット銃を握りながら問いかけてくる。うわー警戒されてるー。
ま、当たり前だしどうでもいいけど。
「……あなたは『魔法少女』なの?」