プリンセスコネクト ~ロストメモリー~   作:白琳

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中編

──────……風が気持ちいいな。肌触りからして俺は草原にいるんだろうが……この風と暖かい太陽の光が何とも言えない。せっかく目覚めたが、もう少しこのまま寝ていても……。

 

「はじっめ、ちょろちょろ……♪な~か、ぱっぱ……♪あかっご泣いても、蓋とるな~……♪」

 

…………と思っていたが。どこからか聞こえてくる歌に反応し、俺は僅かに目を開いた。声はいいし、どこか癖になりそうだが歌詞の意味がまったく分からん……。

 

「……おや。お目覚めになられたのですね、主さま」

 

顔だけを向けていたアメスとは違い、屈んで間近で俺を覗き込んできていたのは、癖っ毛がある銀色の髪や尖った耳が特徴的な少女だった。声からして今歌っていたのはこの子なんだろうが、俺が『主さま』……?

 

「わたくしは、偉大なるアメスさまによって派遣された『ガイド役』……名前は、コッコロと申します。どうぞ、以後お見知りおきを……♪」

「……なるほどな。あんたがアメスが言ってた『ガイド役』か」

 

名前はコッコロって言うのか。あんまり聞き覚えのない……まぁ、記憶がないんだから当然だが、この子に相応しい可愛らしい名前だな。

 

「……!アメスさまの事を覚えていらっしゃるのですね。アメスさまの宣託では忘れていると聞いていましたが……」

「ああ……みたいだな」

 

俺もアメスからたぶん忘れると言われていたしな。まぁ、絶対にとは言っていないんだ。覚えている事もあるだろう。

 

「……覚えていたら、何か都合が悪いのか?」

「いえ、そんな事はありません。わたくしもアメスさまの宣託を覚えていますしね」

 

つまりコッコロは……俺がさっきの事を覚えていなければ、現時点ではアメスとの会話が唯一できる人物だったという事か。まぁ、アメスも忙しいみたいだし、自由に会話できるのかは分からないが……。

 

「アメスは自分の代理として『ガイド役』を派遣すると言っていたが……具体的には何を?」

「主さまをお守りし、おはようからおやすみまで……揺籠から棺桶まで、誠心誠意お世話をするのがわたくしの役目でございます」

 

おはようからおやすみまではともかく、揺籠から棺桶までって……自分の体を見て分かるが、そんな幼い年齢でもないし、棺桶に入るまでお世話されるのはちょっとな……。

 

「えっと……何かご不満でしたでしょうか……?」

「ああ、いや……何でもない。ただ節度は守るように……な?」

「はい。それは心得ておりますのでご安心を……♪」

 

まぁ、悪い子じゃないみたいだし……その辺は大丈夫か。アメスもそんな奴を差し向けるような感じには見えなかったしな。

 

「……あの、主さま」

「ん?」

「その……不躾ではございますが、主さまのお聞かせ願えますか?アメスから外見的な特徴はお聞きしたんですが、名前を伺っておらず……申し訳ありません」

 

外見的な特徴と言われ、俺は自分の姿を確認してみる。服装は黒いロングコートと簡素なズボンのみ……手足に装備しているのは防具か。腰には何故か鞘があり、剣も納められているが今は抜かなくていいだろう。

 

「俺の名前は──────」

 

 

 

『■■しも一緒■行■て■■かな?ブレイクく■と色■お■し■■たいし!あ■■礼も!』

 

『俺■ブレイク。大分悩■でるみたい■■らな、良け■■相談に■■ぞ?』

 

 

 

「っ……ブレイク……俺の名前は、ブレイクだ」

「ふむ、ブレイクさまと仰られるんですね」

 

そうだ……俺は記憶喪失なんだ。なら自分の名前が分からなくても不思議じゃない。現に今、名前がスッと出てこなかったしな。偶然にも脳裏をよぎった言葉の中にあった名前を口に出してしまったが……前者はともかく、後者は俺の声だった。ならば間違ってはいない……はず。

 

「アメスさまからの宣託によると、主さまは『ほとんどの記憶を失っている』ようなので……わけが分からない状態でしょうけど。わたくしがお導きしますので、どうかご安心を」

 

まぁ……基本的な事は覚えてるみたいだが、ここがどこなのか、記憶を失う前の俺はどんな奴だったのか、何故記憶を失っているのか、どうして剣や防具を身に付けているのか……分からない事が多すぎる。いくつかはコッコロに聞けるが、俺の記憶に関する事は期待できないか。

 

「お腹すいた~……お腹すいた~……」

「はい、心得ております。お昼時ですしね」

 

いや、今のは俺じゃないぞ。確かに腹はすいていないわけではないが……あんな弱々しく声を出す程ではない。強いて言えば小腹がすいた程度か。

 

「わたくし、主さまがお目覚めになられたら、召し上がっていただこうと……わたくし、ご飯を炊いておりましたから」

 

そう言ってコッコロがどこからともなく取り出したのは、四角く黒い何かが貼られた白い物体がたくさん詰められた大きめな箱だった。

 

「……これは?」

「はい、これはおにぎりと言われる食べ物です。ご飯を握った物に具材を入れ、海苔を巻くと出来上がる簡単な食べ物です」

「へぇ……おにぎり、ねぇ……」

 

なんだか懐かしいような、そんな感じがするが……とりあえずせっかくコッコロが作ってくれたんだ。どんな味なのか分からないが、まずは一つ食べて──────

 

「うわぁい、ごは~ん!ありがとうございますありがとうございますっ、お腹がすいて死んじゃいそうだったんです!」

 

茂みの向こうから現れたのは、先程の声の主と思われる少女であった。腰まで伸ばされた橙色の髪や強調するように上半分が見える胸が特徴的であり、頭には銀色の何らかの飾りを付け、右肩には唯一の防具を身に付けている。武器として持っていた剣は近くの地面に突き刺しているが、明らかに俺の剣よりも凄そうなのにあんな扱いでいいのか……?

 

「ご馳走になりますっ、いただきま~すっ☆もぐもぐもぐっ……♪」

 

突然現れ、あろう事かこちらの断りを得ずにおにぎりを次々に食べ始める少女。まぁ、元々この子が発した声を俺と間違えてコッコロが食事を出したんだし……それにこの食べっぷりから見て、本当に腹が減っていたんだろう。なら食べさせてやってもいいか。

 

「……どちら様でしょう?」

 

コッコロが可愛らしくコテンと首を傾げ、少女に尋ねるがおにぎりを食べる事に夢中な彼女には聞こえてすらいない。そして食べ始めてから数分もしない内に、あの量のおにぎりを全て胃袋へと納めてしまった。

 

「ぷはぁっ、ンま~い!生き返るぅ~っ、ご飯は命のエネルギー……☆」

 

口の周りに白い粒を付けた彼女は幸せそうな笑みを浮かべ、満足した……と思いきや、俺が初めに取った今では最後のおにぎりを凝視してくる。

 

「ジ~……」

「……食べるか?」

「いいんですか!?ありがとうございますっ!」

 

いや、そんなに見られていたら食べづらいって……結局俺の口には一度も入らなかったが、今度またコッコロに作ってもらうか。ついでに作り方も教えてもらうか?

 

「あぁ、食べた食べた!いやぁ、助かっちゃいました!見ず知らずの私に美味しいご飯を恵んでくれるなんてっ、良い人達ですね!一生恩に着ますっ、ありがとうございま~す☆」

「いや……恵んだというか、気付けば食べられていたというか……」

 

……まぁ、コッコロは別に恵んだわけじゃないしな。ただ色々と偶然が重なって、彼女はご飯を俺達に恵んでもらったという結果になっただけだ。

 

「あぁっ、主さまの為に用意したおにぎりが一瞬で消え失せましたよ?な、何なんですかあなたは?」

「私は……いや、それよりも。あの子、貴方達のお知り合いですか?」

「あの子……?」

 

彼女の視線を追えば、遠くの方から何やら禍々しい声や地響きらしき音が聞こえてきていた。その中には悲鳴らしき声も混じっている。コッコロと少女の間を通り抜け、見晴らしのいい場所へと出ると異様な光景が目の前に現れた。

 

「きゃああっ、助けて~!魔物がっ、大量の魔物が追いかけてくる~!」

 

走っているのは桃色の髪をした少女だった。先端が花の形をした杖を持ち、白と赤を基調とした服装の彼女は涙目になりつつも()()から逃げていた。

 

「っ!?何だよ、()()は……!」

 

アレは生き物なのか?そう思っても仕方ないはずだ、全身が草の生えた岩で包まれたソレらが動いているなど誰が想像できるだろうか。俺は記憶を失っている為、もしかしたらおかしくないのかもしれないが……。

 

「何だかえらい事になってますね。どなたか存じ上げない方が、魔物の大群に追われています。ど、どうしましょう主さま?」

「いや、んな悠長なこと言ってる場合か!助けなきゃ、あいつ殺されるぞ!?」

 

俺は剣を鞘から抜き、太陽の光によって輝く銀色の刃を持った立派な剣を構える。同時に走り出し────俺はそこでふと不思議に思った。

何故俺は────あんな怪物を見て、こうも立ち向かえる?どうして逃げ出さなかった?あの岩の怪物に恐怖すら抱かないのは……何でなんだ?

 

「ひゃぁっ!?」

 

桃色の少女は石か何かにつまずき、転んでしまう。そこにあの怪物共は巨大な腕を振り上げ迫ってくる。このまま俺が走っていても、あの子を助ける事は────出来ないっ!

 

「やめろっ!!」

 

俺は握っていた剣を怪物の一体に向かって勢いよく投げる。奴に当たり、注意をこちらに向ければ……程度にしか考えていなかったが、剣は偶然にも奴の()へと突き刺さった。

 

「グゴオオォォオオッ!!?」

「っ……おいっ、あんた!こっちに来い!」

「えっ?あ、あの……?」

「いいから早く!そこにいたら潰されるぞ!」

 

目に突き刺さった事により、痛みから暴れる怪物が他の仲間を吹き飛ばしてくれている。だがあれではいずれ奴か、倒された怪物の下敷きになるかのどちらかだ。

 

「は、はいっ……!」

「グウゥゥ……!」

 

桃色の少女は俺の方へと走ってくる。唯一生き残ったあの怪物は剣が目から抜け落ちたせいか、落ち着きを取り戻して大きな唸り声を発している。明らかに、俺に対して敵意が剥き出しである。

 

「あ、主さま!?なんと危険な真似を……!」

「そうですね……でもこれで魔物は一体だけになりましたよ!」

 

辿り着いた少女を俺の背後へと隠し、俺はコッコロと腹ペコだった少女と並び立って奴……魔物と対峙する。

一体だけになったとはいえ、暴れて他の魔物をあっさりと倒した奴だ。油断は決してできない。

 

「主さま、あの魔物はゴーレムという名前です。見ての通り、全身が岩で出来ており……攻守共に優れているのです」

「でもあの顔の部分は柔らかい……と?」

「はい。あの魔物はわたくし達でお相手しますので、主さまはその方をお願いします」

「いや、コッコロ……お前、武器もないのにどうやって──────」

 

戦う気だ?と尋ねようとした瞬間、コッコロの周りを凄まじい風が吹いた。その風は次第にコッコロの前へと集まり、形を成していき──────一本の槍へと姿を変えたのである。

 

「うわぁっ、槍が現れたましたよ!?どんな魔法ですかっ、それ!」

「いえ、魔法というべきか……主さま、これはわたくしの故郷で主さまを守る為に作ってもらった特別な槍でございます。この槍を使いこなす為にわたくし、何年も修行を積んできたのです」

「そうなのか?それは……ありがとな、コッコロ」

 

まぁ、そのお礼は無事に俺の『ガイド役』を果たし終えた時に言えばいいんだけどな。でも俺を守る為にこんな小さな子が何年も頑張ってきたんなら、労いの言葉くらい掛けたくなる。

 

「ええっと、わたくしはまだ主さまに何も出来ておりませんが……でも、その言葉は嬉しいです……♪」

「コッコロちゃん……でしたっけ?魔物が来ますよ!ちゃちゃっと片付けちゃいましょう!」

「はい。主さまの為に……!」

 

コッコロ達はそれぞれ武器を構え、魔物……ゴーレムへと立ち向かっていく。俺も二人の手助けをしたいが、例え剣があったとしても俺は足手まといにしかならないだろう。

 

「だったら俺は俺の出来る事をするだけだ……なぁ、あんた」

「あっ、は、はいっ!?」

「落ち着け、魔物はあの二人が倒してくれる。今は戦いに巻き込まれないようここから離れるぞ」

「そ……そうだね……ご、ごめん……」

 

魔物の恐怖に怯え、震える彼女を今守れるのは俺しかいない。だからこそ俺がしっかりしていなくては────




ちなみに主人公の名前は私が少し前までゲームで使っていた名前です。
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