「まいどありがとうございました~」
チリンチリンという鈴の音と共に俺は店のドアをくぐって外へと出た。
今いたのはガイドブックに載っていた人気のお菓子屋である。この前、心配をかけてしまったコッコロにお詫びとして人気の理由であるプリンとやらを買う事にしたのだ。ただ俺もプリンの味は気になる為、つい自分の分も買ってしまったが……コッコロなら許してくれるだろう。
「プリン~、プリンが食べたいの~……」
「ん?……何だ、あの子」
しばらく歩いていると、目の前をフヨフヨと
何故あんな所に……今まで飛んでいる人なんて見た事がないぞ……。
「すんすん、すんすん……んん、プリンの匂いがするの~♪どこにあるの~?」
プリンの匂い?まさか俺が買ったプリンじゃないよな……と、願っていたがその子の視線が俺の持つ袋を捉え、笑顔になった事で素通りするのは無理だなと諦めた。
「こいつが持っている袋の中なの~!よーし、こ~っそり抜き取っちゃうの……」
そう言って静かに手を伸ばしてくる少女であるが、正面から堂々と盗もうとしていて気付かない人がいるわけないだろう。
もう少しで手が届きそうだった袋を後ろに隠してプリンを守ると、少女は驚いた表情をしていた。いやいや、気付かれないとでも思っていたのか……?
「あ、あれ!?もしかして、ミヤコが見えてるの?今は姿を消してるはずなの~?」
「姿を……消してる?」
……宙を飛ぶどころか、さらには彼女からしてみれば姿が見えていないはずだった……。ひょっとしてこれもスズメが言っていた魔法とやらなのか?やっぱり、コッコロにすぐ聞いておくべきだったな。
「むむむぅ~……?あっ、もしかするとレイカンっていうのが強い人かもなの~」
「1人で納得している所悪いが……誰なんだ?何で俺の持っているプリンを狙ったんだ?」
「ん?プリンはミヤコの大好物なの~♪だから、プリンをよこすの~!」
……いや、よこせって。明らかに犯罪だろ、それ。コッコロもよく言っているな、売っている物や他人の物を盗む人は泥棒という悪い人ですって。
「だめだ。食べたいなら自分で買ってきたらどうだ?すぐそこに売っているぞ」
「ミヤコはお金を持っていないの~……プリン、買えないの~……」
お金がない?……俺もコッコロも宿屋暮らしでそんな裕福な生活はしていないが、それでも幾らかはお金を持っている。……大好きなプリンを買いたくても買えないこの子には、プリンを恵んであげるべきなんじゃないか?
「なぁ、ミヤコ。このプリン──────」
「それにお金があっても、プリン買えないの!ミヤコ、いつもプリンを盗み食いしてるからお店の人達に目をつけられてるの~!」
「…………」
言葉を遮ってくれてありがとな、ミヤコ。お金がないからと言って、盗み食いするような犯罪者にプリンを恵んでやる気はない。これでミヤコが見た目からして貧しそうなら渡していたかもしれないが、そんな事はなくとても綺麗である。
「だから早くプリンをよこすの~!プーリーン!プーリーン!プーリーンー!!」
「はぁ……」
これじゃ話にならないな。つってもプリンを抜き取ろうとしたり、何の対価もなく渡せと言っている時点で話が通じる相手ではないと分かっていたが。
「しょうがないな……」
「あっ、プリンをくれ──────」
とりあえず、逃げるか。
「えっ?……あっ、逃げたのー!待つのー!プリンをミヤコによこすのー!」
「やっぱり追いかけてくるか……」
俺の後ろをミヤコは飛びながら追いかけてきている。速さは走っている俺とそう変わらないが……このままでは体力が尽きて、いずれ捕まるだろう。その前にあいつから逃げ切らないと……よし。
「逃がさないのー!プリンはミヤコのものなのー!」
見つけた角を曲がった俺の後を追って、ミヤコも当然曲がってくるだろう。だがその前に先の角を曲がってしまえばミヤコの視界から俺の姿は消える。仮に見えてしまっていても、曲がり続けていればいずれは逃げ切れるはずだ。
幸いにもこの辺りの道は既に覚えている。曲がり角が多い為、迷子になりやすいが分かっていれば何の問題もない。そして今ならそれが好都合だ。
「まーつーのー!」
「ここで振り切ってやる……!」
「ハァ……やっと……ハァ、ハァ……撒いた、か……」
ミヤコとのしつこい追いかけっこはようやく終わりを告げたようだ。さっきまで遠くから聞こえてきていた声も今ではまったくしない。
……まさかプリンという食べ物1つを巡ってここまで疲れる事になるとはな。
「でもまぁ……とりあえずこれで──────」
「スー……あっ、やっと見つけたの~」
「んなぁっ!?」
背後にある分厚い壁を何故かすり抜けてきたミヤコの一言に、俺は驚いて変な声を上げてしまった。
当然だ、やっと落ち着けたかと思ったらミヤコの顔が突然横に現れたんだからな。
「お、お前っ、今壁を……!?」
「んん?ミヤコは幽霊だから、壁をすり抜ける事なんて飛んだり姿を消したりする事と同じくらい簡単なの~」
幽霊……そういえば、暇な時にコッコロと文字の勉強をしていた際にそんな言葉を聞いたな。確か死んだ人が成仏という事が出来ずにこの世に留まってるだとか……?
「さぁ、早くプリンをよこすの!プーリーン!プーリーン!」
「……はぁ。分かったよ、お前のしつこさには負けた」
俺は2つあるプリンの内、1つをスプーンと共にミヤコに差し出した。俺の分も買っておいて良かったな、とりあえずコッコロの分は問題なく持って帰れそうだ。
「わ~い!プリンなの~!いただきますなの~!」
俺からプリンを受け取ったミヤコは笑顔でプリンを頬張っていく。もぐもぐ、もぐもぐと食べ進めていき……気付けばプリンの容器は空になってしまっていた。
「ふぅ、ごちそうさまなの~。プリン、美味しかったの~♪」
「人気のお菓子屋が作ったプリンだからな、他のよりも美味いんじゃないか?」
俺の口には一度も入っていないからな、他のプリンとの違いなんて分からないし。
「私はミヤコなの~。お前はなんていうの?」
「俺はブレイクだ」
「ならブレイク、プリンありがとうなの~。……んん?まだその袋の中からプリンの匂いがするの!」
そう言ってミヤコは俺が持つ袋を物欲しそうに見つめてくる。さらには「じゅるり……」と、口の端から涎を垂らしており、既に食べる気満々である。
「……これはダメだ、俺の分じゃないからな。それに今のでもう十分だろ?」
「プリン1個じゃ足りないの!もっとあるならよこすの~!」
そう言ってミヤコがプリンを奪おうと、俺に向かって襲いかかってきた。だがコッコロに渡すプリンまで食べさせる気はないからな、とっとと撒いてしまおう。
「またなっ、ミヤコ!」
「逃がさないの~、ブレイクはプリンをくれる人だからもっとよこすの~!」
……いや、俺=プリンをくれる人という認識はやめてほしいんだが。さっきのはミヤコがしつこかったから、だからな?必ずしもあげるわけじゃないぞ。
ちなみにその後、プリンはミヤコから無事守り切って、コッコロに渡す事が出来た。正直言って、あのしつこさから逃げ切ったのは結構凄いと思う。
スズメ編でも出ている魔法の話についてはもう1話挟んでからその他諸々と一緒に説明していく予定です。