「……まずいな、困った」
毎度の如く『ランドソル観光ガイドブック』を片手に散策をしていたが……入り組んだ裏道を試しに通ったのがまずかった。今いる場所が分からなくなり、結果迷子になってしまったのである。
「どうすっかな……?」
辺りを見渡すが目立ちそうな建物もなければ人も少ない。しかも何故か獣人ばかりである。日も大分暮れてきてるし、そろそろ宿屋に帰らないとコッコロを心配させてしまう。
「とりあえず、誰かに道を────」
「おい、そこのお前!」
「……ん?」
『そこのお前』って一体誰のこと……と思っていたが、後ろから紫色の髪が目立つ獣人の少女がこっちに近付いてきた事で『お前』というのが俺だという事に気付いた。
「もしかして、俺の事か?」
「そうだよ、お前だお前!どーしたんだよ、人間がこんな所でフラフラして……」
「いや……その、道に迷ってて」
「道に?……あーなるほど、お前迷子なのか。怪しかったから不審者だと思っちまったぜ」
あー……知ってる建物がないかキョロキョロと見てたからな。そりゃ怪しいと思われても仕方ないか。
「悪いな!最近どうも、お上の体制が変わったのか……行政が全然しっかりしてねぇだろ?治安が乱れがちっつうか、キナ臭ぇ雰囲気になってるんだよ」
「そうなのか?」
「そうなのかって……もしかしてランドソルに来たばっかりなのか?」
「ああ、ちょっと前にな」
と言っても、もう数日間は経ってるけど。……うっかりメイドに吹き飛ばされたり、幽霊の少女にプリンを狙われたり、ショーグン呼びする少女に出会ったりと色濃い数日が。
「ならこの街の行政なんか知ってるわけねぇか。あっ、申し遅れたけどあたしはマコト。獣人たちの互助組織ギルド、
「動物……苑?」
ギルドってのは分かるが……互助組織ってどういう事だ?あと、傘下ギルドって言ったが他のギルドとは何か違うのか?
「あぁ、新しく来たんだったら知らねぇか。あたしらみたいな獣人は基本的に動物苑に所属する事になってんだよ」
「所属しなくちゃいけない理由でもあるのか?」
「理由、ねぇ……まぁ、あるにはあんだけどさ」
そう言ってマコトは言いづらそうに俺から顔をそらすが……もしかして訳ありな理由なのか?
「言いたくないなら別にいいぞ?」
「……いや、ランドソルにいるなら知っといた方がいいしな、教えるよ。この辺じゃ人間と獣人は昔から対立し合ってるんだよ」
人間と獣人が……対立?でもキャルやタマキ、ヒヨリなんかはそんな感じじゃなかったぞ……?
「もちろん全員がそうってわけじゃねぇぞ?でもお互いの種族に偏見を持ってる奴なんかは多い。しかもランドソルじゃ人間の方が立場は上なんだ」
人間の方が立場は上……人間と獣人の対立……互助組織ギルド、動物苑に獣人は所属……あっ。
「動物苑は獣人が互いに助け合うギルド……?」
「まぁ、そんな感じだよ。人間の方が上ならあたしらは全員で協力するってわけだ!」
なるほどな……コッコロから前に種族の事を教えてもらったが、まだまだ知らない事がたくさんありそうだな。
「ちなみに獣人たちの平和な生活を守るのが、あたしら
「……って事は、
「あん?ここがそこなのかって……もしかしてお前、ここがどこなのか知らなかったのか!?って、そういや迷子っつてたもんなぁ……」
獣人の居住区だから道を歩いてるのが獣人ばかりなのか……これで納得したぜ。
「気ぃつけた方がいいぜ?この辺はそうでもないけど、人間嫌いな獣人だって中にはいるんだ。襲われても文句は言えねぇぞ」
「お、おう……気を付けるよ」
それはそれで怖いが……出会わないよう俺が気を付ければいちだけの話か。
「さて、大分話が脱線しちまったな。とりあえず、名前と所属ギルドを教えてくれるか?」
「ああ、俺はブレイク。ギルドはトゥインクルウィッシュだ」
マコトに尋ねられ、答えると「ん?」と首を傾げられた。別におかしな事は言ってないんだが……。
「名前がブレイクで、ギルドがトゥインクルウィッシュって……なぁ、お前ユイって奴を知ってるか?」
「知ってるぞ。ユイもそのギルドのメンバーだからな」
「やっぱり!ユイがさ~、ブレイクって奴に助けられたって言ってたんだよ。しかもそいつとこの前、同じギルドに入ったって」
……?何だ、マコトはユイの事を知ってるのか?
「そっかそっか、会いたかったぜ~あははっ♪あいつ、すっげぇ感謝してたよ」
「前に助けた事か?あれはただ成り行きで……」
「それもそうだけど、同じギルドに入れた事もだよ。あいつ、昔からそそっかしいしそれに昔は……おっと」
そこまで言い掛けてマコトは何故か口を閉ざしてしまった。
「ユイが昔はどうしたんだ?」
「あ~……これはちょっと言えねぇかな。でもユイを守ってくれたこと、あたしからもお礼を言わせてくれ。ありがとな、ブレイク」
……マコトが何を言い掛けたのかは分からないが、たぶんユイにとって大事な事なんだろう。なら無理に聞くつもりはない。
「そういえば、何でユイを知ってるんだ?」
「あたし、ユイとは幼馴染みなんだ。ユイのお陰で、あたしは種族が違っても仲良くできるんだって知る事が出来た。ほんと、あいつには感謝してるよ」
「そうだったのか」
マコトにとって、ユイは恩人なんだろう。そうじゃなきゃ感謝なんて言葉、出てこないはずだ。
「……って、また話が脱線してやがる……ええっと、迷子なんだよな。ならブレイクが寝泊まりしてる宿屋まで案内してやんよ。ユイを助けてくれた、恩返しにもなるし」
「いや、流石にそこまでは……」
「いいんだよ、遠慮すんなって!あたしは困ってる奴を見過ごせねぇんだよ。ほら、こっちこっち♪」
マコトには悪いと思いつつも、結局宿屋まで案内してもらってしまった。その間、自分やユイの事を話してくれたり、俺の事を話したりと……とにかく楽しい時間を過ごす事が出来た。
……部屋に入った直後、コッコロからめちゃくちゃ心配され、泣きつかれたが。