「ブレイクくん!」
「ん?」
ランドソルの街中を歩いていると、突然後ろから声を掛けられた。その声には聞き覚えがあり、振り返ってみれば先日、ヒヨリとレイと共にギルドを立ち上げたユイがこちらに走ってきていた。
「やっぱりブレイクくんだ、こんにちは!」
「おう、この前のギルド結成ぶりだな」
元気よく俺に挨拶してくるユイ。そんな彼女は武器である杖を持ち、色々と物が入って膨れ上がってる鞄を腰に付けていた。
「これからどこかに行くのか?」
「うん、これから街の外で修行しようと思って。わたし、もっとブレイクくんやレイさん、ヒヨリちゃんの役に立ちたいの」
「へぇ、修行か……」
俺も依頼で魔物と戦う時はあるが、強い魔物が現れても対処できるように修行はしといた方がいいんだろうなぁ……よしっ。
「なぁ、ユイ。俺もその修行に付いてってもいいか?」
「えっ?ホ、ホントに?でもブレイクくん、何か用事とかあるんじゃ……」
「まぁ、さっきまで配達のバイトはしてたけどもう終わったしな」
本当はこのまま宿屋に戻る予定だったが、ユイがどんな風に修行するのか気になる。俺も修行するならどんな感じか知っといた方がいいだろう。コッコロが心配するかもしれないが、少し遅くなる位、大丈夫だと思う。
「……じゃあ、いいかな?いっしょについて来てもらっても……」
「いや、ここは俺が頼む側だろ?」
「じ、実は一人だとちょっと心細くて……でもブレイクくんが一緒なら頑張れるような気がするんだ」
まぁ、出会った時の事を考えるとユイは魔物と真っ正面から戦えるような感じじゃないな。仲間の後ろで回復とかするサポート役の方が合ってる気がする……そう考えると一人だと不安なのは頷けるな。
「危なかったら俺も力を貸すさ。その時は任せとけ」
「ブレイクくん……ありがとう!わたしもそうならないよう頑張るね!」
まぁ、そうならないのが一番だが……頑張りすぎて無理をし過ぎないよう注意はしておこう。
「あ、そういえば」
「どうしたの?」
魔物がいそうな草原まで進んでる間、特に何もなく暇だった為に俺はユイに気になっていた事を尋ねようとした。
「初めて俺達と出会った時も修行してたのか?」
「ゴーレムに襲われてた時だよね……うん、そうだよ。あの時はラットン相手に戦ってたら突然ゴーレム達が走ってきて……ホント、びっくりだったよ」
ラットン……確かネズミの魔物だな。そんな強くはないが、すばしっこくて面倒な奴だな。依頼でも、畑を荒らすからって理由で討伐した事が何度かある。
「今日はどうするんだ?またラットン相手に修行するのか?」
「うーん……そんな強い魔物じゃなきゃ大丈夫かな……わたし、自分で戦った事がそんなにないからまだまだ弱くて」
「やっぱそうか……なら無理しないでサポート中心に戦った方がいいんじゃないか?」
そりゃサポートだけじゃなく、色々できた方がいいだろうが必ずしもそれが正解とは言えない。魔物と正面から戦うのが無理ならそれ以外の事で頑張ればいいんだから。
「でもみんなばかりに負担は掛けられないよ。わたしだってちゃんと戦えるようにならないと!」
「まぁ、やる気があるのはいいけど無理は禁止な。誰だって出来る事と出来ない事があるんだから」
「うん。ありがとう、ブレイクくん。……あっ」
街道から大分離れ、草原の中を歩いているとユイと同時に魔物を見つけた。あれは……ウェアウルフとかいう魔物か。鋭い爪で敵を切り刻む狼の魔物って情報をどこかの本で見た事がある。
「グルルッ……グオオオンッ!!」
俺達の声が届いたらしく、ウェアウルフは大きく吠えた。口の中に溜め込んでいた涎が辺りに撒き散らされ、よっぽど飢えてるのが分かる。
「気付かれたか……しかもちょっと危険そうだな」
「でもこの距離なら先に仕掛けられるよ。まずは魔法で……!」
「グオオオオンッ!!」
俺が剣を構え、ユイも杖を構えて魔法を放つ準備をしてる間にウェアウルフは四足歩行となってこちらに走ってきた。かなりのスピードであり、すぐに俺達の元に辿り着くだろう。
「ど、どうしようブレイクくん!?あ、あの魔物、こっちに走ってきてる!?」
「落ち着け!まずは……あれだ、前に泥棒を足止めした魔法!あれでウェアウルフを足止めするんだ!」
あの魔法が魔物にどの程度効くか分からないが、何もやらないよりはマシだ。ユイの魔法で止めてる間に俺が”ホーリー”で強くなれば──────
「う、うん……!」
「グオオオオンッ!!」
「ひっ……ゆ、勇気を……勇気を出してっ……!」
「……ユイ?」
お前、もしかして──────
「グオオオオオンッ!!」
「っ……や、やっぱり無理ぃーっ!!」
「って、ユイ!?」
ウェアウルフがすぐそこまで来ると、ユイは後ろを振り向いて逃げ出してしまった。いや、魔物に背中を見せるのはまずいって……でもそんな注意してる時間は……ああっ、クソ!!
「我らに光の加護を与えたまえ──────」
「グオオオオオンッ!!」
「っ────”ホーリー”!!」
襲いかかってきたウェアウルフの鋭い爪を剣で受け止め、”ホーリー”を発動する。間近に迫る爪に生きた心地がしないが、そんなものは爪を弾くと同時に吹き飛ばした。
「おらぁっ!」
「グオオンッ!?」
さらにウェアウルフを蹴り飛ばし、勢いよく剣で斬りつける。しかしウェアウルフに怯んだ様子はなく、再び俺を攻撃しようと腕を振り上げている。だが力を溜め込んでるその瞬間を見逃すわけにはいかない。
「はぁっ!!」
「グオッ……!?」
爪を掻い潜り、剣をウェアウルフの体へと突き刺す。そして剣を両手で握り締めて力を込めて横に振り抜き、俺はウェアウルフを切り裂いた。
「はぁっ……倒したか……」
倒れるウェアウルフを見て俺は剣を鞘に納める。すると後ろから足音が聞こえ、振り向くとそこには申し訳なさそうに縮こまっているユイがいた。
「ご、ごめんブレイクくん!わたしだけ逃げ出しちゃって……だ、大丈夫?」
「いや、まぁ……おう。というかユイって魔物、怖いだろ」
「う、うん……」
やっぱり。一人で行くのが心細かったり、魔物が走ってきて焦ったりしてたからもしかしてとは思ったけど、魔物に怖がって魔法を放てなかった事で確信した。
「ブレイクくんは凄いよ、あんな魔物に怯えないで戦えて……わたしなんて、戦う前から逃げ出しちゃった……」
「別に逃げてもいいんじゃないか?」
「……えっ?」
ずっと俯いていたユイだったが、俺の言葉で顔を上げた。それと同時に驚かれたがそんなにおかしな事を言ったか?
「だって怖いもんは怖いだろ。なのにユイはそれを乗り越えようと頑張ってる。それはたぶん、凄い事なんだと俺は思う」
「ブレイクくん……」
「つかそんな怖いなら、初めからうまくいくわけないだろ。なら逃げたくなってもしょうがねぇよ。……まぁ、出来れば言っといてもらいたかったが」
「ご、ごめんね。修行しに行くのに怖いなんて言ってたら呆れられちゃうと思って……」
そんなわけないだろ。というか突然逃げ出したからびっくりした。
「それに言っただろ、危なくなったら力を貸すって。俺が全力でユイをサポートしてやるよ」
「……うん。分かったよ、ブレイクくん。わたし、ダメだって思ったらブレイクくんに助けてもらう。でもそれまでは諦めないで戦ってみるよ……!」
「ああ、その意気だ」
そう言って拳を握り、やる気を見せるユイ。その瞬間──────
「えっ!?」
「こいつは……」
俺達の体が白く輝き、目の前に『CONNECT』の文字が浮かび上がる。まさかユイとも
「い、今の何だったんだろう?あんなのわたし、初めて見たよ」
「今のはコネクトってやつだな」
「えっと……コネクト?」
「ああ、繋がるって意味みたいで……ん?」
不思議がるユイに今起こった事を説明しようとすると、周囲の草むらが揺れた。風……ではない。
「ユイ、悪いが話は後だ。お前のやる気を見せる時が来たぞ」
「えっ?」
ユイが首を傾げ、状況を把握できていない間に草むらが大きく揺れて隠れていた
「グオオオンッ!!」
「きゃあっ!?ま、魔物ーっ!?」
飛び出してきたのはさっきのよりも大きいウェアウルフ。そいつがユイに爪を突き刺そうとするが、その前に俺が剣で体を切り裂く。
「ユイ!今度こそあの魔法を!」
「う……うん!はぁぁぁ……えいっ!」
ユイの杖が飛び出た魔法はウェアウルフに直撃し、いつかの泥棒のように動きを止めた。その事にウェアウルフは動揺しており、決めるなら今しかないだろう。
「や、やった!当たった!」
「ああ、後は俺に……っ!?」
ウェアウルフに突撃しようとする俺だったが、その足を止める。何せウェアウルフが数秒もしない内に動き始めてしまっているのだ。
「えっ!?ど、どうして!?」
「……なるほどな」
まともに効かなくて当然だ。あのウェアウルフは通常よりも大きい。大きければ大きい程強いんなら、おそらく魔法が効きづらかったんだ。それに加えてユイが使った魔法は、人間相手でも短い時間しか拘束できないものだから余計にだ。
「グオオオオンッ!!」
「あっ……!」
ウェアウルフは跳躍してユイに襲いかかろうとする。一方、ユイは魔法が通じなかった事に驚いてすぐに反応できず、攻撃も回避も間に合いそうになかった。
「ユイに手を出すんじゃ……ねぇっ!!」
「ブレイクくん!?」
駆け付けた俺はユイを押し退け、ウェアウルフの体を大きく切り裂いた。動きを鈍らせたウェアウルフだが倒れる事はなく、もう一度攻撃してこようとする。しかし隙が大きい為、避けるのは簡単──────
(っ、まずい……!)
この最悪のタイミングで……”
「がはっ!?」
剣で防ごうとしたが簡単に弾かれ、ウェアウルフの攻撃をまともにくらった俺は大きく吹き飛ばされてしまった。
「ブ……ブレイクくん!!」
「グルルルッ!」
「ひっ……!」
地面に叩きつけられ、頭の横をドロリとしたものが垂れる感触に気付く。しかしそれや痛みを我慢し、起き上がればウェアウルフが尻餅をついてしまったユイにジリジリと近付いていってるのが見えた。
「あの野郎っ……ぐっ!?」
立ち上がろうとして右腕に激痛が走る。目を向ければ付けていた防具が壊れて服も破れ、皮膚にズタズタとした爪痕がある。そりゃ痛いわけだ……!
「くそっ……どうする……!?」
『■しの守■を■こに────”ハ■■ール”!!』
「っ……今のって……」
いや、悠長に考えてる場合じゃない。思い出したんならさっさと使わないとな。ユイとのコネクトで手に入れたこのユニオンバーストなら、この状況を打開できるはず。
「癒しの守りをここに────”ハイヒール”!!」
俺が剣を構え、そう唱えると足下に桃色の紋様が出現した。すると俺とユイを優しげな光が包み、俺が負っていた怪我や痛みは消え、体力も回復していく。
ユニオンバースト、”ハイヒール”……それは自身や周りにいる味方を回復させるという便利なものである。
「この光、温かくて気持ちいい……こんな回復魔法があったなんて……」
「グオオオンッ!!」
「あっ、こ、来ないでぇっ!!」
ユイが自身に迫ってくるウェアウルフを足止めしようと魔法を放つ。それはほんの数秒しか効かないが……今はほんのそれだけでもありがたい。
「ユイ、そこから離れろ!我らに光の加護を与えたまえ、”ホーリー”!」
”ホーリー”を使うと同時に俺はウェアウルフへと走り出した。魔法が解け始めたらしく動き出そうとしてるが、もう遅い。
「グオオ────」
「くたばりやがれっ!!」
剣を横一線になぎ払い、ウェアウルフの首を切り裂く。その一撃により、ようやくウェアウルフは力尽きて地面に崩れ落ちた。
「よしっ……ユイ!大じょ────」
「ブレイクくん!!」
攻撃は受けてなかったと思うが、すぐにユイの安否を確かめようとすると走ってきたユイに勢いよく抱き付かれた。
「ごめんなさい!わたしが、魔物を足止めできなかったからブレイクくんが怪我を……」
「別にユイが悪いわけじゃないから気にすんなって。俺が油断してあいつの攻撃をもらったのが悪かったんだ」
「ち、違うよ!わたしが……!」
「とにかく倒せたんだからいいだろ?というかさ、ちょっとキツいんだが」
「えっ?…………わあぁっ!?」
強く抱き締め過ぎてる事を指摘すると、ユイは一気に顔を真っ赤にして俺から離れた。……何で恥ずかしがる必要があるんだ?ただキツいって言っただけなんだが。
「う、うぅ……ご、ごめんなさぃ……」
「別に謝る必要はないんだが……どうする?修行、まだ続けるか?」
「ううん。これ以上ブレイクくんには怪我してほしくないから、今日はもう帰ろうかな」
しくったな……ユイは修行でここまで来たのに俺の心配で帰る事になるなんて。やっぱりもっと強くならないとダメだな。
「ねぇ、ブレイクくん」
「ん?」
「その、これからも迷惑かけるかも知れないけど……わたし、ブレイクくんが傷つかなくていいように、もっと頑張って強くなるから!」
「俺ももっと強くなるぜ。ユイや色んな人を守りたいからな」
そう、もっと強くなってみせる。困ってる人や守るべき人の為に。
次回はテレ女のやべーやつを出す予定です!