「いらっしゃいませー。ポイントカードをお持ちですか?」
ここはコンビニの店内。でも来るお客はちょっと特殊。迷彩服の人。白い海軍の制服の人。艤装を背負った人。そうここは鎮守府内にあるコンビニだ。
だが今日は特殊だ。ドリンクケースはほぼからっぽ。お菓子や日用品の棚も空っぽだ。弁当とパンがかろうじてあるくらいだろう。
去年のゴールデンウイーク明け。長きにわたって戦っていた深海棲艦との戦いに終止符が打たれのだ。その大人の都合で海軍の解体、鎮守府の閉鎖、組織分割という流れになった。この店舗も鎮守府が閉鎖されるにあたって同時に閉店する運びになったのだ。
今日の夜10時に閉店する。俺は閉店作業をするので0時まで働く。さて終わるまであと、5時間だ。
「ATMってもう撤去しちゃいましたか?」
「申し訳ございません。午前中に撤去してしまいました。」
何度目だろう。こうして最後の日なのに利用しようとしてもサービスがなくなってしまい謝るのは。
しかし、閉店するコンビニというのはこんなにも悲しいのか。店内ATMも撤去されてしまたし、残っている者は全て半額で販売している。ガラガラになった棚も拭き掃除が終わると順次解体して段ボールに詰められる。ちょっとづつよく見た光景がなくなっていくのだ。
午後8時。俺は棚を解体していると
「ユウさん!こんばんわなのです。」
振り返ると私服姿の電さんだ。
「電さん。こんばんわ。どうしました?」
「あの・・・これ出てきたのであげます!」
そういってくれたのはこの店がオープンした頃、電さんと世間話するようになった頃撮影した写真だ。
「うわー。懐かしいな。5年前かあ。俺、ふけたなあ。」
「明日引っ越すので荷物整理したら何枚か出てきたのです。それに今日で閉店と聞きましたし。なので、一枚差し上げるのです。」
「ありがとうございます。大切にしますね。」
俺は写真を制服のポケットにしまう。
「ユウさん。今後って・・・・?」
「ああ。自分は他の店舗に異動ですよ。記念公園店に。電さんは?」
「電は退役して、医学部へ進めるよう勉強するのです。多くの人を助けたいのです。」
「電さんらしいですね。では、武運長久祈りますね。」
「ありがとうなのです。ユウさんも達者で。」
俺は電さんをお見送りして再び店内の片づけを進めた。
午後9時30分
店内には店舗スタッフだけしかいない。ああもう少しで閉店だなと思っていたら
「よ!来たよ。」
北上さんだ。
「いらっしゃいませ。ホットコーヒーとマルボロのボックスですね。」
「そーそー。さすがユウさんだね。ほい。釣りはいらないよ。」
「ぴったりで釣りが出るわけないじゃないですか。」
「ははー。そうだね。いや一度は言ってみたくてね。」
「はは。そうですね。ありがとうございます。」
「いやこちらこそありがとうね。閉店しちゃうのは寂しいけどね。しょうがないけどさ。」
俺は正直苦笑いというか「はい・・・」としか言えなかった。
「じゃーねー。」
そう言って彼女は退店した。どこか寂しそうな顔をして。ああいう顔をみたのは俺は初めてだった。そして彼女は俺にとって最後のお客様になってしまった。
午後10時
ついに閉店時間になった。自動ドアのスイッチを切った。あとは手で絞めてカーテンを下ろす。
店の外には多くの艦娘さん達がいた。最後を見送ってくれるらしい。
俺らは店の外に出て一列に並んだ。事前にそういうあいさつをしようという話があった。
店長が一歩前に出て一例する。
「当店は只今をもって閉店しました。艦娘の皆様や深海棲艦と戦う皆様のココロほっとステーションになれたことを誇りに思います。このことはスタッフ一同一生忘れることのない誇りです。長らくのご愛好、誠にありがとうございました。」
「「ありがとうございました!」」
パチパチと拍手がなり響いた。
「ありがとー!」「さようならー!」
だれかわからないがこう拍手しながら叫んだ艦娘さんがいた。思い返せば色々なことがあった。馴染みだった人が
日突然こなくなったと思ったら殉職したということもあったし、怒鳴られてしまったこともあった。
だが、ありきたりのことになってしまうが今となってはいい思い出だ。
さようなら。鎮守府店。さようなら 我々のお客様。 さようなら 海軍。
次回 ある田舎の出張所の最後
2018/10/5追記
報告頂きました誤字を修正しました。ご協力ありがとうございます。