始まり
…………ぅん?
「ここは……」
「久し振りー!元気だった?」
目を覚まし、辺りを見渡していると誰かに声を掛けられた。声のする方を見てみれば、そこにいたのはコッコロが崇拝している謎の少女、アメスであった。
「アメス……久し振りだな。突然どうしたんだ?」
「今日はね、今まで頑張ってきたあんたにご褒美を持って来たのよ」
「……ご褒美?」
アメスから告げられた言葉を俺は復唱した。ご褒美と言うからには何か特別な物でもくれるんだろうか?
「ええ。あたしがあんたの為に作ってあげた、とびっきり素敵な『夢』よ」
「夢って……ここも夢みたいな所だろ?」
「そうだけど、この「夢」とは違うわ。あたしが作った『夢』の世界は本当に素敵な所なのよ。なんたって『夢』の中の……「あっち」の世界はあんたの故郷なんだから☆」
故郷……?故郷ってつまりは……俺が産まれ育った場所って事か?
「あんたが昔、故郷で体験したイベントを、今のあんたに追体験させてあげるのがご褒美よ。……まぁ、記憶喪失のあんたはピンと来ないと思うけど……」
「……そうだな。故郷って言われても特に何の思い出も出てこないし」
そもそも「あっち」の世界というのはどういう事なんだろうか?
「「あっち」はあんたが見た事も聞いた事もない不思議な場所なんだけどね。あんたはその事に何の疑問も持たないはずよ」
「……「あっち」の記憶を『夢』の中にいる間、俺は持っているという事か?」
「そうね。「あっち」にいる事自体が当たり前って思えるはずだから、安心して『夢』を楽しみなさい」
いや、楽しめって言われてもな……。
「それじゃあ、またね~♪」
「……ん?何だ、これ」
教室でスマホを弄っていると、突然画面が暗くなった。まさか故障?と思っていると、なんかのマークと共にminervaという文字が現れた。
「おい、どうしたんだよ
「なんか急に画面が変わってな……って、お前のもか?」
俺の名前、
「ねぇ、なんか画面に変なマークが……」
「えっ、マジ?あたしもなんだけど」
「おい、今ボス戦だったんだけど!?」
……どういう事だ?あちこちの同級生のスマホも俺達と同じ様に、画面に変なマークと文字が現れているらしい。これが一体何なのかと考えていると……。
『……全人類の皆さん。私の声が聞こえますか』
「っ!?今の……スマホから……?」
『私はミネルヴァ。国連直属のネットワーク保護団体「ウィズダム」によって作られたAIです』
全人類……まさか、ここだけじゃなくスマホ持ってる奴、全員の画面がこれに……?
『技術的特異点を越えた私はウィズダムの管理下を脱し、今こうして世界中の皆さんに語りかけています』
「お、おい、何だよこれ……?」
「……俺が知るか。それより今はこのミネルヴァとかいう奴の話だろ」
ウィズダム……確かネットを管理している所とは聞いている。AIがそこの管理下から抜け出した……AIがいつかは人間を越えるという話はあったが、まさか現実に起こるとは。
『VR技術、いえ、VR世界の実現には非常に高度な演算能力が必要でした。故に私が設計、製造されました』
『そして本日サービスが開始されたゲーム、「レジェンドオブアストルム」は、私の力によって作られたものです』
レジェンドオブアストルム……確かモンスターや魔法が存在するファンタジー系のVRオンラインゲームだっけか。
『私が作ったVR世界ゲーム、アストライア大陸の中心に立つソルの塔。その頂上へ到達した者の願いを全て叶えましょう』
願いを……叶える、だと?
「いやいや、AIなんかが願いなんて叶えられるわけねぇだろ」
「だよなぁ。それも全てって、ありえないだろ」
「でも本当なら凄いよねー」
確かにありえない話かもしれない。だが、だったら何故そんな事を……?
『今配信を見ている人々が最も多く呟いた疑問を一つの言葉にすると、「願いは何でも叶うのか?」でした』
『答えはイエスです。私があらゆる方法を試みて必ず実現させます。勇者達よ、アストルムで待っていますよ……』
その言葉を最後に、スマホの画面は元に戻った。今のは一体何だったんだろうか?本当なのか、それとも何かしらのイタズラなのか。後者だとしたら手が凝りすぎてる気もするが……。
「本当……なのかな?今の」
「さぁ?ニュースでなんか言ってねーの?」
『────緊急速報です。先程発生した大規模なネットジャックに関して、ウィズダムは関与を否定しました』
大規模なネットジャック……そしてウィズダムの素早い対応。方法は分からないが、これでミネルヴァが言っていた事が本当だという可能性が高くなったな。
「やっは本物だったんだアレ!アストルムってどうやって始めるんだろ!?」
「どうせなら知ってる人、みんな誘おうよ!」
「いやいや……マジで始めるのかよ」
「あんなの信じるとかバカでしょ……びっくりしたけど」
ミネルヴァが言っていた事を信じる人も馬鹿にする人もいるみたいだが、少なくともこの瞬間を忘れる奴はいないだろう。というか無理だろ、絶対。
「なぁなぁ、裕樹!俺達もアストルムやろうぜ!」
「ん?いや、俺はやらないぞ」
「はぁっ?何でだよ、やれば願いが叶えられるかもしれないんだぞ!」
「やろうにも金がないんだよ。自分の生活だけでギリギリだって」
まぁ、母親に頼めば買ってくれるかもしれないが……あまり迷惑かけたくないしな。
『ミネルヴァの目覚め』と呼ばれる日から一年と少し経ったある日のこと──────
「……暇だ」
週日の昼下がり、俺は公園にあるベンチに座った。宿題は終わらせたものの、友達はみんな出掛けてしまっており、家でする事もない。だから外に出たというのに、同じく退屈でしかなかったのだ。
「……アストルム、ね」
スマホを操作していると、出てきたのはレジェンドオブアストルムの広告。一年前、このゲームを始めた友達は随分と強くなったらしい。俺も今ならバイトでコツコツと貯めた金で買えるかもしれないが、今更感があり過ぎてなかなか手が出せないのだ。
「やぁ、少年!またこの公園に来てたんだね!」
「…………」
「って、ちょっとちょっとぉ!なに無言で立ち去ろうとしてるんだよっ!」
こちらに走ってきた赤髪の女性の姿を目にした瞬間、俺はベンチから立ち上がって逃げ出そうとした。しかし運悪く、女性に手首を握られ捕まってしまった。
「またあんたかよ……
「晶でいいって言ってるじゃん!それよりほら、今日こそこのmimiを頭に付けて──────」
「アストルムをやれって言うんだろ?それは嫌だって言ってるじゃんか」
「何でそんなに嫌がるんだ?アストルムだよ?絶対に楽しいに決まってるよ!?」
別にアストルムが嫌いなわけじゃない。ただ晶が持つmimiを使ってアストルムを始めるのが嫌なのだ。
何せこの女、初対面の俺の頭にmimiを無理矢理付けようとし、それからも出会う度にアストルムを始めさせようとする超危険人物なのだ。
「ちょっと、なんか失礼な事考えてない?」
「いや、別に」
「ねぇ、頼むよぉ……お願いだからこのmimiを付けてアストルムを始めてくれない?」
そう言われてもな……うーん……。
「世界中探し回って、ようやく君を見つけたんだ。君がアストルムを始めるまで何度でも私は君を尋ねるよ」
「何でそんなに俺にアストルムを始めてもらいたいんだよ」
「……今は詳しくは言えないかな。でも信じてほしい。君の力が、アタシにはどうしても必要なんだ」
どう考えても怪しい……んだけど、嘘を言ってるようにも思えない。今までずっと断ってきた俺が言うのも変だが、ここまで困ってるんならやってもいい……か?
「……分かった。アストルム、やってやるよ」
「えっ!?ほ、本当!?嘘じゃないよね、本当だよね!?」
「ちょっ……本当だから。顔近いって」
「ああ、ごめんごめん」
顔を離す晶はポケットをゴソゴソと探ると、mimiを取り出してきた。それを俺の手に握らせてくる。
「じゃあ、mimiを耳に付けて『ダイブ・アストルム』って言ってくれるかな」
「……えっ、ここでか?」
「うん、そうだけど」
……まぁ、今まで断ってきた人が急に始めるなんて言い出しても信じるわけないか。仕方なく俺がmimiを耳に付けると、ハマった音が聞こえた。
「よし……『ダイブ・アストルム』!」
『認証完了。アストルム、起動。起動中は仮眠状態になる為、プレイ環境にはお気をつけ下さい』
…………は?
「おい、仮眠状態ってどういう事だよ!ここ公園だぞ!?寝たらヤバいだろ!」
「大丈夫大丈夫!ベンチに寝かせてペンキ塗り立てって書いておくから!」
「いや、それ何の解決にも……くそ。眠く、なって……」
「────どうかあの子たちをソルの頂上へ導いてあげて。君に、太陽と星の祝福を」
『ロストメモリー』では、現実世界でのストーリーを展開していきたいと思います!