「いやぁ、結構食べたな。腹が一杯だ」
夜ご飯を食べ終え、俺達は宿へと戻ってきた。キャルとペコリーヌとはお店を出た時点で別れたが、二人共ランドソルに住んでるんだ。またどこかで会えるだろう。
「ペコリーヌさまから何度もお裾分けをしてもらいましたからね。夕食には少し多かったかもしれませんが、とても美味しかったです」
「だな、またあのお店に食べに行くか」
しかしペコリーヌの奴、俺達と合流してから一体いくつ料理を注文したか……最終的には一番偉そうな人が出てきて、泣きながらこれ以上の注文を止めるようお願いしてきたぞ……。
「主さま、これからどうされますか?ここに戻ってくる途中、タオルや桶など体を拭くもの一式を借りてきましたが……」
コッコロの手元には桶が一つあり、その中にはタオルが二枚入っている。お湯に関しては必要に応じて汲みに行っていいが、使い過ぎる場合はお金を払ってもらうらしい。
「このまま寝るにしても汗臭いからな……コッコロ、着替えとかは持ってるか?」
「いえ……申し訳ありません、主さま。生活用品などについては自分達で手に入れなければいけないのです……」
「あー……そうなのか」
なら明日中に色々と買い込まないとな。いつまでも同じ服を着ているわけにはいかないし、コッコロも臭いとかキツいだろうからな。
「なら今日はこのまま寝て、明日買いに行くか。コッコロ、亭主からお湯を貰いに行こうぜ」
「……はい。やはり、主さまはお優しいですね……♪」
「……」
「……」
……さて、亭主から貰ったお湯を桶に汲み、部屋に戻ってきたんだが……その桶を真ん中に起き、俺とコッコロは互いに見つめ合うように座っていた。
「あの、主さま……?その、体の拭き方などは……」
「……まぁ、覚えてないな。でも大体は想像できるから、出来なくはないぞ」
「……な、ならわたくしが拭いて差し上げましょうか?わたくしは主さまの所有物ですから……そ、その位は……」
「……いや、無理しなくていいからな?俺は記憶がないが、コッコロが何か躊躇っているのは分かるぞ?」
顔を真っ赤にし、俯いているコッコロ。彼女が何を恥ずかしがっているのかは分からないが、嫌ならば別に拭いてもらわなくてもいい。コッコロに言った通り、別に出来なくはないんだし。
「しかし……えっと、ならその……あ、主さま?」
「ん?」
「その……こ、腰から太ももまでは自分で拭いて頂いてもよろしいでしょうか?それと出来れば、か、隠してもらえると……」
「……?まぁ、いいが」
しかし腰から太ももの間か……何故そこだけ自分で拭いてもらいたいのかは分からないが、頼まれている以上断る気もない。
「で、では……体をお拭きしますので、上の服を脱いでベットに座ってもらってよろしいでしょうか?」
「ああ、分かった」
俺はコッコロにそう言われ、羽織っているコートとその下に着ている服を脱ぎ、ベットに座る。そこでコッコロの視線が俺に向けられている事に気付いた。
「どうした?」
「あっ、いえ……その、すみません。うっかり主さまの体に見惚れてしまいました」
俺は顔を下に向け、自分の体を見てみる。体は少し細いかもしれないが、筋肉も付くべき所にはちゃんと付いている。しかし見惚れるような所はどこにもないと思うんだが……。
「主さま、まずは背中からお拭きいたしますね」
「ん、頼む」
お湯に浸したタオルを何度か絞り、コッコロは俺の背中を拭き始める。タオルが温かい他、コッコロの優しい拭き方もあって結構気持ちいい。
「主さま、どうですか?」
「気持ちいいぞ。拭き方うまいな、コッコロ」
「ふふっ、ありがとうございます♪」
コッコロが背中を上から下へと拭いてくれている中、俺はある事を疑問に思った。アメスはコッコロの事を『ガイド役』と説明し、コッコロ自身も自分をそう呼んでいる。だが俺を主さまと呼んだり、こうやって俺の世話をする事は果たして『ガイド役』の役目なんだろうか?
「……なぁ、コッコロ。少し質問してもいいか?」
「はい。何でしょうか、主さま?」
「コッコロは……どうして俺の『ガイド役』になったんだ?」
俺がそう尋ねると、コッコロは手を止めた。……もしかして、聞いちゃいけない質問だったか……?
「コッコロ、答えたくなかったら別に……」
「あっ……いえ、そうではなくてですね……その、主さまからそのようなご質問をされるとは思っていなかったので……」
ああ……答えづらかったのではなく、驚いていただけなのか。それで思わず手が止まってしまったと。
「えっと……ですね、少し長くなってしまうんですが」
「いいぞ、拭きながらでも」
「分かりました、では……わたくし、アメスさまから託宣を授かるよりも前から願っていたのです。いつか……運命の主さまと巡り会える事が出来たらな、と」
「どうしてそんな事を?」
願いなんてもっと他にもあるだろうに、何故そんなあり得ないかもしれない願いを選んだんだろうか。まぁ、俺と出会っているから、叶ってはいるが。
「わたくし、物心がついた頃から自分には仕えるべき主さまがいる……そんな気がしていたんです。そして10歳になった時、故郷のしきたりで、神殿に赴いた際に……」
「アメスに出会ったのか」
「はい、その通りでございます。ただ主さまのように姿は見えず、言葉だけを承っただけですが」
コッコロはアメスの姿を見た事がないのか……なら逆に何故俺はアメスを見る事が出来るんだ?それに現実には関われず、夢の中でしか会話できないって、普通に考えればおかしな話だよな。
「しかし……主さまはわたくしが理想とし、アメスさまが言っていた通りの主さまでした」
「コッコロの理想の主って、どんな感じなんだ?」
「……?主さまこそがわたくしにとって、理想の主さまですよ?」
いや、そうではなく特徴などを聞きたかったんだが……まぁ、理想の主が自分ってのは嬉しいけどさ。
「ところで主さま、何故このような質問を?もしもわたくしに至らぬ点がございましたら、どんな罰でも……」
「いや、ただ気になっただけだからな。そこまで気にしなくていいぞ?」
そもそも例えコッコロにそのような事があっても、こんな素直で良い子に罰とか与えられるわけないだろ。逆に生意気だったり、イタズラとかするような子なら多少は、な。
「それにしてもなるほどな……そういった経緯でコッコロは『ガイド役』になったのか」
「はい。……あの、主さま。その、わたくしがこれから『ガイド役』として主さまを導く事にあたって……不満などありますでしょうか?」
「……まぁ、まだ出会って半日程度だからどうも言えないけどな。少なくともコッコロが俺の事を大事に思ってくれてる事は分かったし……とりあえずよろしくな、コッコロ」
そう言い、体を回して後ろを向き、俺は彼女の頭を優しく撫でた。初めは驚いた様子であったが、しばらくすると気持ちいいのかコッコロの表情には笑みが見え始めた。
「はい、主さま……♪」
そのままされるがままのコッコロを俺はずっと撫でていたのである。
「は……は……はっくしょんっ!」
「あぁっ、主さま。すみません、このままですと風邪を引かれてしまいますね。手早く終わらせてしまいますので、もうしばらくお待ちください」
そういえば……今自分が半裸だって事、すっかり忘れてたな……。
次回こそは『コッコロ編』第1話です。